ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

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第24話 霊水の洞窟

「すごくきれいですわ…。これなら、きれいに洗濯ができます」

「うわ…汗臭。カミュの奴、どれだけこの服洗ってなかったのよ!?」

透き通った冷たい水が流れる沢で、セーニャとベロニカは洗濯を始めていた。

ダーハルーネを離れてから東へ徒歩で進み、霊水の洞窟に入ったエルバ達は夜中の移動の危険性から、その中で見つけた広場で休むことになった。

かつての神酒に使われたというだけあって、かなり透き通った水で、セーニャも一瞬、その沢の水でさえずりの蜜を作れるのではと思った。

しかし、さえずりの蜜を作るにはそれ以上に透き通った水でないといけないので、結局最深部の水がわいている地点まで向かうことになった。

ベロニカはそんな由緒正しき水でカミュのような清潔感に疎い男の服を選択するのに罪深さを抱いた。

「ここの水はともかく…ヨルモレアの蜜はダーハルーネで手に入ってよかったわね」

「はい。ヨルモレアはラムダの里の周辺でしか取れませんから…」

ヨルモレアは涼しい山地で春に採ることができる花で、のどに良く効く薬として重宝されている。

温暖な気候の地域でも、ヨルモレアは繁殖できるが、その場合は花がない状態で、花になる条件は今でもわからないようだ。

そして、その花の蜜は解呪の力が宿っており、容易に収穫できるラムダの里以外の地域では高値で取引されている。

自分たちの故郷ではたくさん採れるその花の値段を知ったときは2人とも驚いた。

「さあてっと…洗濯も済んだし、早くシチューが食べたいわー…」

「シチュー?どうしてですか…?」

「だって、今日の料理当番はエルバよ。あいつが作る料理としたら、シチューくらいよ」

「お姉さま…エルバ様だって、シチュー以外にも料理は作れますわ…多分、ですけど…」

エルバ達一行のキャンプでの食事は当番制となっており、エルバとセーニャ、ベロニカで交代でご飯を作る。

カミュとシルビアは料理の腕が初心者のため、たまにナイフで食材を斬るくらいの手伝いしてかできない。

セーニャが強く反論できなかったのはエルバが作る料理がシチュー以外思いつかなかったからだ。

確かに、サマディー砂漠で獲れたばかりのキメラの肉と骨を使ったシチューはとてもおいしかった。

だが、3度に一度のレベルで、おまけに朝ごはんは大抵の場合晩ご飯の残りを食べることが習慣付きつつあるため、何度もシチューが数日に1度のペースで出ると飽きてしまう。

シチューはエルバの大好物で、イシの村の思い出が詰まっていることから、強くは言えないものの、当番をする以上、エルバはもっと多くの種類の料理を作れるようになった方が良い。

「はぁ…その話はエルバにとって触れられたくないものだから、やるからには何かきっかけがないと…」

イシの村で起こった事件については、カミュからエルバに聞かれないところで教えてもらっている。

エルバが自らの手で村人の亡骸を火葬し、葬ったときの心情がいかほどのものだっただろうか。

同じ経験をしていないセーニャ達にはその痛みについて知ろうとすることができても、完全に理解することはできない。

勇者の導き手としての役目を受けたにもかかわらず、そういうところで彼を助けることができないことへの無力感を感じながら、2人は洗濯し終えた衣服と下着をもってキャンプに戻った。

 

