「ハァハァ…何だよ、この暑さはよぉ…。ホムラの里以上じゃねえか…」
一列になって砂漠を進む中、カミュは水筒の水をがぶ飲みし始める。
他の3人もカミュほどではないが、いつも以上に水筒の水を飲んでおり、日差しから身を守るため、旅の商人から購入したマントで頭と体を包んでいる。
「あんた…この砂漠に入って、暑い暑いばっかりじゃない!どれだけ暑いのが苦手なのよ!?」
「仕方ねえだろ…育ちの問題だ…」
ホムラの里でなら強気で反論したり怒ったりすることのあるカミュだが、砂漠の熱気にやられてすっかりその気力もなくしている。
「ベロニカ、セーニャ。このまままっすぐ進むので合っているか?」
「はい。私たちが進んだのはここです。このままあと半日進めば、サマディーの城壁が見えてきます」
「半日…それまでこの暑さに耐えねーといけねーのか…」
今は昼間であるため、サマディーに到着したら夜になる。
夜中に王に尋ねるのは無理であるため、到着したらすぐに宿をとる必要がある。
ただし、年に1度のファーリス杯があることから観光客が増加しており、宿屋が満席になっている可能性もある。
以前、エルバとカミュが世話になったように、教会の宿泊施設を利用するという手もあるが、それでも部屋を確保できる可能性は五分五分。
「最悪、野宿を覚悟すべきだな」
「だな。にしても、魔法使いがいるのといないのとじゃあかなり違うな」
カミュは馬の両サイドのぶら下げられている箱を見る。
中には肉などの食料が凍った状態で入っており、これらはすべてベロニカがヒャドで凍らせておいたものだ。
必要な時にメラで溶かす、もしくは自然解凍で使うことができる。
食糧管理が大変な旅の中で、何度も味気のない豆のスープや塩っ辛い干し肉などを食べてきたカミュにとってはありがたい存在だ。
「ちょっと、人を便利なキャンプ道具みたいに言わないでよ!」
「お姉さま。そんなに怒っていたら…あ!」
何か物音が聞こえ、右を向いたセーニャが左手で口を隠す。
「どうした?」
「あの、皆さま。あちらで物音が…」
セーニャは聞こえた方向に指をさす。
そこにはサマディー地方ではよく目にするサボテンが複数個、不規則に生えてる。
「物音…?サボテンボールじゃないわよね?」
ベロニカは砂漠で出会ったサボテンボールという魔物のことを思い出し、嫌な表情を浮かべる。
玉サボテンに手足が生えたような姿の魔物で、サマディーではサボテンに擬態して獲物を待つ。
そして、獲物となる何かが近づいたら飛び上がり、それを合図に次々とサボテンボールが合流して襲う。
そのせいで、サボテンを見に来た観光客がサボテンボールに襲われて死傷するケースが毎年出ており、サマディーでは兵士やガイドの同行無しに非武装の状態でサボテンに近づいてはいけないという決まりができるほどだ。
ベロニカとセーニャはホムラの里へ向かう際に不用意に近くを進み過ぎたことでサボテンボールに見つかり、大軍に追い掛け回された。
馬で逃げていたが、サボテンボールはゴロゴロとボールのように回転しながら追いかけて来て、その時のスピードは馬が全力疾走するのと同じくらいだった。
幸いなことに、サボテンボール自体があまりスタミナがないうえに回転し過ぎると目が回ってしまうようで、しばらく走ると目を回してその場に座り込み、その間に逃げきることができた。
「サボテンとサボテンボール…そんなに見分けがつかないのか?」
「いえ。手足はひっこめることで隠すことができるみたいですが、呼吸のために顔を隠すことができないみたいなので、それさえ分かれば…」
「ま、触らぬ神に祟りなしだ。行こうぜ」
1分1秒でも早くサマディーに入り、宿を取りたいと思っているカミュは先へ向かう。
「ええ…そうね。サボテンボールなら、あんまり近づかないほうがいいし」
「そうですね。参りましょう、エルバ様」
「ああ…」
水と食料を得にくい場所では戦いは可能な限り避けるのが定石であることはカミュから学んでいるエルバは同意し、3人は先に言っているカミュを追いかける。
先に進むカミュは山のように積もっている砂の上に上がり、そこから周囲を見渡す。
