「ふっ…勇者め、泡を食っているな」
天空魔城で、水晶玉からエルバ達の戦いを見ているウルノーガがワインを飲み、薄ら笑みを浮かべる。
今、エルバ達が戦っている魔物たちはいずれも本来なら使えるはずのない上級呪文や特技を使っている。
「ふっ…ウルノーガ様の研究は確かに効果があります。これでは、さすがの勇者も苦戦は必至でしょうな」
「アラクラトロは惜しい魔物であった。まだまだ我が教えた術法を進歩させることができなかったのだからな」
魔物たちが飲んだ薬はいずれも変異呪文モシャスの魔力だ。
モシャスは対象の生物の姿に変化させることのできる古代呪文で、高い魔力を持つ人物ならば、他人にモシャスをかけることもできるという。
だが、モシャスは姿を変えるだけでなく、その対象の能力や技術をも擬態することができる。
魔物たちはモシャスの中から、能力と技術の擬態のみを反映させている。
そして、その対象となっているのは当然、囚われている闘士たちだ。
「哀れなものだ。おとなしくウルノーガ様に服従するという選択肢を選べば、利用されることはなかっただろうに…」
「だが、闘士たちの血からは侮れん。故に、利用するだけだ」
この薬と比較すると、かつてある魔物が研究した超魔生物はあまりにも非効率だろう。
ありとあらゆる魔物の長所のみを取り出し、移植手術を行うことで生み出す合成獣だ。
自然の摂理に逆らう進化ともいえるもので、その生物が絶命した場合、灰化して消滅する。
そして超魔生物は無敵ではなく、移植手術についても拒絶反応を一回でも起こすと被験体は死亡するため、それを起こさないように特殊な薬品の中に入れる、もしくはマホイミを唱え続けなければならない。
おまけにたとえ成功したとしても、本来の自然ではありえない体の変化そのものに追いつけなくなり、寿命を大幅に縮めてしまうらしい。
そのため、超魔生物については細々と名前が魔物たちの中で語られるだけで、化石も遺体も存在しないことから、その全容はいまだに明らかになっていないという。
ウルノーガからすれば、超魔生物は非効率の賜物だ。
「さて…勇者よ。どんな戦いを見せてくれるか…?」
「あの動き…思い出すわねえ。仮面武闘会を!!」
アンクルホーン2匹が両手に生み出した魔力のブーメランが飛んできて、それをシルビアが女王の鞭で守る。
その動きはまさしく、レディ・マッシブの相棒であるマスク・ザ・ハンサムそのものと言える。
武闘会が終わってからも、来年のための鍛錬を怠らなかったのか、その時よりも動きは洗練されており、時折ブーメランを投げるタイミングをずらしても来ていた。
「くうう…!なんて重量、だ…!!」
マルティナに標的から外されたグレイグが相手をしているのは2匹のゴーレム。
2匹が上空へ飛びあがり、背中合わせで手を繋ぎ、回転しながらグレイグの真上に向けてヒップアタックを繰り出してくる。
実況からはキングスライム級の肉体と称されたガレムソンとベロリンマン。
それに匹敵する重量があるゴーレムが同じ技を繰り出して来て、さすがのグレイグも両手でデルカダールの盾を構えて受け止めなければならなくなった。
足元の床にひびが入り、体から悲鳴を上げるほどの一撃にグレイグはギリギリと歯ぎしりをたてる。
「おのれ…!!純粋に強さを求める闘士たちの力を悪用するなどとは!!」
「シルビアさん、グレイグさん!!」
シルビアやグレイグだけでなく、エルバ達も闘士たちの力を手にした魔物たちに苦戦している。
かつて、エルバがハンフリーと手を組んだ2VS2で戦い、勝利した闘士たちだが、その数は何倍、何十倍にも増している状態で、激戦を潜り抜けたエルバ達ですら苦戦せざるを得ない。
セーニャも直接戦闘に加わることはないものの、度重なる回復呪文で疲れを見せ始め、攻撃の余波を受けることも少なくない。
「くそ…!俺はどうしたら…!?」
激しい戦闘の中、カミュには自分が何をすればいいのかわからなくなっていた。
獲物のナイフを握ったとしても、相手やエルバ達の動きに目が追い付けず、あたふたすることしかできない。
「カミュよ、頼みたいことがある!」
その中で、ロウがカミュに向けて麻袋を投げてくる。
受け止めたカミュは驚いた様子で彼を見つめる。
「このフロアの周りの床に中のものを刺して回るのじゃ!円ができるように!!盗賊のおぬしの足が頼りじゃ!!」
「ロウさん…でも…」
「おぬししかできぬことじゃ!!終わったら、音響玉を投げて知らせてくれ!!」
言っていることの意味が分からず、カミュは後ろに下がりながら麻袋の中を見る。
中身は十数本のゴールドフェザーで、それの使い方については旅の中でロウから説明されている。
(ロウさんは賢者…。これを使って、突破口を開くつもりなんだ!)
