ギイイイ…。
分厚い扉が開き、紫のたいまつ達だけが頼りとなっている空間に外に薄暗い光が入り込む。
開いた扉からはエルバ達7人が入ってくる。
「勇者の剣と…世界を返しに来たぞ…ウルノーガ」
「ふん…ホメロスを倒したか。そして、こうしてここまで来るとは…やはり腐っても勇者、ローシュの生まれ変わり所以か」
暗がりの中で火が灯り、ウルノーガの姿がエルバ達の目に映る。
忘れもしない、勇者の力と勇者の剣を奪ったときに得たまがまがしい剣士の姿をしていて、やはりそばには魔王の剣が置かれている。
「貴様らがここに来るまでの間、すっかり勇者の力がなじんでくれた…。やはり、力というのは素晴らしいものだな…」
「その力を得るために…どれだけの人が死んだと思っている!?」
「力を手にするには犠牲がつきものだ…。貴様らも力や技を手にするために差し出したものがあるだろう?それと同じだ」
「お前…!」
「まあ、待て。少し問答でもしよう。お前たちのそばには信頼できる心強い仲間がいる。その者はお前のことを大変信頼してくれていて、背中を任せてくれる大切な存在だ…。だが、その者にはあまりにも大きな力があり、その力はどんなに鍛錬を積んだとしても、どんなに知識を得たとしても決して得ることのできないもの。だが、その者を殺すことができれば、力をわがものとすることができる。お前たちなら…どうする?」
ニヤリと笑いながら、まるで試すかのように問いかけてくるウルノーガ。
グレイグの脳裏に、崩壊したデルカダールで対峙したホメロスの姿と言葉が浮かぶ。
彼のグレイグに対する強い劣等感と嫉妬心。
「へっ…!その力はそいつが持ってる力だろ?だったら、自分なりの力で強くなってやるだけだ!!それでそいつと肩を並べればいい!」
「ふっ…青い回答だ。さすがは勇者の相棒を自称するだけのことがある」
「青いだって…?そんなどうしようもねーことにあーだこーだ言ってる方が、よっぽど青いぜ!」
急にウルノーガの視線が鋭くなり、エルバ達の背筋に氷の刃を何本も突き刺されたかのようなプレッシャーが襲う。
それを維持しながらウルノーガは立ち上がり、剣を手に取る。
「確かにそれをなすことができればどれだけ幸福なことだろう。だが、世の中も力も決して単純ではない。どんなに焦がれたとしても届かない。だが、もはやそんな思いをする必要はない」
魔王の剣を手にするとともに、彼の手に刻まれた勇者の痣が光りだす。
そこを中心にウルノーガの体にひびが入り始め、そこからは黒い光が漏れ始める。
「あ、あ、あああ…」
「どうした!?セーニャ!!」
「気を付けてください…今のウルノーガは命の大樹で見たときとはるかに違います…!」
「ふっ…貴様、あの女の魂を宿しているな!?」
ひび割れていくウルノーガの中から現れたのは2本の角を生やしたデルカダール王とよく似た容姿の人間だが、3メートル近い巨体と紫の髪、そして薄紫の筋肉質の肉体がただの人間であることを否定していた。
そして、何よりも特徴的なのは背中から生えるドラゴンのような翼と額に宿している巨大な勇者の痣、それはホメロスが見せた魔人化とよく似ている。
そして、脱皮したことで裸となっていた肉体は鮮血のような赤い衣に包まれていった。
「ふん…なるほど。これが魔人化というものか。勇者というのはつくづく人間の範疇を超えた存在であるな」
魔人化したウルノーガに合わせるかのように魔王の剣もその形を変えていく。
柄には玉石を加えたドラゴンの頭を模した飾りがつき、刃はかつてハリマが使っていた太刀と似た形となっているが、刃の厚みは勇者の剣を上回るものとなっており、骸骨と目玉でできたかのようないびつな魔王の剣と比較するとかなりすっきりとした出来へと変わっていた。
「ふふふ…我は勇者にして魔王、光にして闇、その矛盾を超越して見せたぞ。さあ…ゲームを始めるとしよう」
ウルノーガが指を鳴らすとともに、天井に黒い霧が発生する。
