ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

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第9話 デルカダール神殿

「はあ、はあ、はあ…」

「ったく、むちゃくちゃな数だぜ…」

背中合わせに立ち、死角を可能な限りなくせる布陣となったエルバとカミュは肩で息をする。

周囲には魔物たちのまだ消滅していない死体が転がっており、エルバは刀身についた血を取るために鋼の大剣を横にふるう。

エルバとカミュがこの神殿に入ってから3時間以上経過しており、そのうちの1時間半をこの大軍との戦闘に費やしている。

既に1人20体以上倒しているものの、どこから湧いてきているのか、取り囲むように魔物がうじゃうじゃいる。

「こりゃあ…あの兵士たちが全滅した理由もよく分かるぜ」

神殿にはレッドオーブを守るため、兵士たちが監視していた。

カミュがレッドオーブを一度盗んだこともあり、かなり厳重な警備になっているはずだった。

しかし、神殿に入り、レッドオーブが保管されている部屋へと続いていると思われる大きな扉に到着するまで、1人を除いて兵士たちは全員魔物によって殺されていた。

その生きていた1人も瀕死の重傷を負い、エルバとカミュには手の施しようがないため、彼から何があったのかを聞いた後でエルバがとどめを刺した。

「まぁ…兵士たちに追いかけられるよりはマシ…だな!!」

侵入前にキャンプで作った投げナイフの最後の1本をインプに向けて投げる。

それが頭に刺さったインプはけいれんを起こすと、そのままパタリと倒れて消滅する。

「だな…。追いかけられるよりは、いい!!」

「まぁ…そうだな」

カミュは仮に魔物による襲撃がなかった時にどうなっていたかを考えてしまう。

その時は兵士たちの目を盗むように中へ侵入していただろう。

今だからわかるが、デルカダール神殿は一本道となっており、おまけに保管されていると思われる地下までで隠れることができるような場所は少なく、どうしてもあの大きな扉を開けて中へ入る必要がある。

城に保管されていたときは換気口を利用して侵入するというやり方で行い、デグがルートをつかんでいたこともあり、可能な限り兵士にばれることなく盗み出すことに成功した。

しかし、デルカダール神殿にあるそれは通るには狭すぎた。

そのため、兵士と戦うような事態は避けることができなかっただろう。

問題はその時のエルバの行動だ。

復讐心から、その兵士たちを殺してしまう可能性を否定できない。

(復讐することについては否定しないが…その先に何があるんだろうな?)

 

更に1時間が経過し、エルバとカミュは互いに背中を合わせた状態でその場に座り込んでいた。

体中が傷だらけとなっており、現在エルバはホイミで治療を行っている。

「はあ、はあ…なぁ、何体倒した?」

「…25か26」

「へへ…勝った。俺は28」

「数えたのか…?」

「一応、旅については俺が先輩で、おまけに年長者だからな。少しはその貫録を見せないとな」

カミュは懐に残っている自分の道具を確認する。

エルバと違い、ホイミが使えないため、薬草などの回復アイテムは彼よりも多めに持っている。

問題なのはナイフ以外の自作武器だ。

(投げナイフは品切れ…ナイフは研ぎ石があるからもう少しは使える。あとはしびれ薬の矢3本と爆弾石か…)

50匹近い魔物と戦ったこともあり、かなり消耗している。

そこで問題になるのはレッドオーブが保管されている部屋の中だ。

おそらく、あの魔物たちをここまで連れてきた存在がそこにいる。

手当てを終えたエルバはカミュの治療も始める。

「なぁ、あの扉の先にも魔物がいるかもしれない。どんな奴がいると思う?」

「…さあな」

傷の治療をするエルバは明確な回答を出さなかった。

やはりというべきか、イシの村の一件のせいで彼の元々少なかった口数が余計に少なくなっている。

昨晩のキャンプでは一切そちらから話そうとする気配がなく、沈黙に耐えられずにこちらから話しかけようとしたが、その前にさっさと眠ってしまった。

イシの村でのショックが大きかったのは分かる。

だから、今のカミュにできるのは彼が少しでも元に戻るのを待ち、見守ること、そして彼が助けを求めたときに手を差し伸べることくらいだ。

(ったく、約束したのにこのザマとは…情けないな…)

