「さぁー、旅人さん!うちの料理食っていかない?いいスパイス使ってるよー!」
「疲れただろ?俺の宿屋へきてくれよ。どこよりも安くしてやるからさぁ」
「いやいや、うちの宿だよ。いいとこ、紹介してやるぞー」
村に入ると同時に、エルバ達を大勢の村人が取り囲み、自分の店に来るように急かしてくる。
「あわわわ、待ってください。私たち、ここに来たばかりで…」
「どういうことよ、シルビアさん!!いいところじゃないの?ここ!!」
「し、しまった!!いつの間に財布を盗られてしまったわい!!」
これまでの街や村にはなかった、過剰なまでに商売根性を持ったエネルギッシュな人々に押される中、シルビアは平然と笑っている。
このメンバーの中で、プチャラオ村に来たことがあるのはシルビアとマルティナ、ロウで、シルビアはいい村で、きっといい思い出を作れるとも言っていた。
マルティナとロウは2度目だが、やはりこの雰囲気とエネルギーの前にはたじたじしてしまう。
最も、目的は観光ではなく事件の解決のためなので、楽しんでいる暇はあまりないが。
「どう、これがプチャラオ村。村が元気な証拠よ」
既にこうした光景に遭遇したことがあるのか、シルビアは動揺を見せず、むしろ彼らの様子を面白そうに見ていた。
「いやー、うれしいねえ。うちの宿を選んでくれて。これから、腕によりをかけて料理を作ってくるから、待っていてくださいよぉ!」
赤い髪の男性、ボンサックは自分の宿を選んだエルバ達を2階にある大人数用の大部屋に入れた後で、1階の厨房へ向かってしまう。
「…いつの間に泊まる場所が決まっちまったな」
「いいじゃないの。ここは旅人にはお勧めの宿屋みたいだし」
2階には小部屋から大部屋まで、様々な人数の旅人に対応できるように部屋が用意されている。
用意されているベッドも悪くなく、村の案内図も置いてくれている。
「それにしても、すごいですよね…。村の人たちの…その…」
「ふむ…あれだけのエネルギーがどこから出ておるのか…」
「失礼いたします」
ボンサックとは違う、従業員の男性が入ってきて、来客者へのサービスなのか、テーブルに7人分のお茶とお菓子を置いていく。
お菓子はココナッツミルクとタピオカが原材料となっている、ストローのような形の焼き菓子で、おそらくはこの村の名産品の1つかもしれない。
「それから、こちらはお預かりしているお手紙でございます」
「ん…?手紙??」
ロウの席に置かれた手紙にカミュは違和感を持つ。
村に入ってからは半日の経過しておらず、この宿屋には2時間くらい前に入ったばかりだ。
なのにどうして手紙が届くのか?
従業員はお辞儀をした後で部屋を出て、ロウは手紙を開く。
手紙の裏にはユグドラシルの印がついていた。
「あの人も、ユグドラシルなの?」
「そうじゃ。宿屋で働いている方が情報が集まりやすいからのぉ」
手紙には行方不明となった人の名前と行方不明になった日時、その人が行方不明になるまでの村での行動が記されていた。
「うむ…多くの客は壁画を見に行くようじゃが…壁画そのものはこの村にはよくあるものじゃなぁ」
プワチャット王国にまつわる遺跡がのこるプチャラオ村にはいくつもの壁画が残っており、それでも現存している壁画すべてを発見できているわけではないようだ。
そして、最近見つかったのは美女の壁画で、案内図の表紙にも美女の壁画が描かれていた。
「そういえば、村の人が言っていたわね。あの壁画にはご利益があるとか…あんまり信用できないけど」
最近発見されたばかりなのに、そんなご利益が出たという話が出てくるのは怪しいとベロニカは感じていた。
噂が独り歩きして、こんな話になったのであればまだいい。
だが、問題なのはその噂の根っこで、発信源が何かだ。
「その話、チラシにもなってるぜ。ったく、うさんくさい匂いがプンプンするぜ」
宿屋へ連れていかれる際に、美女の壁画に関するチラシが柱に貼り付けられていたのを見ていた。
村人が作ったもののようで、その紙を何枚も運んでいる村人も見ている。
