「ぐあああああ!!」
「ヘインズ!?くそ…!なんなんだよ、この力は!」
ラウンドシールド諸共腕を斧で切り裂かれてうずくまる部下を目の当たりにした小隊長のトラッドは部下の無念を晴らすべく、黄金のバイキングに槍を突き出す。
だが、柔らかいはずの黄金を鉄の槍の穂先は通すことができず、ただ甲高い音が鳴るだけだった。
「ふん…雑魚めが。あとで相手をしてやる、待っていろ」
なおも槍で攻撃しようとする彼に目もくれず、バイキングはかろうじて息をしているヘインズに歩み寄る。
そして、その頭をつかむとヘインズの体を紫の瘴気が包み込む。
「が、あ…あああああああ!!」
「ヘインズーーーー!!」
一瞬で黄金の彫像へと姿を変えたヘインズの姿にトラッドが激昂する。
だが、傷一つ与えることのできない男の怒りはバイキングにとっては痛くもかゆくもない。
「この世界の黄金はすべて、六軍王キラゴルド様のもの!宝石だろうが、人間だった黄金像だろうが構わん!!根こそぎ奪い尽くせ!!」
次々と城門から侵入してくる黄金の兵士たち。
トラッドはこの目の前に広がる惨状がとても現実のものとは思えなかった。
ここにいる兵士たちは過酷なこの雪国で国民を守るべく、力をつけてきた者たちばかり。
確かに、大国であるデルカダールや騎士の国であるサマディーと比較すると名将といえる存在が不在で、軽くみられるところはあるかもしれないが、それでも長年守り続けてきた自負はある。
だが、この黄金兵どもはそのプライドすら粉々に打ち砕いて行っている。
「ありえ…ない…」
呆然とする彼の背後からブスリと冷たい感覚が走る。
視線を下に向けると、自分の胸を貫く黄金の刃が見え、吐血した後でその体は黄金へと変わっていった。
「くっ…この戦い方は!?」
騒ぎを聞きつけ、城を飛び出したエルバ達は人々を守るべく、黄金兵たちと交戦する。
投擲される斧をデルカダールの盾で受け止めるグレイグは彼らに違和感を抱く。
斧をメインとした装備に同じような模様のついた楯や武器を持った黄金兵同士による連携。
見張りの兵士による知らせでは、彼らは黄金のロングシップを複数隻使ってやってきたと聞く。
「まさか、魔物に乗っ取られたというのか!?バイキングは…」
「それだけじゃないわ!きっと…彼らが黄金病の手掛かりを!くっ!!」
アムドしたマルティナは長刀で飛んでくる斧を受け流すとともに、黄金にされ、持っていかれた兵士や住民の姿に唇をかみしめる。
リーダーと思われる大柄の黄金兵の言葉が正しければ、彼らは六軍王のキラゴルドの配下。
悪趣味な黄金像を手にしている姿から、その六軍王がブギーにも似た下劣さを持っているように思えた。
「そういえば、セーニャちゃんとカミュちゃんはどこにいるの!?姿が…見えないわ!!」
「むぅ…屋内に避難しておればよいが…!?ええい、邪魔をするでないわぁ!!」
周囲に群がる黄金兵に向けて、ロウは最上級氷結呪文マヒャドを放つ。
クレイモランの極寒の気候と相まって、周囲の黄金兵たちは降り注ぐ巨大な氷の柱に打ち砕かれるか、閉じ込められていく。
逃げ道をなくした黄金兵の頭上に覇王斬の刃が降ってきて、彼らは一足先に砕かれた仲間の後を追った。
「波止場に待たせていたからな…もしかしたら、まだ外にいるかもしれない」
「エルバ、カミュとセーニャを探して!!街中の奴らは…私たちがどうにかするわ!!」
「…任せた!!」
進路の邪魔になる黄金兵をライデインで破壊し、水竜の剣と奇跡の剣を手に西側の裏門へと走る。
(カミュ…セーニャ…どこにいる!?)
