ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

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あけましておめでとうございます!
新年一発目はこのドラクエ11からです!!


第16話 鉱山の戦い

サマディー南部にある鉱山、サウスサマディー鉱山。

良質な鉄鉱石と様々な種類のアクセサリー用の宝石のある鉱脈がそこにはあり、サマディーの武器や装飾品の製造を陰から支えている。

最近ではその鉱山の中で魔物が出現しているという報告があり、作業員の安全上、現在は兵士が駐屯しているが、このまま兵士に護衛をさせながら採掘を続けるか、それとも思い切って閉山するか、意見が分かれている。

その鉱山の入り口に、サマディーの兵士たちが集まってきている。

そして、その中にはエルバ達の姿もあった。

まずはその中にある緑色のサークレットを着た兵士が前に出る。

なお、サークレットの色は兵士の立場を示しており、黄色は下級兵士、緑色は隊長クラス、赤色が兵士長となっており、この討伐隊ではあの男がただ一人、緑色のサークレットを着ている。

「みんな、今回このバトルレックス討伐隊の隊長を任せられることになったオグイだ。2か月前まで、この鉱山に駐屯していたから、道についてはある程度分かっている。それから…旅人の方、前に出てくれ」

隊長のオグイの求めに応じ、エルバ達が兵士たちの前に出る。

今回の傭兵の募集で、応募したのは結局エルバ達だけだったようだ。

彼ら以外にも戦える旅人はサマディーにいるのだが、相手が悪すぎるという理由で断ったり募集しなかった人が多い。

バトルレックスはそれだけ、多くの人から恐れられている魔物だということだ。

「この中にはバトルレックス以外にも魔物がいる。全員、単独では動かず、最低でも2人以上でチームを作り、死角を作らないように動いてくれ。そして、くれぐれもランタンの火が消えないように、余裕があるときに油を差すようにしてくれ」

オグイの指示を聞き終えると、兵士たちは各自でチームを編成し、オグイにチームメンバーを伝え、チーム番号を受け取った後で鉱山に入っていく。

ある程度兵士たちがチームを組んだのを確認した後で、オグイがエルバの元へやってくる。

「君たちは第11チームだ。何かあったら迷わず近くのチームに頼ってくれ」

「ああ。にしても、もうすぐファーリス杯って時にこんな任務になるたぁ、不憫だな。オグイさん」

「まぁ、任務だから仕方ないさ。無事に帰って、ファーリス王子といい勝負ができるように準備をしなければな」

そういうと、オグイはエルバ達に地図を渡し、鉱山の中に入っていく。

受け取った地図をめくると、それには坑道の構造が描かれており、落盤の危険性のある場所や滑りやすい場所なども事細かに書かれていた。

「すげえ細かい地図だな…こりゃあ、大助かりだ」

カミュは地図をしまい、全員のランタンの油の量などのチェックを始める。

念のためサマディーである程度買っておいたため、問題はなかった。

「よーし、じゃあ行こうぜ」

「ああ…」

「バトルレックスはおそらく、強力な魔物です。皆さま、くれぐれもご用心ください」

4人は鉱山に入る一番最後のチームとなり、エルバを先頭、カミュを殿にして前へ進んでいった。

 

