ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

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第72話 再会と海

「ハウ…!ガブ、ムシャ、ムシャ…んん!!」

インターセプター号の食堂で、並べられた料理の数々を青年は次々と口に放り込んでいき、味を確かめることなく喉を通していく。

通り切らないものはセーニャが持ってきた水で無理やり胃の中へと運び込む。

「よほど大変な目にあったようじゃのう…。じゃが、すぐに元の体に戻ったのは何よりじゃ」

「爺さんが言うなよ…」

食事をしている彼の体を先ほど改めて確認したところ、やせ細っており、体もボロボロな状態だった。

ようやくまともな食事にありつくことができたことで、ようやく元の体に戻っていく。

最も、そうなった人物をすでに見たことのあるエルバは人間の肉体や生命力の強さを感じずにはいられない。

そして、気になるのは彼の左目についている眼帯だ。

「きっと、魔物と戦っていて、左目を…」

「私の回復呪文でも、治療はできませんでした。もう少しでも早くお会いすることができれば…カミュ様…」

長い時間、治療を受けられないままであったために回復呪文については一番精通しているセーニャでも完全な治療が不可能な状態になっていた。

眼球の修復はできたものの、その瞳からは光と視力そのものを失っていた。

そして、カミュは左目の視力もそうだが、もう1つ失っているものもある。

「あ、あの…セーニャさん、ですよね?気に、しなくていいですよ。気が付いた時からあんまり見えてなかったし、それに、利き目じゃないので…」

とても普段のカミュのものとは思えない、穏やかな丁寧口調。

そして、仲間であるはずのセーニャの名前を確認するかのように呼んでいる。

「記憶を無くしているな。無理もない、魔物と戦った傷もあったうえに飢えに苦しんでいたのだ」

「それにしても、あんな毛むくじゃらで服もボロボロだったのに、セーニャちゃん、よくカミュちゃんだって分かったわね」

セーニャ以外には、あんな姿になり、記憶を失った彼がカミュだと気づく人物は相棒であるはずのエルバですら気づかなかった。

今は髪と髭を切って、顔だちが分かったことでようやく彼がカミュだということが分かり、服も船にあった黒い毛皮のコートに着替えている。

「見間違えるはずがありません。カミュ様は…」

「カミュは…どうかしたのか?」

「…いえ、なんでもありません」

「しかし、どうする?記憶が戻っておらぬのでは…ソルティコに残してもいいが…」

記憶を失っているカミュの力量がどうなっているかはわからないが、少なくとも記憶があるときの戦いぶりではないだろう。

これから残り5人の軍王と戦うことになる以上、足手まといになってしまう可能性もある。

そう考えると、グレイグの言う通り、ソルティコに置いていくことも選択肢になる。

外海へ出ることを考えると、補給のために必ずまたソルティコに戻ることになるため、やろうと思えばその時に彼を拾うこともできる。

「ええ、そうね。アタシの仲間もいるし、ユグドラシルの人達もいるから、あそこなら…」

「いえ、駄目です。カミュ様は連れて行かないと、駄目です」

「セーニャ…?」

突然のセーニャの強い口調での言葉に誰もがセーニャに視線を向ける。

今までベロニカの後ろについていくか、誰かの意見に同調する形しかしなかったセーニャには珍しいものだった。

「ダーハルーネでホメロス様に追われていたとき、カミュ様は私たちを守ってくれました。私はまだ、カミュ様に何もお返しできていません。だから…今度は私がカミュ様を守ります!記憶を取り戻すときまで」

「セーニャさん…。その、お願いします。俺、絶対に迷惑をかけませんから。それに、皆さんと一緒に行けば、もしかしたら俺が果たさなきゃいけない使命を思い出せるかもしれませんから…」

カミュの記憶の中にあるのは自分の名前と思い出さなければならない重要な使命があることだけだ。

そのために、傷や飢えで苦しみ、何度も死にかけたとしても必死に生き延びてきた。

そして、ここでエルバとセーニャと再会したことで、その使命に2人がかかわっていることをなんとなく感じていた。

自分にはもうほかに手立てがない以上、その直感を信じるしか道がない。

「セーニャちゃんがそこまで言うなら、ここは連れていくしかないわね。エルバちゃんもみんなも、それでいいわね」

「ふぅむ…ならば、儂は記憶に刺激を与える秘術がないか調べてみよう」

「俺は奴に稽古をつけよう。少しでも力をつけてもらわなければ、ついてきてもらう意味がないのでな」

「そういうことだ…。カミュ、記憶を無くしていたとはいえ、再び会えてよかった」

「みなさん…ありがとうございます!その…よろしくお願いします!!」

両手をテーブルにつけ、思い切り頭を下げてエルバ達に礼を言うカミュに合わせるように、セーニャも頭を下げる。

「でも…今のカミュちゃんって本当にアタシたちの知っているカミュちゃんと真逆よね。もし、ベロニカちゃんがいたら、思いっきり笑い転げるんじゃないかしら」

「確かにな…」

そのためにも、この海の向こうにいるかもしれない2人と合流しなければならない。

そして、その旅の中でカミュの記憶も取り戻す必要がある。

「セーニャさんも、ありがとうございます。俺なんかのために…」

「いいえ、言ったじゃないですか。私はあなたに助けられたと」

「そう、なんですね…。けど、俺も足を引っ張るつもりはありません。守られてばっかりも嫌ですし…少なくとも、セーニャさんだけでも…」

話をするカミュとセーニャを置いて、エルバ達は船に用意されているそれぞれの部屋に入る。

希望と英雄を乗せたインターセプター号は出港し、東へと進んでいった。

 

