ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

46 / 116
第45話 メダル女学園

東以外の三方を険しい山で囲まれ、その中にいくつもの森と山が存在するメダチャット地方。

東に隣接しているソルティアナ海岸とは土砂崩れで寸断されており、外部との交流が遮断された状態になっている。

復旧工事が終わらない限りは、外の地方の人が入ることができない場所と化していた。

「ふああ…釣れねえなあ…」

そんなメダチャット地方に存在する巨大な湖で、麦わら帽子をかぶった村人が釣りを楽しんでいる。

近くにある海峡と地下で繋がっており、この地方の人々はそこで塩を確保している。

海の魚も生息しており、中には彼のように魚を釣る人もいる。

最近は魔物が活発になっていて、村の外へ出るのをためらう人々が多い。

だからこそ、誰にも邪魔をされずに釣るチャンスだと考えているのだろう。

だが、残念なことに3時間経過しても釣れる気配がない。

「こうなったら、少しポイントを…うん??」

釣り糸を戻した村人は湖が光り始めたことに気付く。

そんな話は見たことも聞いたこともなく、首をかしげながらその光景を見る。

次の瞬間、湖から光の柱が発生する。

「どひゃあ!!ななな、なんだぁ!?!!?」

何が起こったのか分からず、驚きの余り村人は村へ逃げ帰っていく。

光が収まると、そこにはシルビア号の姿があった。

「メダチャット地方…で、いいのか?」

「ああ、間違いねえ。で、ここはメダチャット湖だ。まさか本当に入れるとはな」

「ええ。マーメイドハープとセレン様に感謝しなければなりませんね」

ユグドラシルでも見つけられなかったメダチャット地方への入る手段が今セーニャが持っているマーメイドハープだ。

ムウレアを離れる際、セレンから力を与えられ、一時的にシルビア号ごと海へもぐることができるようになった。

ただし、無制限に海の中に入れるわけではなく、泡の中の酸素がなくなる前に会場へ戻らなければならないという制限がかかっている。

やはり船が来ることを想定されていないようで、湖には大きな桟橋はない。

「陸へ上がるには、小舟を使ったほうがよさそうだ。で、あとはメダル女学園へ向かえばいいだけだな」

メダル女学園はこの地方の北西に存在することは分かっている。

あとはどのようにして交渉するかだ。

ユグドラシルが集めた情報によると、シルバーオーブはその学園に長く存在する宝石で、グリーンオーブのように簡単に譲ってもらえるものではない。

しかも、エルバ達はデルカダールにとってはお尋ね者。

そんな自分たちに家宝に相当する物を譲るようなお人よしはそんなにいない。

「行くだけ行くしかないな…。だが、シルビア号はどうする?このまま放置するわけにはいかないだろう」

湖の中に海で使うシルビア号が残っていると、不自然でこの湖に来た人々から不審に思われるかもしれない。

「近くに森があるわ。ちょうど木の陰に隠れられそうね。カモフラージュしておけば、見つかることはないと思うわ。船員たちは待機させて、場合によっては移動させるわ」

「分かった…。小舟を用意させてくれ。さっそくメダル女学園へ向かうぞ」

「メダル女学園…人里離れたところに学校があるなんて、不思議ね…」

どの国や町でも、学校は町中に作るもので、一番近い場所でもプチャラオ村へは距離がある。

寮があるとはいえ、それでも水や食料の確保が難しいだろう。

「小舟の準備ができたわ」

「うむ…。さて、皆の者、行くとするかのぉ」

 

