ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

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第112話 復活

暗い、月や星の光も日の光も一切入らない闇の中、木の根に包まれた状態で男は眠りにつく。

いったいいつからここで眠っているのか、そしてどうしてここにいるのかなどもう思い出せない。

ただ感じるのはこの木の根のゆりかごが心地よく、いつまでも眠っていたいと思えるところだ。

光が一切ささないこの空間の中では、これだけが安らぎになる。

時間も何もわからず、何も聞こえないそこでただ静かに眠ること。

それだけが彼の為すべきことだった。

「ここに、いたのね…私の、愛しい人…」

ここで眠りにつき、何百年ぶりに聞く女性の声。

しかもそれは、かつての旅の中で出会い、友に旅をし、愛をはぐくんだ最愛の女性の声。

声を聴くだけで脳裏に彼女との思い出がよみがえる。

旅の中、時折2人っきりで街を歩き、自分が選んだアクセサリーを渡して、それを身に着けたときに見せてくれたとびきりの笑顔。

キャンプで火の番をしている時に他愛のない話を続け、笑い合う中で朝を迎えたとき。

笑い合うだけでなく、今では些細に思える原因で喧嘩した記憶も、今では何物にも代えがたい彼の大切な思い出だ。

「迎えに来たわ。遅くなって、ごめんなさい。ローシュ…」

「セニ…カ…」

「目を覚まして、ローシュ…ロトゼタシアの未来のために…」

声が近づいてくるにつれ、瞼越しからも見える、あれからずっと見ることのなかった光。

優しくて暖かい光を見たいと思い、ゆっくりと目を開く。

それと同時に体全体に感じたのはセニカの体温で、鈍くなった感覚では彼女に抱きしめられたことに気づくのに時間がかかってしまった。

「やっと、やっと会えた…。ずっと、会いたかった…」

「セニカ…俺の、セニカ…すまない、すまない…」

抱きしめ返すローシュには、それしかいう言葉が見つからなかった。

こうして抱きしめ合う中で、その声で、そのぬくもりで、ここにたどり着くまでにどれだけ彼女に苦労を掛けてしまったのかがわかってしまう。

「すまない…あの時、ウラノスを止めることができていれば…あの時、ニズゼルファを倒すことができていれば…」

「いいの…。あなたがここにいる、あなたの声が聞けて、あなたのぬくもりを感じることができる…ただ、それだけで私は…」

「セニカ…」

抱きしめている中で、ローシュの痣が光り始める。

眠りについてからは一度も光ることのなかった痣がよみがえり、同時に脳裏に邪神と化したウルノーガの姿、そして彼を包む闇の瘴気の存在が脳裏に浮かぶ。

「セニカ…わかった。為すべきことを為そう。ロトゼタシアと、俺たちの未来のために」

「ええ…ローシュ…」

 

「これは…!!」

セニカがウルノーガの体内に突入してからわずかに時間が過ぎ、彼女と思われる魂に導かれるようにもう1つの、黄金色に輝く人影が飛び出してくる。

ウルノーガの視線はその人影に向けられる。

「貴様…ローシュか!!」

「久しぶりだな、ウルノーガ。ニズゼルファの力まで自分のものにするとはな」

光がわずかに薄れ、エルバによく似た顔立ちをした青年の顔がはっきりと見えてくる。

彼が右手に力を籠めると、勇者の剣に似た剣が出現し、同時に彼の痣が強い光を放つ。

「やめよ…やめよ、ローシュ!!光を、これ以上その力を見せるな!!」

「ウルノーガ、いや…ウラノスの悪意。哀れだな…あれほどの力を持っておきながら、勇者の力だって、手に入れることができたというのに…」

剣を握るローシュには目の前の存在をもはや邪神、もしくはウルノーガとして映していない。

自分という存在への嫉妬心から暴走し、力を本来どう使うべきかを忘れてしまった哀れな男。

「俺も、お前という男がうらやましかった。貰い物の力じゃない、自分の才能と努力だけでどこまでも力を貪欲に探究し、手に入れてきたお前が。ウラノスと比較するなって、セニカに叱られたよ…」