「終わったぞ」

治療を終えたエルバは近くの宝箱から調達した魔法の聖水をがぶ飲みする。

コルク栓で密封されており、中身は腐っていないが、元々魔法の聖水は極端にカルシウムなどが入った硬水と同じ味であり、軟水に慣れているエルバの口には合わない。

だが、それでも魔力を回復する手段がこれしかない以上はどうしようもない。

飲み終えると、残ったガラス瓶を投げ捨てようとするが、その腕をカミュに捕まれる。

「待てよ、こいつは使える」

「…」

言っている意味がよくわからないのか、エルバはカミュの眼を見て、沈黙する。

カミュは瓶を取り上げると、それを袋に入れる。

「さあ、行こうぜ。レッドオーブが待ってるからな」

エルバは何も言うことなく、大きな扉を両手を使って力いっぱい押して開く。

天井が高く、一番奥にレッドオーブが置かれた祭壇があるだけのシンプルな空間だが、そこには青い羽毛で上半身と翼が覆われている、三つ眼の悪魔、イビルビーストが2匹いて、彼らは必死にレッドオーブに向けて手を伸ばしていた。

 

「ちぃ!!なんだよ!?触れもしねえじゃねえか!?」

「ちっくしょう!!これじゃあ、任務が果たせねえよ!!」

2匹の悪魔は傷だらけの手を伸ばすが、レッドオーブの周囲を包むようにバリアが発生しているようで、それが彼らを阻み、傷つけている。

「くっそぉ!こうなったら、台座ごと…うん?」

発想を変えたイビルビーストの片割れが扉の方向にいるエルバとカミュに目を向ける。

「おい!!レッドオーブは俺のものだ!てめえらみたいな魔物には高すぎる代物だぜ?」

「てめえら…まさか、俺たちが連れていた魔物たちを突破して…!?」

この部屋に入るには、正面の扉を開くしかなく、そこには警備をしているデルカダール兵を蹂躙した魔物たちがいる。

数は数十おり、生半可の人間では太刀打ちできない数だ。

となると、目の前にいる2人はデルカダール兵の部隊よりも脅威だということになる。

「てめえら…こうなったら、八つ当たりだぁ!!」

「ここへ来たことを後悔させるやるぅーーー!!」

2匹のイビルビーストが腹を立てて、上空へ飛ぶ。

天井が高く、広い空間での戦闘になり、おまけに空を飛ぶことのできる魔物2匹と相手をすることになったカミュは舌打ちする。

啖呵を切ったのはいいが、上空を飛び回る魔物と戦う手段が限られるため、有利なのはイビルビーストの方だ。

仮に投げナイフがあったとしても、素早い2匹に充てるのは難しいだろう。

音響爆弾を使うにも、材料がないために今は品切れ中だ。

嫌がらせのためとはいえ、いたずらデビルの一件で使うんじゃなかったと後悔しながら、カミュは上空を舞うイビルビーストの動きをみる。

「オラオラぁ!ボサッとしてたら、真っ二つだぜー!?」

まずは鋼の大剣を装備しているため、カミュと比べると動きの遅いエルバを狙い、イビルビーストの1匹が後ろから急降下してくる。

「気を付けろ、エルバ!!この攻撃を食らったら、体がばらばらになるぞーー!!」

「く…!!」

振り返ったエルバはよけられないと判断し、大剣で受け止める。

イビルビーストが急降下と同時に拳をたたきつける。

強い衝撃が大剣を通して両腕に伝わってきて、両手がしびれる。

かろうじて大剣を離さずに済んではいるが、これでは攻撃も防御もままならない。

「ちぃ…!!」

「エルバ!!」

カミュが右腕を大きく振りかざしたイビルビーストに飛びつき、持っているナイフで脊椎に突き刺す。

悪魔系のモンスターだが、羽根以外の体の構造の大半は人間と変わりない。

だから、脊椎にダメージを与えられば、麻痺によって体の動きを封じることができる。

背中から伝わる激痛に驚いたイビルビーストは同時に両足に力が入らなくなったようで、そのままあおむけに倒れてしまう。

その前にエルバは後ろに下がっており、倒れたそのモンスターに向けて、剣を手放して接近する。