足元に注意を払い、地図を確認しながら前へ進んでいく。

足元に何かが当たったのを感じたエルバはすかさす足元にランタンの明かりを照らす。

そこには採掘用だと思われるつるはしが落ちていた。

「つるはし…?」

「きっと、ここの採掘者が使ってたものでしょうね。魔物に襲われたから、大急ぎで逃げたみたいね」

他にも、足元には魔物のものと思われる足跡があり、壁や床の一部には焦げた跡もある。

それらを確認していると、セーニャがカミュの肩を叩く。

「あの、鳴き声が聞こえませんか?」

「鳴き声…?まさか、バトルレックスのものじゃねえだろうな?」

まだ鉱山に入ってから10分足らずで、自分たちが最後尾だ。

地図によると、バトルレックスは鉱山の最深部を住処にしている。

そんなところでバトルレックスの鳴き声が聞こえたとすると、相手はかなり大きな魔物ということになる。

「い、いえ…蛇の…」

「蛇…?みんな、動くなよ!」

「な、なによ急に!?」

「いいから動くな、声を…出すな…!」

口にたまった唾を飲み込み、じっとするカミュを見たエルバはそれに従う。

そうしていると、何かが這ってこちらに近づいてくる音が聞こえてくる。

先ほどまで、声や足音を立てていたこともあり、聞こえなかった。

音がする方向にカミュはランタンに光を照らす。

しかし、その方向にはなにもなく、何かが動くようなものかげもない。

例の音が大きくなってきているにもかかわらずだ。

「こいつは…セーニャ、あぶねえ!!」

「え…キャ!?」

一番近くにいたセーニャを抱き、そのままフットボーラーがエンドゾーンに飛び込むような要領で前のめりに倒れる。

同時にセーニャの頭上のあたりの天井が砕け、紫色の巨大な蛇の頭が出てくる。

彼女を丸呑みしたかったようだが、ギリギリのところでカミュがセーニャを助けたことでその目論見が外れた。

「ヘルバイパー!?よくもあたしの妹を食べようとしたわね!!」

妹を傷つけようとしたその蛇、ヘルバイパーに腹を立てたベロニカはギラを唱える。

頭を引っ込めようとしたヘルバイパーだが、その前に閃光が頭を貫き、炎上を始める。

更にとどめと言わんばかりに、エルバは鋼の剣で燃えるヘルバイパーの頭を切り裂いた。

斬られたヘルバイパーの首が黒焦げになってその場に落ち、ズルズルと激しい音が天井から鳴り響き、やがてそれが遠ざかっていった。

「た、助かりました…カミュ様」

「ああ…油断するなよ。あいつはまだくたばってねえ」

「どうして?確かにギラで頭を…」

「見ろ」

カミュは形でヘルバイパーの黒こげになった頭部をもち、ベロニカに投げる。

レディにそのようなグロテスクなものを投げるカミュの神経に驚きを隠せないベロニカだが、よく見るとそれは焦げた抜け殻だった。

「脱皮さ。こいつはギリギリのところで脱皮して逃げやがったんだ」

「なんで、それがわかった?」

「お前が剣で頭を斬ったときだ。血が出てなかっただろ。仕留めそこなった以上、また狙われるぜ…」

ヘルバイパーは体内に毒を作り、かみついた相手を毒で弱らせた後で丸呑みする性質がある。

しかも、どうやったのかは分からないが、通路のすぐそばに獣道のように自分の通り道を作っており、また先ほどのように奇襲されるのは目に見えている。

「早くほかの兵士に伝えるぞ」

「そうだな…。急ごうぜ」

カミュは近くにかけられている、消えたまま放置された松明を手にし、それにランタンの火をつける。

そして、燃えるその松明を前に向けて投げる。

緩やかな下り坂をゆっくりと松明は転がり、その先の光景をエルバ達に見せ、その終点のところで止まる。

「少なくとも、ここまでは別の通路はねえみたいだ。行くぞ」

「問題は…その先とヘルバイパーだな…」

姿をくらました脅威に警戒しつつ、4人は松明が止まった場所まで歩いていく。

そこからは広い空間があり、魔物の骨が散乱していた。

あまり見たくない光景を見てしまったベロニカはウエエッと気持ち悪そうにし、カミュはその骨を調べ始める。

「頭蓋骨についている傷…爪か石で一撃だったんだろうな。食われてから3日…それとも4日くらいか?」

「バトルレックスに食われた…そういうことか?」

「かもな。見ろよ」

骨を調べたカミュは一部に血がついている足跡に指をさす。

その足跡はその先にある3つの通路のうちの1つに続いている。

「食い終わって、そのまま奥へ行った。ってことは、この先にバトルレックスがいるってことだ」

よく見ると、先に行った兵士たちのものと思われる足跡もその通路に続いている。

このまま進めば、オグイ達と合流することができるかもしれない。

しかし、その通路に足を踏み入れた次の瞬間。

「うわああああ!?!?!?」

兵士の叫び声がエルバ達の耳に飛び込んだ。

「バトルレックスかヘルバイパーに襲われたか!?」

「急ぎましょう!なんだか…嫌な予感がします…」

声がした場所は例の通路の先で間違いない。

エルバ達はその通路を走っていった。

 