「ここで考えていてもしょうがない。実際に壁画を見に行くか?」
「うむ…それもいいじゃろう。何か収穫があるやもしれん」
「じゃあ、まずは出されたお菓子とこれから出る料理を食べてからにしませんか?おなかがすいて…」
「ちょうど昼時ね、いざというときに備えて、食べておいた方がいいわね…この匂いは?」
強いスパイスの香りがしてきて、扉が開くとさらにその匂いがエルバ達を襲う。
ボンサックがカートを押して料理を運んできており、出された料理はいずれもスパイスで味付けされているものが多い。
豚肉を塩漬けにしてペースト状にしたものを調味料代わりとして振りかけたサラダや鶏肉やサツマイモ、玉ねぎなどが入った赤いココナッツカレーやこの地域では主食となっているという米などが置かれている。
特に強烈なのは湖で釣れた魚の素焼きで、味付けのためかふんだんにスパイスが使われており、近くで匂うとツーンと痛みを感じるほどだ。
「うーん、この匂い。いいのぉ、さあ、食べるとしよう!!」
待ってましたといわんばかりにさっそくロウはココナッツカレーを食べ始める。
以前訪れたときにその料理が一番気に入っていたようだ。
「はいはい、整理券を配りますのでこちらでお待ちくださーい!!」
「大丈夫大丈夫、整理券を持っている人はちゃんと見れるからー!!」
村から遺跡へと続く山道には長蛇の列ができており、山道入り口の左側では整理券を配る村人がいる。
あまりの混雑で、普段警備をしている村人だけでは対応できなくなっており、ボランティアの村人が総出で対応しているほどだ。
「こんなに人が来ているなんて…本当に見ることなんてできるのでしょうか…?」
整理券を配っている話を聞いたセーニャはこの長蛇の列に不安を覚える。
それが配られているということは、あまりにも観光客が多いせいで、おそらくは実際にその壁画を見ることができる人数は限られる。
もし、自分たちがそれを手に入れる前に配布終了となったら、おそらく明日まで待たなければならなくなる。
「なら、さっさと手に入れねーとな」
さっそくカミュは整理券配布の列に並び、順番が来るのを待ち始める。
整理券は1枚で2人まで入れるようで、エルバ達全員が見に行く場合は4枚は必要になる。
配布そのものはかなりスピーディに行われており、数分でカミュの番がくる。
「よし、ならそろそろ俺の…」
「おっと、ごめんよ!」
急にカミュの前に眼の下に皺の有る中年の男性がさりげなく割り込んでくる。
思わず文句を言おうとするが、その前に彼は整理券を手にしてしまう。
「おい、待てよ!俺の順番だろ!?」
「悪いな、宿賃が今日までしかないからよ。また明日頑張りな!」
悪びれもせず笑った男は整理券片手に列に並ぶ。
明日という言葉が気になったカミュだが、その答えを示すかのように配っていた男が帰り支度を始めてしまう。
「くそ…!もう品切れかよ。行方不明事件が起きてるってのに…」
「それを大声で口にするのはやめておきなさい。根拠がないと言われるか、余計なパニックを起こすだけよ」
「それにしても、幸せを招く美女の壁画…ここまで熱狂的だなんて」
「もう、なんなのあのおじさん!!せっかくカミュが並んでいたのに!!」
整理券を取り戻そうとベロニカは列の中にいるその男を探し始めるが、もうすでに男は先に見たいからか、次々と列を抜かして入っていき、次第に見えなくなってしまった。
「これでは…今日壁画を見るのは不可能ですね…」
「ふむ…。仕方ないのぉ、明日朝一に並んで手に入れるとしよう」
もう整理券がないのならどうしようもないが、少なくともあと2泊するくらいの余裕はある。
それに、今日は村に着いたばかりで、しっかりとベッドで寝ておくのも準備の内だろう。
エルバ達は長蛇の列に背を向け、ボンサックの宿屋へ戻った。
「おお…これが、これが噂に聞く美女の壁画…」
数時間後、ようやく自分の順番になった男は遺跡に入り、出入り口は管理人の村人によって閉じられる。
そして、男は小部屋の中で飾られている美女の壁画を見始めた。