「カミュちゃん、周辺の様子はどうだったかしら?」

「問題ねえ。夜行性の魔物は少しいるが、基本的に寝てるやつらばかりだったぜ」

キャンプの周辺の索敵を終えたカミュはシルビアからもらったエルバのシチューを食べ始める。

紫色の体で、女性型の蝙蝠人間ともいえる魔物の暗闇ハーピーがその夜行性の魔物の一種で、見つけたときはかなりゲンナリしたのを覚えている。

真夜中に目覚める彼女たちは蝙蝠と同じく、超音波を使って獲物の居場所を特定して仲間に知らせる。

普通の蝙蝠の主食は虫だが、彼女たちの場合は洞窟内ではポイズントードを、洞窟を出てダーハラ湿原に遠征する際にはダックスビルを主食にする。

これは本当にあった話かどうかは分からないが、とある旅人が真夜中に暗闇ハーピーに見とれてしまい、そのまま彼女たちに捕まり、食料にされたという噂がある。

カミュはその話を嘘だと思っていたが、実際に暗闇ハーピーを見てみると、体つきはナイスバディと言えるものであり、その噂が真実かもしれないなと思うようになっていた。

彼女たちはポイズントードに夢中だったようで、見つからないように忍び足でキャンプまで戻ってきた。

「そう、ありがと。明日はどうやって進めばいいかしら?」

先に食べ終えたシルビアは同じく食べ終えているエルバと共に地図を広げる。

これはダーハルーネを出る際にヤヒムが持たせてくれた霊水の洞窟の地図で、彼がこっそりラハディオの書斎からその写しを持ち出して来てくれた。

この地図の内容が正しければ、ここから沢沿いに東へ向かい、途中で大岩が落ちているところから西へ崖沿いに大きく迂回することで向かうことができる。

馬小屋がラハディオの命令で一時凍結されてしまっていて、フランベルグ達を連れていけなかったが、この洞窟は段差や岩が多く、馬が走りづらい場所であるため、置いてきて正解だったかもしれない。

「さあ、食べ終わったら少し体を動かしましょ」

「ああ。今後は負けねえぞ、おっさん」

そろそろシルビアに模擬戦で勝ちたいと思っていたカミュは不敵な笑みを浮かべると、一気にシチューを口の中に放り込んでいった。

しばらくカミュの相手をするだろうと考え、エルバは2人の食器をしまう。

「あー、エルバ。ちょっといい?」

「どうした?」

「えーっと、エルバって、他にどんな料理を作れるの?」

イシの村のことを触れず、無理やりシチューを禁止しないようなニュアンスになるように注意しながらベロニカは言葉を選ぶ。

そのため、エルバは特に嫌な表情は見せずに考え始める。

「手伝いくらいでしか料理を作っていないからな…シチュー以外は少しだけだ」

「例えば…?」

少しでもいいから別の料理が出る可能性が出てきたことで、ベロニカは身を乗り出して答えを聞こうとする。

「思いつく限りだと…ブイヤベースだな」

「ブイヤベース?」

「たまに魚や貝が食べられる日に作る料理だ。香辛料と野菜で煮込んで、うまい料理だぞ」

元々は料理が見た目が悪い、処理に手間がかかるなどの理由で商品価値が出ない魚を大鍋に塩と一緒に煮込むだけの料理だった。

しかし、それに野菜や香辛料を入れるなどの工夫が施された結果、海鮮寄せ鍋のような料理となった。

だが、シチューは元々野菜や肉、魚介類を出汁やソースで煮込んだ煮込み料理の総称であるため、結局ブイヤベースもシチューだ。

「そ、そう…じゃあ、他には…」

「あとは…牛乳がない時はボルシ…」

「…もう、いいわ。ありがとう」

「ん…?」

結局、シチューしか作れないことが分かったベロニカは会話を終え、残りのシチューを食べる。

こうなったら、エルバの当番の回数を減らし、自分とセーニャの当番を増やしてどうにかしようと決意していた。

 

翌朝、休息を終えたエルバ達は地図に従い、崖沿いを迂回していく。

書いてあった通り、一番の近道となる道は大岩でふさがっていた。

「それにしても、魔物がいなくて安心しますわ…ふああ…」

「セーニャ!寝るんじゃないわよ!っていうか、まだ寝足りないの!?」

5人の中では真っ先に寝ることが多く、一番遅くに起きるセーニャが緊張感が抜けてあくびをする。

これまで町以外では魔物と遭遇することが多かったうえに、この洞窟でキャンプをする時まではダックスビルやポイズントード、しびれクラゲ、スライムつむりなどの魔物と遭遇した。