「ぐ、うう…!!」

その通路の先にある広い空間で、オグイは左腕を抑えながら壁にもたれている。

肩と二の腕のあたりに深い傷ができており、血が流れ過ぎたためか、それとも麻痺しているせいなのか、左腕の感覚がマヒしてきている。

目の前には2人の兵士の死体が転がっており、残った3人のうちの1人が震える体を抑え、目の前にいる4匹のヘルバイパーの1匹をじっと見る。

「よくも…よくも仲間をぉーーー!!」

「待て!一人で飛び込むなあ!!」

オグイに耳を貸さず、兵士は懐に飛び込んで剣を振るう。

目の前のヘルバイパーの腹に切り傷ができ、その個所を何度も切れば真っ二つにできると思った彼だが、そんな彼に希望を奪うかのように側面からもう1匹のヘルバイパーが腹部に噛みついてくる。

「あ、あああ!!嫌だ、ああああああ!!!!」

「く…っ!」

助けに動きたいオグイは傷のせいで身動きが取れず、他の2匹のヘルバイパーの存在から、他の兵士たちもどうすることもできない。

彼がその蛇の胃袋の中へ消えていくのを眺めることしかできなかった。

「くそ…!こいつら、待ち伏せしていやがったか!?」

この広場は一番奥へ行くために必ず通ることになる場所で、ここを集合地点として設定していた。

ここに来るまでに多くのチームがエルバ達と同じくヘルバイパーが頭上など、通路の近くに作った穴を通るのを音で知っていた。

そして、この広場の天井が高く、壁にはヘルバイパーが入れるような大きな穴がある。

オグイ達がここに集まるのを見計らい、絶好のタイミングで出て来て、奇襲を仕掛けてきた。

「来るぞ!!」

他のヘルバイパーがごちそうを口にしようと残りの兵士に襲い掛かる。

しかし、兵士の目の前に竜巻が発生し、2匹のヘルバイパーが体を引っ込め去る中、反応が遅れた1匹が自分から頭をそれに入れる形で命中し、頭部を細切れにされていった。

「バ…バギ!?」

「皆さま、大丈夫ですか!?」

バギを唱えた本人であるセーニャは急いで負傷しているオグイの元へ向かう。

続いて入ったエルバはギラを唱え、閃光で自分に注意を向けていく。

ベロニカ程の魔力がなく、走りながらのためにコントロールに乱れがあるものの、それでもエルバが放った閃光はヘルバイパーをかすめ、注意を向けることに成功する。

「ハアハア…悪い、迷惑をかけたな…」

「しゃべらないでください。今、治療します!」

セーニャは急いでオグイの腕の傷を確認する。

ヘルバイパーに噛まれた傷は深いものの、骨へのダメージがなかったのは不幸中の幸いだった。

問題は毒で、ヘルバイパーのものの場合は出血毒の場合が多い。

急いでキアリーを唱えて解毒し、血管系細胞のこれ以上の破壊を阻止してから、最近覚えたばかりのベホイミを唱える。

「うぐぐ…!!」

「じっとしていてください、オグイ様…!」

「ああ…すまん…!」

回復によって、痛覚が刺激されたのか、感じなくなっていた痛みがよみがえり、脂汗を流しながら歯を食いしばった。

一方、セーニャも覚えたばかりでまだベホイミの制御に慣れていないためか、若干疲れを見せ始めていた。

「こいつを…喰らっとけぇ!」

大きく開いたヘルバイパーの口にカミュは爆弾を放り投げる。

口の中に異物が入り込み、思わず閉じてしまったのが運の尽き、上半身の半分が爆発と同時に吹き閉じ、カミュの体や服をヘルバイパーの破片と血が濡らしていく。

エルバもそれと同時に、大剣でヘルバイパーを縦に両断した。

「くそ…こいつはまずいぜ」

戦闘によってできた血と死体を見て、カミュは危機感を覚える。

「危険…?」

「爬虫類は視覚と聴覚が弱い代わりに嗅覚が発達してるんだよ。ブラックドラゴンに追われたときのことを思い出せ」

カミュの言葉にエルバはデルカダールの地下でその魔物に追いかけられた時のことを思い出す。

ランタンの明かりだけが頼りの暗闇の中、ブラックドラゴンはただひたすらにエルバ達を追いかけていた。

彼の言葉が正しければ、視力だけでなく嗅覚も頼っていたと考えていいだろう。