2本の剣で黄金兵を斬りながら、エルバは仲間の身を案じた。
「はあ、はあ、はあ、はあ…」
波止場から西にある小高い崖の上で、傷だらけになっているセーニャが右手のスティックを構え、彼女とカミュを取り囲む黄金兵たちを見つめる。
カミュを追いかけてここまで来てほんのわずかな時間で黄金兵たちが襲撃してきた。
記憶のないカミュはうまく戦うことができず、本来なら前に出ることのないセーニャが代わりに前に出る始末だ。
「おい、女はともかくあの男は生け捕りにしろよ?キラゴルド様からの命令だ」
「ああ、ああ、分かってる。生け捕りしたら一生飲めるだけのエールをくれるんだろ?」
「そういうことだから、邪魔せずにさっさとどけよ、女ぁ!!」
「嫌です!絶対にどきません!!」
接近してくる黄金兵に向けてバギマを唱え、後ずさりする。
バギマの竜巻は黄金兵をボロボロにするだけの切断力があり、それゆえに魔物たちは無理やり突破することはできない。
だが、何度もそんな手を使っていたらセーニャのMPが尽きるのは明白で、仮にそうなると残る手は今持っているスティックだけになる。
実際、先ほどのバギマを使ったことでMPが限界ギリギリになっており、セーニャにも疲労が目立ちつつある。
「セーニャ…俺のことはいいから…」
「いいわけないじゃないですか!!」
ダーハルーネでカミュは命がけで守ってくれた。
だから、今度はこちらが守る番。
グズな妹でも、1人くらいなら守ることはできる。
(お姉さま…お姉さまも、おひとりで戦っておられるんですよね?なら…!)
どこかで生きているベロニカに恥ずかしくないように。
接近してくる黄金兵に再びバギマを放とうとする。
だが、そんな彼女に向けて斧が飛んでくる。
呪文を唱えるのに集中していた彼女はわずかに気づくのが送れ、斧に目が向くが、同時に何かに抱かれてその場から離れていく。
我に返ると助けてくれたのがカミュだということが分かる。
「カミュ様…」
「セーニャ…俺のせいで、こんなに傷だらけに…」
「構いません…。私は回復呪文が…」
「…俺の、せいで…」
間近で傷だらけのセーニャを見たカミュの表情が曇る。
そして、立ち上がると黄金兵たちの元へ歩いていく。
「待て!俺が目当てなんだろう!?俺を連れていけ!その代わり彼女に…セーニャには手を出すな!!」
「カミュ様!?」
「へっ…最初からそうすりゃあいいんだよ、連れていくぞ!手柄は俺たちのものだぁ!!」
「お待ちください!そんな…そんな!!」
黄金兵に連行されようとするカミュを追いかけようとするセーニャだが、短時間に数多くの黄金兵を相手にし、普段以上に呪文を連発したことがここで極度の疲労となってツケとなる。
膝をつき、その場から動けなくなり、ただカミュが連れていかれるのを見ていることしかできない。
カミュや黄金となった人々、そして城下から奪った財宝を積んだロングシップが波止場から離れていく。
疲れ果てたセーニャは目に涙を浮かべ、それを見送ることしかできなかった。
「カミュ…様…」
「セーニャ…おい、セーニャ!大丈夫か!?」
エルバの声が聞こえて来て、それと同時にセーニャは意識を手放した。
教会の聖堂ではエルバ達が椅子に座り、誰も言葉を口にすることができずにいた。
確かにエルバ達は数多くの黄金兵を倒したが、兵士や住民に犠牲者が出たうえにカミュも連れ去られた。
住民の多くは城に避難していて、皆が恐怖や喪失に涙しながら時を過ごしている。
沈黙の中で扉が開き、神父と共にセーニャが出てくる。
「セーニャちゃん、もういいの?倒れてそんなに時間がたっていないわよ?」
「大丈夫です、シルビア様。魔法の聖水を飲ませていただきましたし、神父様の回復呪文で傷も治っていますから…」
