ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

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第25話 海の男コンテスト

夕方になり、霊水の洞窟を出たエルバ達はようやくダーハルーネに戻ってくる。

しかし、わずか2日程度で様変わりしていて、数多くの屋台が設置されているうえに人混みもできていた。

「まぁ…ちょっと見ない間に街はすっかりコンテストの雰囲気ですわね!エルバ様、ほらご覧ください!」

「あ、ああ…」

北にある広場には観客が数多く集まっていて、ステージには海の男コンテストに参加する男たちが立っている。

筋肉質な荒くれ物やほっそりとしているが整った容姿をしている吟遊詩人など、一口に男と言っても魅力となる点は千差万別だ。

しかも、夕日が見える中でコンテストが行われるためか、シルビアの乙女心がくすぐられる。

「やーん、ロマンチックじゃない♪もうすぐ、このステージの男の中から一番の海の男が決まるのね♡ねえ、エルバちゃんとカミュちゃん。ヤヒムちゃんの顔を見てみたいし、さえずりの蜜はアタシたち女3人で届けてくるわね」

シルビアはヤヒムとラッドについてはカミュから話を聞いているだけで、顔を合わせたことがない。

また、今の時間帯のヤヒムはおそらくラハディオと一緒にいる可能性があり、ラハディオと会っているエルバとカミュが行ったら、叩き返される可能性もある。

もちろん、そのことについてはまだシルビアには話していないが。

「ああ…そうしてくれ」

「ええ♡その代わり、アナタとカミュちゃんにはコンテストの場所どりをお願いするわね♡もちろん、いい男がよく見える場所を!」

「はぁ、面倒くさい仕事は全部男任せかよ…」

最初にダーハルーネに来たときといい今回といい、結局ラハディオへの交渉もコンテストの場所どりもやらされる羽目になったカミュは後頭部をかく。

ラハディオに会うのはともかく、コンテストの場所どりは明らかに旅の目的と反していて、気乗りしない。

そんなカミュのことを放っておくかのように、シルビアら女3人組はヤヒムを探しに行ってしまった。

「ま、今ラハディオのおっさんに会うわけにもいかねーし、船に乗ることもできねーしな…まぁいいや。行こうぜ、エルバ」

「ああ…」

2人は中央の橋を通って広場へと足を運ぶ。

途中、筋肉質で裸の上半身にサスペンダー姿をした、舌をベロリと伸ばしている奇妙なレスラーや辮髪で緑色の武闘着姿をした男が屋台に出ている海鮮丼や採れたて魚の塩焼きで満喫していたり、輸入したばかりの紅茶や菓子に舌鼓を打つマダムらと遭遇しつつ、2人は観客席に到着する。

しかし、既に観客が大勢集まっており、整理券と引き換えに客席まで商人が案内していた。

「うわあ…これは、席を取るの無理そうだな。最悪立ったままか」

「うん…?おんやぁ、そちらのお2人さん!二人とも、サラサラとツンツンで髪形が決まってて、男前だなぁー!」

案内に一段落がついた商人がエルバとカミュの元に駆け寄り、2人の髪形を誉め始める。

「あ、ああ…」

「そんな男前2人組が見学なんてとんでもない!ぜひ、海の男コンテストに参加してくれぇ!」

「おいおい、オッサン。俺たちにはそんな暇が…」

追われる身であるエルバとカミュがこんな大会に参加していたら、すぐにデルカダールに情報が入って、逃げづらくなってしまう。

おまけに優勝して話題になってしまったらシャレにならない。

拒否しようとしたカミュだが、ふとステージからの冷たい目線が気になり、そちらに目を向ける。

「おい、エルバ…あの男…」

「…ホメロス…」

エルバはじっと銀の鎧姿の男に目を向ける。

忘れもしない、デルカダールの軍師を名乗る男で、グレイグと同じく村人の仇。

ホメロスはカチャリと金属が鳴る音を響かせながら近づき、潮風に揺れる前髪を整える。

「ふっ…逃亡者は人混みに紛れるもの。このコンテストを利用して貴様らをあぶりだそうと画策していたが、その必要はなかったみたいだな。人目を気にせず、堂々とコンテストに参加するとはな!」