あたり一面は砂で、まだここからはサマディーの城壁すら見えない。
「早く町へ…って、おいおいマジかよ…?」
南の方角から、何か動く物影が見える。
汗が目の入り、かゆみを取ろうと目をこすった後でもう1度確認する。
「何が見えている?」
「あっちを見ろ!」
隣に来たエルバにカミュは物陰が見えた方向に指をさす。
そこには破壊された馬車と馬車の陰に頭を抱えて隠れる白いターバンをつけた青年、そしてその周囲で飛び回るキメラの集団の姿があった。
胴体が蛇で、鳥の頭と翼がついている合成獣で、羽根は軽いうえに風の魔力がこもっていることから、装備品の原料としても飾りとしても使うことができる。
ただ、肉食動物である爬虫類の習性と群れをつくる鳥の習性を併せ持っていることから、同じ鳥系の魔物と連携して狩りをする厄介な魔物だ。
「仲間が集まると大変だ。どうす…って、エルバ!!」
急にエルバを乗せたフランベルグがキメラの群れへ向けて突っ込んでいき、エルバは鉄の剣を抜く。
そして、キメラたちの目を引き付けるためにギラを唱える。
閃光が後ろを向いているキメラに向けて飛んでいき、背後から感じる熱を感じたそのモンスターは振り返る間もなくその光に焼かれていった。
突然、仲間を不意打ちで撃破されたキメラたちは激怒し、ギラを唱えた張本人であるエルバを始末しようと彼に向けて飛んでいく。
「あのバカ、一人でやっててもしょうがねえだろ!?」
「ああ、もう!!行くわよ!セーニャ!」
「はい、お姉さま!!お馬さん、お願いします」
両足で挟むように腹部を蹴られた馬はエルバに向けて全力で走っていく。
青年を襲っていたキメラはすべてエルバの周りに集まっており、仲間と同じ苦しみを与えて殺そうと炎を吐く。
しかし、炎はエルバの周囲に発生した竜巻に吸収され、そのままかき消されていった。
「この竜巻は…」
「私です。エルバ様」
僧侶が愛用する、回復魔力を高める力のある武器、スティックを手にしているセーニャが馬から降り、笑みを浮かべている。
炎を消されたキメラは犯人のセーニャをくちばしで貫こうと、上空から急降下しながら突っ込んでいく。
しかし、セーニャの隣にいるベロニカが放つメラで黒こげになり、地面に落ちた。
「ったく、セーニャ!!危ないわよ!」
「お姉さま、ありがとうございます」
「おい、大丈夫か…よ!!」
隠れている青年のところまで来たカミュはブーメランを投げて近くで飛んでいるキメラの翼を切り裂く。
「へえ、中々使えるじゃねえか。こいつは」
手元に戻ってきたブーメランを見て満足すると、落ちてもなお炎を吐いて抵抗しようとするキメラの首を聖なるナイフで突き刺した。
このブーメランは水と食料の調達のついでに、補給の難しい爆弾の代わりとして購入したものだ。
昔使ったことがあるらしく、思い出すために途中のキャンプで少しだけ練習したが、それだけで勘を取り戻すことができた。
「いやぁ、助かったぜ…。まさかキメラの群れに出くわしちまうなんて…」
キメラが全滅し、助けられたことに礼を言う青年は散らかった荷物を馬車に戻す。
馬は逃がしていたが、口笛を吹くことでここまで戻ってきた。
「商人の馬なのに、よく口笛で戻ってこれるな」
エルバと共にキメラの死体から肉と羽根を剥ぎ取りながら、カミュは戻ってきた馬に興味を持つ。
ベロニカはそのグロテスクな光景をセーニャに見せないよう、馬車の陰に行かせる。
「もとは軍馬さ。年齢が来たもんで、知人から譲ってもらった。俺はホフマン。サマディーの宿屋の店員だ」
「そうなんですか。だから、たくさん食べ物を…」
回収した荷物のほとんどが食べ物で、いずれも箱や袋にはダーハルーネに入港したことを示す印がつけられていた。
宿屋という言葉に、カミュはピクリと反応する。
ナイフについた血を布でふき取り、はぎ取ったものを回収した後で彼の元へ向かう。
「なぁ、あんたのいる宿屋って、空き部屋はあるのか?俺らはサマディーを目指してる」
「ああ、ってことはファーリス杯とシルビアさんのショーを見に!?うーん…1週間前にダーハルーネに出てたからなぁ…宿屋に戻らないとわからねえなぁ。もし部屋に空きがあったら、俺が店長に掛け合ってみるよ。案内するから、ついてきてくれ!」
