ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

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第7話 勇者の力

「よし…!」

密林の中で、エルバはボウガンを放ち、ビッグハットを仕留める。

魔法使いの帽子をかぶったウリボウというべき魔物であるそのモンスターの肉は豚とイノシシの中間というべき味で、塩漬けし燻製にすれば保存食となる。

「よぉ、エルバ。食料を確保できたか?」

キャンプのための薪を調達したカミュはビッグハットを解体するエルバに声をかける。

「ああ…。肉だけなら。野菜はデクからもらったもので足りるから、大丈夫だろう?」

「よし、ならキャンプへ戻り、メシを食って英気を養うぞ」

2人は今、この密林の中にある木こり小屋のそばでキャンプをしている。

ナプガーナ密林はデクの言う通り、一度迷うと二度と出られないというほど木や植物で満ち溢れている。

おまけにここも神の岩と同じく、魔物が活発化しているようで、彼らの妨害のせいで中々進むことができない。

夕方になると、夜中と勘違いするくらい暗くなることもあり、キャンプを張りながらゆっくりと進むことを余儀なくされた。

2人の馬はキャンプの近くに待機させている。

一刻も早く、イシの村へたどり着きたいエルバにとってはこの上なく酷なことだった。

ビッグハットの肉が入った袋を握る手の力が強くなる。

「…焦るなよ、エルバ。必ずイシの村へたどり着ける」

そんな彼の思いを察したカミュは目を向けることなく言う。

彼の焦りは密林での戦いを見て分かった。

早期に倒そうと毒キノコに魔物の魂が宿って生まれたというおばけキノコに接近し、鋼の大剣で切り裂いたまではいいものの、風向きを見落としていたため、死に際に放った毒の霧を浴びてしまった。

おばけキノコの毒は元となった毒キノコのものを引き継いでいるのが特徴で、エルバが出した下痢や腹痛、嘔吐などの症状を見ると、カラハツタケが元になったと思われる。

毒消し草で治療できる毒であったため、大事には至らなかった。

彼を牢屋に入れたときのグレイグの話を聞かなかったわけではない。

しかし、焦りが再びその時のような事態を起こしてしまうことをカミュは理解していた。

「分かってる…わかってるさ…。俺が今、じたばたしたところで、あの状況を変えることができないってことくらい…」

キャンプにたどり着き、塩漬けの準備を始めたエルバはその場所の南にある崩れた木製の橋を見る。

この橋を渡れば、ナプガーナ密林を抜けてイシの村にたどり着くことができる。

しかし、エルバ達がここにたどり着いた時にはすでに崩れており、この橋の管理をしている人物が住んでいると思われる木こりの小屋にはだれもいなかった。

太い丸太を使って橋替わりにするという手段もあるが、エルバとカミュの2人だけでは無理な相談だ。

食糧調達のついでに別に道がないか探したが、見つけることができなかった。

「イシの村まで、あと少しだって言うのに…」

どうにもできないことへのストレスを少しでも和らげたいのか、エルバはキャンプに置いてある不思議な鍛冶セットの前に立つ。

そして、釜を開いてその中に道中で見つけた鉱脈から手に入れた銅の鉱石と澄んだ水を入れた。

ふたを閉じると同時にナイフのような形の熱した銅が金床に出てくる。

エルバは備え付けられている不思議なハンマーを手に取り、ナイフに向けて力いっぱい振り下ろした。

「ん…?何か、鳴き声が聞こえねーか?」

干し肉をナイフに刺して食べていたカミュは何かが聞こえたのか、口の動きを止める。

そして、聞こえないのか、それとも鍛冶に集中することで少しでもストレスを発散させたいのか、やみくもにハンマーを振るうエルバの右腕をつかむ。

大剣を獲物としているため、腕はカミュと比べると太くて力強いが、そんなカミュでも抑えることぐらいはできた。

 