白壁と年季の有る木材でできた校舎がそびえ、左右には多くの種類の花が咲く庭があり、中央にはメダル状の広い運動場がある。

校舎の入り口には校章となっている小さなメダルが大きく描かれている。

「ふーん、旅人とは珍しいなぁ…。東の道はふさがってるのに…どうやって入ったんだ?」

正門を守っている女戦士がジロリとエルバ達を怪しそうに見つめる。

数カ月前に偶然この地方にやってきて、出られなくなってしまった旅人がいるとしても不思議ではない。

プチャラオ村は観光地域でもあるため、旅人がよく来るからだ。

だが、その場合はこんなところには来ず、プチャラオ村に滞在しているはずだ。

何が目的があるのかとじーっと見つめる。

少しまずい状態だと思ったベロニカは周りを見て、正門に貼られている壁紙にピンとくる。

「実は、あたしたちここの一日入学っていうのをやってみたいの!」

「うん…一日入学?」

「そう!!あたしたち、ここにずっと入学したいって思っていたの!ここで学んでいるあたし達をイメージできたらって思って!」

「お、お姉さま…??」

いきなり何を言っているのかと困惑するセーニャのスカートを握ったベロニカは壁紙のある方向に指をさす。

それはメダル女学園1日入学体験期間中を知らせるものだった。

「そうね。当日参加できるって聞いたけれど、今からでも大丈夫かしら?」

「当日参加か…ちょっと、待っていてくれ。学長と相談してみる」

女戦士は中にいる警備の戦士と会話した後で校舎へと走っていく。

時間帯は朝の8時くらいで、そろそろ朝礼が始める。

「1日入学か…。となると、俺らは外で待つしかないな」

「とはいうけれど、侵入する気まんまんなんじゃない?」

遠目で校舎や運動場を見ながら残念そうに言うカミュをベロニカはジト目で見る。

その視線が耐えられないのか、カミュはベロニカを見ることができなかった。

 

朝礼の時間が始まり、運動場には赤いリボンタイをつけた薄黒のセーラー服の少女たちが集まってくる。

一番幼くて9歳くらいの、年長では18歳の少女たちが集まっている。

その中に、同じ制服姿のセーニャとベロニカも入っている。

交渉の結果、ベロニカの姉妹であるセーニャもよろしければ、ということで1日入学が許された。

エルバ達は2人の父兄ということで、学園に入ることが認められている。

ここまでなら女子ばかりという点を除けば、普通の学校と変わらないかもしれない。

「これは…予想外だなあ」

「どんだけありえねえ学園なんだよ…」

校舎側の見学席に座るカミュの顔が引きつり、ロウとシルビアは興味深そうに眺める。

なぜか、集まっている女子の中にリップスやスライム、ホイミスライムやピンク色の髪をした腐った死体などの魔物も紛れている。

みんなそれに疑問を抱かず、魔物たちも少女たちを襲う気配がない。

「なんだか…ちょいと懐かしいな…」

「どうした?」

「いや、遠い昔のことを思い出してな…」

一緒に朝礼をする魔物たちを見るカミュは不意に、幼いころに起こった出来事を思い出していた。

魔物たちと共に旅をしていた日々が彼にはあった。

仲間の魔物たちとはもう長い間会っていないが、元気でやっているかが気にかかる。

「昔?それが今の…」

「おっと、この先を聞くのは野暮だぜ?そろそろ朝礼が始まるぞ」

校舎の正面扉が開き、その中から真っ白で豊かなひげを蓄えた、赤い外套と緑の厚手の服を着た小柄の老人が出てくる。

首からは大きなメダルの飾りがついた首飾りをかけている。

彼がこの学校の学長だ。

運動場まで歩いてくる彼に、生徒たちは一礼をし、セーニャとベロニカも遅れて一礼する。

そして、学長は朝礼台に上ると、指揮棒を振り始めた。

それに合わせて、生徒たちは歌い始める。

「白樺の森にー♪木漏れ日の火ー♪鈴蘭のベルを風が鳴らすよー♪小さなレディは夢見るレディ♪大きな世界が私を待ってる♪ルルルールー♪」

今生徒たちが歌い始めているのはメダル女学園の校歌で、ベロニカとセーニャはもらった歌詞を見ながら歌っている。

開校してからずっと歌われ続けているもので、アカペラで歌うことができれば、その女性はメダル女学園出身者だと思われるくらい巷では有名だ。

「歩こうザ・ワールドー♪集めようトレジャー♪ラララーラー♪メダルメダル小さなメダル♪王立メダル女学園ー♪」

「王立…?どこの国の王が作ったんだ?」

「うむ…この学校は数百年前に存在したという王国、プワチャット王国の5代目国王ブワチャット5世が作った学校らしいのじゃ。女性教育という観点はそのころは革新的じゃったらしい」