荷物の回収が終わり、詰み忘れがないかチェックを済ませたホフマンは御者台に乗り、ムチで馬の尻を叩く。
馬はゆっくりと進路を北へ向け、ゆっくりと歩き始める。
「シルビアか…。ここでも、あの旅芸人の話を聞くなんてな」
馬に乗ったカミュはホフマンから聞いたシルビアという名前を思い出す。
彼だけでなく、ベロニカとセーニャもその名前を聞いたことがあるようで、少し驚いている。
「おい、シルビアって誰だ?」
「ええっ!?エルバ知らないの!?」
「お姉さま、エルバ様はイシの村で暮らしていたので、そういうことはあまり…」
エルバをフォローするセーニャだが、姉妹の短い会話を聞く中で、エルバはいまだに世間知らずの田舎者であることを痛感する。
だが、今はシルビアが何者であるかはどうでもいい。
「行くぞ。サマディーは近いはずだ」
ホフマンの馬車についていくように、フランベルグは歩き始める。
その後ろ姿はいつも通りだが、逆にそれが痛々しく見えてしまう。
「こうなりゃあ、旅の中でいろいろ教えねーと…本当に復讐鬼になっちまうぜ…」
だが、それは彼を変えるチャンスかもしれない。
シルビアについて少なくとも質問してきたということは、わずかでもそれに興味があるということ。
だったら、どこかで機会を見つけて教えればいいだろうとカミュは考えた。
真っ白で高い城壁の南側にある木造の巨大な門が開き、ホフマンを先頭にエルバ達は中へ入っていく。
少し進んだだけで、観光客目当ての屋台とそれに群がる人々の巨大な波が見えてくる。
夜であるにもかかわらず、そこらじゅうに置かれている燭台に火がついており、昼のような明るさとなっている。
黄色地に緑色の模様が入ったサーコート姿の兵士たちが馬やラクダに乗って巡回する。
砂漠の国、サマディーはサミットでは末席であるものの、豊富な観光資源と鉱物資源に恵まれた国だ。
また、砂漠であることから農業に適した土地が少ないために他国よりも農業の効率化に力を入れていて、近年ではサマディーの農業を学ぼうとデルカダールから留学生が訪れている。
「デルカダール以上だ…こんな人の数は…」
「うーん…普段の倍はいるかな?こりゃあ、ウチの宿屋に空き部屋があるかどうか…俺のいる宿屋はここのすぐ東だ。じゃあ、馬を預けたら来てくれよな」
馬車に乗ったまま、ホフマンは東へと向かっていく。
人をひかないようにゆっくりと進んでいき、彼を見送りながらエルバ達はすぐそばにある馬小屋に自分たちの馬を預ける。
「んじゃあ、早く宿屋へ行って休める場所を…」
「それよりもサーカスよ!シルビアのサーカス!!」
「お…お姉さま??」
本当の目的を忘れたかのような、ベロニカの興奮ぶりにセーニャは驚きを見せる。
ここまで興奮しているベロニカを見るのは、双子の妹である彼女にとっては初めてのことだ。
「ほら、セーニャ!あんたも来なさい!あんたがいないと、チケット買えないのよ!」
今のベロニカの体で夜中に外にいると、警備兵から迷子と誤解されてしまう可能性が高い。
若返りはしたものの、そういう点ではかなり不便であることは否定できない。
エルバかカミュが一緒にいる場合は変な誤解を与えかねないため、ここはセーニャを指名するのが安全だとベロニカは判断した。
「わ、分かりました…。では、エルバ様とカミュ様は宿屋で…」
「ホムラの里のパターンかよ…ふぅ」
「いいじゃない!ちょっとした息抜きよ!」
ベロニカはセーニャの手を握り、彼女を引っ張る形で雑踏の中へと消えていく。
「ああ…女ってのはよくわからねえな…」
今まで男としか一緒に旅をしたことのないカミュは頭を抱える。
デクと旅をしていたころ、悪徳商人の屋敷で盗みを働き、そこで手に入れた金でムフフな店に入ったときのことを思い出す。
そこで働いている女性と他愛のない会話をしていた際、何がいけなかったのか、いきなりその女性が怒って頬をひっぱたいて戻ってしまった。
なぜこうなったのかは今でも分かっておらず、一緒に店に入ったデクに聞いてもため息をつかれるだけだった。