手がしびれているため、剣を握ることはできないが、武器がなくてもできることがある。

「やれ、エル…」

「やらせるかぁ!!」

側面から飛んできたイビルビーストがエルバの腹部を右手でつかみ、上空へ飛ぶ。

爪が腹を横から圧迫していて、激しい痛みがエルバを襲う。

「ハハハハ!!勇者っつっても、大した事ねえなあ!このまま握りつぶせば…」

「まだ…だぁ!!」

痛みに耐えながら、エルバは右手をイビルビーストの顔面にかざす。

右手からギラが発生し、イビルビーストの両目を焼く。

「ギャアアア!?目が、目がぁぁぁ!!」

左手で目を抑え、絶叫するイビルビーストはエルバを落としてしまう。

しかし、焼くことができたのは両目だけで、額にある3つ目の目はまだ健在だ。

怒りを見せたイビルビーストはその眼でエルバを見つけると、左手を彼に向けてかざす。

左手からは水色の魔力が発生し、エルバはそれを受けてしまう。

「く…体が、重い…!?」

まるで体のいたるところに重りをつけられたかのような感覚を覚え、動きが鈍くなっていく。

肉体の動きを鈍くする減速呪文、ボミオスのせいだ。

「やべえ…モロに受けやがって!!」

「てめえ、よくもやってくれたなぁ!!」

倒れていたイビルビーストが両翼を動かし、背中に馬乗りになっているカミュを吹き飛ばして上空へ飛ぶ、

ナイフは深々と刺さったままで、両足の感覚がないためか、ブランとしているものの、飛ぶのに関しては大した問題はない。

それに、悪魔系の魔物はほかの魔物たちと比較すると肉体の自然回復の能力が高い。

そのため、このような脊椎の損傷については1年程度放っておいても治る。

回復呪文を定期的に受けることで、最大2週間まで縮めることも可能だ。

「こうなったらてめえら2人とも、なぶり殺しだぜぇぇぇ!!」

2匹のイビルビーストが残りのMPなど気にしないといわんばかりにボミオスを連発する。

「くっそぉ!!」

既にボミオスを受けたエルバを放置し、2体ともカミュに向けて集中的にボミオスを放っている。

走ったり飛んだりして回避を続けるカミュだが、それには限界がある。

「しま…!?」

上に集中していたために足元がおろそかになり、足を滑らせてしまう。

同時にボミオスを受けてしまい、倒れた体を起こそうにも、鉛のように体が重たくて、少しずつしか立ち上がることができない。

「カミュ…!!ぐぅ!?」

大剣を持ち、ゆっくりと歩くエルバをイビルビースト2匹が攻撃する。

腕や足、胴体に手加減するように爪で裂傷を与えては離れるというヒット&アウェイを繰り返す。

「あいつら…なぶり殺しにするつもりか!?」

ボミオスによって動きが取れないエルバ達を、イビルビースト達はやろうと思えばすぐに真っ二つに引き裂くことができる。

だが、そうはせずにあえて致命傷にならないように浅く爪でエルバを引き裂いている。

こうして楽しんだ挙句、ボミオスが切れた瞬間、真っ二つに切り裂いて仕留める。

悪辣な遊びが2匹によって行われていた。

「ぐう、う…!」

体のいたるところから血が流れ、エルバの眼が2匹のイビルビーストに向けられる。

血で赤く染まり、怒りで満ちた瞳だが、2匹にとっては痛くもかゆくもない。

「このまま…」

「とどめだぁ!!」

ボミオスが切れる時間を考え、そろそろお遊びは終わりにしようと決めたイビルビースト達は高度を上げ、急降下する。

エルバが大剣で受け止めたあの技で、ボミオスを受けた彼にはそれを防御する力も回避する力もない。

「エルバぁ…!!」

「じっと見てな、虫けらぁ!」

「てめえの仲間が真っ二つになるのをなぁ!」

エルバには、今の2匹のイビルビーストの動きがゆっくり見え始めていた。

最期の時が来るとき、急に時間の動きがゆっくりになるという話を聞いたことがある。

もう死んだ人間にしか、その真相は分からないが。

だが、エルバはここで死ぬつもりはなかった、いや、死ねない理由があった。

(死ねない…。奴らに…!)