「さて…ハンフリーからのもらい物を使うとしよう」
ロウは普段使っている鉄の杖を背中に戻し、炎の爪を装備する。
逆転するには、魔物たちを強化している存在を排除する必要がある。
(じゃが、全体を巻き込まねばならぬ。うまくいけば、これで姫も…)
ゴールドフェザー1本で増幅できる破邪力には限界がある。
だが、円陣を組むようにゴールドフェザーを複数本設置することができれば。
「はああああ!!」
そのためにも、可能な限りカミュから注意をそらさなければならない。
炎の爪を装備したロウはまずはベギラゴンを放つブラッドレディに斬りかかる。
「魔物ども!このグレイグが相手だ!魔軍司令ホメロスにこの首、渡せば手柄となろう!!」
グレイトアックスでデルカダールの盾を叩き、魔物たちの注意を自らに向ける。
グレイグの言葉に反応したのか、今交戦しているゴーレムだけでなく、複数の魔物が一斉にグレイグに襲い掛かる。
「グレイグの首は俺のものだーー!!」
「何言ってやがる!?グレイグの首を持っていけば、ホメロス様の軍に入れてもらえる!もうブギーのところは嫌なんだよぉ!!」
「お前ぇえええええ!!」
手柄を独り占めにしようという魂胆が感じられたシャドーサタンに怒りを覚えたアンクルホーンがあろうことか上級火炎呪文メラゾーマを味方であるはずの彼に向けて放つ。
本来なら、マグマに匹敵する火力のそれで消し炭となるはずのシャドーサタンだが、モシャスによって強化されたその肉体のおかげか、大けがを負うものの消し炭にならずに済んでいた。
「味方を攻撃するのか、貴様ぁ!!」
「ふむ…どうやら、ここの六軍王はあまり人望がないみたいじゃのぉ」
グレイグの首を独り占めすべく、魔物たちによる同士討ちが始まっていた。
口々にブギーではなく、ホメロスの元へ栄転したいという気持ち、ここにこれ以上いたくないという思いを解放していた。
みじめな内乱を起こす魔物たちだが、その魔物たちの首過ぎを冷たい風が通り過ぎる。
再び広場には長刀を手にしたマルティナが飛び降りていて、彼女が立ち上がった瞬間、ゴトリと数匹の魔物たちの首が血しぶきと共に落ちる。
「まったく、ブギー様に逆らうつもりで戦うなんて、なんて愚かなの?ほかに、逆らいたい人がいるなら…どうぞ?切り落としてあげるから。脚なんて、もったいないでしょう?」
マルティナの冷たい視線を受けた、他の生き延びた魔物たちはおびえた表情を見せる。
「さあ…グレイグもそうだけど、あんたを殺してもいいかもしれないわねえ、エルバ」
マルティナの長刀の矛先がエルバに向けられる。
「エルバ、生き延びてくれたのはうれしいけれど…正直、あなたへは憎しみがいっぱいなの」
「憎しみ…?」
「ブギー様の命を狙うこともそうだけれど…あなたさえ生まれていなければ、私は幸せに暮らせたのよ。デルカダールの王女として。お父様と離れ離れにならずに。それに、あなたが生まれたせいでアーウィン様も、エレノア様も死んで、世界中の人が大勢死んだ。わかってるの?」
カツカツとエルバも前へ歩いていくマルティナの長刀の刃がエルバの左胸部分に軽く当たる。
「エルバ!?な…何をしておる!?なぜ動かぬのだ!!」
「だから、せめてあなたはウルノーガ様が世界を制したあの日に死ぬべきだったのよ。それが、私や大勢の人の未来を狂わせた償…!?」
口角を釣り上げ、エルバの古傷をえぐるようにしゃべるマルティナの口が急に止まる。
彼女の視線は長刀に向けられ、刀身が右手でつかまれていた。
その手には力が込められており、ボタボタと血が流れる。
「ああ…そうだ。俺が…勇者として生まれた俺が大勢の人の未来を、世界を狂わせた。ユグノアも、父さんも母さんも…マルティナの未来さえも…!!!」
自分を信じて、命を繋いでくれたアーウィンとエレノアには申し訳ないが、やはりその罪悪感がエルバの心に深く焼き付いている。
