ポケモンの言葉が理解できるんだがもう俺は限界かもしれない   作:とぅりりりり

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暴露と目標と暴露

 

 

 次の日、妙に元気なオチバと寝起きだからか眠そうに俺に寄りかかってくるアクリに囲まれて朝食をとっていた。レモさん助けて。

「おはよう――って、朝からモテモテだねー」

「辛いです」

 心からの言葉である。辛い。代わりたいやつがいるならどうぞ、譲るから。

「もー、ハツキ君ってばつめたーい。お姉さんのこと邪険にしなくてもいいじゃない。やっぱり若い方がいいのぉ?」

「たとえお前が10歳若くても俺はお前のこと嫌いだよ」

 性根がそのままならどのみち嫌だ。本当に勘弁してくれ。

 すると、不満そうにアクリがじっとオチバを睨み、スケッチブックに何か書き始める。毎回思うんだけど喋ったほうが早いんじゃないかなそれ。

『ミーは別にそんな子供じゃないし』

「あらあらぁ? 実はお姉さんだったりするのかしら」

『18』

 無駄にスケッチブックにでかでかと年齢であろう数字を書いて勝ち誇ったようなアクリだがお前も歳上かよ……と内心頭を抱えそうになる。俺が最年少ですかそうですか。

 どやぁ……と今にも口にしそうなアクリを見えないふりして水を一気に飲み干すとポケモンたちがわいわい騒いでいるのに注意が向く。

【やっぱさー、俺も思うわけよ。エモンガだって進化したっていいじゃんって?】

【ふーん?】

 エモまるとレモさんのデンリュウがなんかよくわかんないこと話してる。いやエモンガは進化しないからな。

【つーかデンリュウとかズルくね? 二回進化したかと思えばメガシンカとか属性盛りすぎの特大パフェかよ】

【そういう種族だからなぁ】

【私もメガシンカしたい!】

 アクリのマフォクシーも会話に入ってくるがエモまるはぶっすーと拗ねたように顔をくしゃくしゃにする。

【おめーも2回進化するだろ!】

【僕はセーフですか】

 アクリのドーブルも混じってきて【お前はオッケー、友よ】などとエモまるが言っているのを見つつ、あることに気づく。そういえば一度もオチバの手持ちを見ていない。

「オチバってもしかしてポケモン持ってないのか?」

 人間全員がトレーナーではないことは重々承知だが旅をしている人間で手持ちがいないというのは相当珍しいと思う。もちろん、見せていないだけで普通にポケモンがいるかもしれないが。

「いる、けど……あんまり表に出したくないだけよぉ」

 珍しく歯切れが悪いオチバに思わず弱みか?と浮足立ったがなんかこれ以上こいつのことを知ろうとするのも癪なので何も聞かないことにした。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 いざ朝食を終えて図書館に向かうと、大きい割に利用者が少ないのか人影もまばらでしんとしている。図書館だから当たり前といえば当たり前だが明らかに人が少なく思えた。

 まあ平日昼間だし、旅してるトレーナーが来るような場所でもないか。

 ちょうど良さそうなテーブルを確保し、ある程度目星をつけた資料を取ってそこへ座ると他の3人も同席する。ポケモンはあまり大所帯だと迷惑なのでエモまると、アクリのマフォクシーくらいがボールからでていた。

 俺の隣にはレモさんが座り、向かいにはアクリが座ってじっと見てくる。斜め前にオチバが座り、全員の顔が見れるが、同時に見られることに少しだけ抵抗がある。注目されると喋りづらい。

「それで、今後についてというか……それぞれのやりたいことだけど――」

 なんか改めて俺のことを話すとなると緊張する。レモさんはわかっているが二人には一応信じてもらえなくとも説明せねばならないし。

「えーと、俺実は……ポケモンの言葉がわかる」

 アクリとオチバからの視線が居心地悪くてつい早口で暴露すると、アクリは割りとどうでも良さそうに「そうなんだ」と答え、オチバは「へぇ」と興味深そうに声を漏らす。

 反応が淡白でこっちもどう反応していいのかわからねぇ。

「……疑ったりしないのか?」

「いや、こんな場所まできて真面目にやってる人間がそんなくだらない嘘つくと思えないじゃない?」

 オチバが案外真面目に答えてくる。なんだろう、こいつに正論言われると自分に損がないのにむかつく。

「……ミーは別に、ハツキが嘘ついてても気にしない……」

 微妙に論点が違うんだよなぁ、怖いんだよなぁ。

 話を戻そう。

「それで、俺はこの能力をなくしたい」

 意外そうな顔をされるがこちとら割と本気で死活問題なんです。

「便利じゃない。なんでなくしたいのよ」

「普通の一市民でいたいんだよ」

 オチバがもったいないと口にするが譲れるなら譲ってやりたい。

 が、現状この能力を知るために他の能力者や超能力について調べた結果、まずこの能力がなんなのかすらわからない。

 