その考えが正しいと言わんばかりに、ズシリ、ズシリと大きな足音が聞こえてくる。

「くそ…この足音は…」

聞き覚えのある足音にオグイの表情が固まり、治療が終わると同時に落としていた片手剣を手にする。

兵士たちも孤立しないように、可能な限りエルバ達と共に固まる。

グオオオオオオンン!!!

「うっるさいわね!!」

ビリビリと天井から砂や石が落ちてくるほどの鳴き声にベロニカは叫ぶ。

最深部へと続く通路から、バトルレックスが姿を現し、エルバ達の前で咆哮しながら斧を振り回す。

振るだけで強い風が起こり、ベロニカは吹き飛ばされないように帽子を押さえる。

「まさか…討伐対象が自分から来てくれるなんてなぁ…!」

聖なるナイフを手にしたカミュはとびかかり、まずは斧を握る利き腕に突き刺そうとする。

不思議な鍛冶セットである程度強度を高めている聖なるナイフなら、ピンポイントに攻撃すれば痛撃となる。

そして、自身の跳躍であれば、少なくとも腕には届く。

2本のナイフを逆手に持ち、カミュは腕にナイフを突き立てる。

ガアンという金属がぶつかり合う音が聞こえた瞬間、カミュはハッと目を開く。

バトルレックスの腕にはわずかにナイフでできた切り傷ができてはいた。

しかし、持っている2本の聖なるナイフの刀身が根元から砕けていた。

「マジかよ…!?」

「離れろ、カミュ!!」

エルバの声を聴き、我に返ったカミュだが、一歩遅かったようで、バトルレックスに左手で体をつかまれてしまう。

「ったく!どんくさいわね!!」

カミュを助けようと、ベロニカはメラを唱え、エルバもギラを唱える。

しかし、バトルレックスは炎と閃光を受けても通用していないのか、まったく見向きしておらず、むしろ自分に傷をつけた生きのいい食料であるカミュを見ていた。

「あたしのギラが効かない!?」

「なら…!」

エルバは大剣を抜き、バトルレックスに迫る。

ナイフとは違い、切り裂くことのできる大剣であれば、バトルレックスにダメージを与えることができるかもしれない。

「来るな、エルバ!!」

「何!?」

接近するエルバを見たバトルレックスが口から燃え盛る炎を吐こうとする。

しかし、その直前に足元から岩が隆起し、バランスを崩したバトルレックスが転倒する。

その隙にカミュは腕から脱し、エルバ達の元へ戻ってきた。

「ジバリア…?」

「ああ、ギリギリのところで発動できてよかったぜ…痛て…」

強い力で握られたことで、体に痛みを感じたカミュはその場で膝をつき、急いでセーニャはホイミで彼を回復させる。

だが、転倒させた程度でバトルレックスを倒せるはずがなく、起き上がったその魔物は転倒させたカミュに怒りを覚えたのか、斧を振り回す。

「これほど振り回されては、とても接近できない!」

「おまけに奴は炎を吐くことができる…せめて、どちらかを封じることができれば…!」

「炎と斧…なら!」

エルバは即座に印を切り、バトルレックスの頭に向けてデインを放つ。

手から放たれた電撃を受け、さすがは勇者のみが使える呪文というべきか、顔面に傷ができた。

左手で傷を抑え、バトルレックスは自分の顔を傷つけたエルバににらみつける。

それを確認すると、エルバは先ほど自分たちが通った道を使って逃走を始めた。

「こっちだ…」

「え、ええ!?」

「ちょっとアンタ、何をやってんのよ!?それでも勇者!?」

敵前逃亡という、勇者にあるまじき行動を突然とったエルバはセーニャもベロニカもあっけにとられた。

「だが、あいつ…追いかけてやがる!急がねえとエルバがやられるうえに外に出しちまうぞ!!」

「追いかけろ!バトルレックスを外に出すな…何!?」

立ち上がり、兵士たちに命令を出したオグイは恐ろしい物を目にする。

物音が聞こえ、何が起こったのかと振り返ったカミュ達もそれが現実のものとは思えず、騒然とした。

「嘘…だろ…??」

彼らの目に映っているのは、エルバによって真っ二つにされたはずのヘルバイパーで、両断されているにもかかわらず、意識を取り戻した上に、獲物たちをじっと見て、口を大きく開いていた。