あまりにも知能の低い逃亡者2人に皮肉な笑みを浮かべ、彼の目線はエルバへと向かう。

「勇者エルバ…村人たちの元へ送ってやろう」

「貴様が…イシの村を…!」

既に両手剣を抜いたエルバの両手に伝わる力が強くなっており、紫の瞳には暗い怒りが宿っていた。

「ふっ…勇者を匿った罪人だ。裁くのは当然のことだ」

ニヤリと笑うホメロスは何かを思い出したかのようにわずかに目が動くと、再びエルバに語り掛ける。

「そういえば、罪人の中には貴様と同じ年頃の少女もいたな。かわいそうなことをしたが、罪人故に仕方なかった…」

「…!!」

名前は言っていないが、エルバにはホメロスの言う少女のことは分かっており、彼の眼が大きく開く。

だが、ホメロスはフフフと押し殺すように笑いながらエルバに追い討ちをかける。

「そういえば、彼女は最後までお前のことを信じていたな。勇者は…エルバは悪魔の子ではない。世界に希望を与える存在だと!気丈だったよ、順番が来るまでは…」

「あ…ああ…」

「エルバ!あいつに耳を貸すな!!」

カミュは短剣を抜き、ホメロスにとびかかろうとするが、彼に同行しているデルカダール兵たちによって阻まれる。

「順番が来て、処刑が始まったとき、彼女は最期に何を言っていたと思う…?」

「…言うな…」

「『待っていてあげられなくてごめん』…誰に対してそういうことを言ったのか気になって、ついつい覚えてしまった…」

「言うなぁぁぁ!!」

ホメロスへの怒りが爆発するとともに、エルバの体が青いオーラに包まれる。

そして、両手剣を握ったままホメロスにせまった。

「ホメロス様の元へ行かせん!!」

大柄な兵士が両手で斧を握り、エルバの行く手を阻む。

「邪魔を…するなぁ!!」

そう叫ぶとともに斧の柄ごとその男を横一線で両断する。

真っ二つになった兵士の死体を見て、会場がパニックとなるのを無視してエルバはホメロスに肉薄する。

既に2本のプラチナソードを抜いていたホメロスは2本でエルバの剣を受け止める。

「ふっ…その剣、我が友グレイグの物か。同僚でありながら情けないな。悪魔の子に剣を奪われるとはな」

「貴様は…俺が殺す!!」

「やれるかな…?その程度の腕で!」

エルバの腹に蹴りを入れ、体勢を崩したすきにホメロスは後ろへジャンプして距離を取る。

そして、エルバに向けて右手をかざすと、ドルマが放たれる。

「ぐおおお!!」

直撃したエルバは大きく吹き飛ばされ、会場で転倒する。

しかし、いくつも戦いを経験していて、武器を手放すことの重大さを理解しているようで、両手剣は手元に残ったままだった。

「エルバ!くそ、悪く思うなよ!」

エルバのカバーに入るため、鎧の隙間を狙って短剣を突き立てる。

足に刃が深く刺さり、痛みに苦しむすきにエルバの元へ向かう。

だが、その間にも会場を中心に散らばっていたと思われる兵士が続々と会場に集まってきていて、エルバとカミュを包囲した。

「聞きたまえ、ダーハルーネの民よ!私はデルカダール王の右腕にして、軍師ホメロス!」

町中に聞こえるように、ホメロスは大声で叫び、町中の人々が驚きながらもホメロスに注目する。

「そして…あの男が悪魔の子、エルバ!ユグノア王国を滅ぼした、災いを呼ぶ男だ!!そして、不幸にも私の部下の1人が今、その男の手にかかって死んだ…。これ以上、災いを広げてはならない。ここを悪魔の子の墓場とするのだ!」

「ホメ…ロス…!」

両手剣で体を支え、起き上がろうとするエルバだが、なぜか体から力が抜ける感じがし、立ち上がることはできたものの、剣を構えることができない。

「ふふふ…減力呪文、ヘナトスの魔力を組み込んだドルマはよく効くだろう?」

「く…エルバ!!」

力が抜けているエルバに肩を貸し、立ち上がらせたカミュだが、ここからどうやって突破すべきか考えあぐねていた。

今のエルバを抱えたまま十数人の兵士を1人で相手をするのは困難だ。

「大人しく降伏したまえ、もしくは…そうだな。今お前が抱えている悪魔の子を差し出すのであれば、レッドオーブを盗んだ件については不問、もしくは減刑してもらえるように陛下に掛け合ってもいいぞ?」