そして、自分が数えきれない屍の上に立っていることを実感させる。
「俺のせいで…大勢が死んだ。だからこそ、俺が立ち止まれない。ウルノーガを倒し、世界を平和にするまで、歩みを止めるわけにはいかない!!」
「ぐう…!!」
「戦い続ける!!それが、俺の贖罪だ!!」
右手に新たに宿った勇者の痣が光った瞬間、バギンと耳をつんざくような音が響くとともに、長刀の刀身が砕け散る。
人間の手で砕けた長刀に動揺するマルティナにエルバは真っ赤に染まった拳を握りしめる。
「いい加減目を覚ませ!!マルティナぁ!!」
エルバの拳がマルティナの頬に叩き込まれると同時に激しい音がカジノを包み込む。
マルティナの顔を殴ったことに驚くロウだが、その音で正気に戻った。
「準備ができたようじゃ!!ならば!!」
近づいてくるアンクルホーンを中級暗黒呪文ドルクマで沈めた後で、ロウは両手の爪に魔力を注ぎ込む。
マルティナ本人は魔物に操られているなら、マホカトールで救い出すことはできるだろうが、他の魔物たちはただ呪文で強化されているだけ。
そして、その呪文が邪悪な力によるものでなく、自然のものであるなら、マホカトールでは解除できないだろう。
だから、ニマとの修行の中で、もう1つ技を習得している。
「黄金色の輝きの元、魔力よ…消し去るがよい!!ゴールドフィンガー!!」
黄金に輝く爪が地面に突き刺さり、同時にカミュが設置したゴールドフェザーが次々と光り始め、それぞれが光りの柱を生み出していく。
光の柱同士とロウが突き立てた爪が線でつながっていき、それが巨大な魔法陣へと変わっていく。
「何…これは!?この光は…!?あああああああ!!!」
「むおおおおおおおおお!!」
増幅されたゴールドフィンガーの力がカジノを包み込んでいき、光を浴びたマルティナの紫の肌が元へ戻っていくと共に意識を失う。
魔物たちも、急激に力を消し飛ばされた影響のせいか、バタバタと倒れていき、気を失ってしまった。
「はあ、はあ、はあ…どうじゃ、うまく、いったようじゃな…」
「じいさん!?」
「ロウ様(さん)!!」
ハアハアと息を荒らげるロウの元にエルバ達が駆け寄る。
心配させないためにウインクをし、ピースを見せるロウだが、やはり高齢な彼にこれほどの無理はたたっており、疲れ果てた様子を見せる。
「助かったぞい、カミュよ…。おかげで、魔物たちを止めることができたうえに、姫も元通りじゃ…」
肩で息をするロウはシルバーフェザーを手に取り、左腕に差す。
痛みはするが、その中にある並みの魔法使いの2,3人分の魔力を一挙に回復させることができる。
本当ならそれで疲労も回復することができればありがたい話だが、生憎今の世界には疲労回復の呪文はない。
ホイミなどの回復呪文で疲労を回復できると考えた旅人もいたようだが、負傷している人間に対してはともかく無傷の人間に回復呪文を唱えることは推奨されない。
魔力の無駄遣いになるうえに、過剰な回復力によって逆に肉体に負担がかかって疲労が増すなんてことになる。
それでもかけ続けたらどうなるかの結果はマホイミが教えてくれる。
「困りますなぁ、お客様方、うちのナンバーワンディーラーだけでは飽き足らず、店員までいじめてんもらっちゃあ…」
どこからともなく、魔物の声が響き渡る。
魔物の居場所を探すべく、気絶しているマルティナを中心に円陣を組んで周囲を見渡すが、魔物の気配はない。
あるのは気絶している魔物たちだけ。
「ここだよここ、こ・こ・だじょーーー!!」
「これは…全員伏せろ!!」
何かに気付いたグレイグの叫びと共にエルバ達は伏せる。
そして、その少し後で真空の刃がエルバ達の上を通り過ぎた。
「くううう…おっしぃーーー。あとちょっとで首がちょん切れたのにぃー」
ヒューンとどこからか緑色の物体が落ちて来て、地面に着地すると同時に薄緑色の脂肪であふれた腹が大きく揺れる。