その王国の名残がプチャラオ村のプワチャット遺跡に残っており、そこはかつての城だったとのことだ。

かつてはそこを中心にソルティコまでの広大な領土を持っていたが、一夜にして滅亡したらしく、研究者たちはなぜプワチャット王国が滅亡したのか、その原因を探っている。

メダル女学園が残っていたのは、おそらく城や城下町から離れた地域にあったことが大きいかもしれない。

校歌を歌い終えた生徒たちを見た学長は満足げに笑った後で、朝礼台から降りる。

「はい、みなさん。よくできましたな。今日も一日、素敵なレディを目指して頑張るのですな」

「気を付け!」

生徒会長と思われるおさげ髪をした眼鏡の少女の一声で生徒たちは姿勢を整える。

「ごきげんよう」

左手を胸に当て、右手を腰の高さに合わせて地面と平行になるように指を伸ばし、少し膝を曲げながら頭を下げる。

他の生徒たちも彼女に倣ってそのようなお辞儀をする。

「はい、ごきげんよう」

学長がお辞儀した後で、生徒たちはいっせいに校舎へと戻っていく。

これから彼女たちは1時間目の授業を受けることになる。

ベロニカとセーニャは別々のクラスで授業を受けることになるらしい。

朝礼を終えた学長は見学しているエルバ達の元へ歩いていく。

「いかがですかな?我らのメダル女学園は。プワチャット5世の理想である素敵なレディの教育を一貫して目指しております。では、校内をご案内を私がさせていただきましょう」

「いいのかよ?学長の仕事があるだろう?」

学長としての仕事が何かは分からないカミュだが、少なくともこの学園にとって重要な仕事をするのだろうと考えており、それを差し置いて客である自分たちの案内をしていていいのかと疑問を抱く。

「いえいえ。私は離れても仕事が回るようになっておりますから。それでは、まずは西にある食堂からご案内しましょう。ここではこの地域で獲れた新鮮な食材で毎日専門の調理師が学校関係者全員の食事を作っております。地下の食糧庫には1年分の食料が入っておりまして…」

 

「良いですか?素敵なレディは心だけでなく、服装にも気を付けなければならないざます。例えば、みかわしの服とはやてのリングの組み合わせは男女問わず、バランスの良い組み合わせとなるざます。この組み合わせは実用性も証明されていて…」

セーニャのいるクラスではブチュチュンパのマリンヌ先生によるコーディネイトの授業が行われている。

メダル女学園を世界一の名門女子校と自負している彼女もまた、この学校の卒業生の一人だ。

なお、ロトゼタシアにはメダル女学園のほかに女子校が2つあり、1つはクレイモランにある国立フローラ女学園で、もう1つはデルカダールのビアンカ女学園だ。

フローラ女学園ではいわゆるインテリ女子の養育に長けており、経済学や哲学など、数多くの学問を学ぶことができる。

それに対して、ビアンカ女学園は料理や刺しゅうなどの家事を中心に学ぶことができ、将来嫁入りしたときに役立つ技術をすべて学ぶことができる。

一方、マリンヌ曰く、メダル女学園ではそのどちらも学ぶことができ、優れていると自負している。

「では、セーニャさん。これから出す複数の装備品で、魅力的な組み合わせを出してみてください」

「は、はい!!」

裏返った声を出してしまい、恥ずかしそうにほんのり顔を赤く染めるセーニャが立ち上がる。

ラムダの里では、同年代の少女と一緒に勉強する機会がめったになく、おまけに一部屋25人の少女と一緒に勉強する環境は彼女にとっては初めての経験だ。

慣れない環境であるため、緊張してしまうのは当たり前のことだろう。

深呼吸をしたセーニャは黒板に貼ってある装備品のイラストを見る。

(絹のエプロン、踊り子の服、ガラスの靴、神秘のビスチェ、銀の髪飾り、不思議なボレロ、金のブレスレット…)

いずれも女性が装備することのできるもので、不思議なボレロを除くと魅力を引き上げることのできるものだ。

だが、この中で組み合わせを作るとしたら悩むところだ。

「ええっと…」

この中で、セーニャが装備したことのあるものは踊り子の服のみ。

おまけにセーニャはそうしたことを意識して装備をしたことはあまりない。

どちらかというと、ベロニカがそういうことを取り仕切っている。

(お姉様なら、どう選ぶでしょうか…?)