「ちっ…司法取引って奴か」

「少なくとも、死刑は回避できるのだ。悪くない取引だろう?死刑囚よ」

確かに、今のカミュにはこの状況を突破できるとは思えないし、エルバを差し出せば、少なくとも死ぬことはない。

悪くない取引なのは確かだが…。

「悪いが、盗賊が利にばかりこだわると思ったら大間違いだぜ、軍師さんよ」

「ほぅ…?」

「俺はこいつの…勇者の奇跡に掛けた!今更降りることなんてできねえんだよ!」

「そうか…ならば、悪魔の子共々死ぬが…」

「待ちなさぁーーーい!!」

中央の橋から少女の大声が聞こえ、ホメロスと兵士たちはその方向に思わず振り向く。

そこには両拳を腰にあて、胸を張っているシルビアとベロニカの姿があった。

「アタシのエルバちゃんにおイタする子はお仕置きよ!」

「お仕置きよ!」

「奴らは…警備の者は何をしていた!?」

「後ろで寝てるわよ!」

シルビアとベロニカの背後には倒れた兵士数人の姿があった。

2人の危機を知ったシルビア達はデルカダール兵を撃破してここまで来ていた。

ベロニカは両手に力を籠め、大きな火炎の玉を生み出す。

「ほらほら、さっさとどかないと火傷するわよ!!メラミ!!」

発射されたメラミは会場に向かって飛んでいき、間髪入れずにベロニカは再びメラミを唱え始める。

次々と飛んでくる炎の玉は会場周辺に次々と着弾し、爆発する。

あまりの弾幕に兵士たちが動揺を見せる中、ホメロスは自身にせまる炎の玉をプラチナソードで斬る。

「奴らを取り押さえろ!」

ホメロスが兵士に指示を出し、エルバとカミュへの注意が弱まる。

その時、カミュは西側の階段の影に目を向けた。

そこには手招きをするセーニャの姿があった。

「ええい、こうなれば私の手で!」

「今だ!!」

ホメロスがこちらを向いた瞬間、カミュは懐から煙玉を出し、思いっきり足元に投げつける。

煙が会場を包み込んでいき、ホメロスは煙で視界を封じられる。

「そのようなものを持っていたとは…!!」

プラチナソードを抜き、刃に風の魔力を宿す。

ホメロスは賢者に匹敵する呪文の使い手であり、剣術の達人だ。

そんな彼が放つ魔法剣真空斬りは周囲に煙を一気に吹き飛ばした。

当然、カミュとエルバの姿はなく、剣を握ったままホメロスは周囲を見渡す。

すると、西の端の通路へ向かって逃げるエルバら3人の姿を見つけた。

「逃げすものか!!」

左手に握るプラチナソードにはまだ風の魔力が宿っている。

ホメロスはエルバ達に向けて刃を振ると、風の刃が一直線に襲う。

「…!まずい!」

風の音が聞こえたカミュはいち早くその刃に気付く。

徐々にヘナトスの魔力が弱まり、歩くことしかできないエルバは動きが遅い。

このままではエルバの手を引いて走るセーニャに当たってしまう。

カミュはやむなく短剣を抜き、2人をかばうように立ってその刃を受け止める。

だが、その刃とぶつかり合った短剣の刃が折れ、カミュの左腕の胸部を切り裂いた。

「カミュ!!」

「カミュ様!!」

左腕と胸から血を流し、その場にうずくまるカミュにセーニャは駆け寄ろうとする。

「俺のことは…かまうな…!早く、エルバと一緒に…逃げろぉ!!」

痛みに耐えながらカミュはセーニャを制止する。

今カミュが受けた傷はすぐには回復できないもので、回復している間にこちらに兵士がやってきてしまう。

「でも…!」

だが、このままでは出血多量でカミュは死んでしまう。

泣きそうな眼でセーニャはカミュを見つめる。

「心配するな…この程度じゃあ、死なねえよ…!だから、頼む…」

「…はい!」

流れる涙を拭いたセーニャは再びエルバと共に逃走する。

すぐに兵士たちはやってきて、負傷しているカミュを取り押さえた。

 

「カミュ様…」

真夜中になり、裏路地に身をひそめる中、セーニャは両手を握りしめ、カミュの身を案じる。

あのままカミュを治療せずにおいていってしまったことを悔やんでいた。

「すまない…俺のせいだ…」

こうなったのはホメロスの挑発に乗ってしまった自分にあり、セーニャのせいではないとエルバは拳を壁にたたきつける。

時間が過ぎたことで、ようやく戦えるくらいの力は戻ってきた。

だが、まだ兵士たちはこの町にいて、夜を徹してエルバ達を探している。

「大丈夫よ、エルバちゃん、セーニャちゃん。あのカミュちゃんが簡単に死ぬはずがないわ。それに、捕虜が死んだら困るのはデルカダールの方で、相手はあのホメロスちゃんよ。少なくとも、殺すことはないわ」

