ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

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第69話 フールフール

「フフフ…絶望に沈む輩の姿、良い酒の肴になりますねぇ…」

牢屋の中でうずくまる人々を見ながら、フールフールは部下の魔物が手に入れた高い酒を口にする。

彼の周りにはブチャラオ村で奪った財産が無造作に置かれており、見張りのアークデーモンや地獄の騎士が金貨1枚でも奪われることがないように見張っている。

だが、最高の肴となったのはこの間の出来事だ。

無謀にも、たった1人で妻と息子を救出すべく若い狩人の男が突入してきた。

彼はブチャラオ村に肉を調達するために多くの魔物や動物を狩ってきた。

しかし、崩壊した世界で魔王の影響を受けて強化された魔物たちに太刀打ちできなかった。

フールフールの部下たちもまた、強化をされていた。

あっけなく捕まえられ、フールフールの前に突き出された。

そこで、彼が行ったのはまずは狩人の前に家族を連れていくことだった。

そして、彼らの目の前で狩人を生きたままバラバラに切り裂いていった。

それを終えると次は妻を、そして心が壊れた息子を同じ運命へと送り、それをブチャラオ村の村人全員に送った。

絶望した彼らの顔を見ることはなかったが、この場所に伝わってくる負のオーラから、美味な絶望を感じ取ることができた。

ついでに、その解体ショーを囚人たちの目の前で行ったことで、彼らの中には心を失った人もいる。

しかし、このような悲劇的な結末を迎えたのは自分のせいではない。

すべてはあの狩人が弱かったせいだ。

そのせいであっけなく捕まり、この悲劇を引き起こした。

「まったく…弱い奴は鋏にも劣りますが、このような楽しみを提供してくれた…。それは感謝しなければなりませんね。それにしても…」

フールフールの視線が檻の中にいる青い髪の少年に向けられ、目を細める。

彼は一番新しく檻に入った人間だ。

幼い少年にもかかわらず、恐怖に染まっておらず、抵抗するかのようににらみつけてくる。

その視線がフールフールにとっては不愉快だ。

「まったく、本当ならあなたのこともいい見せしめにしてやりたかったのですが、残念なことにここにあなたの大切な人はいないみたいですね。だから、この中を探そうとしたのでしょう…」