ブロンドの髪と青いドレス、そして首飾りとなっている金色の鍵が特徴的で、その女性は淡い笑みを浮かべた様子で玉座に座っている。
間違いがないか、念のために案内図を確認するが、確かに目の前の壁画は噂のものだった。
「いやぁ、無理して来た甲斐があったってもんだ!!どうか…俺にもっと金をもうけさせてください!!」
男はサマディーで商売をしており、商人仲間の間で壁画のことが噂になったことから、わざわざ店を空けてプチャラオ村までやって来た。
村に到着した少し後で土砂崩れが起き、一度は帰れるかどうか心配になったが、こうしてこの壁画を見ることができたのがうれしいのか、それはどうでもよくなってしまう。
手を合わせ、ご利益を得ようと願い続ける。
1組がこうして壁画を見ることができるのは10分で、次の組がもうすでに待っている。
「もう少し…もう少しだけ見てご利益を…ん?」
壁画を見ていると、壁画に描かれている鍵が淡く光るのが見えた。
気のせいかと思い、ゴシゴシと服の袖で目をこすった後でもう1度見るが、やはり光っている。
「どういうことだ…?もしかして、ご利益!!」
よく確かめようと壁画に近づいていく。
そして、その光に手を伸ばした次の瞬間、その光は強烈に部屋中を包み込んだ。
光が収まった後で小部屋の扉が開き、村人が入ってくる。
「すみませんね、お客さん。そろそろ時間です。次の人のために出てください」
「ああ…分かった」
先ほどまで、もっと壁画を見たいと思っていたはずの男が嘘みたいに村人の求めに応じ、遺跡を出ていく。
山道は壁画を見る客でいっぱいになっていることから、やや迂回することになるが別の山道が用意されており、見終わった観光客はそこから村へ戻っていく。
男は村人の案内でその山道を通っていく。
見終わった客の中には、このまま帰るのはもったいないと言わんばかりにほかの遺跡を見たり、美女の壁画があった遺跡の周りで過ごすなどしているためか、帰り道の山道は人が少なく、静かだ。
男はそんな山道を歩いているが、しばらくするとその体が淡く光りはじめ、煙のように消えてしまった。
「どうした?エルバ、寝れねーのか?」
夜になり、湯気でしっとりとした髪をタオルで拭きながら入って来た、青いパジャマ姿のカミュは上半身が肌着で、下半身が紫のパジャマズボンのエルバに声をかける。
この宿屋は大浴場となっており、24時間いつでも入ることができる。
エルバはカミュが出る20分以上前に既に出ており、もう寝ているものだと思っていたが、実際は提灯の明かりでほんのりと彩を見せる村を見ていた。
「…まあな」
「寝れるときはしっかり寝とけよ。明日からもどうなるかわからねーからな。魔物退治の疲れもあるだろ?」
宿代を稼ぐべく、エルバ達は遺跡へ行くチャンスを逃してから日が沈むまで、魔物を何匹か討伐した。
その中でも重視したのはガニラスやプテラノドン、アルミアージなど、食用にもなる魔物だ。
他にも、キラーアンブレラの皮はプチャラオ村の名産品である提灯の材料となるため、はぎ取って持っていくと中々の金になる。
職人の話によると、提灯は数百年前から作られているとのことだが、提灯以外の名産品がいくつもできたことから職人の数が年々減少しているとのことだ。
それでも、作っている理由は提灯の歴史を少しでも多くの観光客に知ってもらうこと、そして村人に提灯という名産品が今でも存在することを証明するためらしい。
「少し…気楽になりすぎている気がする。仮にも俺たちは追われる身だろう…?」
「まぁ、そうだけどな…」
思えば、ムウレアに入って以来のエルバ達はデルカダールからの追跡のことを考えることなく過ごしている。
メダチャット地方でも、時折カミュが周囲の確認をしているが、やはりデルカダールの兵士の姿は見えないうえにその気配もない。
そのおかげか、みんな比較的のんびりと過ごしているように見えた。
ただ、当事者であるエルバにとってはその緊張感が常に感じる日々が当たり前になってしまっているようで、どうしても眠ることができずにいる。