 

「ハア、ハア、ハア…」

出口へとつながる上り坂をエルバは走り続け、背後から追いかけるバトルレックスは自分を傷つけた人間を焼き殺さんと炎を吐く。

「そうだ…それでいい!俺を追いかけて来い!」

エルバは追いかけてくるバトルレックスに見向きもせず、ただ前を向いて逃げ続ける。

耳に響く大きな足音で、彼が追いかけてくるのは分かり切っているためだ。

(あとは…あの呪文を使えさえすれば…)

走りながら、エルバはホムラの里でベロニカから教えてもらったとある呪文を思い出した。

 

「トベルーラ…?なんだ?その呪文は」

ホムラの里を発つ準備をする中、ベロニカから聞き覚えのない呪文の名前を聞かされたエルバが彼女に尋ねる。

言ったところのある場所をイメージし、そこまで超高速で飛行する瞬間移動呪文、ルーラの存在自体はおとぎ話にも出てくることから、子供でも名前は知っている呪文だ。

しかし、今では既に失われた呪文であり、使える人物は世界のどこにもいない。

なんでも、長距離になればなるほど、そして重量が重ければ重いほど、使用する人物のMP消費が増えてしまう上、移動途中にMP切れになってしまった場合、そのまま落下する危険性もあるとのことだ。

そんなルーラとかかわりのあるトベルーラにエルバは若干ながら、興味を示していた。

「飛翔呪文よ。魔力を使って空中を移動できるってワケ。こんな感じに!」

急にベロニカがフワリと目の前で浮遊をはじめ、自分の眼の高さまで飛んで見せる。

「今は屋内だからこの程度にしてるけど、本当はもっと高く飛べるわ。まぁ、かなり覚えるのが難しくて、セーニャもまだ使えないけど」

「難しい…?とてもそうには見えないが…」

「見た目ではね。魔力の消費は比較的少ないけれど、うまく制御しないと、飛ぶスピードや高度をコントロールできないうえに墜落してしまう可能性もあるの。これが使えれば、空中戦も思うがままよ!」

それを証明するかのように、速度に緩急をつけながら、エルバの周囲を何回も旋回するように飛び、彼の目の前で見ごとに着地する。

こうしてみていると、確かに覚えておくといろいろ便利なのはわかる。

しかし、一つ気になることがある。

「その呪文、どうしてこのタイミングで…?」

「言ったでしょう。難しい呪文なの。里でもこの呪文が使える人はめったにいないの。だけど、勇者のあんたなら、きっと使える。そう思っただけよ」

 

里を出てから、エルバはキャンプか休憩中の時にベロニカからトベルーラの修行を受けるようになった。

しかし、やはりベロニカが難しいというだけあって、全く飛ぶことができない。

というよりも、魔力によって空を飛ぶイメージを中々つかむことができずにいた。

呪文で重要なのは、MPで生み出す現象をイメージすることという基本中の基本、第一段階の敷居が高いのがトベルーラが難度の高い呪文と呼ばれる理由の一つだ。

「だが…今はその呪文が必要だ…」

考えている間に、もうすぐヘルバイパーに襲われた場所に到着しようとしている。

バトルレックスは荷物になる斧を捨てて追いかけており、だんだん差が縮まってきている。

(やるしかない…!やらなければ…!)

