「ふん!その減らず口、このバリアの前でも言えるかぁ!?」
せせら笑うジャゴラがレッドオーブの力を解放し、赤い霧が発生する。
あの時はグランドクロスでも破れなかった無敵のバリア。
あれがあの時では最大火力だったかもしれないが、今は違う。
「はあああああ!!」
両手の勇者の力を解放し、それが雷の魔力でできた両手剣を生み出す。
それを右拳で叩き壊すと、巨大な雷の剣となってジャゴラに向けて飛んでいく。
「こ、これは…!?この力は!?」
勇者の雷を覇王斬もろとも受ける形となり、それが赤い霧を吹き飛ばすと同時に肉体を雷が焼いていく。
覇王斬はバリアと相殺する形で消えたために直撃は免れたが、肉体へのダメージが大きく、バリアを再び生み出すことはできなくなる。
「インターセプター号と共に沈んだ英霊たちの無念、ここで晴らす!!はあああああ!!」
船をつかもうとするジャゴラの右腕めがけて、グレイグの天下無双が放たれる。
巨大な腕をグレイドアックスの刃が何重にも切り付けていき、それが深い切り傷となり、そこから噴き出る血が甲板を汚す。
続けてロウは精神を集中させ、全力でジャゴラの額に向けてグランドクロスを放つ。
バリアを破れなかったグランドクロスだが、それがないジャゴラには十分すぎるほどの破壊力を発揮し、額を中心に巨大な十字の火傷ができる。
「あああああ!!こんな、無敵の俺様に傷がぁぁぁぁぁ!!!」
レッドオーブが与えられ、六軍王としてロトゼタシアの海を恐怖のどん底に陥れたはずの自分がなぜこれだけの傷を負うのか?
「レッドオーブに頼っていただけだろう!?」
「返しなさい!これはローシュ様のお仲間のものよ!!」
鎧をまとったマルティナは額を抑えたためにがら空きになった腹部にめがけて飛び蹴りを叩き込む。
今度は腹部の攻撃の攻撃、バリアなしでも本来なら受け止めることができたはずの一撃だが、それを受け止める力すら今のジャゴラにはなかった。
「セレン様の仇だ…ジャゴラぁ!!」
水竜の剣と奇跡の剣を手にしたエルバは雷を宿し、ギガクロススラッシュを放とうとする。
「ぐおおおおお!!こんなところでぇぇぇ!!」
こんな小さな人間にこれから殺される現実に激昂するジャゴラだが、襲い掛かるエルバに対して、腕を伸ばすことしか守る手立てがない。
稲妻の刃がジャゴラを襲おうとする。
だが、急に黒い影が2人の間を割り込み、黒い雷を宿した杖がエルバの刃を受け止めた。
「何!?」
「フッ…双紋章というものか。確かに、抑えるには苦労するというものか…」
「貴様は…ホメロス!?」
「久しいな…友よ」
エルバのギガクロススラッシュを受け止めるホメロスだが、雷の余波は彼を確かに襲っていて、肌やローブにもダメージが起こるはずだった。
だが、確かに雷を受けているにもかかわらず、無傷の状態だった。
そして、彼の左手には勇者の痣が宿っているのがエルバの目にしっかりと見ることができた。
「拳王ネイルが言っていたことは、本当だったのか…!?」
「ネイル…ああ、オーブに宿る魂の一つか。それなら、オーブに力が存在することは明白か!!」
笑うホメロスの胸部に銀色の光が発生し、何かを感じたエルバだが、後ろには船員や仲間たちがいる以上、下がるわけにもいかなかった。
銀色の光はビームとなってエルバを襲い、大きく吹き飛ばされたエルバは甲板を転がる。
「エルバ様!!」
「く、うううう!!」
胸部と腕に重い火傷を負うエルバに回復呪文を施していく。
ギガクロススラッシュが盾替わりとなったおかげで直撃を避けることはできたようだが、それでも高い呪文への耐性を誇るはずの魔法の闘衣を焼くほどのあの光に戦慄する。
「ぐうう…助かりました、ホメロス様…」
「ホメロスよ!ここで決着をつけようとでもいうのか!?」
まさか、エルバがホメロスの言う双紋章を手にしたことがウルノーガにとって脅威と認識されたのか。
だとしたら、ホメロスの介入にも説明はつく。
グレイトアックスを構え、にらむグレイグにホメロスはニヤリと笑う。
「それも悪くない話だ。だが…今回は事情が違う。私はお前たちに贈り物をするために来たのだ」
「贈り物だと…!?」
「そうだ、ウルノーガ様の覇道を実現させてくれた返礼と思ってくれていい」
ホメロスの体が黒いオーラに包まれ、その状態で杖を構えた彼は深く瞑想し始める。
すると、周囲に次々と薄水色の火の玉が出現していき、間近でそれが現れたのを見たカミュは驚きの余り腰を抜かす。
「な、なんだ…これ!?」
「この冷たい感覚、ホメロス!一体何を!?」
「ジャゴラよ、内海外海問わず、ロトゼタシアの海の命を狩り続けたことへのウルノーガ様からの恩情だ。受け取るがいい、この海をさまよう魂達を!」
「何だと…!?」
「あ、ああ…!!」
エルバ達の耳にその火の玉たちからの声が聞こえ始める。