ロトゼタシアではサミットが開かれるようになるまでは国家間の大規模な戦争が起こることがあった。

その際に国際法として捕虜の扱い方の規定がされており、それが現在でも有効だ。

エルバ達は犯罪者集団ということになり、その集団から得た捕虜についての規定はない。

しかし、裁判も行わずに犯人が死亡、もしくは現地の兵士による私刑で死んだとなると国際的な印象にかかわる。

そうなると、ホメロスができることとしたらカミュを餌にすることくらいだ。

「…それにしても、わけがわからないわね。悪魔の子のエルバちゃんが邪悪の神ちゃんを倒すって…どういうこと?」

カミュのこともそうだが、シルビアが気になるのはエルバが悪魔の子と呼ばれたことだ。

先ほどは仲間だからということで理由もなしに助けたものの、その言葉が引っかかっていた。

「エルバ様はデルカダール王国から災いを呼ぶ悪魔の子という汚名を着せられ、追われながら旅をしているのです。シルビア様にはいずれきちんとお話をするつもりでしたが…巻き込んでしまい、申し訳ありません」

結果として、今回のことでシルビアも勇者の共犯者ということになり、デルカダールに追われる身となってしまった。

関係ない彼を巻き込んでしまったことを申し訳なく思い、セーニャは頭を下げる。

だが、シルビアはすぐに笑顔になってセーニャ達を見る。

「やーねぇ。そんなこと気にしていないわ。はじめっからエルバちゃんは悪い子じゃないってわかっていたもの。確かに、ちょっと陰気なところがあるけど、困った人を放っておけないところがあるでしょう?そんな子が悪魔の子なんて大間違いよ」

「シルビアさん…」

「そんなことより…今度はこっちから動く番よ。どうにかして、カミュちゃんを助けて脱出しないと…」

シルビアは周囲を見渡すと、町の地図が壁に貼られていることに気付く。

「この町は裏路地が多いわ。そこを利用して、移動しましょう。高い場所まで行くことができたら、そこからホメロスちゃんとカミュちゃんの姿が見えるかもしれないわ」

「一番高いところとしたら、町の中央にある橋ね」

地図を引きはがしたベロニカは橋の有る場所と自分たちの現在位置に印をつける。

問題はその橋に行くにはどうしても大通りを通らなければならないことだ。

ひとたび兵士に気付かれたら、すぐに集まってきて、その兵士を対処しなければならなくなる。

「なぁ、なぁ。兄ちゃんたち」

どこからか子供の声が聞こえ、エルバ達は声が聞こえた方向に目を向ける。

そこにはなぜかラッドの姿があった。

「ラッド、なんでここに??」

「へへ…ここだよ、ここ」

ラッドが指さしたのは小さな子供がぎりぎり入れるくらいの大きさの小さな穴だ。

彼の服は壁で擦り切れているのか、ボロボロになっていた。

「ラッド、その通路って何?」

「昔水路として使われた場所さ。今じゃ使われてないけどな。それが町中につながってるのさ」

「だが…そこを通ったとしても…」

「そうじゃないって、兄ちゃん。俺がおとりになるんだよ。いろんな場所で、悪魔の子を見たって騒ぎまくって、見張りの兵士を誘導するのさ。その間に、兄ちゃんたちは橋へ行くんだ」

「だが、そんなことをしたら、君は…」

ラッドは普通の少年で、そんなことをしたらエルバの共犯者にされてしまう。

そんな危険な目に幼い彼をさらすわけにはいかない。

「さえずりの蜜を持ってきてくれた礼だよ。そんな恩人が悪魔の子なんてありえねーからさ。じゃ、西側の兵士を誘導するから、兄ちゃんたちはすきを窺って橋に行ってくれ!じゃあな!」

「あ…待ちなさい!」

ベロニカの制止する声を聴かずにラッドは再び旧水路の中に消えていく。

思い立ったら一直線で聞かん坊な彼にベロニカはため息をつく。

しばらくすると、町の東側から「悪魔の子だ、悪魔の子がいるぞーーー!助けてーーー!!」という子供の声が聞こえ、兵士たちは急いで東へ走っていく。

「あの子の頑張り、無駄にするわけにはいかないわね…急ぐわよ!」

シルビアを先頭に、ベロニカとセーニャが物陰を出て、移動を開始する。

そのあとに続きながら、エルバはホメロスの言葉を頭に浮かべていた。

彼の言っていた、エマが言っていたという言葉は明らかに彼女が言うかもしれないと思えるものだった。

(エマ…もし、本当に君が…)

エマやペルラらしき遺体を見ていないエルバは心のどこかで、彼女たちが生きているのではないかと思っていた。

だが、ホメロスの言葉が真実なら、その甘い幻想も壊れることになる。

まだその言葉が嘘だと信じたかったが、どこかで本当だと思ってしまう自分が嫌になる。

(くそ…!今は考えるな。今はカミュを救うことを…ホメロスを倒すことを考えるんだ!)

首に下げているエマのお守りに手を当て、心を落ち着かせようとする。

一瞬、エルバの右手の甲に暗い光が発したようだったが、誰も気づいていない。

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