「ふん…抜け殻め、海へと出たか…」

天空魔城の王座に腰掛け、使い魔であるベビーサタンに今自分が読んでいる本のページを開かせる。

六軍王の1人が古代図書館から入手し、献上した書物であり、その軍王曰く、自分にはそのような書物は読めないから何も価値がないのだという。

「いかに大いなる力や知識を手にしたとしても、それを使いこなせぬ、最大限に発揮できぬのでは何も意味はない。だが、それが分かっているうえでそれにかなう存在に託す…。あの抜け殻よりもこやつの方が力と知識の意味が分かっている…そう思わぬかね、ホメロスよ」

「ハッ…おっしゃるとおりであります。我が主、ウルノーガ様…ご命令通り、六軍王には勇者が生きていることは伝えておりません。配下の魔物にも周知しています」

「それでよい。奴を殺すのは我一人のみ。相変わらず仕事の速い男よ、貴様のような男すら使いこなせぬあの愚王には感謝しなければならぬな」

「光栄でございます」

「ふっ…どれ、貴様ほど賢い男であれば、使えるのではないか?勇者の力を…」

「な…私に、勇者の力を…ですと?」

ウルノーガのように、エルバから引きずり出したわけでもなく、勇者の生まれ変わりとして命の大樹に選ばれた存在でもない自分にそれを使えるとは思えない。

そんな彼の戸惑いを愉快に思いながら、ウルノーガは左手をホメロスに向けて伸ばす。

「今の我は命の大樹をも支配下に置いた。故に、勇者の力を授ける相手すら我が決めても、不思議ではなかろう。六軍王の長、ホメロスよ。貴様を我が勇者…いや、神殺しと認めよう」

「神殺し…」

「勇者などという希望の象徴はもはやこの世界にいらぬ。神をも葬り、我に抵抗する者たちに絶望を与える新たな象徴となるのだ、ホメロスよ」

ウルノーガの左手の痣が光るとともに、ホメロスの左手に淡い光が発生し、黒い勇者の痣が出現する。

そこから感じる力に冷静なホメロスも笑みを浮かべずにはいられなかった。

 

「ふううう…」

「ウフフ、中々二刀流もさまになってきたじゃない、エルバちゃん」

船内の修行場でエルバと模擬戦をしたシルビアは模造剣を棚に置いたシルビアは疲れを見せ、休憩用の椅子に座る。

「師匠が良かったからな」

「あら、うれしいことを言ってくれるじゃない。けれど、まだまだ本気を出したわけじゃないわよ?本気のアタシに勝てたら、もしかしたらウルノーガにも勝てるかもしれないわね」

「大した自信だな。ならば、今度は久々に俺と戦ってみるか?ゴリアテよ」

修行場にいつの間に入って来たグレイグがさっそく棚から模造剣と盾を手にして、座るシルビアを見る。

「まったく、人気者は辛いわね。けれど、ここで応じなければ、騎士とは言えないわね」

「ふっ…。ああ、そうだ、エルバ。お前にあずかりものがあるのだったな」

「預かりもの…?」

「師匠からだ。お前の剣のことを話していたら、この書物を預けてくれた」

懐から地面に刺さった2本剣のレリーフが刻まれた分厚い書物を受け取ったエルバはそのタイトルに目を通す。

「ロン・ベルク流剣術…?」

「師匠は二刀流にも通じていてな、ロウ様と共に旅をしているときに手に入れた書物だと聞く」

ロン・ベルク流はその名の通り、2本剣の使い手であるロン・ベルクという剣豪が書物にまとめた二刀流剣術だ。

彼については生没年はおろか、実際に存在したのかどうかすら謎であり、一説では魔族である、鍛冶職人であるという説まである始末だ。

そのため、彼が編み出したという剣術、ロン・ベルク流すらも使い手が彼と彼の一番弟子である人物から細々と伝わりはしたものの、今では使い手すらおらず、彼の唯一の存在の証であるその書物以外に何も痕跡が残らない忘れられた存在となっていた。