ロトゼタシアの海で無念の死を遂げ、冥界にさまよう魂達の声で、それらはジャコラに飲み込まれると同時に聞こえなくなっていく。
魂達を飲み込んだジャゴラからみるみると傷が消えていく。
そして、目が黒々と変色すると同時に激しく咆哮する。
「さあ、受け取るがいい…。ウルノーガ様からの贈り物を。"全滅"を…」
冷たく笑うホメロスが姿をくらまし、咆哮するジャゴラが拳をシルビア号にたたきつける。
力加減も何もないその拳は甲板を貫き、破片が飛び散る。
「死者の魂を飲み込んで、力を強めたか!?じゃが、これは…!!」
確かに回復し、圧倒的な力を見せるジャゴラだが、その動きはあまりにも粗雑で、暴走しているように見える。
実際、ジャゴラは見境なく視界に入ったものに拳を振り下ろすばかりだ。
だが、それによってシルビア号に大穴が空いていく。
このままではホメロスからの贈り物を本当に受け取ってしまうことになる。
「クレイモランまであとちょっとなのに…!!」
「くそ…なら、爺さん!!」
「うむ!!コオオオオオオ!!」
エルバとロウが精神を集中させていき、体を青いオーラが包んでいく。
そして、ロウが正面に向けてグランドクロスを放ち、エルバが生み出した覇王斬がその中心を穿つ。
(グランドネビュラで、この一撃で!!)
勇者の力も宿したグランドネビュラなら、あのジャゴラを貫くことができると思った。
実際、回転する雷と聖者の刃はジャゴラの額にさく裂する。
「ぐおおおおおお!!!おおおおおおおお!!!」
血しぶきを出しながら悲鳴を上げるジャゴラは両手で無理やりグランドネビュラをつかむ。
手からあふれ出る血に目もくれず、受け止め続けた結果、グランドネビュラを握りつぶしてしまった。
「グランドネビュラが…」
「止められたじゃと!?」
「ゴオオオアアアアアアアア!!!!」
血まみれになったジャゴラの傷が徐々に再生されていく。
グランドネビュラの破壊力のせいか、回復スピードは遅いが、それでも回復し終えるまでは時間の問題だ。
「…やむを得ないわね」
「シルビア様…?」
焦りが広がる中、一人冷静になっていたシルビアはアリスに目を向ける。
アリスはしばらくシルビアの顔を見続けた後、首を縦に振り、操縦桿を手放す。
「シルビア何を!?」
「このままだと全滅するわ。それに、逃げたとしても今のあの魔物を放置するわけにはいかない…。だから、シルビア号を自爆させて、あいつを葬るのよ!」
「ゴリアテ…」
「今のこの船には火薬がしっかり積んである。あとは、エルバちゃんとロウちゃんの力を借りれば、奴を吹き飛ばすくらいの爆発は起こせるはずよ!」
「しかし、この船は…」
「いいのよ…。船は平和になったら、また作ればいいの。ちょっと、残念だけど…」
手すりを優しく撫でるシルビアの目から一筋の涙がこぼれる。
だが、その涙を拭くと両手で頬を叩き、船員たちに命令を出す。
「さあ!!みんなは脱出艇の用意よ!!全員で生きてクレイモランで会いましょ!!」
「姐さん…くっ、合点でさぁ!!」
「急げ急げぇ!あいつは待ってくれないぞぉ!!」
船員たちが手分けをして自爆のための火薬や脱出の準備をする。
少しでも足止めをするため、ロウはゴールドフェザー数本でジャゴラの体に魔法陣を描き、マホカトールを放つ。
「これで少しでも足止めする!エルバよ、これを持て!!」
「これは…」
ロウから投げられたシルバーフェザーを受け取ったエルバだが、それからは全く魔力が感じられなかった。
魔力を出し終えたシルバーフェザーはたいていの場合、ロウがすぐに魔力を補充してくれるはずなのだが。
「シルバーフェザーにはほかにも使い方がある!それにベギラマとライデインを唱えよ!」
「あ、ああ!!」
ロウの言葉に従い、シルバーフェザーを握ったままベギラマを唱える。
すると、シルバーフェザーはベギラマの閃光を吸収していき、聖石から赤い光が淡く宿る。
「シルバーフェザーの聖石は魔力を貯めることができる!じゃが、呪文を宿すこともできるのじゃ!それを時間差で壊せるようにして、暴発させるんじゃ!それで起爆剤にできる!」
「分かった!!」
壊れても構わないのであれば、ギリギリまで魔力を詰めるまで。
エルバは全力でライデインをシルバーフェザーに詰める。
2つの異なる呪文を詰め、ギリギリまで耐えているシルバーフェザーだが、限界ギリギリのためか震えているように見える。
「エルバさん!!火薬庫の準備ができました!!仕掛けもできてます!!」
「分かった!!爺さん、あとどれだけ持つんだ!?」
「あの暴れようを考えると…もってあと2分じゃな!!急ぐぞい!!」
脱出用ボートで逃げ出し、最悪エルバとロウはトベルーラを使ったとしても、果たしてこれから起こる爆発の余波から逃げ延び、そして極寒のクレイモランへたどり着くことができるのか?