真っ先にセーニャの脳裏に浮かんだのがそれだ。

あくまでもベロニカならどのような組み合わせを選ぶのか?

双子の姉の考え方でやってみたら、分かるかもしれない。

「あの…もしかして、この選択肢の中に組み合わせは存在しないのではないでしょうか…?」

 

「メダル女学園…お父様が言ってた通りだわ…」

学長による案内をしてもらった後、1人で学園を見て回るマルティナは寮の中にある使われていない部屋にたどり着く。

死んだ母と、そしてデルカダール王が言っていた通りの光景にマルティナはなぜか懐かしさを感じてしまう。

母親もこの学校の卒業生であり、多くの学友に恵まれていたという。

流行り病で倒れ、床に入っているときはしきりにメダル女学園の学友たちと一緒に書いた文集を読んでいた。

「もしかしたら、お母様はもう1度ここへ行きたかったのかもしれないわね…」

「セラ…セラなの!?」

「え…?」

聞いたことのない、中年の女性の声が聞こえ、マルティナは振り返る。

出席簿と書類を握った、薄黒い制服に同じ色の帽子をかぶった眼鏡の女性が驚いたようにマルティナを見つめていた。

「人…違い…ごめんなさい。そんなわけ…あるはずがないのに…」

「あの、あなたは?」

「ええ、私はグレース。ここの副学長をしているの。ごめんなさい…あなたの後姿が昔の親友とダブって見えてしまって…」

冷静に考えると、マルティナのヘアースタイルと髪の色は確かにその女性と似ている。

だが、彼女が今のマルティナが着用している武闘着を着るはずがない。

それに、背丈もマルティナの方が若干上だ。

どうかしていたと思い、詫びを入れた後で立ち去ろうとする。

「あの…!」

マルティナの呼び止めを聞いたグレースは足を止める。

だが、またあの見間違いをしてしまうことを恐れているのか、マルティナに顔を向けようとはしない。

「その人のこと…詳しく聞かせてくれませんか?」

「どうして…?」

「その…セラという人は、まさか…セラフィーヌという名前ではありませんか?」

「なんで知って…ええ!?」

どうしてそれを即答できるのか、グレースには一瞬分からなかった。

1つの仮説が頭に浮かぶが、それはあり得ない話だ。

その場合、彼女は16年前に死亡しており、今ここにいるはずがない。

「私はマルティナ…セラフィーヌの娘です」

「マルティナ…あなたが…??」

振り向くグレースだが、いまだに彼女は目の前にいる女性があのセラフィーヌの娘だとは信じられなかった。

16年前、デルカダール王が彼女の死を大々的に発表していたのを思い出す。

その彼女がどうして、生きていて、この場所にいるのか?

「事情があって、詳しく話すことはできません。ですが、信じてください。そして、話を聞かせてください。私の母がここで過ごした日々のことを…!」

 

「いかがでしょう…?メダル女学園は。みなさん、素敵なレディになれる種です。それを花とするのが我々の仕事なのです」

校舎1階中央にある学長室で、学長は胸を張って自らの学校をそう評する。

学長室には歴代学長の肖像画が飾られており、今の学長が20代目だ。

彼の椅子の後ろにはショーケースに入った銀色の輝きを放つオーブが置かれていた。

「なあ、学長さん。このオーブは…」

「ええ。初代学長がプワチャット王国国王から贈られたシルバーオーブです」

ユグドラシルの情報通りだった。

だが、そんな由緒正しき宝石をサマディーの時のように借り受けることは難しいだろう。

(こうなりゃあ、すり替えてみるか?)