 元々、この世界は俺の前世でいう、アニメ準拠なのか、ゲーム準拠なのか、それ以外なのかが気になっていた。漫画のどれかという可能性もある。

 が、家出後に旅しながら調べるうちにどれでもあってどれでもないと判断した。

 例えばゲームで起こった出来事がこの世界の歴史では起こったことなのかを調べてみると、わかりやすいのがカントー地方のヤマブキシティ占拠やジョウト地方のラジオ塔の乗っ取りなどだ。これらの事件は実際にこの世界でも起こったことである。

 ならゲームの世界と同じか?と考えたがそういうわけでもない。この世界にはオレンジ諸島が存在する。もちろん、アニメで出てきた場所だがゲームで出てきていないだけでもしかしたらゲームにもあるかもしれない。ウチキドという博士がいるということも調べてわかったのでゲームとアニメがある程度混じっていると現状は判断している。

 更にここにややこしい事実を交えるとポケスペでの設定でいう、トキワの森の能力者も言い伝えとして書籍に載っていた。ポケモンの気持ちがわかるという能力なので自分の能力も関連するのでは?と思って調べたら案の定である。イエロー本人がいるかは不明だがそういった様々な媒体の世界が入り混じったのがこの世界なのかもしれない。

 話が若干それたため本題に戻ろう。

 

 まず、俺の能力は少なくともイエローのような能力ではない。あれらはポケモンの気持ちを読み取るというもので、言語が直接聞こえているとは別のものだと判断した。

 Nに関しては詳細がわからないため割愛するがおそらくそれとも違う。というか、多分俺と同じ能力は前世で知る範囲のトレーナーにはいないだろう。

 ならば超能力者、エスパーでは?という線も最初は浮かんだ。これも結論から言うとNOである。

 超能力者にも様々な分野があり、この世界においては一定数普通に存在している。カントー地方のジムリーダー、ナツメが代表的だろう。ほかのジムリーダーや四天王にも超能力者はいるがこれも割愛する。

 が、どの人物にもポケモンの言葉が明確にわかるという記述はなく、あっても思考を読んだり、テレパシーで会話する程度だ。……いや程度じゃなくてすごいことだと思うよそれ。

 で、だ。俺の場合、そういった超能力者ではないことがあの子供の頃にぶち込まれた精神科の検査でわかっている。というのも、この世界、やっぱり超能力者もそこそこいるのでサイコパワーだかなんだかが検査でわかるんだとさ。

 というわけで俺は超能力者ではなく、既存で存在する能力者とも違う、ポケモンの言語を理解できるまた別の能力だと仮定している。

 まあ、古くからの伝承とかおとぎ話ならポケモンと普通に会話しているような文面が見られたがこればかりは検証のしようもないので省いている。

 

 じゃあ、どうするか。俺は思考停止を決めた。

 

「ジラーチに頼ろうと思う」

 

 ポケモンの言葉がわかる、と言った時よりもアクリとオチバの顔が「は?」という驚きに変わり、レモさんですら「えっ」と思わず言葉が漏れた。

 そう、俺の目的である、この能力をなくすというあてのない旅の解決方法。願いを叶えるジラーチにすがるという結論だ。

 だが、まずジラーチがどこにいるのかもわからない。ので、ジラーチの言い伝えがどこにあるのかを調べるべく、この図書館にやってきたのだ。ネットでは限界があり、古い書籍やマニアックなものまでここなら揃っている。

「は、ハツキ君? まさか本気で言ってる?」

「もう俺にはこれしかないんですよ……!」

 本気も本気、奇跡にすがるしかない人の気持ちがよくわかる。変な研究所にいってモルモット状態は論外。神がいないならジラーチでも信仰してやるっつーの!

「も、もうちょっと建設的な方法ない? 仮にもしジラーチが実在したとしても、あれって千年に一度しか目覚めないんでしょ? そう上手く目覚めの時期と合うかな?」

 レモさんの正論は筋が通っている。うん、オチバと違って不愉快にならない。

 でも探さないと周期が合うか合わないかすらわかんないんだよ、こちとら奇跡募集中なんだよ。

「あの子ちょっとやばいんじゃない?」

「やばくないよ、夢があるって、いいことだよ」

 小声でオチバとアクリが何か言ってるが聞こえてるからな。うるせぇ、俺だって真剣に考えた結果なんだよ。

「アマリト地方のラクルタウンってところがこの辺では一番メジャーな言い伝えっぽいんだよな。ホウエンのはあんまり正確な資料がまだ――」

「ダメ」

 今後、行きたい場所を提示してみると即座にオチバがそれを否定し、首を横に何度も振り続ける。

「ダメったらダメ。ラクルタウンはダメ」

 頑なに却下を貫くオチバに面倒になり、一旦この話を打ち切り、オチバのことについて話題を移す。

「ダメダメ言うんならお前がどうしたいのか、というかなんで追われているのか話せよ」

 それがわからないと話が進まない。なあなあでやられてもこちらが迷惑だ。

「えぇ~、言わなきゃダメかしらぁ」

「当たり前だろ。その髪トリミアンカットにするぞ」

 さすがに同行するというなら明かしてもらわないと困る。レモンさんも口にはしないが説明を求めている様子だ。

「はぁ……まあそこそこ長くなるのだけれど……」

 億劫そうに頬に手を添えるとオチバはぽつぽつと話し始める。

 