不安のある作戦だが、もうこれ以外に選択肢はない。
ロウは今にも動きそうなそぶりを見せるジャゴラを見つめた後で、船内へと急いだ。
船内では次々とボートが動き出す。
フランベルグをはじめとする馬もボートに無理やり乗せられ、船員たちに抑えられながらシルビア号を離れていく。
「頼む…!!」
火薬庫に入ったエルバは激しく揺れる船内で必死に体を支えながら、火薬樽が密集する場所にシルバーフェザーを差し込む。
そして、1つだけ長く伸びた縄のついた小さな火薬樽を固定し、縄に向けてメラを唱えた後で飛び出した。
最後のボートにはロウ達が待っていて、アリスの姿もあった。
「急げ、エルバ!!」
「ああ!!」
エルバが飛び乗ると同時に、セーニャが唱えたバギが船を海へと押し飛ばしていく。
火は徐々に火薬樽に近づいていき、それによって大量の火薬樽が爆発し、更にはベギラマとライデインで更にその破壊力を引き出す。
グランドネビュラからの回復がし切れていない今なら、この一撃でジャゴラを葬ることができる。
シルビアはこれから爆発と共に消えるであろうシルビア号を見つめる。
「今までありがとうね、シルビア号…アデュー…」
寂しげなシルビアの別れの挨拶に前後し、シルビア号は大きな爆発を引き起こす。
マホカトールを力づくで打ち破ったジャゴラがその爆発に巻き込まれ、粉々の肉片となっていく。
粉々になったシルビア号とジャゴラの肉体が宙を舞い、その周辺に雨あられと落ちていく。
「間一髪、か…うん??」
シルビア号の最期を見るグレイグは爆炎の中にある影を見つめる。
煙が晴れると、胴体まで吹き飛びながらも残っているジャゴラの腹部から下の部分が見えていた。
だが、もう生命活動を停止しているのか、グググと水底へと沈んでいく。
これによって、完全にジャゴラが死んだことを悟る。
「これは…」
上空から淡い赤の光が見え、ゆっくりとカミュの手に、ジャゴラの額にあったレッドオーブが下りてくる。
それを手にしたカミュはじっとそれを見つめる。
「なんでしょう…レッドオーブ…。なんだか、懐かしい何かが…」
「ああ…そういえば、お前はこれを手に入れようとデルカダールにいたんだったな…」
記憶のあるカミュなら、今から問いかけることもできただろうが、残念なことに今のカミュは記憶喪失。
それを探ることもできなければ、今はそれをする状況でもない。
「とにかく、まずは陸地へ向かうでがす!ここからクレイモランへは…うん、なんだぁ!?」
「これは…泡!?誰か、マーメイドハープを奏でているわけではないが…どうして?」
ブクブクと海面から発生する泡が次第にエルバ達が乗るボートを覆っていく。
マーメイドハープで人魚たちに助けを求めているわけではないのに、何が起こっているのか?
(エルバさん、皆さん…!!)
「声…どこから!?」
「エルバ様!水竜の剣が、光っています!」
「何…??」
剣を抜いたエルバが水竜の剣を見ると、セーニャが言っていたように刀身を中心に青い光を放っている。
そして、声は水竜の剣から聞こえていた。
(エルバさん、ご無沙汰しております。私はロミア、あの時は私のために本当にありがとうございました。その御恩を今こそ返します!)
「ロミアちゃん…!?どうして、水竜の剣が…」
(水竜の剣は海と繋がる剣…。私は別の場所にいますが、この剣を通して皆さんと繋がることができます)
「別の場所…一体、どこに!?」
(私たちはメダチャット地方の湖に、ムウレアから逃げ延びたほかの皆さんと一緒にいます!私たち全員の力で、エルバさん達を行くべき場所…クレイモランへの導きます!しっかり捕まっていてください!!)
泡に包まれたボートはスピードを上げていき、滑るように外海を抜けていく。
降ってくる雪はすべるように海へと落ち、視界を邪魔するものがない状態でボートたちはクレイモランへと突き進んでいく。
突き進む中、シルビアはじっとシルビア号が自爆した方角に目を向ける。
(ごめんなさい、シルビア号…。あなたを夢の舞台とすることができなくて…。平和が戻ったら、必ずアタシ、あなたをよみがえらせるから。だから…それまで、ゆっくり休んで)