プラチナ鉱石を使って、不思議な鍛冶セットでシルバーオーブもどきを作ることができるかもしれない。

旅をする中でデクから聞いたゴールドオーブという空想の宝石にまつわる物語を思い出す。

ゴールドオーブを求めて旅をする男は長い旅の末、ようやくそれのありかをつかんだ。

だが、十数年も前にそれは粉々に砕け散ってしまい、手に入れることができたのは見た目だけが同じで何も力のないただの光るオーブだった。

しかし、あきらめきれずに手に入れる手段を追い求めた結果、彼はある方法を思いついた。

それは過去へ向かい、ゴールドオーブと光るオーブをすり替えることだった。

彼は妖精の力を借りて過去へとび、見事にすり替えることに成功し、ゴールドオーブを手に入れた。

「ねえ、学長さん。会ったばかりで申し訳ないけど、少しお願いがあるの」

「お願い…ですか?」

「私たちにシルバーオーブを貸してくれないかしら?」

「なんと…!?」

シルビアからのお願いに驚いた学長は思わず立ち上がってしまう。

旅芸人のシルビアの評判は彼の耳にも届いている。

そんな彼が同行していることから、只の旅人ではないことは分かっている。

だが、そんな彼らに学園に伝わるシルバーオーブを一時的とはいえ、譲ってよいものなのかと迷いを抱く。

「うーん…シルバーオーブは代々伝わる宝、簡単にお譲りするわけにはいきません。ですが…」

「ですが?」

「実は、少々この学園では手に負えない問題を抱えておりまして…仮にその問題を解決してくださるのであれば、シルバーオーブをお貸ししましょう」

「何か…複雑な問題が起こっているということ…ですか?」

「そうです。この学園の南にあるプチャラオ村…そこは生徒の関係者がわが校へ訪問する際、宿泊している村です。その村で観光客や村人が行方不明になる事件が起こっております」

「ふむ…その話、少々小耳にはさんでおった。何年も前から続いておるとか…」

実際はユグドラシルからその情報を得ていた。

毎年のように行方不明者が出ており、既にその数は3桁を越えている。

いずれも行方不明になる時期が異なっており、一貫性はない。

だが、共通点があるとしたら、プワチャット遺跡に足を運んだことだ。

そこには美女の壁画があり、それを見ることで幸福を得ることができると評判だ。

壁画が発見されたそのころから、プチャラオ村には観光ブームが起こり、旅人が数多く訪れる場所となった。

行方不明事件が起こった時期とそれは重なっている。

「それで…実は、生徒の家族にも行方不明者が出てきてしまったのです。生徒には伏せておりますが…」

行方不明となったのは今年入学したばかりのとある生徒の両親で、半年前に参観した後でプチャラオ村へ観光に向かった。

宿屋に泊まったことは宿帳で確認済みだが、宿から出た後の足取りを全くつかむことができず、故郷にいる生徒の祖父母へ連絡しても彼らが帰って来たという話は一つもない。

なお、祖父母の意向により、生徒には行方不明になったという知らせは伏せられている。

「生徒の中には、研究のためにプチャラオ村へ向かう子もいます。彼女たちが次の行方不明者となってしまう可能性があります。どうか…事件の解決をお願いします。解決していただければ、シルバーオーブの話、了解しましょう」

「それなら…俺たちにとっては願ったりかなったりだが…」

「いいのですか…?その宝石は…」

「生徒の命と安全には代えられません。もしかしたら、その時のために代々の学長たちがこれを置いていてくれたのでしょうから…」

何よりも生徒やこの学校の関係者たちのことを優先する学長の考えが伝わってくる。

ユグドラシルもいまだに真相を突き止めることができておらず、これまで幾度となく手助けしてくれた彼らへの恩返しができるかもしれない。

(それに、プワチャット王国滅亡にはウルノーガが関与しておる。その情報を得られるやもしれん)

ユグドラシルが集めたプワチャット王国に関する資料をロウが妻と共に調べる中、ウルノーガの関与をにおわせる文献を見つけることができた。

それにはとある奸臣が王の信任を得て、それを後ろ盾にして横暴な政治を行い、国を疲弊させ、その結果魔物による攻撃に耐えきれない状態にして滅ぼしたとある。

そして、その奸臣の正体は魔物だったらしい。

一介の魔物にそのような芸当は難しく、おそらく裏にはウルノーガがいる。

あの国には特殊な錬金術で作られた魔法の鍵というものが存在していた。

「分かり申した。さっそく明日には向かわせていただきます」

「よろしくお願いします」

 

マルティナとグレースは授業中で誰もいない中庭に出て、長ベンチに腰掛ける。

少しの間沈黙していたグレースだが、ポツリポツリと思い出を話し始めた。

「仲良くなり始めたのは…高等部で同じ部になってから。デルカダールの貴族の娘で、あまりほかの人と話す機会がなかったけど…話してみたらあまり私たちと変わりがないように思えてきて…」