カミュに連れられ、エルバは鳴き声が聞こえた場所へ足を運ぶ。

小屋の近くにある獣道を通り、邪魔になるツタを兵士の剣やナイフで狩りながら進んでいくと、そこには黒い子犬の姿があった。

「子犬…?母親犬はどうしたんだ??」

威嚇しないように、ナイフをしまったカミュは子犬の前で膝をつく。

どうして吠え続けているのかわからず、腹が減っているのかと勝手に判断した彼は懐に入れていた干し肉をナイフで切り、子犬の前に投げる。

それを見た子犬は切った干し肉ではなく、カミュの持っている本体の方に目を向け、飛びついた。

「あ、コラ!!」

油断していたカミュはあっさりと干し肉を取られ、子犬はよっぽどおなかがすいていたのか、バクバクと食べ始める。

「くっそぉ…盗賊が盗まれるなんて、シャレにならねえぜ…」

「何やってるんだ…」

カミュの不手際にため息をつくエルバは子犬がいた場所の隣にある金色の模様がついた木の根っこに目を向ける。

「これは…確か…」

エルバはイシの村にもあった根っこを思い出す。

それは今目の前にあるものとは違い、馬小屋の前の木に巻き付いていたもので、金色の不思議な模様がついていることから、彼の記憶に強く焼き付いていた。

小さいころ、エマと一緒にこの根っこが何なのかを調べたり、ダンに聞いたりしたが、命の大樹の根っこだということが分かったが、なぜ空に飛んでいる命の大樹の根っこがそこにあるのかはどうしてもわからなかった。

「あ…」

左手に何か疼きを感じたエルバは手袋を外す。

やはりというべきか、左手の痣が光っており、それに反応するかのように根っこの模様も淡く光っていた。

頭の中がざわざわした感覚がし、根っこから声が聞こえたように感じた。

「触れろ…って言うのか?」

「おい、エルバ!どうしたんだよ!?」

エルバはカミュの声を聞かず、根っこに触れる。

同時に模様と痣が強く光り始めた。

 

光が消えると、エルバとカミュの視界には木こりの小屋の前の光景が映し出される。

誰もいなかった小屋の中から緑色のフードと服を着た小さい中年の木こりが出てきた。

「ふあああーー…今日もええ天気だっぺ!今日も一日、頑張るっぺよー!」

ニコニコ笑い、パンを一口かじった木こりは伐採用の斧を手に取り、南に目を向けたが、同時に彼の手から斧がポロリと落ちる。

「な、な、なんでだっぺぇぇぇ!?!?」

彼の眼に映ったのは壊れた橋、ちょうどエルバとカミュがイシの村へ向かうために使おうとしていた橋だ。

「誰だっぺかぁ!?オラの橋を壊したのはー!?」

「キキーー!!面白かったぜー!次はどんないたずらをしてやろうか…キキー!!」

壊れた橋の前で、額部分に三角形の傷跡がある小さな紫色の悪魔が楽しそうに飛び跳ねていた。

洞窟や放置された遺跡の中で暮らすことの多いインプという小悪魔だと思われる。

「お、おめえか!?おめえが橋を壊したっぺかぁーーーー!!」

再び斧を手に取った木こりがインプの前まで走る。

ケラケラ笑うインプは指に青い魔力をためると、それを木こりに向けて発射する。

魔力を受けた木こりの姿が変わっていき、エルバ達が見たあの子犬の姿に変わってしまう。

子犬になってしまった木こりは動揺し、何かを言おうとしたが、キャンキャン吠えるだけで何も伝わらない。

「キキーーー!人間を犬に変える呪文、大成功だぜー!!さーって、次はここに来るかもしれない旅人にイタズラしちゃうぜー!」

インプは木こりの小屋に入り、その中にある箱を運び出す。

そして、小屋の裏側に隠すように置くと、自身はその中に入った。

そこまでの光景を見た後、再び光が発生し、エルバ達の視界を覆い隠した。

 