ミスター・ハンが言っていた、ガマガエルのような魔物だとエルバはそれを見ると同時にわかった。
紫の長ズボンに赤い肩掛けをした、アラビア風の衣装姿をした3つ目のカエル。
悪魔の象徴である角を2本生やし、首にはグリーンオーブがついたネックレスがぶら下がっている。
「泣かした女は数知れず…最強のキングオブモンスター!!妖魔軍王ブギー様だじょーーー!!」
「貴様…!よくも闘士たちの思い出の詰まった闘技場を破壊してくれたな!!そして、姫様までも…」
「ぎょぎょーーー!!ボクちんのかわいい子猫ちゃん、かわいそうに…待っててよ、ボクちんが華麗に助けてあげるからねー」
「聞いちゃいない…おまけに、あいつ…」
マルティナを殺さず、操って手駒にしたのは人質か、エルバ達の精神的なダメージを狙ったものとばかり思っていた。
だが、ブギーの言動や戦う前に言っていたマルティナのブギーへの依存ともいえる忠誠心。
まさかとは思うが、ブギーはマルティナに惚れてしまい、どうにかして自分のものにしようとしていたのかもしれない。
「ボクちんのマルティナを取り戻そうなんて無駄無駄。ボクちんの力で、マルティナをナイスバディな魔物にして、ボクちんの忠実なしもべにしたからねーん」
笑いながらブギーはエルバ達を倒した後のことの未来を頭に浮かべる。
まずは10年しっかりと交換日記を続けて、それから自分とマルティナのことをホメロスやウルノーガにエルバを倒した手柄と一緒に報告する。
それでしっかり結婚を認めてもらい、このカジノで挙式する。
それからはマルティナと2人で暮らして、子供も作っていく。
そんな幸せな未来を創るために、エルバを倒す。
「マルティナちゃんを魔物にした…ということは、もしかして…!?」
「そうだじょー!!人質に取った奴らはみんな魔物にしてやったんだじょ!!ま、弱っちくて使い物にならないから、戦いには参加させてない。ああ、なんて優しい王様なんだじょ、ボクちんはー!!」
その代わりに、従業員とするために今は徹底的に教育をしている最中だ。
将来的に、ここを中心として各地にカジノを作ったときに、そこへ派遣する。
世界ブギーカジノ計画推進のための力になってもらうのが、魔物にした人間の最も有効な活用法だ。
「さあてっと…さすがのボクちんでも、この場所じゃあうまく戦えないじょー。こんな魔法陣を使ってくるなんて無粋だじょ。だ・か・ら、こうするんだじょ!!」
ヘラヘラと笑うブギーはグリーンオーブを撫で、それに宿る力を解放する。
緑色の光が魔法陣に侵食していき、その光が徐々に失われていく。
「こ、これは…ゴールドフィンガーの力が失われておるじゃと!?」
ゴールドフェサーの力で増幅されているはずのゴールドフィンガーの魔力がみるみるとグリーンオーブを介してブギーの体内へと吸収されていく。
魔力を吸収していくブギーの体もまた、緑色のオーラに包まれていく。
「グフフフフフ!どんどんボクちんに魔力が来る!みなぎってくるーーーー!!!」
1分も立たずにゴールドフィンガーから魔力が失われる。
それと同時に、セーニャが急に体をふらつかせ、倒れそうになったところをカミュが抱きかかえる。
「セーニャさん、いったいどうしたんですか!?」
「カ、カミュ様…なんだか、体から力が抜けて行って…」
「なんじゃと…まさか、これは…!?」
ロウもまた、徐々に力が抜けていく感覚がして、足取りも重くなっていく。
「くっ…まさか、俺たちの魔力まで奪い尽くすつもりか…!?」
「当たり前だじょ!!どんどん魔力を吸い取って、ボクちんの力にする!!これこそがグリーンオーブの力だじょ!!」
ブギーにとっての誤算なのは、ゴールドフィンガーの存在で、もしそれがなければ、周りで倒れている魔物たちに宿ったモシャスの魔力も吸収するつもりだった。
闘士たちの技量をコピーしたその魔力をも取り込むことで、真のキングオブモンスターとなれたはずなのに。