だが、若いころのロウとジエーゴが旅をする中でその書物を見つけ、それに興味を持ったジエーゴが修行のためにと持ち帰った。

二刀流に興味のあったジエーゴはその書物を元に修行をし、今では鬼神とまで言わしめるほどの剣豪になったもの。

「そんなものを、俺が持っていていいのか…?」

「ああ、勇者であり、二刀流を使うお前には必要なものだろう。だが、問題はロン・ベルク流の奥義だ。それについてはあの師匠ですら習得することができなかった。だが、仮にそれを習得することができれば…」

「ウルノーガに対抗できるかもしれない…か」

勇者の力を失った今のエルバにはとにかくそれに代替できる力が必要だ。

そんな彼にとって、習得できるかどうかはともかく二刀流の流派の存在は僥倖だ。

シルビアやカミュも二刀流を使ってはいるものの、シルビアは異なる武器を使っており、カミュについてはエルバと同じく我流だ。

「もちろん、俺も習得できるように力を貸す。まずは…」

「グレイグ様、エルバ様!!!」

修行場に突然2人の名前を叫ぶ兵士の声が響き、同時にドンと開いた扉から海水と血で濡れた兵士が飛び込んでくる。

「どうした!?」

「一大事です…巨大な魔物が進路を…!!」

「魔物…??」

「エルバ、ゴリアテ、手合わせはあとだ。行くぞ!!」

負傷している兵士に回復呪文を施し、近くの兵士に託したグレイグは真っ先に外へ飛び出す。

同時に激しい風と雨がグレイグの体に襲い掛かる。

「く…!だが、嵐になろうとインターセプター号であれば…」

嵐よりも問題なのは兵士が言っていた巨大な魔物だ。

もうすでにその気配を嫌というくらい感じていて、グレイグの視線は船の正面に門番のように構えるその魔物に向けられる。

甲板上には負傷した、もしくは魔物に討たれた兵士たちが転がっており、それを黒い巨体が見下ろす。

「フフフフ…命の匂い、まだまだ感じるぞ…」

「お前は…!!」

グレイグに遅れて甲板にたどり着いたエルバはその魔物を見た瞬間、その瞳に怒りを宿す。

自分を匿ってくれたムウレアを滅ぼしたウルノーガの手先。

「我が名な覇海軍王ジャコラ!魔王様より、この海を統べるよう賜った!!我が海を汚すザコどもめ…その命、魔王様のためにもらい受ける!!」

「おお…なんたる巨体じゃ!?それに…やはりエルバが言っていた通りか」

到着したロウの視線がジャコラの提灯部分に向けられる。

そこには奪われたオーブの1つであるレッドオーブが宿っていた。

「みなさん、何があったんです!?」

「カミュか…!?来てはならん!中に戻っておれ!」

「戻れなんて…ああ…!!」

ジャコラに宿るレッドオーブを見た瞬間、カミュの目が大きく開き、顔が青ざめていく。

同時に激しい頭痛が彼を襲い、膝をつく。

(兄貴…兄貴!!)

(助けて…お兄、ちゃん…)

「あ、あ、ああ…あああ…」

「カミュ様!!カミュ様、しっかりしてください!!」

カミュを追いかけてきたセーニャが異変を見せるカミュを支え、彼を連れて中へ戻ろうとする。

だが、急に船体が大きく揺れ、歩くことすらままならなくなってしまう。

「ぬううう…貴様なぞに構って居る場合ではないのじゃ。早々に、どいてもらうぞい!!」

「ほう…?」

大きく揺れる甲板の上で直立するロウをジャコラが鼻で笑う。

挑発めいた余裕だが、それをこの一撃で吹き飛ばす。

ロウは両手に魔力を籠め、グランドクロスを放つ。

十字架の光がジャコラの頭部に接触すると同時にさく裂する。

しかし、ジャコラの体が赤い障壁によって包まれ、彼自身の体には傷一つつけることができない。

「グランドクロスが効かぬじゃと…!?」

「グハハハハ!!魔王様より授かったレッドオーブの力を使っているにすぎぬ。この障壁を前にすれば、貴様らの攻撃なぞ、無力!!」

「ええい、ならば同じオーブの力を使うのみだ!!うなれ、真空!!」

パープルオーブから生み出されたネルセンの遺産たるグレイトアックスを振るうとともに、激しい真空の刃がジャコラを襲う。

その刃を受ける前に、ジャコラは海の中へと姿を消していく。

(避けた…??)

「貴様らを海の奥深くに沈めてくれよう!!」

ジャコラの死刑宣告と同時に、バリバリと激しい悲鳴がインターセプター号全体から響き渡る。

あの巨体と力を利用して、そのまま引き裂いたうえで沈めようというジャコラの魂胆が見え隠れする。

「く…無念だが、この船を捨てるしかない!全員、船から逃げよ!!全力で陸へ逃げるのだ!!」

グレイグの命令と同時にインターセプター号が真っ二つに割れていく。

世界最速の船としてデルカダールの象徴となるはずだったインターセプター号が容赦のない力の暴力によって、海の藻屑と化した。

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