小柄な体で合ったとはいえ、監視の魔物たちの目を盗んでここまでやってきたのは素直に褒められる。

ただし、ここに集められている財産は多く、その中から目的の物だけを探そうとするのは無謀なことで、結局見つかって、この檻の中にいる。

「うるさい!!母ちゃんのペンダントを返せよ!この野郎!!」

「ペンダント…?はて、ペンダントとは…」

「ふざけんな!父ちゃんが一番大切なものって言ってて、お前が奪っていったじゃないか!!」

「無礼な口ぶりですねぇ。うん…ああ、思い出しましたよ。まったく、貧しいおうちなのですねぇ。そんな粗末なペンダントが一番大切なものとは…哀れだと思います」

けれど、そのようなものでも奪われれば絶望するもの。

それを手にして去ろうとしたとき、太った髭面の男が返すよう頼みながらしがみついてきて、それを部下の地獄の騎士が蹴り飛ばした。

この洞窟で手に入れたものの品定めをしていた際に、このペンダントを見つけたときはあまりにも価値がないことだけは覚えている。

だが、それをこの後どうしたかどうかはすっかり忘れていた。

「しかし、あなたも哀れな坊やですねぇ。お父さんに一番大切な者はあんな粗末なもので、あなたの価値はそれ以下なのですから…」

「ふざけんな!!ふざけんなぁ!!」

「ふっふっふっ、子供ながら反論しようとするその心意気だけは評価してあげましょう」

父親が自分を一番大事なものと言わなかったときの姿を今でも覚えている。

母親が死んで、酒浸りになってからは会話することも減り、自分もそんな父親を見ていられずに家出を繰り返すようになった。

自分と同じように、母親が死んだことで悲しい思いをしていることは理解しているつもりだ。

だが、それを理由にないがしろにされ続けるのがたまらなく嫌だった。

おまけに、そんな母親の亡霊にしがみつくかのように、一番大切なものとして形見のペンダントだと言い出した。

その時にわかってしまった。

父親にとって、自分は大切な存在でもなんでもないのだと。

だから、そんな父親を見返したいがためにブチャラオ村を飛び出してここを探し出し、侵入した。

「しかし、この場所には希望はいらない。必要なのは死にも勝る絶望ですが、あなたからはそれを欠片も感じない。無礼な口調までする以上、ここにいる必要はありませんねぇ」

そんな利用価値のない子供は早々と処分をした方がいい。

しかし、さすがに解体ショーをもう1度やったとしても、新鮮な絶望の味は二番煎じとなってしまうだろう。

新しいものを考えなければならないが、それを邪魔するかのように耳障りな音楽が聞こえてくる。

「まったく、なんですか?この音楽は。さっさと止めてきなさい」

「ハッ、フールフール様!」

見張りの地獄の騎士達が礼をした後で洞窟を正面出入り口から出る。

そこには巨大な神輿を持つ派手な服のナカマ達の姿があり、彼らは魔物がそばにいるにもかかわらず、思い思いに楽器を奏で、踊り続けている。

「あいつら…確か」

「ああ、聞いたことあるぜ。あのパレードは…」

魔物たちはフールフールがよそから連れてきた魔物から聞いたとあるパレードの噂を思い出す。

ホムラの里の輸送ルートをつぶして住民を飢え死にさせようとしたギガンテスを討伐するなど、奇妙な風貌ながら腕が立ち、脅威となる存在だと言っていた。

最初はそんな存在なんてあるはずがないと思っていたが、こうして目の前にいる彼らを見たら、真実味を感じてくる。

実際、魔物が活性化する中でパレードしながら旅をするというのは正気の沙汰ではない。

よほどの馬鹿か、腕っぷしが立つかのどちらかだ。

「どうすんだよ?あいつら、俺らのことに気付いてねーよな?」

「やってやるか…?」

2匹の魔物が顔を合わせ、首を縦に振る。

そして、討ち取ろうと前に出て、まずは踊っているナカマに刃を向ける。

だが、彼らはなぜシルビアの世直しパレードが脅威となるのかをそこで知ることとなってしまう。

「あーら?やっぱり出てきてくれたのね?出迎えてくれて、うれしいわ!」

どこからか剣を抜いたナカマが地獄の騎士の剣を受け止める。

だが、彼らも侮っていたわけではない。

仲間が剣を受け止められ、噂で聞いた通りの手練れだと気づいた仲間の地獄の騎士が合図を送る。

これで、洞窟の魔物たちが応援にやってきてくれる手はずだ。

「団体さんが来るわ!みんな、いいわねー!」

「ハーイ!」

これからさらにフールフールの配下である魔物たちがやってくることはわかっているにもかかわらず、彼らの表情はご機嫌そのものだった。

 

「外がさらに騒がしくなった…まったく、なにをやっているのでしょうねぇ。応援まで呼んで…」

騒がしくなるとともにほかの配下の魔物たちも動き出すのを見たフールフールは席を立つことなく、グラスのワインを口にする。

耳障りな音楽そのものは消えたものの、この騒がしさではせっかくのワインがまずくなる。

おいしく飲めるときに改めて飲むことにし、その代わりに手に入れた菓子を口にしようとする。

「あーら、みんながはりきっているのに、一人だけ優雅のお菓子の時間?そんなの失礼なんじゃなーい?」

「なに…??」

失礼な物言いをしてくる男の声に腹を立て、振り返るとそこにはシルビア達4人と2人のナカマの姿があった。

一瞬驚いた表情を見せたフールフールだが、すぐにその表情を抑えて、席を立つ。

「おやおや、これは驚きました。このフールフール様の前にノコノコと現れる人間がいるとは…。それに、まさかあのパレードを囮に使い、ここまでコソコソと入ってくるとはさすがですね…ほめて差し上げますよ」

「あなたに褒められてもうれしくないわ!さあ、村のみんなを返しなさい!」

「ホッホッホッ、そんなことのためにわざわざ危険を冒してまでここまできたのですか?とんだおバカさんがいたものですねぇ」

世界が崩壊してから、多くの人間を見てきたが、自分たちにとって何のメリットもないことに命を懸け、ここまでくる人間が初めて見た。

みんな保身や家族の命を守るために何かを切り捨てる、徳のために行動する人間ばかり見てきて、無残にも返り討ちにしてきた。

「…いいでしょう。その馬鹿げた勇気に免じて、村人たちは返してあげましょう!!」

言い終わると同時に指を鳴らし、同時に足元が揺れ始める。

揺れと同時に地面からミイラ男とリビングデッド達の腕が出てきて、それが地面から這い上がるように出てくるとともに檻を囲み始める。

「なに…!?」

「死霊術の1つですよ…。殺したとしても面白くもないおバカさんたちはいますからねぇ。そんな彼らには術をほどこして、埋めておいたのですよ」

「静かな眠りを求める死者たちに、なんてむごい…!!」

「これこそが有益な使い方ですよ。もちろん、解放してあげますが…」

「外道め…!」

このまま檻が開けば、待っているのは哀れなゾンビたちによる村人の蹂躙だ。

死ぬか、彼らのエキスによってゾンビに変えられるかの最低の二択が待っているだけだ。

「タダで返すはずがないじゃないですか。おバカですねぇ。何かと引き換えに決まっているじゃないですか。あなた達の一番大切なものを私に譲りなさい。そうしたら、返してあげましょう」

