ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

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第67話 笑顔の伝道師

「爺さん、ユグドラシルの動きはわからないか?」

「うむ…命の大樹が落ちて、深手を負った儂はしばらく…」

ソルティコ地方まで戻り、キャンプを設営したエルバ達はロウとの間で情報交換を行う。

ふと、ロウの視線がともに話を聞くグレイグに向く。

ユグドラシルの話は彼の師匠であるジエーゴにもかかわってくる。

そのため、どこか話すのをためらう気もあった。

「ロウ様、私は勇者の盾であり、ともに戦う同志です。どうか、包み隠さず…」

「うむ、すまぬな…。わしはソルティコの本部で療養を続けていた」

「ユグドラシル…?ソルティコとつながりがあるというのですか?それに、そもそもユグドラシルとは…」

「ユグドラシルはユグノアの生き残りが集まった組織だ。元々は迫害されたユグノアの人々が相互自助する組織だったが…」

「各地で情報を集め、陰で我々の手助けをしてくれた。じゃが、世界崩壊の影響で地形が変わった土地もある。おまけに海路もズタズタにされて、情報網も見事に寸断された。どうにか復旧しようと動いておるが、回復の見通しが立たんのが実態じゃ」

デルカダールが闇でおおわれている間、その闇の影響でデルカダール地方に出入りすることができなくなっていた。

ソルティコそのものは自治都市としての側面もあることから、万が一デルカダール王国に有事があった際には領主であるジエーゴの元、独立して動けるように仕組みができている。

「しかし、なぜソルティコに本部があるのですか?そこはデルカダールのひざ元といっても過言ではない都市。あっさり見つかる可能性が…」

「そう思うじゃろう?しかし、ソルティコはあのダーハルーネに勝るとも劣らん情報都市。世界各地の情報を集めるには最適の場所じゃ。そして、ジエーゴ殿とも関係があっての、実は…ジエーゴ殿にかくまってもらっておったのじゃ」

「お師匠様が…!?まさか、まったく知らなかった…」

「すまぬな。おぬしはデルカダール王に忠誠を誓う将軍。仮に事実を知る前にジエーゴ殿がユグドラシルをかくまっていたことをおぬしが知ったとしたら、どうなっていたことか…」

言わずもがな、グレイグはデルカダール王を優先し、ジエーゴを斬っていた可能性もある。

忠誠を尽くす相手を何よりも優先するように教えたのはジエーゴ自身なのだから。

「本部が無事なのはいいとして、仲間たちの居場所もわからないのか…」

「そうじゃな…。環境が激変して、情報網の復旧もそうじゃが、表立ってソルティコの防衛や復旧にも力を貸して負ったからなぁ。じゃが、一つ奇妙な情報があったのぉ」

「奇妙な情報…?」

「なんでも、不気味な衣装な上に不気味な動きをした集団が西へと移動したというのじゃ。魔物の集団ではないかという噂もあるのじゃが…」

「不気味な衣装…どういうものなのですか?」

「うむ…なんでも、派手な色合いをした服によくわからない飾りまでついていたらしい。詳しいところまでは見ていないらしいが…」

「待ってくれ、西への道は確か…」

「世界崩壊の影響で通れるようになったらしいぞい。ほかに情報の当てがない以上は、いくしかないのぉ」

「それもそうですな、我々には立ち止まる時間すら惜しいのですから…」

ドゥルダ郷を後にする際、彼らから選別として少なくない食料と初代大師が着ていたという武闘着を贈られた。

元々は郷に封印されていたが、世界を救う助けになるならとサンポが封印を解き、ロウに譲渡された。

今のロウはその武闘着で身を包んでいる。

ニマと初代大師の魂が宿っているように感じられるという。

「でしたら、まずはゆっくり休んで、朝から移動しましょう。疲れで倒れてしまったら、どうしようもありませんから」

「そうじゃな…。エルバ、そろそろいいのではないか?」

「ああ、そうだな…」

エルバはたき火で温めている鍋を開ける。

中には温まったシチューが入っていた。

野菜を節約するため、周りの野草や木の実を代用しているものの、やはり空腹は最大の調味料というべきで、おいしそうなにおいがキャンプを包んでいた。

 

翌朝、エルバ達は馬で不気味な集団が進んだという西へと進んでいく。

道をふさいでいた大岩はすでになく、砂と岩でできた自然な大きい一本道ができていた。

その道を進みながら、エルバと一緒に乗っているロウは彼の愛馬に目を向ける。

「それにしても、不思議なことがあったものじゃ。まさか、フランベルグがおぬしとともにおるとは…。確かに、あの時はラムダの里にほかの馬ともども預けておったはずじゃが…」