「い、今のは…!?」

光が消え、元の光景に戻るとカミュはエルバに目を向ける。

「わからない…。もしかしたら、痣とこの根っこが反応して…」

「ってことはつまり…この子犬は…」

干し肉を落とし、ワンワンと吠える子犬に目を向ける。

もしこの根っこから見えた光景が正しければ、この子犬の正体は木こりだということになる。

「そうなると、裏を調べれば…」

エルバ達は子犬と共に小屋まで戻っていく。

そして、小屋の裏側へ行くと、例の箱が置かれていた。

「あの中に魔物が隠れてるな…」

「あの呪文を使われたら厄介だ、メラで焼くか?」

「待てよ、そんなことしたら小屋に燃え移る。ここは…こいつの出番だ」

カミュは懐からひょうたん型の爆弾を取り出す。

「耳、ふさいでおけよ!!」

耳栓をした後で、カミュは爆弾を箱に向けて投げる。

箱の真上当たりで爆弾が破裂し、大きな音が鳴る。

「ギャーーーーー!?!?」

突然の音にびっくりしたインプが箱の中から飛び出し、頭を抱えて倒れこんだ。

耳栓をし、子犬の耳をふさいでいたエルバはカミュに目を向ける。

「一体、今のは…!?」

「音響爆弾さ。耳のいい魔物に使うと、気絶させることができる。ヘルコンドルやキメラの声帯と爆薬を組み合わせたのさ」

耳栓を外したカミュはインプを持ち上げる。

モロに聞いてしまったためか、目を回して気絶しており、口からは泡を吹いている。

「吹き矢といい、音響爆弾といい…かなり手先が器用なんだな」

「盗賊だからな。戦いに勝つための手段は武器や呪文だけじゃねえってことさ」

 

「うう、うーんうーん…」

「ようやく、目を覚ましたな」

1時間が経過し、インプが目を覚ます。

目覚めたインプは両腕を動かそうとするが、縄で縛られているせいで動けない。

正面にはエルバが見張るように座っており、その背後にはナイフを研いでいるカミュの姿があった。

「キキー!さっきの音を出したのって貴様らか!!よくも俺の…いたずらデビル様のいたずらの邪魔を!!卑怯だぞー!!」

「いたずらって…人間を動物に変えるとか橋を壊すとか、そんなのいくらなんでもやりすぎだろう?」

エルバの頭に浮かぶいたずらとしたら、落書きや驚かしなどの子供のやることだ。

しかし、目の前にインプ、いたずらデビルのやっていることは度を越している。

橋の破壊や人を動物に変えるとなると、もはや犯罪だ。

「キ…!?な、なんで俺様が橋を壊したことを!?」

「さあな。んじゃあ、まずはこの犬に変えられちまったおっさんを元に戻せ。話はそれからだ」

ナイフを研ぎ終えたカミュは子犬と共にいたずらデビルの前に出る。

しっかりと研いだおかげで、キラリと刀身が光っており、それを見たいたずらデビルは唾をのみ、何度も首を縦に振る。

「じゃ、じゃあ…今すぐ解除するから、手を…」

いたずらデビルは縛られた腕をカミュに見せて、解放を願う。

しかし、カミュは首を横に振る。

「なんでだキキーーー!!それだと、俺様魔法が使えな…」

「使えるだろう。インプは頭の触角からでも簡単な呪文が使えるんだ。知らねえとでも思ったか?」

「キキ…」

彼は縄をほどいてもらった後で、隙をついてエルバとカミュを子犬に変えて逃げようとたくらんでいた。

しかし、その呪文はまだ完成したばかりで、そのうえ使うとかなり魔力を消耗してしまう。

そのため、触覚から発動することができない。

ギリギリ発動できるとしたら、変化してしまった人を元に戻すくらいだ。

「キキ…くっそぉー!!」

観念したいたずらデビルは触覚から魔力を発射する。

魔力を受けた子犬は青い光に包まれ、元の木こりの姿へ戻っていく。

元に戻った木こりはびっくりしつつ、自分の顔や体に手を当てる。

「や、やった!!やったべ!!元に戻れたっぺー!!」

「キキ…元に戻したんだから、ここは見逃して…」

「待つんだ。今度は俺から提案がある」

「キ…?」

今まで沈黙を保っていたエルバが口を開き、ツーッと冷や汗を流したいたずらデビルは彼に目を向ける。

「壊した橋を直すんだ。自分のやったことの責任を取るために」

「いい提案だな、エルバ。そうだな…1日で直せねーか?」

「い、い、一日!?そんなの無理…いやいやいや、やりますやります!!ぜひ、やらせてくださいキキーー!」

カミュが首筋にナイフを当て、エルバは兵士の剣を抜いたのを見たいたずらデビルは顔を真っ青にしながら提案を受け入れる。

かなり危ない橋を渡ることになったが、それでも価値はあった。

向かい側の崖までの長さと崖の高さを考えると、橋を直すのにかなり時間がかかってしまう。

大工仕事に慣れている木こりでも最低でも4日かかり、それだと間に合わない。

「んじゃあ、さっそくやろうぜ。でも、妙な真似をしようとすんじゃねえぞ?そしたら、より強い音響爆弾を間近でさく裂させてやるからな?」

「ヒ、ヒィーーーー!!!!」

 