だが、これからはベロニカとセーニャ、2人の少女と共に旅をすることになるため、分からないままであってはならない。
「カミュ、部屋を確保するぞ」
「ん…ああ、今行くぜ」
いつの間にか先に言っていたエルバを見失わないよう、カミュは彼を追いかけた。
「いやぁー、あんたらついてるぜ。話をしてたら、店長が一部屋だけだが、部屋を確保してくれたぜ。4人で寝泊まりするには広さは大丈夫だが、カーテンで敷居をしておく必要が…」
「それについてはどうにかする。助かったぜ」
宿屋の2階でホフマンから鍵を受け取り、2人は案内された部屋に入る。
元々、集団観光客を受け入れることが多い宿屋であるためか、部屋は広く作られており、ベッドもきれいに用意されている。
ようやく休める場所を見つけたことに安心すると、カミュは荷物を置き、フカフカのベッドで横になる。
しかし、違和感を覚えたのか、すぐに起き上がってしまう。
「どうした?」
「なんか、落ち着かねえなぁ」
「どういうことだ?」
「ベッドだ。ベッドってこんな感じかって…」
1年近く、死刑囚として地下牢に入ったうえ、これまでの旅の中でベッドで横になったのが脱走後に立ち寄った協会だけのカミュはベッドで寝るのが落ち着かなくなっていた。
堅い床やチクチク刺さって痛いゴザ、テントの薄い布の上といったところで寝ることの多い彼には逆にこうした快適なベッドがなじまないのだろう。
どうにか心を落ち着かせようと、今日使ったブーメランと剥ぎ取り用のナイフを研ぎ始める。
「宿の中でやらなくてもいいだろ…?」
外でならともかく、観光客がいる平和な空間であるこの宿屋で物騒なことをするカミュに苦言を呈すと、エルバは部屋を出た。
「よし…水はこれでいいか。あとは…」
井戸のそばにあるテラコッタ鉢を手にし、それに水を入れたエルバはちょうど馬小屋と正門前通りを挟んで向き合うように作られた建物の中に入る。
そこでは観光客や主婦たちが集まっていて、同じ鉢を使って洗濯をしていた。
サマディーでは城下町の各地に設置されている井戸のそばにあるこうした建物で洗濯をする習慣がある。
多くの人はたくさんの洗濯物を持ってきており、観光客たちは手洗いしているのに対し、主婦は叩く、もしくは絞って洗っている。
こうしてみているだけでも、地域によって洗濯のやり方が違うことがわかる。
エルバは手洗いでスカーフを洗い始める。
ずっと腕に結びつけており、戦いもあったせいで砂や埃がついており、細かい汚れもある。
「エマ…」
エルバにとって、このスカーフと首にぶら下げているお守りだけがイシの村で生きていた証となっている。
たとえボロボロになったとしても、手放したくない。
「戻った…ぞ??」
スカーフを洗い終え、戻ってきたエルバは見慣れない服装をしたセーニャを見て動きを止める。
床で胡坐をかいて座っているカミュは頭を抱えており、ベロニカは部屋にいない。
「あ、おかえりなさいませ、エルバ様」
「セーニャ…」
戻った来たエルバに気付いたセーニャは彼に目を向けると、胸に手を置いてお辞儀をする。
動作については何も問題ない。
問題なのは今の彼女の服装だ。
上半身が腕抜きと紫のブラだけで、ドレス姿の時とは対照的に露出度がかなり高いものとなっている。
おまけに下半身は黄色とオレンジの腰巻と黒いタイツである程度隠れているものの、わずかにパンツが見えている。
「…なんだ、その格好は…?」
「これですか?見てください!近くの防具屋さんで買ってきたんです!動きやすくて、これなら魔物の攻撃も回避しやすいですよ」
嬉しそうに笑いつつ、クルンとその場で一回転する。
この踊り子の服は酒場で働く女性の踊り手が良く着用しており、その女性のスタイルを強調できるようにデザインされているらしい。
確かにロングスカートで若干厚手なドレスとは異なり、薄いうえにスカートではないため、動きやすい点は確かに正しいだろう。
「…こんな派手で露出度の高い僧侶がどこにいんだよ」
今のセーニャの服装をあまり見ないようにしながら、カミュは突っ込む。
最初にその服装で入ってきたときには危うく見とれそうになり、目のやり場に困ってしまった。