「それは、私も思いました。あの時は兵士の皆さまや住民の方の治療に走っていて、それどころではありませんでしたが…」

流れ着いたところで、なぜかやってきていたことはエルバから聞いているが、フランベルグがこのような場所にいることは本来ならあり得ない話だ。

一人でゼーランダ山を下りて、外海を泳いで内海へ行き、闇を突破してここまでやってきたなんてことはナンセンスこの上ない。

「俺もわからない…。必要な時に来る。マルティナと一緒に逃げた時も…」

「ああ。その時は俺も驚いたものだ。主の危機に駆けつけてきたのだから」

「何者なんだろうな…?お前は…」

それによって、何度も助けられたことは事実だが、それだからこそ、フランベルグの謎を気にせずにはいられない。

自分とフランベルグにつながりがあるとしたら、イシの村で育ったという点のみ。

「ふうむ…考えても仕方がない。今は追いかけるべき相手を…む!?」

メダチャット地方の湖付近の橋で、リタリフォンが足を止め、グレイグが右手を挙げて制止する。

橋の先には緑色の布の服で身を包んだ、恰幅の良い中年男性が緑色の毛皮で身を包んだ虎と人間のキメラともいえるような外見の魔物、ベンガルに追いかけられていた。

「魔物に襲われている…!」

「助けに行くぞ!」

剣を抜いたエルバとグレイグがそれぞれの馬を走らせようとするが、急にどこからか太鼓や笛の音が響き渡る。

崩壊した世界には見合わない、陽気で軽快なリズムの曲で、あまりにも場違いなそれに男性も魔物も戸惑い、足を止めてしまう。

「いったいなんじゃ?この音楽は誰が…」

「ああ、皆さま。上に…!!」

ベンガルのちょうど背後にそびえる大岩の上をセーニャが指をさす。

そこには紫の羽を腰につけ、赤と緑をベースとした長袖の派手な服装をした男たちが持っている楽器を奏で、楽器を持たない人々は踊っていた。

そして、その集団の中央には4頭の白馬と開いたクジャクの翼を模した巨大な神輿があり、それを6人の男が担いでいる。

その神輿には見たことのあるような白と黒のゼブラ模様の道化師服で身を包んだ何者かが紫の扇で上半身を隠していた。

トコトコトコトコ、と警戒な太鼓の音が鳴り響き、次第に隠れていた姿があらわになっていく。

「おお、そなたは…」

「…シルビア…」

「そこの魔物ちゃん!人々を襲うのをやめなさい!!」

扇を突き付け、ベンガルに警告するシルビア。

最初はなんだと思い、動揺したベンガルだが、ただの旅芸人の集団であり、たいしたことはないと思ったのか、再び視線を獲物に向ける。

牙にはすでに捕食した動物な人間の血肉がこびりついている。

「やれやれ…お仕置きしないとわからないみたいね」

魔王の圧倒的な強さに恐怖を通り越して心酔し、魂を売った結果として成り果てた魔物であるベンガル。

人間であることを忘れ、その肉をも口にしてしまったその魔物を放置するわけにはいかない。

扇を閉じたシルビアは腰にさしてある魔剣士のレイピアを抜き、神輿から飛び降りる。

急に近づいてくる何かの気配を察知し、振り返ったベンガルだが、その時にはすでにシルビアの刃が頭に接触し、そのまま下へと切りつけられていた。

何が起こったのかすら知ることも、断末魔すら許されることなく、二つに切り裂かれたベンガルは血しぶきを出しながら力尽き、命をもてあそんだことへの裁きなのか、紫の粒子となって消滅した。