しかし、昨日までの魔物たちがいたのが嘘だったかのように、今日起きてからここまで魔物と遭遇したことがない。

「うーん、嫌ーな静けさね。まるで嵐の前って感じ」

「同感だぜ、おっさん。それに…臭い感じがするぜ」

自分に手に負えないような強力な魔物と遭遇するときの多くが、そういう魔物がいないように見える時だ。

魔物も多くが生き物である以上は食物連鎖の法則の中にある。

それによって魔物の中でも生体ピラミッドが出来上がり、強力な魔物であればあるほど個体数が少なくなる。

また、今カミュの嗅覚に伝わっているその匂いは間違いなく、生き物の血だ。

「気を付けろよ、エルバ。みんな。どうやら俺たち、ついてないことに遭遇しちまうみたいだ」

歩を進めていくにつれて、だんだん耳元にゴリゴリと薄気味悪い咀嚼が響く。

「近いわね。セーニャ、今のうちにアタシ達に…」

「はい」

念には念をと、セーニャはエルバ達にスカラを唱える。

これで、万が一攻撃を受けることになったとしても、ある程度ダメージを軽減できる。

回り込む道に入り、少し進むと、そこにはいくつものサンゴや藤壺でできた巨体が道をふさぐように座り込んでいた。

「シーゴーレム、サンゴでできたゴーレムよ。でも…」

聞こえる咀嚼音の正体はシーゴーレムのもので、彼のそばにはさまざまな種類の魔物のの骨でいっぱいになっており、おまけに血だまりもできている。

おかしいのはなぜ、シーゴーレムが魔物を捕食しているかだ。

シーゴーレムの主食はサンゴと同じく共生藻からもらう栄養素であり、海にある程度の時間潜ることで得ることができる。

そのため、魔物を捕食する必要がない。

しかし、ここにいるシーゴーレムは通常の倍以上の体の大きさをしているうえに間違いなく魔物を捕食していて、通常の魔物の生態系からかけ離れている。

(エルバちゃんたちの言っていた邪悪の神ちゃんの話…本当なのは確かね。こんな不気味な魔物が現れるとなったら…)

ゴゴ、とサンゴの体が動き出す音が聞こえ、シーゴーレムがエルバ達に振り返る。

口にはべっとりと魔物の血がついていて、無機質な魔物のはずのシーゴーレムが極上の食料を見つけた嬉しさからか、ニヤリと笑っていた。

「構えろ!!」

カミュが叫ぶと同時に、シーゴーレムが立ちあがり、エルバ達に向けて激しく咆哮する。

あまりの激しさにビリビリと身の毛がよだつ感じがし、地面の小石が飛んでいく。

(なんだ…シーゴーレムはああいうモンスターなのか…??)

シーゴーレムとこれまで遭遇したことがないエルバは両手剣を抜き、そのサンゴの怪物をにらむ。

すると、そのモンスターが口から鉄砲水を発射する。

「ぐ…!!」

なんとか剣を盾替わりにして水を受け止めるものの、鉄砲水の勢いに押され、大きく吹き飛ばされてしまう。

剣を地面に突き刺し、両手に力を込めたことで耐えることに成功したものの、このまま吹き飛ばされ続けていたら崖から真っ逆さまになっていた。

「こいつ!!」

「まずはあの硬い体をどうにかしないと!!」

カミュが爆弾を投げつけ、ベロニカはトベルーラで飛行しながらイオを唱え、2つの爆発がシーゴーレムを襲う。

だが、シーゴーレムはそんな爆発を気にする様子はなく、しかも直撃したにもかかわらず無傷だった。

「まずいわね…」

セーニャのそばで鞭を構えるシルビアはどのようにしてあのシーゴーレムを倒すべきか思案する。

異常なまでに大きく、しかも先ほどの鉄砲水の威力も高すぎる。

セオリーとしてはバギなどの風属性の攻撃を仕掛けるべきだが、今その技が使えるのはセーニャのみ。

しかも、覚えている呪文はバギのみなため、それが通用するかどうかは分からない。

「シルビア、セーニャ!!」

だが、考えている間にもシーゴーレムは2人に、そして体勢を立て直したエルバにせまってくる。

(この呪文はまだ覚えたてだけど…そんなこと言ってる場合じゃないわ!)