「大切なもの…?」

「そうです。例えば…そうですねぇ。あなたが持っているその剣、かなりの値打ちになりますねぇ。その剣と背中にさしている大剣、それを譲っていただければ…」

「…その程度の価値にしか見えないのか?この剣が…」

「はい?」

水竜の剣は命がけで自分をかくまい、デルカダールへ逃がしてくれたセレンの遺品であり、キングブレードはデクがエルバのために譲ってくれたもの。

いずれもフールフールの計算以上の、何物にも譲れない価値がある。

それに、エルバにとっての一番大切なものは残念なことにそれらではない。

エルバは胸に手を当てた後で、フールフールをにらむ。

「俺の一番大切なものがわからない時点で、お前とのその取引は破たんしている」

「むぅぅ…」

「よく言ったわね、エルバちゃん!あなたの大切なものを差し出す必要なんてないわ!ここはアタシの出番!アタシが…ずっとずっと温めていた一番大切なもの…それをあの魔物にあげる」

「シルビア…!」

「お待ちください、シルビア様!それではあの魔物の…」

止めようとするセーニャに横顔を見せるシルビアの口元は釣りあがっていた。

彼は抵抗の意思がないことを示すかのように腰に下げてある剣とムチ、短剣を地面に置き、フールフールに向けて歩いていく。

「ホーッホッホッホッ!人間にしては物分かりがいい。それに、礼儀までわきまえているとは…口調が少々気になりますが、助かりますよ!さあ、さっそくいただきましょうか!」