「厄介ね…これじゃあ、呪文なんてろくに使えないわ!!」
「ならば、力と技で押すのみだ!!」
豊富な魔力を持つセーニャとロウにとってはこのグリーンオーブの魔力吸収は致命的だが、肉弾戦が主体のグレイグやシルビアにとっては体が若干鈍くなる程度で大した問題はない。
魔力に関してはメンバーの中では中間くらいのエルバも同じだ。
「いくぞ!!」
大量の魔力を蓄積し、自慢げに笑うブギーめがけて、3人が突撃する。
キングブレードとグレイトアックス、魔剣士のレイピアがぶつかるが、その刃はいずれも緑色の分厚い魔力でできた膜によって衝撃が吸収されていた。
「これは…!?」
「ありがとうだじょ、いい一撃だじょ!!おかげで…ボクちんの肉体は無敵になったって証明されたじょーーー!!」
「エルバ!!ゴリアテ!!」
大笑いするブギーの右拳が襲い掛かり、グレイグはデルカダールの盾を構える。
盾で受け止めたことで、拳そのものの衝撃が2人に及ぶことはなかった。
だが、魔力によって強化された拳の一撃はデルカダールの盾を大きくへこませ、グレイグもまた吹き飛ばされ、壁にめり込むようにぶつかってしまう。
「ぐう…これは、この一撃は…!?」
「ふうう…まだ生きてるなんてすごいじょ!あとは…これも、やってみるんだじょ!!」
「くそ…!こいつ、なんて強さだ!?」
グレイグを治療しようにも、肝心のセーニャもエルバも魔力が枯渇しつつある状態で、回復呪文を使える状態ではない。
今は無尽蔵ともいえる魔力を宿したブギーの独壇場だ。
「ならば、魔力を回復して少しでも…な!?」
シルバーフェザーを手に取るロウだが、それを見た彼の目が大きく開く。
蓄積されていた魔力が緑色の光となってグリーンオーブへと吸収されていて、ほとんど魔力が残っていない状態だった。
「くう…これでは、焼け石に水ではないか!!」
「グフフフフ!!いい道具でも、封じたら怖くないんだじょ!さあ、こんなに魔力をプレゼントしてくれたお前らにお返ししてやるんだじょ!!」
右手人差し指を揺らすとともに、指先に火球が生まれる。
そして、火球は人差し指だけでなく、右手にある5本指すべてに1つずつ生まれる。
「さあ、見るがいいじょ!これがキングオブモンスターの必殺呪文!!フィンガーフレアボムズ!!」
指から離れた火球がメラゾーマ級の巨大なものへと膨張し、エルバ達に襲い掛かる。
5つの火球が炸裂し、エルバとシルビアは炎に包まれながら吹き飛ばされてしまう。
「ぐああああ、くぅ!!」
「これは、しんどい、わね…!!」
「エルバ様!!シルビア様!!」
肉の焦げる匂いを感じるエルバはどうにか立ち上がり、今の状況では役に立たないキングブレードを地面に差し、腰に下げている水竜の剣を構える。
その間にも、ブギーは左手の5本指にメラゾーマを宿していた。
「く…2発目??」
「これだけの魔力なら、あと100発なら余裕だじょ」
せせら笑いながら、2回目のフィンガーフレアボムズがエルバ達を襲う。
盾になるべきグレイグはあまりにも離れすぎている。
炎がエルバ達5人を襲いかかる。
「グフフフフフ!!ボクちんのマルティナを奪おうとした報いだじょ!しっかり焼いてやるんだじょーーー!!うん…??」
聞こえてくるはずの叫び声が聞こえず、ブギーの笑い声が止まる。
炎の中では、ロウがマジックバリアを発動し、エルバ達をバリアで守っていた。
「む、ぐうううう!!人の魔力で、遊ぶで…ないわぁ!!」
なけなしのシルバーフェザーで魔力を回復させつつ、どんどん魔力を奪われることを承知の上で全力でマジックバリアを唱え続ける。
メラゾーマ5発分の炎が集結しているため、燃焼する時間も長く、あとどれだけ持つかわからない。
「そんななけなしの魔力よりも、フィンガーフレアボムズの炎が勝つじょ!!お前らはこれで、終わりだじょ!!」
(ぐうう…エルバ、これで…これでいいんじゃろう!?)