なんとか3人が退避するために、ベロニカはある呪文を使うことを決意する。

その呪文は昨晩に契約を果たして使えるようになったばかり。

ぶっつけ本番になってしまったが、ここはラムダの里の天才魔法使いを自称する自分のセンスを信じるだけだ。

「ボミオス!!」

ベロニカの手から紫色の波紋が発生し、それがシーゴーレムを襲う。

波紋を受けたことで、だんだんとシーゴーレムの動きが鈍くなり、進む邪魔になるシルビアとセーニャに向けて振り下ろそうとしていた拳の速度も半減する。

2人はその間にシーゴーレムから距離を取り、シーゴーレムの拳は何もない地面を叩きつける。

だが、速度が落ちたとはいえ威力は健在で、地面に大きなひびが入った。

「そうよ…このままノロマになってしまいなさい!!」

スカラやルカニとは違い、ボミオスは継続して魔力を放たなければならず、仮にその魔力が切れたら、せっかくかけたボミオスが解除されてしまう。

優れた賢者であれば、その間に別の呪文を使うことができるのだが、まだベロニカはその段階には達していない。

だが、それでもできることはある。

「セーニャ!!」

ベロニカは杖をセーニャの背後の離れた場所に向けて投げつける。

杖が地面に刺さり、宝石が赤い光を発すると、そこを中心に魔法陣が構築される。

「これは…!!」

「セーニャ!そこで魔力を増幅させて!!」

「はい!!」

セーニャは魔法陣の中に入り、そこで目を閉じるとスティックに精神を集中させていく。

魔法陣が赤い光を放ち、セーニャの体を赤い光に膜で覆っていく。

光からベロニカの魔力を感じ、セーニャは頭の中に竜巻を思い浮かべる。

イメージが固まると、眼を一気に開く。

「バギ!!」

魔法陣の力で増幅された魔力が竜巻の勢いを強めていき、動きの鈍いシーゴーレムを襲う。

風属性が弱点なうえに威力が高まったバギが固いサンゴの体を砕き、その破片を吹き飛ばしていく。

だが、いくら体を吹き飛ばしたとしても、こうしたモンスターはコアを破壊しない限りは動き続ける。

実際、胸部にある紫色のコアは無傷で、右腕と左足の先を破壊されても動いている。

しかも、よく見るとサンゴがスライムのように増殖を始めていて、体を元通りに戻そうとしている。

「くそ!再生能力だぁ!?」

確かに、シーゴーレムのような物質系は自分の体と同じものを捕食することで再生する能力がある。

しかし、今のシーゴーレムはサンゴなしで再生しており、物質系の範疇を越えている。

再生しながら、シーゴーレムが魔法陣の中のセーニャに注意を向ける。

セーニャも再びバギを放つために集中し始めていた。

だが、シーゴーレムはそれによって注意を向けなければならない相手を見落としていた。

「はあああ!!」

背後から男の声と迫ってくる足音が聞こえ、シーゴーレムは振り返る。

そこには両手剣を握るエルバの姿があり、大きく跳躍したエルバはそのまま重力に従って落下しながらシーゴーレムの体を切り裂いていく。

刃はコアにも届いており、コアが真っ二つに切れたことでシーゴーレムは動きを止める。

バラバラと体が崩れていき、再生しかけていたサンゴもピンク色のスライム状の物体のままになった。

すかさずエルバは破壊したコアとシーゴーレムの額だったところに目を向ける。

(やはりそうか…)

そこには、バトルレックスやデスコピオンと同じく、例の魔法陣が刻まれていた。

「エルバ…おいしいとこを横取りはない…どうした?」

カミュはエルバの見ているものが気になり、そばでその場所を見るが、もうすでに底にあった魔法陣は嘘だったかのように消えてしまっていた。

「鉱山の時の事、覚えているか?」

「ああ。ヘルバイパーとバトルレックスのことだろ。バトルレックスは滅茶苦茶だったが、それ以上にヘルバイパーはよくわからない魔物だったな」

「…この魔物にも、額に魔法陣がついていた。今はもう消えてしまっているがな」

「魔法陣が…?まぁ、お前が嘘をつくはずがないが…だが、”も”っていうのはどういうことだ?」

「バトルレックス…それから、サマディーで目を覚ましたデスコピオン。奴らの額にも同じ魔法陣がついていた。おそらく、ヘルバイパーにも…」

「ちょっと、待ちなさいよ。それ…どういう形のもの??」

話を聞いたベロニカは急いでペンと紙を出し、エルバに渡す。

わずかな時間しか見ることができず、形はうろ覚えであるものの、赤い魔法陣だったこと、そしてその中央には柄の部分に目玉がついた金棒のような重々しい剣が描かれていることははっきりと覚えている。