「そうそう!そうだべ!この部分をしっかり縄で結ぶんだべ!!ああ、そこのサラサラヘアーのあんちゃん!もう少し深く穴を掘るべ!それだと簡単に倒れるべ!!」」

鉋で木の表面を削りながら、木こりは2人と1匹に指示を出す。

さすがにいたずらデビルの加勢だけでは1日で橋を直すことができないため、エルバとカミュも加勢することになった。

木材に関しては山ほどあり、木こりも何度も橋を作ったり直したりしていたことから、手筈ははっきりとしていた。

木こりの指示に従って穴を掘ったエルバは木槌を使い、木材を深く穴に突き刺していく。

カミュは斧を借りて、木こりの代わりに伐採し、いたずらデビルは崖下へ縄を使って加工した木材を下す。

破壊されたとはいえ、まだまだ無事な部分も残っていること、そして4人がかりでやっていることから、カミュの言う通り、1日で直し終えることができそうだ。

「ふいー、久々の仕事で少し疲れたべ、少し休憩するだよー!」

ニコリと笑った木こりが大きな鍋を用意し、牛乳や野菜、キノコなどを家から持ってくる。

「お、もしかしてシチューか!」

「んだ!急いで作るべから、手伝うだよー!」

 

「どうだべ?エプラーナ密林の自然が詰まったこのシチューは!」

「うめえ…うめえぜ、おっさん!!お代わり、あるか!?」

「んだんだ、しっかり食ってしっかり働くべ!」

あっという間の一皿食べ終えたカミュは鍋へ向かい、お代わりのシチューを入れる。

木こりはこの密林で自給自足の暮らしをしているようで、野菜ときのこはすべて自分で栽培している。

肉はビックハットなどの魔物や動物の肉を使っており、塩と魚はさすがに手に入らないため、南東部にあるデルタコスタ地方へ行き、漁師との物々交換で調達している。

「いやー、助かったべ。まさかオラを元に戻してもらえるだけじゃなくて、こうして橋の修理まで手伝ってくれるべから」

「…俺たちも急ぐ理由がありますから」

シチューを口にしたエルバはペルラとエマのことを思い出す。

肉が入るのは珍しかったが、いつも山盛り作ってくれて、食べているときは嬉しそうに見ていた。

エマがペルラから教えてもらい、初めて作ってくれたシチューは具の大きさがまちまちで、おまけに焦げたりしている部分もあり、味付けも失敗していたためか、ペルラのそれと比較するとかなりまずかった。

しかし、彼女の手には包丁の切り傷や火傷の痕がたくさんあり、どれだけ頑張って作ってくれたのかは伝わった。

木こりはもう1つの空の皿にシチューを入れると、崖下を眺めながら座り込んでいるいたずらデビルの元へ向かう。

「ほら、おめえさんも食え」

「…お、俺様は…人間の作った食べ物なんか…」

顔を背け、強がりを言ういたずらデビルだが、体は正直で、おなかの音が鳴る。

「ほら、腹が減ったらなんもできんべ。大丈夫だ、毒なんて入れてねえべ」

「…」

木こりからシチューを受け取ったいたずらデビルがガツガツと急いで食べ始める。

口の中の具を咀嚼し、ごくりと飲み込む。

「…うま…い…」

口元を真っ白にしたいたずらデビルの眼に涙が浮かぶ。

食べれば食べるほど、涙の粒が大きくなり、やがて我慢できなくなったのか、大声で泣き始めた。

「大変だっただなぁ…」

「うる…さい!」

泣いているいたずらデビルだが、憎まれ口は相変わらずだった。

 

シチューを食べ終わり、食後のお茶を飲む中、輪に入ったいたずらデビルが木こりに頼まれ、身の上を話す。

「…1カ月くらい前まで、俺様は近くにある洞窟で暮らしてた。俺は…群れの中では落ちこぼれで、さっきみたいな人を何かに変える呪文だって、あいつらには簡単に使えた…。馬鹿にされることはあったけど、俺様…みんなと一緒にいるのが楽しかった。けど…」