メダル女学園は身分を問わずに生徒を募集しており、彼女のような貴族が入学することも少なくない。

だが、セラフィーヌの場合は王族の血も引いているため、他の貴族とは格が違う。

おまけに彼女自身がおしとやかで男性陣にとっては高嶺の花のような性格をしていたことから、クラスの中でも浮いているところがあった。

だが、そんなセラフィーヌは料理が苦手だったようで、それの克服のために料理研究部に入部した。

逆に料理上手なグレースがセラフィーヌに頼まれて、放課後に料理のトレーニングをするようになったのが友人関係の始まりだ。

「それからは、たくさんのことを話したわ。家族のこと、本当は友達がほしくて仕方がなかったこと、堅苦しい貴族の身分からできれば、自由になりたいってことも…」

まさに王道の王妃というべき性格だったセラフィーヌの意外な一面を聞くことができたマルティナは驚きがあったものの、それ以上に嬉しさを覚えていた。

思い出の中にいる母親は彼女が死んでからは今もずっと変わっていない。

何年たっても、こうして大人の女性になったとても、今も死ぬ直前のセラフィーヌのままだ。

変わらないということは、もしかしたら死ぬのと変わらないのかもしれない。

だから、グレースの話のおかげで、心の中に生きている母親がまた息を吹き返してくれた。

しかし、そんな思い出が残っているならどうして暗い顔を見せるのか?

その答えがようやくグレースの口から語られる。

「けれど…卒業式直前にケンカをしてしまったわ…。その日になって、私の耳に届いたの。セラフィーヌがデルカダール王に嫁ぐって…」

その話はほかの生徒や教師たちにも伝わっていた。

だが、セラフィーヌ自らの希望でグレースにだけは伝えられておらず、固く口止めされていた。

卒業まではそのままのはずだったが、他の生徒がうっかり話しているのをグレースが耳にしたことで発覚した。

「いえ…ケンカとは言わないわね。私が…一方的に怒って、叫んでばっかり。彼女は何も言わなかった、何も答えてくれなかった…」

そして、そのケンカはグレースのビンタで終わった。

その後で虚しさと親友をぶってしまったことへの罪悪感からその場から逃げ出してしまった。

それがグレースとセラフィーヌの最後の1日となってしまった。

グレースはメダル女学園にとどまり、教師となるためにがむしゃらに学び続けた。

その学業が実を結び、教職員採用試験に合格し、念願の教師となった。

だが、それと同じ年に、セラフィーヌが流行り病で死んだことを彼女の両親の手紙で知った。

その病気はデルカダール中に広がっており、セラフィーヌは王妃として侍女や夫であるデルカダール王の制止を聞かずに病にかかった国民やその家族の見舞いに向かい、せめてもの手助けにと炊き出しも手伝っていた。