その魔法陣を書き上げ、ベロニカに渡す。

こういう魔法についてはラムダの里の出身であるベロニカとセーニャの方がわかるかもしれないと思った。

「うう…悪趣味な魔法陣ね。誰がこんなのを書いたのかしら?けど…」

「ええ。見たことありませんわ。この魔法陣は…」

ベロニカもセーニャも、この魔法陣の正体についてはお手上げだった。

ラムダの里ではいくつも魔法陣の勉強をしており、旅の合間にも呪文の強化のために魔法陣に関する資料を呼んだりしているが、その中にもそのような魔法陣が出た覚えはない。

「うーん、こういう魔法陣はもしかしたらクレイモランに行けばわかるんじゃないかしら?」

「クレイモラン…。確かに、そこの古代図書館で調べたらわかるわね」

「クレイモラン?国の名前か?」

「はい。ロトゼタシアの北西の端に存在する雪の国です。世界中の研究者や思想家が集まる学問の国で、先ほどお姉さまがおっしゃった古代図書館には歴史や呪文、鍛冶などのあらゆる分野の書物が入っていると聞いています」

その話が正しければ、もしかしたらその魔法陣に関する情報を手に入れることができるかもしれない。

だが、そこへ行くこと以上に今は虹色の枝の行方をつかむことが肝心だ。

クレイモランという国の名前を頭にとどめ、エルバは先へ続く道に目を向ける。

「もうすぐ最深部だ。行くぞ」

エルバ達はその道を進んでいく。

途中、カミュが一瞬くらい顔をしているようだったが、エルバ達は気づかなかった。

 

最深部に到着すると、そこには沢に流れていたものとは段違いに透き通った水が湧き出ていた。

「すごい…霊水の洞窟って呼ばれるだけのことはあるわね」

「これを使えば、良質なさえずりの蜜を作ることができます!」

セーニャはきれいな小瓶を出し、その中に湧き水を入れる。

そして、ダーハルーネで購入したヨルモレアの蜜を花弁と一緒に入れた。

「あとは3時間待つだけでさえずりの蜜が出来上がりますわ」

「結構シンプルな作り方なんだな」

呪いを解くことのできる効果があるだけに、キャンプで作業をしなければならないくらいのめんどくさい手順が必要かとばかり思っていたカミュは拍子抜けする。

3時間待つのは大変だが、それでもあれこれやらなければならなくなるよりはマシだ。

「それにしても、ちょっとのどが渇いたわね。一口もらおうかしら」

ベロニカは袋からコップを出し、それで湧き水をすくって飲み始める。

なお、湧き水は消毒がされていないため、飲む際にはちゃんと飲めるかどうかを確認することが推奨される。

ここの湧き水については飲むことができるらしい。

「ヒンヤリしていておいしい!!なんだか体の中がキレイになったみたい!これで、あたしの体が元に戻ってくれたら御の字なんだけど…」

あの時は魔力そのものは元通りになったことから、若返ることができたと前向きに受け止めることができたものの、やはり小さい体だといろいろと不便なことがある。

ホムラの里で酒場に入れなくなり、馬に乗るときも踏み台がなければ一人で乗ることもできない。

それに体力も年齢相応に落ちているようで、この洞窟を歩いているときも4人よりも先につかれてしまった。

そのため、できれば一時的でもいいから元に戻りたいと思うようになった。

だが、やはりさえずりの蜜を作ることができるくらいの湧き水でも元には戻れないようだ。

「けど、これであの子の喉や手の呪いはどうにかなりそうね。ダーハルーネへ戻りましょう」

 

「なるほど…やはり、あのお方から授けられた魔法陣は効果があるようだが…並みの魔物では大したことにはならないか…」

シーゴーレムだったサンゴの破片をローブの男が広い、笑みを浮かべるとそれを崖に向かって投げ捨てる。

「…ドルマ」

賢者にのみ使うことができる黒滅呪文、ドルマによって生まれた黒い闇の球体が残ったサンゴの破片を飲み込み、粉々に破壊していく。

シーゴーレムに関する証拠が消えたのを確かめた後で、彼はダーハルーネの方角に目を向ける。

「さあ…悪魔の子よ。追い詰めてやるぞ…」

ローブの裏に隠れた紫色の瞳が怪しく光り、ローブの男は姿を消した。




霊水の洞窟
ダーハラ湿原東部に位置する湧き水の有る洞窟。
そこの湧き水は良質なさえずりの蜜を作れるほど澄んでおり、海の男コンテストで使用する神酒の原料として選ばれるほどだ。
だが、それ故に魔物にとっては格好の生息地にもなっており、現在は護衛の兵士を同行させなければ最深部へ向かうのが難しいほどだ。
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