エルバの脳裏にデルカダール王とグレイグ、ホメロスの姿が浮かぶ。

イシの村を滅ぼし、帰る場所と村人をすべて奪った、まさに悪魔の子を討つために悪魔となった3人。

今のエルバが殺したくて仕方のない3人。

(真実を明らかにして…奴らに、デルカダールに復讐するまでは!!)

エルバの想いに応えたのか、彼の痣が光り始める。

同時に、エルバの体が青い光に包まれ、そこから発生する衝撃波で接近しつつあった2匹のイビルビーストが吹き飛ばされ、壁にたたきつけられる。

「こ、こいつは…!?」

エルバの光に反応するかのように、カミュの体も青い光に包まれていく。

そして、ここから何をすべきかを反射的に理解した。

「あんまり呪文は得意じゃないけどなぁ!!」

2匹のイビルビーストに向けて、エルバはギラを、カミュは土撃呪文ジバリアは放つ。

2つの呪文が融合し、炎でできた魔法陣が2匹の足元に展開され、そこから発生する炎でできた縄が彼らを縛り付ける。

「ギャアア!?な、なんだ…これはぁぁ!!」

「くっそぉ!この程度の炎、すぐに消し…!?」

通常のギラであれば、至近距離から目などの弱点に当たらない限りは大した問題にならない。

しかし、2匹のイビルビーストは脱力感を覚えるだけでなく、いつもならどうということもない炎によってダメージを受けていた。

(ま、まさか…この魔法陣は俺らの守りを!?)

気づいた時にはもう遅く、魔法陣から複数の槍のような岩が飛び出し、2匹を串刺しにする。

体のいたるところを貫かれたイビルビーストは断末魔の叫びをあげることができないまま絶命した。

「はあ、はあ、はあ…」

「おい、エルバ…。今のは…!?」

2人を包む青い光が消え、同時に疲労感を覚える。

少なくとも、エルバの痣が影響していることはカミュにも理解できた。

だが、本来は高名な賢者や魔法使いでなければ使えないという合成呪文を2人で発動することができたことは彼にとっては驚きだった。

「俺にも、分からない…」

だが、これをもう1度やれと言われてできるかどうか、エルバには自信がない。

ひとつわかることがあるとしたら、死ねない理由があり、自分自身の生存本能がその力を引き出したといえることだ。

「それよりも…」

「ああ、そうだな。レッドオーブを」

カミュは祭壇に置かれているレッドオーブを手にする。

魔物に奪われないように施されたバリアだが、人間であるカミュには効果がなく、すんなりとそれを手にすることができた。

「よし…ようやく手に入ったぜ。レッドオーブを…。長かったぜ…」

カミュは目を閉じて、レッドオーブを手に入れるまでの日々を思い出す。

だが、ある嫌なことを思い出したのか、首を激しく横に振る。

そして、エルバに目を向ける。

「あきらめかけていた…レッドオーブが今、俺の手にある。エルバ、俺は確信したぜ。お前と一緒にいれば、いつか俺の願いが叶うってな」

フッと笑みをうかべたカミュは断言する。

エルバには彼が何の願いを抱いているのかはわからない。

だが、本気でかなえたい願いがあることは彼の眼を見るとわかった。

「俺は復讐のためにも旅をするんだぞ…?」

「復讐…。わかってるさ。復讐しても何も残らないとか、そんなきれいごとを言うつもりはない」

崩壊したイシの村、そして死んだ村人を火葬を手伝ったカミュだから、エルバの強い憎しみを理解できた。

人を恨んではいけないという彼の祖父の教えがあるが、今のエルバに必要なのは生きる目的だ。

それが復讐だとしても、それが生きる目的になるのであればかまわない。

「だが、いつかはそれ以外にも生きる目的ができるといいな」

「…」

何も言わずに、エルバはカミュに背を向け、神殿の出口へと向かう。

どういえばいいのかわからないカミュはもう少し、こういう方面についての教養をつけることをしていればと思い、頭をかく。

(にしても、どうしてあの魔物はレッドオーブを…?)

追いかけるカミュの中にはその疑問だけが残っていた。

 




デルカダール神殿
デルタコスタ地方南部に位置する神殿で、初代デルカダール王の時代に作られたもの。
昔は騎士の試練の場所として利用されていたようだが、現在は使われておらず、観光スポットと認識されることが多い。
なお、入る際には許可を受ける必要があり、たいていの観光客は中に入ることすらできない。
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