そのせいでその病にかかってしまい、それが分かったころにはもう手遅れになっていたという。

「彼女らしい…最期だった、というべきなのかしらね…」

「そう、ですか…」

病気で死んだというのは分かっていたが、まさかその背後にそのようなことがあったとは、誰も言っていなかった。

どうしてそんな優しい母が死ななければならなかったのか、悲しみが再び蘇るものの、昔とは違って、その悲しみはほんのりと温かかった。

「それで、最近図書館でこんな手紙を見つけたの…。私宛としか思えない手紙だったわ…」

グレースはベンチに置いた料理本を広げ、その中に挟まっている一通の手紙を手に取る。

その料理本はセラフィーヌの料理特訓のためによく使っていたものだったが、卒業して以来、思い出すのが嫌でなかなか手に取ることができなかった。

再び手に取ったのは数日前のことで、教え子の少女がその料理本を借りたときに見つけてくれた。

「手紙の最後にこう書いてあったわ…。貴方と過ごした学園生活は素晴らしい思い出でした。これからもずっと、親友でいてくださいって…」

手紙が入っていた封筒の中にはそれだけでなく、赤色のリボンも入っていた。

ベンチから立ち上がり、グレースはそのリボンをマルティナに差し出す。

「このリボンは学園でセラがつけていたものよ。思い出の印、なのかしら…でも、これはあなたがつけると、きっと喜ぶと思うの…」

「いいんですか?これは…」

母とグレースの友情の証であるそのリボンを、セラフィーヌの娘であることの証拠を示すことのできない自分が受け取っていいものなのか。

そんな迷いは必要ないと諭すように、グレースは笑みを浮かべる。

「私にはセラとの思い出がある。この手紙があるから…。それに、私みたいなおばさんが今更つけたとしても、似合わないでしょう?」

ウフフ、と嬉しそうに笑い、じっとマルティナの顔を見る。

こうしてしっかり見ると、その顔立ちからは亡き親友の面影が感じられた。

「良かったら、結んでみてくれない?その姿を私に見せて…」

「…はい」

マルティナは髪留めを外し、受け取った赤いリボンを結ぶ。

ロウと共に旅に出てからはリボンではなく、髪留めばかりを使っており、結ぶのに手間取ってしまう。

どうにか結び終えたマルティナの姿を見たグレースは目を大きく開く。

目の前の女性がセラフィーヌではないということは分かっているが、どうしても在りし日の彼女に見えてしまう。

その日々を思い出し、涙を浮かべる。

「グレースさん…」

「ごめんなさい…おばさんになると嫌ね、簡単に涙が出ちゃうんだから…」

早く涙が止まることを願うグレースだが、いつまでたっても涙が止まらない。

その涙はいつもセラフィーヌを思い出した時に流す後悔の涙であると同時に、懐かしさと彼女の生きた証が確かにここにあることへの喜びの涙だった。

しばらく泣き明かした後で、グレースはハンカチで涙をぬぐい、優しくマルティナを抱きしめる。

「あなたに何があったのかは聞かないことにするわ。きっと…何か大きな事情があるかもしれないから。私みたいなおばさんには何もすることができないけど…きっと、セラが…あなたのお母さんが守ってくれるわ。だから…安心して、自分の信じる道を進みなさい…」

「グレース…さん…」

「ふふ…なんだか不思議ね。結婚もしていないのに、いきなり大きな娘ができちゃったみたいで…」

涙で赤くなった目でマルティナを見たグレースは笑いながら彼女の頭を撫でる。

子ども扱いされているように思えたが、不思議とマルティナはそうされるのがうれしかった。

セラフィーヌが生きていたころに良くしてもらったことを思い出した。

「ありがとうございます、グレースさん…私、ちゃんと自分のやるべきことを成し遂げてきます」

やるべきこと、それは勇者を守ること。

同じ志を持つ仲間がいるマルティナは1人ではない。

父親代わりのロウやエルバと共に旅をしてきたカミュやセーニャ、ベロニカ、シルビア。

気づけば、多くの仲間に囲まれている。

「そして、もう1度ここへ来ます。その時に、もっとお母様のこと、聞かせてもらえませんか?」

「ええ…ええ、もちろんよ…」

 

「こういう感じで解けば、もっと簡単にできるわよ。ほら!」

「すっごーい!ベロニカちゃんってすごく勉強ができるんだねぇ」

「もしかしたら、もっと上のクラスでもいけるんじゃない!?」

休み時間に、ベロニカに勉強を教えてもらった女子生徒が同じ年代の少女とは思えないほどのベロニカの知識にびっくりする。

出身地がラムダの里という、あまり聞いたことのない場所だが、そこでは彼女みたいに頭の良い子供がたくさんいるのではないかと感じてしまう。

(当り前じゃない…。ほんとうはずっとずっと年上なんだから…!!)