「けどな…今はあいつらのことを気にせずに過ごせる時間だ。その時間は大事にしといた方がいいぜ。まぁ…言葉で言っても完全には理解できねえな」
だとしたら、少し過激だが、忘れ去れる手段はある。
カミュは着替えたばかりのパジャマから普段着へと着替えはじめ、その後でエルバの普段着を彼に投げ渡す。
「ほら、さっさと支度しろよ。出発するぜ」
「出発…どこへ?」
「面白いところだよ。ほら!!」
エルバの腕をつかんだカミュは無理やり彼を部屋から連れ出していった。
「ふあああ…おはようございます…」
翌朝、気持ちよく眠れたことへの満足感からのんびりあくびをしたセーニャがエルバ達に挨拶をした後で椅子に座る。
だが、エルバはセーニャに返事をすることなく、テーブルに突っ伏している。
「…カミュ様、エルバ様はどうなされたのですか?」
「まぁ…訓練のし過ぎだな。あれは」
昨晩エルバを連れて行った場所を思い出しながら、カミュは苦笑する。
連れて行ったのは盛り場で、盗賊をしていたころはよくデクと一緒にそこをうろついていた。
特にたくさん金が入ったときはそこで酔いつぶれるまで飲んだり、女の誘惑に負けて金を巻き上げられたりしたのはいい思い出だ。
そこへエルバを連れていき、いろいろと刺激の強い経験をさせた。
さすがに酒を飲ませるわけにはいかないため、飲み物はお茶か水にしてもらってはいるが。
それが彼には少々きつかったようで、今はすっかり疲れ果ててしまっている。
「んもう、カミュちゃん。エルバちゃんはまだ16歳なのよ。まだまだ大人になったばかりなんだから、もうちょっと遠慮しなきゃ」
「カミュ!!ここへは遊びに来たわけじゃないの!エルバをそんな場所へ連れて言っちゃダメよ!!」
「わ、悪かったって!!」
今のエルバの状態でシルビアとベロニカの言葉から、やり方はまずかったと思い反省する。
その間にマルティナとロウが遅れて到着し、ようやく全員が集まる。
「さて…しっかり朝ごはんを食べてからもう1度美女の壁画を見に行くが…その前に、また昨日行方不明者が出たぞ…」
「くそ…もう、かよ!!あのおっさんめ…!」
言いがかりなのは分かっているが、それでも順番を抜かして昨日調べるチャンスを奪ったあの商人のことが頭に浮かんでしまい、カミュはテーブルを叩く。
「実を言うとじゃな…行方不明になったのはその商人じゃ」
「何…!?」
これは例の従業員からもたらされた情報で、彼もボンサックの宿屋の宿泊客の一人だ。
しかし、美女の壁画の閲覧時間が終わってもなお帰ってこず、村人に頼んで探してもらったが、結局見つかっていないらしい。
彼の部屋には荷物がすべて残っており、村を出た痕跡もない。
また、警備をしていた村人からは出口の山道を通ったという確認情報もある分不自然だ。
「これ以上行方不明者を出すわけにはいかないわね…。今日は必ず、その壁画を見るわよ!」
朝食を食べてすぐに宿屋を出たエルバ達だが、遺跡へ続く山道には長蛇の行列ができていた。
昨日のあの時間ほどの勢いではないものの、それでも整理券を手に入れるだけで長い時間がかかる。
「くそ…並んでいる時間だって惜しいってのに」
「朝早くだから、整理券はどうにかなるはずよ。並びましょう!」
グズグズしていたら、その分だけ余計に美女の壁画へたどり着き時間が長引いてしまう。
急いでシルビアが先に並ぼうとするが、その列の前で急に立ち止まる。
「おい、おっさん。どうしたんだよ??」
「何か、声が聞こえない??女の子の泣き声」
「泣き声…?」
「こっちよ!!」
シルビアが腕を高くのばし、手招きしながら人混みの中を進んでいく。
長身である彼が良い目印になっており、エルバ達は人混みをかき分け、どうにか進んでいく。
教会の隣にある民家の前のベンチにオレンジ色の髪をした、紫をベースとした暗い色彩の服を着た少女が座っていて、泣いていた。
「あら、どうしたの?お嬢ちゃん」
シルビアは急いで泣いている少女に駆け寄り、あやし始める。