エルバは服の中にあるエマのお守りを握りしめる。

とうとう追いついてきたバトルレックスが捕まえようと右手を伸ばしてくる。

眼を閉じたエルバは力強く右足を前に踏み出し、飛び上がった。

エルバを捉え、あとは伸ばした右手を握りしめれば捕まえられると確信したバトルレックスはスルリと手の中から彼が消えてしまったことに動揺する。

上を向くとそこにはヘルバイパーが作った穴があり、エルバはその穴の中に飛び込んでいた。

ヘルバイパーが人間を丸呑みできるほどの幅の体を持っていたことが幸いした。

しかし、バトルレックスもはいそうですかと獲物を見逃すほどやさしい存在ではない。

天井に向けて力強く咆哮し、ヘルバイパーが通ったことでもろくなった個所から天井が崩れていく。

そのまま落ちてきた獲物をつかみ、喰らい尽くすことを考えただろうが、それは計算違いだった。

「もらった…!」

崩れた天井と共に振ってきたエルバは剥ぎ取り用ナイフを手にしており、バトルレックスの頭にとりつくと、左目にそれを突き刺した。

左目から出た血がエルバを濡らし、叫び声をあげたバトルレックスがあおむけに倒れる。

そして、刺したナイフはそのままに、背中に戻していた大剣を抜き、それを頭部に思いっきり突き刺した。

四分の一回転させ、大剣を引き抜くと、先ほどまであれほど動き回っていたバトルレックスは生命活動を停止させていた。

「やった…はあ、はあ…うん?」

大剣の血を振って落としていると、バトルレックスの額に赤い魔法陣が現れていることにエルバは気づいた。

それは戦っている間、見たことがないものだ。

しかし、その魔法陣はまるで最初からなかったかのように消滅した。

「今のは…一体…?」

涙ではなく、蛇を流している片目を中心とした円。

気になったエルバだが、今はそれを考えている場合ではなかった。

「カミュ達は…?」

死体から剥ぎ取りナイフを引き抜き、討伐の証拠としてバトルレックスの牙を取ると、カミュ達と合流するために再び奥へと戻っていった。

 

「カミュ、セーニャ、ベロニカ!これは…??」

戻ってきたエルバが見たのは、燃やされているヘルバイパーの死体と、ボロボロになり、疲れ果てているカミュ達の姿だった。

死体を燃やしているのはベロニカで、彼女もだいぶ疲れているのか、途中でフラつくことがあったが、持ちこたえていた。

「よぉ…エルバ、その牙は…?」

「バトルレックスの牙だ。奴を倒した」

「へえ…さすがだな…」

ヘッと力なく笑いカミュはあおむけになって倒れ、天井を見る。

兵士たちに死者は出なかったものの、彼らもだいぶ消耗しており、セーニャがMPを使い果たしているためか、全員が薬草を使って回復を行っていた。

「一体、何が…?」

「ハア、ハア…君をバトルレックスが追いかけて行ったあと、突然、倒したはずのヘルバイパーたちが動き出したんだ…。体を真っ二つにしたり、頭をつぶしたはずなのに、ゾンビのように動いていた…」

「それだけじゃない…。あいつら、バギまで使っていた。バギだぞ?ヘルバイパーがそんな呪文を使えるなんて、聞いたこともない!!…だが、おそらく、それで自分たちが通れる道を作っていたかもな…」

その話を聞き、エルバはようやくヘルバイパーが自分たちが通れるトンネルを鉱山の中で作れた理由がわかった。

しかし、鉱山でトンネルを作れるくらいの威力とコントロールのバギを放つにはかなりの魔力が必要だ。

エルバの脳裏にバトルレックスに刻まれていた魔法陣が浮かぶ。

それがないか、ヘルバイパーの死体を確認したかったが、今となってはどうしようもなかった。

 

「終わった…か…」

エルバ達の姿が映る透明なオーブを、鉱山の入り口から赤黒いローブの男がじっと見ていた。

彼は右手をかざしてオーブを消すと、ニッと笑ってからその場を後にした。




サウスサマディー鉱山
サマディー国領南部に位置する、国内最大の鉱山。
良質な鉄鉱石とアクセサリー用の宝石の原料をそこで手に入れることができ、ホムラの里から輸入する鉱石や武具を含めて、サマディーの国防と経済を支えている。
そのため、その鉱山に住み着いたバトルレックスの存在は特に国防に打撃を与えかねない存在だったと言える。
しかし、鉱山で確認したヘルバイパーやバトルレックスがサマディー国領にこれまで出没した例がなく、専門家を中心に原因と経緯を調査することが決定している。
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