ロウ自身、これ以上この戦闘では力にはなれないことは分かっている。
だから、できることは託すことであり、勝利への道筋を作ること。
エルバは右手に水竜の剣を握り、炎が消えるときを待つ。
両手の勇者の痣が光り、その光がエルバの前身を包む。
「あーーーー、まだ持つなんて、生意気だじょ!!もう1発、食らえだじょーーー!!」
今度は手加減なしと言わんばかりに、両手の指10本でフィンガーフレアボムズを仕掛ける準備をする。
今までのものがかわいく思えるくらい、念入りに魔力を両手に注ぎ込んでいく。
そして、炎が消えかけたのと同時に両手でフィンガーフレアボムズを放った。
マジックバリアのない彼らなら、この炎で骨すら残らないくらい焼けるだろう。
その光景を想像するが、ブギーは次の光景を見た瞬間、その表情を凍り付かせた。
一直線に飛んでくる10個のメラゾーマをあろうことか、エルバ1人がすべて受けていた。
圧倒的な火力で若干のけぞりはするものの、エルバ本人にはダメージはない。
エルバはそのまま一歩一歩、ずしりずしりとブギーに向けて一直線に進んでいく。
(エルバ…その技は…)
グロッタへの度の中でエルバが読んだロン・ベルクの本。
その中にあった、片手剣1本で放つ技。
闘気を体全体と剣に向けて放ち、敵の攻撃を避けずに受け止めながらも最小限のダメージとともに前進する。
まさかの前身に焦るブギーはメラゾーマを連発するが、フィンガーフレアボムズさえ防いだエルバには大したことはない。
この状態なら前進できるが、闘気も魔力と同じく無限にあるものではない。
疲労し、呼吸が乱れることで闘気も弱まり、隙ができてしまう。
そんな闘気を全開にしながら進むため、この状態を維持できる時間は短い。
その間に懐に飛び込み、なおかつ剣に宿った闘気と共に強烈な一撃を最小限の動きを決める。
これがロン・ベルク流一刀流奥義、不動明王剣。
別の流派ではあえて武器を手放して、自らの闘気を消すことで相手の攻撃を冷静に受け流し、隙を晒した相手に必殺技を打ち込む捨て身のカウンター技も存在するが、それとは真逆の技ともいえる。
それと比較すると、飛び道具を使う相手にも対抗できる技ではあるが、呼吸と相手の位置を最大限注意しなければならず、それ故に基本的には歩いて接近する形になる。
そして、その時に体を覆う闘気が自分の肉体以上の虚影を作り出し、それが人によってはホムラの里で信仰されている神の一人である不動明王に似ていることからその名前が付けられたらしい。
実際、ブギーは目の前にエルバが自分以上の巨人と錯覚し始めており、攻撃を繰り返しながらも足がすくんでおり、後ずさりはすれど走り出すことができずにいる。
エルバの場合は勇者の力を代用しているが、その効果は変わりない。
「死ね!!死ね!!死ねぇ!!!!」
次々とメラゾーマやバギクロス、フィンガーフレアボムズを放つがもう恐怖のあまりに魔力のコントロールが不完全になっていて、その威力も不安定になっている。
それが救いとなり、命中しながらも無傷か軽傷で済んでいる。
そして、エルバはブギーに肉薄する。
「ひぃ!!」
「おおおおおお!!!」
水竜の剣をブギーに突き立てる。
肉薄し、残った勇者の力を最大限刃に宿した一撃であっても、ブギーの魔力の鎧を貫き、致命傷を与えることはできない。
だが、その刃がネックレスを切り、グリーンオーブが宙を舞う
「げぇ!!」
「カミュ!!」
「は、はい!!」
宙を舞うグリーンオーブをカミュが大きく跳躍してつかむ。
グリーンオーブがブギーの手から離れたことで、無尽蔵の魔力吸収が行われなくなった。
「グギギギギギギ!!よくも、よくもよくもよくもよくも、ウルノーガ様から授かったボクちんのグリーンオーブをおおおお!!」
青筋を立てて激昂するブギーが無防備になっているエルバに向けて拳を叩き込もうとする。