 まず、出身はアマリト地方であり、そこそこ裕福な家庭の生まれだが幼いころに悪い人に捕まってしまい、お世辞にもいい扱いは受けなかったとのこと。

 ある時、なんとか逃げたはいいが、結局放って置いてくれはせず、何度も何度も襲撃を受けてやつらに見つからない場所を探しているとのことらしい。

 

「親のところには帰らないのか?」

 親というワードに少しだけむっとしたような表情をしたオチバはアクリやレモさんを見てため息をつく。

「……あんまり言うのも恥ずかしいのだけれど、逃げてすぐに家にまで行ったのよ」

「それでも追ってきたってことか?」

「いいえ。そもそも最初から父親に頼った事自体が間違いだったの。父親はね、私を事業の契約の対価に売っぱらったってわけ」

 あまりに感情がない平坦な声に、憎悪も悲嘆もなく、ただ事実をありのままに口にしているのがわかる。

「嫌な話でしょ? だからね、この人は絶対私を守ってくれないってわかったからすぐにまた逃げて、それでこっちの地方まで逃げてきた……そんなところよ」

 伯父に頼るという手も考えたそうだがどこまでが内情を知っているかもわからない疑心暗鬼状態に誰も頼れなかったという。そう考えるとさすがに少しだけ同情した。

「その……警察に保護してもらうっていうのは?」

 レモさんが控えめに提案するがオチバはそれを冷笑して一蹴する。

「気づいてないの? この地方もアマリトも癒着が横行してるどころか協力してる支部まである有様よ」

 すっとレモさんの血の気が引いていくのがわかる

 正しいと思っていた警察が、そんなことをしていると、知ってしまったのだ。レモさんの反応も無理はない。

「組織名や目的までは詳しく知らないけど、恐らく、規模はそこそこ。昨日の警察に引き渡した男もとっくに解放されてるんじゃないかしら」

「そんなことが罷り通るわけ――!」

 レモさんが声を荒げて音を立てて椅子を倒す。が、レモさんは一瞬にして冷静になって自分で倒した椅子を直しながらもう一度座る。

「だから私は極力警察にも頼るつもりはないわ。できれば腕のいい、人の良さそうなトレーナーがいればとは思うけど」

 ちらりと、レモさんを見るオチバだったがすぐに俺の方を見てにっこりと、微笑む。ろくなこと考えてない顔だと一発でわかる。

「だからぁ、今後もよろしくしてくれると嬉しいんだけどぉ?」

「嫌じゃ……」

 つい謎の口調になる程度には嫌だ。でもどうせこいつと離れるとまた襲われるかもしれないし本当に最悪だ。

「うーん……ハツキ君とオチバさんが一緒に行動しないとなると、私もどっちかしか守れないし……そうなってくるとやっぱり落ち着くまでは一緒にいたほうがいいんじゃないかしら」

 急募、オチバだけ見捨てて安全を得る方法。だがしかし現実はそううまくいかないので諦めよう。

 どうあがいても俺はオチバと運命をともにしないといけないらしい。なんで。

 解決方法はざっと思いつく範囲で追手二人をどうにか排除する。ただ警察はまともに機能しないので逮捕は時間稼ぎにしかならない。

 オチバは「最悪殺せれば……」などとぼやいているが物騒すぎる。いや、うん、それは最終手段で頼む。レモさんもいるし、彼女は安易に殺すだのはしないはずだ。

 微妙に空気が重くなったところでアクリがぼそぼそと呟く。

「ところで……ハツキの……会話できるところ……実際に確認したい……」

 そういえばレモさんくらいしか俺がポケモンと会話できてる確証が持てるやりとりをしていない。オチバもアクリの言葉に同意し、レモさんは周囲を見渡して「他に人いないよ」と教えてくれる。

「疑うわけじゃ、ない、けど……手持ちが、なんて、言ってるか……気になるから……」

 まあ確かに。レモさんも手持ちの言葉を聞きたがってたし証明するにはわかりやすい手段である。

「じゃあマフォクシーでいいか?」

「うん……ふぅこ、何か言いたいこと、ある……?」

 後に俺はこの時の軽率な発言を後悔する。

 

【アクリはハツキが好き】

 

 

 

 

 やめたげてよお!!

 

 

 




活動報告にメインキャラのイメージイラストラフを置いておきました。鉛筆絵なので雑ですが興味のある方はどうぞ。作者のイメージがいらない、見たくない、下手な絵に興味はない方はご注意ください。

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