もしベロニカが一緒に来ていたら、妹が絡んでいることもあり、メラを連発されるかからかいの種にされてしまったかもしれない。
「はぁ…で、ベロニカはどこだ?サーカスを見に言ったんじゃなかったのか?」
「それが…今夜のサーカスのチケットが品切れになってしまいまして…。お姉さまは下の食堂でヤケになって食べてます」
「楽しみにしてたのは分かるけどな…。ったく、食い物も防具もただじゃねえんだぞ」
長年旅をしていたカミュは金のやりくりの大切さを身に染みて理解していた。
魔物から剥ぎ取りを行うのも、それを利用して不思議な鍛冶セットで武器や防具を作るためであり、時にはそれを店に売ることもできる。
素材を売るよりも、こうして加工して売った方が金になり、旅費の足しにできるからだ。
「で…いくらで買ったんだ?それ」
「ええっと…1300ゴールドですね」
口元に人差し指を置き、思い出しながら答えたセーニャの発言にカミュはため息をついた。
これからは自分とエルバで金の管理をしなければ、そう静かに決心をしていた。
「まったく!なんで午前の部のチケットも売り切れなのよ!?しかも、次があたしの番って時に!!モグモグ…」
翌朝、宿屋の食堂では昨晩と同じようにやけ食いするベロニカの姿があった。
彼女は早起きして宿を出て、サーカスのチケット販売開始時間2時間前には並ぶことに成功した。
しかし、それよりも前に並んでいる人が数多く存在し、長い時間待たなければならなくなった。
そして、自分が買う前に売り切れになり、20分前に戻ってきた。
「ベロニカ、それくらいにしとけよ。あと1回チャンスがあるかもしれねーじゃねーか」
刻んだトマトやクレソンなどの野菜にサンドフルーツの汁で味付けをしたサラダ・サマディーを口にしながらカミュは慰める。
虹色の枝はサマディーの国宝であるため、手に入れるか借りるかどちらかにするにしても1日で済む話ではない。
幸いなことに、サマディーではまだエルバ達の話が伝わっていないことが酒場での情報収集で分かっている。
今は安心かもしれないが、いつ自分たちの情報が入ってくるかわからない。
「食べ終わったら、城へ行くぞ。王が面会してくれるかはわからないが…」
デルカダールの場合、ユグノアのペンダントを持っていたことからすんなりと王と会うことができた。
しかし、今回はそうしたアイテムが無ければコネもない。
直接会いに行くとしても、門前払いがオチだろう。
「どうやら、お困りみたいだな」
お代わりの水を持ってきたホフマンが悩んでいるエルバ達を見ながら声をかけてくる。
「はい。私たち、わけがありまして、サマディーの国王陛下とお会いしたいのです。何か知恵をお借りできませんでしょうか?」
「知恵ねえ…うーん…」
水を置き、お盆を脇に挟んだホフマンは首をかしげる。
しかし、すぐに何かを思いついたのか、急いでカウンターまで向かう。
そして、紙をもってエルバたちの元へ戻ってきた。
「これは?」
「最近ここの南にある鉱山でバトルレックスっていう魔物がいて、王様が討伐隊を編成してる。こいつはそのバトルレックスの絵だ」
あくまでも、生還した作業員や兵士の証言を基にした絵をホフマンが思い出しながら書いており、即席であることからお世辞にも上手とは言えない。
わかることがあるとしたら、緑色で2本足、トカゲのようなモンスターで巨大な斧を持っていることだ。
「そこで手柄をあげたら、チャンスが巡ってくるんじゃねえか?兵士の募集は城門前でやってる。ま、腕に覚えがあるならってことで」
「バトルレックス…聞いたことのねえモンスターだな」
「でも…これはチャンスね」
気持ちを切り替えたベロニカもじっとその絵を見た。
サマディー
ロトゼタシアでは世界一の観光立国とされている砂漠の王国。
サミットでは末席であるものの、国としての歴史は16年前に滅んだユグノアを除くと最も長い。
騎士の国と言われていることから、兵士と馬、ラクダの育成に力を入れている。
国領の南西のバクラバ砂丘には古い遺跡があり、サマディーの考古学者たちが現在調査しているが、現在でもその詳細は分かっていない。