卑しい目でシルビアを見つめるフールフールは急かすように右手を伸ばす。

彼の前まで来て、懐から何かを出すとそれを両手で惜しむように包み、寂しそうに見つめる。

「さあ、これよ…大切に使ってね」

フールフールの右手に大切なものを置いたシルビアは静かにエルバ達の元まで下がる。

彼が手にしたものは片手で持てるほどのひどく小さなもの。

しかし、こういうものであってもとんでもない価値のあるものがあるから油断しない。

どんなものか拝見しようとするが、なぜか鼻孔に奇妙なにおいが入ってくる。

「この…かぐわしい香り…こ、これは!!」

右手に置かれているのは茶色い布で包まれた何か。

布が開くと同時に、フールフールの目が大きく開く。

茶色い干し草が混ざった、茶色い馬のフンが姿を見せ、あわてたフールフールがそれを地面にたたきつける。

「ってぇ、馬のフンじゃないですかぁ!!」

「あっかんべー!あんたなんか、馬のフンがお似合いよー!!」

タップダンスを踊り、分かりやすい挑発を見せるシルビア。

馬のフンをつかまされて激昂するフールフールにはもはやこんな分かりやすい挑発であっても、効果があった。

「私を怒らせましたね!?このフールフール様をここまでコケにするようなおバカさんは…こうで…!?」

右手に握る杖を振るおうとしたフールフールだが、次の瞬間、青い剣閃が飛んできて、杖を持つ右腕が切断されるとともに地面に落ちる。

「ギ、ギャアアアアアア!!」

「少しは分かったか…お前に切り刻まれた人間の痛みが…!!」

エルバの手にはすでに抜かれている水竜の剣が握られていた。

先ほどの青い剣閃はエルバが放ったもので、魔力をその刃に注ぐことで、水の刃を生み出していた。

「き、貴様らぁ!!いいのですか!?村人たちがどうなっても…」

「どうなってもいいのか、か。周りを見てみろ」

「周り、ですとぉ…なぁぁ!!」

切り裂かれた右腕を抑えながら、フールフールが檻を見る。

そこにはすでに全滅したゾンビ達の亡骸が転がっていて、檻の周りには囚われていた村人と彼らを助けたナカマたちの姿があった。

人質という最後の切り札まで既に封じ込まれ、殺気立ちながら迫るエルバにフールフールは後ずさりする。

「わ、わ、わ、わ…私は、私はただ、魔王ウルノーガ様の命令に従っただけで…!断じて、私の意思ではなく…!」

「…そんな話、聞いてもらえると思っているのか?お前のような奴の話を」

「ひ、ひぃ!!い、今まで奪った財宝をすべて差し上げますから!だから、だからここは見逃し…!」

言い終わらぬうちに、再び水竜の剣の刃がフールフールを襲う。

彼に背を向け、納刀したエルバがロウ達の元へ戻る中、動かなくなったフールフールの体は上下真っ二つに切り裂かれるとともに消滅した。

「…他人のものを欲しがるゲス野郎には似合いの末路よ」

「これで、あの魔物によって失われた命を少しでも慰められるなら…」

「オネエ様、ボス、みんなー!うまくいったわね、良かったわー!」

続々とナカマたちが集まり、エルバ達の周囲を囲む。

見た限りでは多少の傷を負ったナカマはいるが、死んだメンバーは一人もいない。

おそらく外には倒された魔物の亡骸の山ができていることだろう。

「旅のお方、ありがとうございます。なんとお礼を言えばいいか…」

「いいのよ、そんなの。世界中の人を笑顔にすることがアタシの使命なんだから。あとは、ここにある物とみんなを連れて村へ…あら?」

まずは捕まっている人々を確認しようと考えたシルビアだが、一人の子供が宝の山の中をあさっている姿が見えた。

金貨や宝石に目もくれず、掘り出していく少年はようやく数十もの玉を繋ぎ合わせて作ったペンダントを見つけるが、それを見た瞬間にうなだれていた。

その様子が気になったシルビアは彼のもとに近づいていく。

「あなた…もしかして、チェロンちゃん?」

「え…確かに、チェロンだけど、なんで知ってるだ?」

「アタシ達、プチャラオ村の人達を助けるために来たのよ。それで、あなたがお母さんのペンダントを探して、いなくなったって聞いて」

「んだ、けんど…これ…」

うなだれる彼の手の中にあるペンダントは無造作に置かれたことが災いしたのか、半分が壊れていた。

チェロンの脳裏に浮かぶのはこのペンダントを嬉しそうに身に着けている、今は亡き母親の姿だ。

きっと、バハトラもこれを見て、在りし日の母の姿を思い浮かべていたのかもしれない。

「これを見たら、父ちゃん…きっと悲しむだぁ…」

母親を失ってから、チェロンは父親の喜んだ姿を一度も見たことがない。

酒におぼれるか、悲しむか、怒るかの姿しか見たことがなく、それが嫌で何度も家を飛び出していた。

これを取り戻せば、もしかしたらバハトラの笑顔をもう1度見ることができるかもしれない。

あの頃にほんの少しでも戻るかもしれないという淡い期待も、既に零れ落ちていた。

「そんなことないわ!」

肩を落とすチェロンにシルビアが明るく声をかける。

悲しむチェロンに笑顔を見せ、優しく語り掛ける。

「大切なのは気持ちよ!壊れていようと、お父さんとお母さんを大事に思うチェロンちゃんの気持ちは必ず伝わるわ!だって、たった一人の家族じゃない」

「たった一人の…家族…」

「ええ。だから、信じてあげて。あなたのお父さんのこと、そしてあなたの家族を大切に思う気持ちを」

「…うん!」

笑顔を見せたチェロンは落とさないようにペンダントを首にかける。

ナカマ達はフールフールが奪ってきたものと人々を運び出していた。

「それにしても、あの魔物は相当なものを奪ってきたみたいだな。魔物であっても、価値のあるものがほしいというのか…」

「物を奪うだけならまだわかる。問題は…奴がどうして人質にするだけにとどめたのか、だな…」

ナカマ達が救い出した村人は百人以上いて、証言を取ったナカマからの情報によると、彼らには最低限の水と食料は保証していたという。

そして、殺したのは彼らを救いに来た狩人とその家族だけらしい。

人質を取るとするなら、脅迫や交渉材料にもできたにもかかわらず、フールフールはそのようなことをするそぶりを一切見せず、ただ閉じ込めるだけだったようだ。

(一体、奴は何の目的で…?)

 

「フールフールめ…しくじったか」

熱い雷雲の中、青い筋肉質の体つきで、青いドラゴンを模した鎧と兜をみにつけた人型の魔物が青いスカイドラゴンの背に乗った状態でつぶやく。

兜についているブルーオーブは彼が六軍王となった際にウルノーガから与えられた勲章のようなものだ。

「ガリンガ様、フールフールが敗れたとなれば、人々の絶望は…」

「いや、いい。わずかに時計の針を戻したに過ぎない動きだ。世界は絶望に包まれたまま、ウルノーガ様が力を蓄え終えることに変わりはない。既に古の民ももはや命運は尽きている」

「では…」

「我々のこれからの行動に変わりはない。次の島へ向かう。古の民を一匹残らず根絶やしにせよ」

ガリンガを乗せるスカイドラゴンを中心に、この雷雲の中には数百のドラゴン系の魔物が飛んでいる。

雷雲を抜けた先には、ドームのような建物が立ち並ぶ数多くの浮島の姿があった。

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