「安らかに眠りなさい…哀れな魔物ちゃん」

魔物となり果てた誰かに静かに哀悼の言葉を述べると、シルビアはレイピアをふるって血のりを払い、納刀する。

そして、派手な衣装の男たちはいつの間にか大岩の上から降りてきていて、シルビアを取り囲む。

「キャアーーーー!!素敵ーーー!!」

「おネエさま!!なんて華麗な身のこなし!!」

「美しすぎるわん!!」

男たちの、女のような歓声にシルビアは手を振り、時には投げキッスで返礼する。

その一部始終をエルバ達は馬から降りて見つめていた。

「…なぁ、エルバ。彼は…仲間、なのか?」

「そうだ…」

「…個性的だな」

「まあな」

「あら…!!」

返礼をする中で、偶然橋を見たシルビアはその上にいる少年が見えたことで、動きが止まる。

だが、飛び切りの笑顔に変わってから右腕で目元を隠す。

そして、後ろを向いてコソコソと近づいてから急に振り返ってエルバを見る。

「やだ!!」

今度は駆け足になってエルバの目の前まで来て、両手の人差し指を彼の顔にさしながら間近で見る。

「まさか…エルバちゃん!!それに、ロウちゃんにセーニャちゃんも!!ああああ、よかったわー!本当にいきていたのねーーー!!」

エルバに抱き着いたシルビアはほおずりする。

飛び切りのスキンシップにエルバの表情は固まっていた。

「なんなんだ、まさか…あの集団まで、エルバの仲間だというのか…??」

「お久しぶりですわ。シルビア様。そちらの…その、変わった衣装の皆様は…?」

「それに…何をしておるのじゃ??」

当然、ロウもセーニャもそんな集団など見たことない。

彼らの中には船員と同じ顔をした人間は一人もいない。

「あーら、何よー!見てわからないの??決まってるじゃない!!」

シルビアは大きく跳躍し、集団のちょうど真ん中に降り立つ。

そして、再び両手に扇を手にすると、男が太鼓を軽快に鳴らし始める。

「「世界にーーーー…光を取り戻す!!」」

決めポーズのように、シルビアは両手の扇を大きく広げ、男たちはその周りで踊り始める。

「そんなわけで、暗い世界を光で照らすために、アタシいろんなところを回って世直しパレードをしていたの」

「世直し…か。変わらないな、あんた」

嫌味ではなく、心の底からそう思いながら、シルビアの周りで踊る男たちを見る。

見た目こそ奇怪ではあるが、誰もがこの崩壊した世界に似合わない陽気な笑顔をしている。

それができたのはシルビアが人々を笑顔にするという一貫した目的を貫いているからだろう。

「この子たちはアタシの大切なナカマ!共感してくれて、旅の途中でパレードに加わってくれたのよ!」

今でこそ陽気な姿を見せる彼らだが、最初にあったころは世界崩壊がきっかけで希望を失っていた。

故郷への帰路の途中で荷物を奪われた旅の鍛冶職人。

船も家族も失い、盗賊へ身を落とさざるを得なかった漁師たち。

それ以外にも、多くの苦しむ人々を見て来て、シルビアなりのやり方で救い続けた。

そして、希望を取り戻した彼らと共にシルビアは自分なりの戦いとしてこの道を選んでいた。

「エルバちゃんはちょっと変わったんじゃなーい?なんだか、少し余裕ができたというか…?」

「そうか?いつもと変わらないだろう?」

「何言ってるのよー?口元が緩んでるわよー!それにしても、あんなことがあったのに、エルバちゃんもロウちゃんもセーニャちゃんも、生きて会えるなんて奇跡ね!またあえて感激だわー!!」

「ああ、そうだな…。そういえば、シルビア。船はどうした?確か、クレイモランに停泊したままだっただろう?」

パレードの中にはよく知っている人物であるアリスの姿がない。

おまけにここへ来るまでにソルティコの海を見たが、砂浜にシルビア号の姿もなかった。

常識的に考えると、離れ離れになってしまったと考える。

だが、シルビアの笑顔がそれを否定した。

「実はアタシ、みんなと離れ離れになった後、偶然アリスちゃんが見つけてくれたのよ!しかも、シルビア号と一緒にね!運が良かったわー!!」

「どんな強運をしているんだ…」

これはシルビアが後から聞いた話ではあるが、アリスはシルビア号でエルバ達の帰りを待っている間、嫌な夢を見たという。

それは命の大樹が落ちて、世界が崩壊した光景とどこかの砂浜で横たわっているシルビアの姿だった。

その夢は連日見たとのことで不安を覚えたという。

そして、命の大樹が落ちた日、アリスは慌てて船員たちに指示をしてシルビア号を出航させた。

幸い補給そのものは前日までにできていたため、長期間の航海はできたようで、アリスは各地の海を旅した記憶を頼りにシルビアを探した。

その結果、夢で見た例の砂浜のある内海の無人島でシルビアを見つけ、救出してくれたという。

「今はダーハルーネにシルビア号は預けているわ。それで、アタシ達はラハディオちゃんに協力してもらって、商船を使ってここまで来たってこと!それで、みんなはどうしてここまで…」