与えられた力であろうと、努力と才能によって手に入れた力であろうとも、同じ力である以上、それは誰かを守るために使うべき。

ドゥルダ郷で出会い、意地を張りあって決闘をしてしまったときに当時の大師から言われたことを思い出す。

自分より強い存在に嫉妬するだけでは何の解決にもならない。

本当の意味で、自分の力を認めることができるのはそれを生み出した、手にすることができた自分だけ。

「お前の闇を、お前の業を…今、ここで晴らす!!」

「やめろおおおおおおお!!!」

ウルノーガの手が伸びるのを構うことなく、ローシュが剣を振るう。

嵐のような光がウルノーガの目の前で炸裂し、ケトスやウルノーガの周囲に飛んでいた魔物たちを巻き込んで闇を消し飛ばしていく。

上空の雲が斬れ、そこから一筋の光がロトゼタシアに降る。

闇が消え、残ったのは魔物にも瘴気にも守られていないウルノーガと、その周囲を飛ぶケトス、そしてローシュと5人の仲間、そしてベロニカの魂だけだ。

「今を生きる勇者エルバ、俺の生まれ変わりよ…俺たちがロトゼタシアのために、お前たちのためにしてやれることはこれが最後だ」

「どうか、守り抜いてください。命が生まれ、死んでいき、また生まれるこの世界を」

「生まれた命が、己の意思で生きる道を選ぶことのできるこの世界を」

「善と悪、そのすべてを受け止め続けるこの世界を」

ウルノーガの闇を払ったことで、すべての力を使い切った魂たちの光が徐々に薄れていく。

当然、その中にはベロニカも含まれていた。

「今度こそ、本当にお別れね」

「お姉さま…私…お姉さまにもっとお話ししたいことが!!」

命の大樹に向かう前に、ベロニカにいうことのできなかった言葉。

魂だけとなったベロニカとはこの戦いの果てに、別れる時が来ることはわかっている。

だが、せめてあの時言えなかったことを言うだけの時間を与えてほしい。

そう願うセーニャだが、そんな妹にベロニカは笑って首を横に振る。

「大丈夫…もう、全部わかってるから…」

「お姉さま…」

「ベロニカ…魂だけになっても、ずっと私たちのために戦ってくれてありがとう」

「あとはアタシ達とエルバちゃんに任せて、ゆっくり休んで」

「ん…。そうさせてもらうわ」

光に導かれるように空へと向かう魂たち。

もう戻ってくることのないそれらにセーニャが手を伸ばす。

「お姉さま!!」

「大丈夫、未来はもうすぐ来る。アタシ達は…また、すぐに会えるから…」

その言葉を最後に、ローシュ達の魂が空へと消えていく。

そして、エルバの両手の痣が光り、それに連動するように6つのオーブが強い光を放つ。

「これは…この、力は!」

(勇者よ、そして…勇者のもとに集いし者たちよ)

「女王セレン…!」

(今こそ、邪神を滅ぼし、神話の時代より続く戦いを終えるとき、さあ…オーブよ。勇者たちの力に!!)

オーブの力が宿る武器から発する光がそれぞれの所有者を包んでいく。

カミュは黒いコートと縞模様が刻まれたバンダナへとその姿を変化させる。

かつて、盗賊ラゴスがローシュと共に当時の海を支配していたという海賊キャプテン・クロウを倒した際に手に入れた戦利品である大海賊のコートとバンダナが今世の盗賊の力となった。

セーニャの左手にはかつて、ベロニカが使っていた杖が出現し、同時に首にはベロニカがつけていた首飾りが出現する。

ベロニカとセーニャの2つに分かれていたセニカの賢者としての力が首飾りの仲介によって本来の一つの力へと変換されていた。

シルビアの身を包むのはピンクと白のツートンで胸元が開いたスーツで、背中には派手なピンクの羽根飾りがつき、さらには額には青い宝石のついた冠がついた。

ジェスターシールドから引き抜いた光剣を手にし、騎士として鍛え抜かれた肉体を持つ今のシルビアは旅芸人と騎士、ジエーゴとガーベラの力を確かに受け継いでいることを証明していた。

ロウの服装もまた、深紅のマントと冠姿という、かつてのユグノア国王としての姿を彷彿とさせる姿となり、オーブの力を開く鍵となった神鳥の杖が吸い込むようにロウの右手へと向かっていく。

マルティナの鎧化が一度解除され、同時に身に着けている緑色の武闘着が左肩の黄金の竜の頭の飾りがついた青いチャイナドレスへと変化し、その上で再び魔甲拳が鎧化するとともに出現した長刀を振るう。

グレイグの身を包む鎧はかつて、ネルセンが身に着けていた深紅の鎧兜へと変化し、グレイトアックスとデルカダールの盾を手にしたグレイグは在りし日の彼の生き写しと言ってもおかしくない姿となっていた。

「終わらせる…かつての勇者ローシュの分も、何もかも全部!!」

エルバの決意に答えるように両手の痣の輝きが強くなる。

脳裏に浮かぶのは、勇者の痣を手にしたホメロスの行い。

腕に宿っていた勇者の痣が頭へ移動し、完全開放した力によって銀色の翼をもつ魔人となった。

ホメロスの言っていた勇者の痣の力の先。

もしそれを2つの勇者の痣を持つエルバが発動したなら、もしかしたらかつてのホメロス以上の力を手に入れることができるかもしれない。

エルバがやろうとしていることはウルノーガも気づいている。

彼の決意とローシュ達の残した最後の力が勇者の力を増幅させていて、今ここで仕留めなければならないという危機感を覚え、手にしている剣を振るう。

だが、振り下ろされた刃はエルバ達には届かず、上空に現れたユグノアの甲冑姿の男のハヤブサの剣が受け止める。

「父さん…」

「エルバ、どうか終わらせてくれ…お前の手で、お前自身が積み上げてきた、手にしてきた力で!!」

消えていくアーウィンの背中を見つめるエルバがうなずくとともに、彼の体をかつてのローシュが身に着けていた青い闘衣が包んでいく。

両手に宿っていた痣が額へと向かい、額全体を包むように巨大な紋章へと変貌を遂げていく。

邪神とかした今の自分よりもはるかに小さいはずのその人間に対して、ウルノーガが抱くのは恐怖心だ。

「化け物、めが…!!」

「ああ、お前にはそう見えるだろうな。お前以上の化け物になろうとしている、俺が!!だがな、お前の言う化け物と、一緒にするなよ…」

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