だが、目の前の彼に気付かない少女は顔を下に向け、泣き続ける。
「うーん、こういう時は…お嬢ちゃん。見ていて!面白いものが見れるから!」
「…?」
何だろうと思い、顔を上げる少女の前で、シルビアは1枚のコインを出す。
右手で持っているコインを見せた後で、左手を広げ、何も持っていないことをアピールする。
そして、コインを握った手で握りこぶしを作り、すぐに手を広げると、コインが消えていた。
何もなくなった右手を見た少女は首をかしげる。
その様子を見たシルビアが笑みを浮かべると、今度は左手で握りこぶしを作る。
それを広げた瞬間、その手の中には消えたはずのコインが現れていた。
「なんで…?」
「別のコインが出たわけじゃないのよ。証拠を…見せてあげる」
シルビアはコインの表面にハートのマークを羽根ペンでつける。
そして、もう一度左手でコインを持ったまま拳を作る。
今度は右手で指を鳴らすと、なぜか右手人差し指の上にコインが出現し、同時に左手を広げるとその手の中には何もなかった。
コインにはあのハートのマークがついていた。
「すごい…すごい!!どうやったの!?」
シルビアが見せたマジックに驚いた少女はようやく泣き止み、拍手をする。
それを見て安心したシルビアはその場で腰を下ろし、彼女と同じ高さの視線で話し始める。
「ごめんね、企業秘密…ということで。ところで、あなたの名前は?どうして泣いていたの?」
シルビアの質問の表情を曇らせる少女だが、先ほどとは違って泣く様子は見せない。
少しあの間黙った後で、ゆっくりと口を開く。
「メル…メルって言うの」
「メルちゃん…メルちゃんね。どうしたの?ここで一人で…」
「ここには…パパとママと一緒に来たの。実は…パパとママが何日も帰ってこないの…。それで、ずっと探してたけど…見つからなくて…」
「おいおい、観光先で迷子かよ…」
外国で子供が迷子になったら、その子とはもう二度と会えないと思え。
子供を連れて旅をするときによく言われる言葉だ。
特に暮らしていた国と比較して治安の悪い地域へ向かうときは用心しなければならず、目を離した隙にさらわれたり何らかの事故に巻き込まれてしまうことだってあり得る。
最近では魔物が活性化しており、迷子になった子供が町の外へ出てしまい、魔物に襲われるケースもある。
ブチャラオ村では観光客が多く、村人たちがボランティアで動いてくれてはいるが、それでもこうした迷子が後を絶たないという。
「なぁ、嬢ちゃん。どこへ行ったのかはわかるか?」
「えっと…壁画のご利益でお金持ちになるんだって…そういって、どこかへ行っちゃって…お願い、お兄ちゃん…パパとママを…」
「そう…安心して。アタシ達が探してあげるわ」
「話が正しければ、美女の壁画の場所だろうが…」
メルの前だから口にしていないが、そこへ行って何日も帰っていないとなると、昨日行方不明になった商人のようになっている可能性があり得る。
その壁画が行方不明事件と因果関係があるなら、そんな場所へ彼女を連れて行っていいのかが分からない。
壁画を見に行った人全員が行方不明となるわけではないが、その共通点が分からない以上は連れていくわけにはいかない。
「シルビア様、この子を私たちのいる宿屋に預けてはいかがでしょう?ボンサック様に頼めば、保護してくれるはずです」
「そうね…。このままにしておくわけにもいかないし…おなかもすいているかもしれないわね」
「そうだな…」
「さあ、ついてきて!」
ベロニカが座っているメルの手を握り、ボンサックの宿屋へ連れていく。
見た目は幼い彼女だが、年齢はエルバよりも大人であるため、迷子になるようなことはないだろう。
「あとは…たどりつくまでどれだけかかるか…だな」
「村長と交渉して、中に早めに入れてもらえるようにしてもらうとしよう。迷子の解決の手伝いなら、応じてくれよう」
迷子が実際にいるというなら、さすがに早めに入ることも許してくれるだろう。
人手が足りないなら、そうしたところで交渉の余地がある。
さっそくロウは交渉のために村長の家へ向かった。