「あ、あのう…」

小太りの男が話し続けるシルビアとエルバの間で手をあげ、声をかける。

エルバ達と再会したことへの嬉しさからついつい助けた人のことを見落としていたことを反省したシルビアは視線を男に向ける。

「あら、あなた!ほっぽり出しちゃってごめんなさい!けがはなかった?」

「おかげさまで、かすり傷一つないだ。あんた、ヘンテコリンな恰好してっけど、すんげえ強えーんだな。オラ、バハトラってんだ。南にあるブチャラオ村からここまで来たけど、おかげで助かっただ。感謝しているだよ」

「そうか…だが、なぜここまで来たのだ?魔物が多く、危険だっただろう?」

「ああ…。無理は承知の上だ。だが、どうしてももっていかなきゃならねえものがあっただ」

バハトラは橋の近くに転がっている、きつくふたをした水がめを手にする。

魔物に襲われたときに放り投げてしまったため、割れていないか心配だったが、割れている個所はなかった。

「水…?」

「うんや、海水だ。あの湖から獲れる」

海のないメダチャット地方では、湖からとれる海水は貴重なものとなっている。

本来はソルティコから安定的に供給されていた塩だが、落盤による未知の寸断によって供給が断たれ、通れるようになった今は魔物の凶暴化によって入手が困難となっている。

塩の精製技術も海もない村人の頼みの綱があの海水が取れる湖だ。

現在は村人のある程度力のある男性が当番となって、魔物の目を盗んで湖まで向かい、海水を取ってきているという。

ただ、塩づくりの技術を持たず、塩田を作るような土地も存在しないため、やむなくそのまま調理に使用している。

「あら…そうだったの。じゃあ、村まで送ってあげるわ!…ねえ、みんな。これからのこともあるけど…ちょこっとだけ、あたし達の世直しパレードに付き合ってくれない?」

「付き合う…?」

シルビア達のやっていることは至極真っ当なことだ。

エルバ自身もそれを否定するつもりはない。

だが、目に留まるのは彼らの格好と踊りだ。

相手はシルビア、つき合わされた結果、あの格好をさせられる可能性もある。

「お、俺は…」

「んもう、エルバちゃんったら恥ずかしがりやねえ!はいならはいってさっさと言えばいいのに!さあ、新しいセカイへの扉を開くわよー!みんなー!」

「待て、シルビア、俺は…!!」

「はー、おネエ様ー!アタシ達がコーディネートするわー!」

2人のナカマがやってきて、エルバの両腕をがっしりとつかむ。

なよなよした動きにもかかわらず、やはりシルビアがかかわっているということもあるのか、力は人並み以上あり、エルバでも振りほどけない。

「た、助けてくれ…」

どうにか絞り出したのがグレイグ達への救いの声。

だが、その時にはエルバはすっかり取り囲まれ、ユグノアの甲冑を外された上に紫をベースとしたシルビアの衣装そっくりな服へと無理やり着替えさせられていた。

着替え終えさせられたエルバはそのままナカマによってシルビアの前に突き出される。

「キャー、ステキー!アタシの目に狂いはなかったわ!!」

「それはどうも…」

(エルバ様…目が死んでる)

ナカマ達の中で必死に精神を保とうとするエルバだが、可能だったのは感覚をなくすことだけだったようだ。

旅の中で、ここまで焦点の合わない、死んだ魚の目になった彼は見たことがない。

「みんなー!彼がアタシと一緒に旅をしてきた、かの有名なエルバちゃんよー!そしてぇ!!」

大きく跳躍したシルビアは再び神輿の上に立つ。

そして、そのうえからエルバに指をさした。

「そして今から、彼がこのパレードのボスよ!!みんな、エルバちゃんに続けーー!!」

「はーい、ボスー、ブチャラオ村へレッツゴー!!」

「…」

再び両腕をつかまれる形でエルバは先頭に立たされ、ブチャラオ村へと連行されていく。

フランベルク達はナカマによって引っ張られ、グレイグ達は歩いてパレードに続く。

「シルビア、世界が崩壊してもなお人助けとは。さすがじゃのう」

「ロウ様…エルバ様はちゃんと戻ってきますよね…?」

「それはわからん。すべてはエルバ次第じゃ」

「無責任なことをおっしゃってくれますな。エルバの精神が崩壊したら、世界は救えんのですぞ」

精神が崩壊したエルバはおそらく、新たなセカイの勇者となって帰還するだろう。

だが、そうなるとイシの村で待つ彼の母と幼馴染は卒倒するだろう。

(なんとしてでも、勇者の盾として俺がエルバをもとのセカイ…いや、世界へ連れ戻さねば…)

謎の決心を人知れず固めるグレイグ。

周囲に潜む魔物たちはシルビアの強さとパレードの異様さ故か、一匹も近づこうとしなかった。

 

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