故あってこのような姿になっているが、本当は彼女たちよりもずっと大人だとベロニカは自認している。

だから、ベロニカにとってはこのクラスでの授業がとても退屈で、あまり受ける気にはなれなかった。

それよりは魔導書を読み、新しい呪文の練習をしている方がもっと建設的だ。

「あ、そうだ!!ベロニカちゃん、良かったら外で一緒に小さなメダル探しをしない?」

「メダル探し…?何それ??」

「この学校での伝統の遊びよ。聞くよりも実際にやった方がいいわ、行きましょう!」

「ああ、ちょっと!?」

少女たちに引っ張られる形で教室から連れ出されたベロニカは校舎裏の体育館に連れていかれる。

体育館と称されてはいるものの、屋内はなぜか小さな町のように建物がいくつも設置されている空間となっていた。

実際にレンガや木材で作ったわけではなく、粘土や紙で作ったハリボテで、集まった少女たちはその建物の中やその周辺で何かを探していた。

「いい?ベロニカちゃん…私たちが集めるのは、これ!!」

女子生徒はポケットの中からキラリと光る金色のメダルを出して、ベロニカに見せる。

そのメダルには校章と同じ模様が描かれていた。

「そのメダルを探せばいいの…?」

「そう!いろんなところにメダルが隠れてて、みんなで探しているのよ。見つけたときはすごくうれしいの!!ほら、一緒に来て!!」

有無を言わさず、少女に引っ張られて煙突のある青いレンガの家に入る。

そして、少女は本棚の中を、ベロニカは暖炉の中を探し始める。

「小さなメダルが手に入るからって、うれしいことじゃ…」

「そうかなー?私はうれしくなるよ。だって、小さなメダルって、みんなのやさしさの結晶だから」

「それ…どういうこと?」

「昔、プワチャット王国って王国がここにはあったんだって。それで、1日の中でこの国の誰かがいいことをしたら、メダルを1枚作って神殿に奉納したの。小さなメダルがそれなの」

本棚の中で1枚見つけた少女は嬉しそうにベロニカにそれを見せる。

この風習はプワチャット王国だけに存在し、一定量奉納した次の日は催事が行われ、その中で王はこれからも国民が平和で豊かな一日を過ごせるように祈りをささげる。

遺跡の発掘調査の中で、奉納された小さなメダルがいくつも出土している。

そのメダルのほとんどをメダル女学園が購入し、こうしてメダル集めの遊戯に使われている。

「素敵なレディは周りのみんなにやさしくできる人なんだって、学長先生が言ってるの」

「ふーん…小さなメダルって、そんな背景があったのね。でも、なんでそれを宝さがしみたいに探させてるのかしら…?」

そのような貴重なものなら、ショーケースなどに入れて大切に保管すべきものだろう。

このような遊戯の道具に使っては、それを作った昔の人に失礼なのではないかとさえベロニカは思ってしまう。

「それは、私も思ったことがあるわ」

地下室から出てきた上級生の少女は手に入れた3枚の小さなメダルを握りしめ、ベロニカに笑いかける。

「でも、見て。こうして集めると面白いことが起こるのよ。ねえ、何枚見つかった?」

「え?あたしは…2枚」

「私も3枚!あ…これなら見れるかも!!」

「見せてあげる。この遊びの意味を」

「…??」

何か含みのある言い草によけいベロニカは意味が分からなくなっていく。

2人に連れられ、体育館の中央にある杯を模した貯金箱に見つけた小さなメダルを入れていく。

8枚のメダルが入ると、貯金箱が光りはじめ、正面には光でできた横長の長方形のビジョンが浮かび上がる。

そこには数百年前の衣装をした男性が年老いた母のために慣れない食事を作っている姿や迷子になった子供のために必死にその子供の親を探す女性、ボランティアで子供たちに読み書きを教える老婆などの姿が浮かび上がっていた。

そして、映像の中にはメダル女学園で下級生歓迎のためにイベントの準備をしている女子生徒や教師たちの姿もあった。

「これって…」

「小さなメダルには誰かのため、という善意で動いた人達の思いを現在進行形で集め続けているの。どうやったら、こんなメダルを作れるのかしら…?」

その機能については不明なところが多く、今でもその機能を再現することができていない。

ただ、そうした何かを記憶する道具はそれほど珍しいものではない。

高齢の貴族の中では魂の貝殻という道具がロトゼタシアで流行になっている。

それは死にゆく者の魂の声を封じ込める力があり、後継者選びや遺産相続の問題が発生するときに一番力になるという。

本人の肉声を宿すことができ、第3者では書き換えることができないため、ある意味では遺言状以上に効果があるようだ。

(小さなメダル…か…)

「こういう人が素敵なレディの道標になるの。ほら、早く次のメダルを探しましょう!」

「はーい!ベロニカちゃんも急いで!!」

ビジョンが消えると、2人は更にメダルを集めようと次の建物の前まで走っていき、ベロニカに手招きをする。

その楽しさや嬉しさを感じたのか、笑みを浮かべたベロニカは2人の元へ向かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。