エルバ本人は勇者の力の使い過ぎで疲れ果て、身動きが取れなくなっていた。
拳がエルバに叩き込まれ、倒れたエルバを中心にクレーターが出来上がる。
「ぐう、かはあ…!!」
「調子に乗りやがってぇ!!ボクちんは、ボクちんにはなぁ!!グリーンオーブとカジノがすべてなんだ!!もう誰にも馬鹿にさせねえ!!もう誰にも、醜い腐った野郎だと笑われねえ!!そのための力を!!ウルノーガ様に認められたんだよぉ!!選ばれたんだよぉ!!それを…それをお前はああああ!!」
こうなったら、じっくりとなぶり殺してやる。
残った奴らも魔力回復に長い時間がかかり、自分にはまだまだ魔力が満ちている。
ならば、その後で彼らをあの世へ送っても、問題ない。
「くそ…!エルバを助けなければ」
「無茶ばかりしおって、もっと自分を大事にせえ!!」
「助けるわよぉ!!」
まだまだ動けないロウとセーニャを置いて、グレイグとシルビアがブギーの元へ向かう。
「う、うん…ここは…?」
「おお、姫…目を覚ましたのか…??」
そんな中で、眠っていたマルティナがゆっくりと目を開く。
頭の中が霧で詰まっているかのような感覚を覚えながらも、生きていたロウに笑みを見せる。
「ロウ、様…生きていらっしゃったのですね。私は、いったい何を…?」
(操られていたのよ。敵の罠にはまって、無様なものね)
「何…??」
「え…グリーンオーブが…??」
マルティナの脳裏に女性の声が響き、カミュの手の中のグリーンオーブが淡く光る。
そして、勝手にグリーンオーブがカミュの手から離れ、起き上がろうとするマルティナのそばへと飛んでいく。
「おお…これは、確かグレイグから聞いておったが…」
グリーンオーブが、というよりもその中に宿る先代勇者の仲間の魂がマルティナに力を貸そうとしている。
「これは…!?」
マルティナの脳裏に次々と操られている間の記憶と光景がよみがえっていく。
そして、ロウのゴールドフィンガーによって助けられる直前に、エルバに言い放った言葉も。
(どう…?こんな魔物に操られていた気分は?)
「情けない…エルバを守るために強くなったのに、まさか…」
(そう、あなたは強くなった。大切な弟を救えなかった自分を否定するために。許せなかった。エレノアもエルバも守れなかった自分が)
「そう…私は…」
ロウに助けられ、彼のもとで武闘家としての修行を続けたのはそんな自分が許せなかったから。
本当に一番許せないのは、あの時、川に流される中で赤ん坊のエルバを離してしまった弱いマルティナ。
そんな弱いお姫様をマルティナは許せなかった。
エレノアに彼を守ると約束したのに。
命の大樹でも、エルバが勇者の力を奪われるときにマルティナは何もできなかった。
結局自分は17年前の、弱い自分のままなのか。
(目を覚ましなさい、マルティナ。後悔ばかりの17年はもう終わり。その後悔をも未来を切り開く刃に変え、勇者を導きなさい。私はネイル、流浪の拳王。今こそ、古の盟約に従い、新たなる勇者の盾の力とならん!」
グリーンオーブが次第に形を変えていき、薄緑色をした、左腕全体を包むような形状の手甲へと姿を変える。
「デルカダールの戦姫、マルティナよ。魔甲拳を手に取り、未来へと走りなさい!!」
「アムド!!!」
マルティナの叫びと同時に彼女の体が緑色の光に包まれる。
光が収まると、マルティナの体は両肩と左胸、左腕と両足を薄緑色の装甲がピンポイントで装着される格好となった。
着ていたバニースーツはいつの間には消えていて、いつもの武闘着へと形を変えていた。
そして、左腰にぶら下がっている薄緑色をしたシンプルな形の曲剣を手にする。
抜いたと同時に柄が伸びて、慣れ親しんだ長刀へと変貌する。
「もう、迷わない…。蹴り倒して見せるわ…私たちの未来を阻む障害は…ひとつ残らずね!!」