霧の中からは空から見たロトゼタシア全体の光景が映っていた。
「ウルノーガ、何を!?」
「なんということはない、これからこのゲームのルールを見せてやるだけだ…」
「おい、さぼるな!」
「わ、悪い…」
最後の砦の見張り台で、居眠りをしかけた兵士が相棒の兵士に殴られて正気を取り戻す。
エルバが帰還し、デルカダールを支配していた六軍王が倒れたことでこの地方には太陽が戻り、今では回復した王を中心にイシの村とデルカダールの復興のための算段を練っている。
六軍王が倒れても、魔王の影響を受けた魔物による襲撃はあるが、あの時と比べるとはるかに平和であり、居眠りする余裕まで生まれている。
「また居眠りしたら、今晩のエマさんのシチュー、抜きな」
「ええーーーー!!?そんなの嫌だぞ!?あの天使のシチューを…」
「そして、さらに夢を壊すようで悪いが、その天使様には既に心に決め…」
さらにからかってやろうとした兵士だが、急に暗くなりつつある空に言葉が止まる。
まだ昼の2時だというのに一気に暗くなっていく空、そして雲は雷雲ではない、見覚えのある忌々しい空。
暗くなっていく一方で、ギャアギャアとカラスたちの鳴き声が響く。
「この感じは…」
「明かりを!!ランタンの明かりを!!警戒するんだ!!」
暗闇の中で何かが光り、その正体を知る兵士たちは警戒心を高める。
忘れたくても忘れられない、この光景はまさに闇に包まれたあの時と同じだ。
「ウルノーガ、何を!?」
「簡単なことだ。世界をかけたゲーム…これからロトゼタシアは徐々に闇に包まれていく。そして、その闇の中で我が下僕が食い荒らしていく…。どちらか一方が死ぬまで、それは続く…」
「お前…!!」
「さあ…我に力を見せるがいい…」
「陛下!!陛下!!一大事にございます!魔物どもが…!!」
「うろたえるな…」
傷だらけの伝令兵がテントに飛び込み、兵士の報告に動じるそぶりのないデルカダール王は立てかけられている剣を手に取る。
伝えがなくても、テントの外から聞こえてくる魔物の叫び声で状況を察することができる。
脳裏に浮かぶのはおそらく、魔王と戦っているであろうマルティナとエルバ、グレイグの姿だ。
命がけで世界の灯をともしているエルバ達にたいしてできること、それは彼らの帰る場所をこの手で守ることだけ。
「17年前から失い続けるばかりであったが、此度はもう何も奪わせはせん!!勇者に、英雄に…わが最愛の娘に…勝利を!!」
「はああああ!!」
「うおおおおおお!!」
エルバとグレイグがそれぞれが握る剣と斧を振う。
左右からの一撃で、どちらかを受けてくれたならもう一方は届くはず。
だが、左右どちらの刃もウルノーガが握る刃に阻まれる。
厳密にいえば、エルバの勇者の剣を防いでいるのはウルノーガ本人の魔王の剣で、グレイトアックスを阻むのは真っ黒な影でできた刃だ。
「この影は…!」
「懐かしかろう…?パープルオーブが為す技だ」
殺気を感じ、距離をとったエルバとグレイグが見たのは黒い影でできたもう1体のウルノーガ。
「パープルオーブの輝きの中で、我は見た。手を伸ばしても届かぬ高貴なるものを、そしてそれでも求めんとすることで生まれる闇を」
ゾルゲが見せたパープルシャドウ。
既にすべてのオーブがエルバ達の手の内にあるにもかかわらず、ウルノーガはその力を使って見せていた。
「どうして六軍王のオーブの力を!?」
「命の大樹の力をもらい受けたときに得た力だ。最も、ゾルゲと同じと思わぬことだな…」
「…みんな、散れ!!」
エルバの叫びと前後するかのように、ウルノーガの分身の額から紋章閃が放たれる。
紫の光の閃光が一直線に伸び、エルバの声のおかげか全員が分散したことで当たることはなかったが、閃光は壁を突き破り、虚空へと伸びていった。
「分身も勇者の力が使えるのぉ!?」
「いや…まだ1体だけならばいい。その数が増えることが問題だ。そして…」
「ああ…必ず六軍王すべての力を使ってくる…!」