インプは1か月前に起こった出来事を思い出す。

いつものように、修行を兼ねて旅人を脅かすために草原に出たのだが、その時のほかのインプたちの様子が違っていた。

旅人を探す眼はまるで獲物を求める肉食獣のようで、それが彼にとって恐ろしかった。

そして、荷馬車で移動する旅の商人をインプたちが見つけた後に起こったあの事件が今も彼の心の強く焼き付いている。

一斉にインプ達はその商人を襲い、いたずらをするどころかリンチをして馬もろとも殺してしまった。

おまけにその死体を骨や内臓までバリバリと食べ、喜々として笑う彼らを見ていられなくなり、群れを出ていった。

しかし、落ちこぼれであり、普通のインプなら使えて当たり前のジバリアやホイミすらろくに使いこなせない彼はこの密林に隠れるように暮らすようになった。

そして、そんな自分の非力さとトラウマを忘れたくて、このようないたずらを繰り返していた。

「魔物の凶暴化…。じゃあ、なんでお前はそのインプ達のようにならなかったんだ?」

「わからない…。多分、俺様が落ちこぼれで、ほかの奴らよりも弱かったからかも…」

いたずらデビルの答えが正解だとはエルバは思えなかった。

たとえ落ちこぼれであったとしても、合体できないスライムやズッキーニャなど、彼よりも弱い魔物はほかにもたくさんいる。

彼らは凶暴化しているため、それが答えとは到底思えない。

(魔物の凶暴化…もしかして、何か恣意的なものが働いているのか?)

「にしても、まさか痣とあの根っこが共鳴して、過去の光景が見れるなんてなぁ…」

手袋に隠れたままのエルバの左手の痣を見たカミュは不思議そうに見る。

勇者の奇跡、という非論理的なものを信じている彼でも、今回のような出来事には驚きしかない。

「根っこについて…昔、死んだじいちゃんから聞いたことがあるだ」

「それは…どんなことを!?」

気になったエルバは立ち上がり、木こりに詰問する。

突然の動きにびっくりした木こりだが、深呼吸して落ち着きを取り戻した後で話し始める。

「あの根っこが大樹の根って呼ばれていて、話によるとそれには思いの記憶が宿ってるらしいだ」

「ってことは、その思いの記憶を俺たちは見たってことか?」

「んだ。言い換えれば、過去だ。でも、それを見るには選ばれし者が根に触れる必要があるって聞いただ。まさか、その選ばれし者がそのサラサラヘアーのあんちゃんだとは思わなかっただ」

「…」

選ばれし者、という言葉を聞いたエルバの表情が曇る。

脳裏に再び悪魔のこと呼ぶデルカダール王の声がよみがえってしまう。

「キキ…まさか、それで俺様のいたずらの手口がばれたってこと!?」

まさかの種明かしにいたずらデビルはびっくりする。

過去を見ることができるなんて、聞いたこともない。

しかし、そうだとしたら、先読みしたかのようなカミュの音響爆弾による先制攻撃について説明がつく。

「大樹の根…。もしかしたら、それがこれからの道しるべになるかもな。覚えておこうぜ」

「ああ…」

丸太に座り、シチューを再び口にしたエルバはイシの村にある大樹の根のことを思い出した。

幼いころにエマとそれについて調べた際に、触れたことを覚えているが、その時は何も反応がなかった。

痣があるからと言って、いつでもそれが見れるというわけではないようだ。

 

「世話になっただなぁ!この橋を渡って、その先にある道に沿って進めば、密林を出ることができるだよ」

南側にあるナプガーナ密林の簡単な地図が書かれた紙が木こりからフランベルグに乗るエルバに渡される。

いたずらデビルについては、このまま木こりのもとに残って、彼の手伝いをして暮らすことになった。

「世話になったな、おっさん。シチューうまかったぜ」

「行こう、カミュ。もう時間がない」

地図をしまったエルバはフランベルグを走らせる。

「おい、エルバ!!ったく…じゃあな、おっさん!達者で暮らせよ!」

エルバを追いかけるように、カミュも馬を走らせる。

2人の後姿を1人と1匹は姿が見えなくなるまで手を振り、見送っていた。

「エルバ…気持ちは分かるけどよ、せめてあいさつを…」

隣を走るカミュの注意に耳を傾けることなく、エルバは胸にあるお守りに手を当てる。

そのお守りをくれたときのエマの姿を思い出す。

(エマ…ペルラ母さん…みんな…待っていろ)




ナプガーナ密林
デルカダール城南西部に位置する秘境。
高温・高湿度によって育った大量の植物にあふれており、一度迷うと二度と出ることができない迷宮という側面がある。
この密林には木こりが1人で暮らしており、彼が道や橋のメンテナンスをしていて、彼がいなければ、遭難者が続発していただろう。
なお、彼の元で暮らしているインプによる曲芸が家の前で行われており、密林の新しい名物となっている。
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