「セーニャ…たった一人でカミュを守るために戦っていたのね…ごめんなさい。無理にでも一緒にいるべきだったわ」
「悔やむのは後です、姫様。それよりも…あのキラゴルドという六軍王の元にカミュがいるのならば、助け出さなければ…」
「ふむ…じゃが、一つ気になることがあるのぉ。なぜ、奴らはカミュを捕まえるときだけは黄金に変えなかったのじゃ?問答無用に人間を黄金に変えておったというのに…」
「それは、カミュが神父殿の言っていたバイキングの手下だったことも関係するのか?」
セーニャが眠っている間に、エルバ達は神父から彼の過去をある程度聞いていた。
戦った黄金兵たちの装備や戦い方はバイキングのもので、過去にクレイモランと合同で魔物の討伐を行った際にはバイキングと共闘したことのあるグレイグもよく知っている。
「カミュ様を捕まえることは…キラゴルドから直接下った命令のようでした…。カミュ様の身に何かが起こる前に、お助けしなければ…」
「バイキングのアジトは城下を出て西にあります。もしかしたら、彼らはそこに…」
「なら、すぐに動くぞ。六軍王もいるなら、早く仕留めたほうがいい」
カミュだけでなく、数多くの人々が黄金にされ、連れ去られている。
彼らを助けることができるかはわからないが、これ以上犠牲者を出すわけにもいかない。
荷物を手にしたエルバ達は立ち上がる。
「カミュ様…待っていてください。今、お助けに…」
「セーニャさん、お待ちください。あなたにお渡ししたいものがあります」
呼び止めたセーニャを神父が手招きし、エルバ達は足を止めると彼女は彼に案内され、教会の女神像の裏にある床下の隠し階段に案内される。
神父と共に中に入り、石でできた真っ暗な空間の中で神父は松明に火をつけ、周囲を明るく照らす。
そこには非常用の食料と酒、そして武具が保管されており、神父はその中にある宝石付きの宝箱を開ける。
「これは…」
「昔の話です。今はバイキングの頭領をしている男を私は助けたことがあります。彼と個人的に話をするようになったのはその縁があったからです」
神父にとってはなんということもないきっかけだった。
ただ、腹をすかしてさまよっている浮浪者に食べ物を恵んだだけのことだ。
その食べ物によって命をつなげた彼がバイキングとなり、頭領となった日にその時のお礼をしたいと言って、この宝箱の中身を置いていった。
彼曰く、その日の食事にはそれだけの価値があったとのことだ。
これは大昔に沈んだ大型商船の中に会った鋼鉄の金庫の中にあったらしい。
それを手に取ったセーニャはそのあまりの美しさと感じる魔力に目を丸くする。
肩や背中を大きく露出させ、白と水色の薄手の繊維で作られたローブと、細やかな細工が施され、エメラルドのような魔石を埋め込まれたティアラ。
「聖女のローブとティアラ、と彼は言っていました。もし彼の身に危機が迫っているというなら、これを使って助けてほしい」
「よろしいのですか?そんなに大切なものを私に…」
「あなただから、です。それに、彼を…カミュのことを心から愛しているあなたなのですから」
直球でそのような指摘をされ、顔を赤く染めるセーニャだが、胸の高鳴りと共に嬉しさも感じていた。
このような状況でおかしいとは分かっているが、それでもこの気持ちが抑えられない。
「カミュのこと…よろしく頼みます」
「…はい」
「ギャハハハハ!!うまい、うまいぜぇ!」
「我らに、キラゴルド様に、そして崩壊する世界に…スコール!!」
「スコール!!」
宝石や黄金の山に包まれる中、木製ジョッキにひたひたに注がれたエールを黄金兵たちが飲み込んでいく。
カミュを捕縛したという報告を送ると、すぐにキラゴルドから賜ったエールが今、この部屋の中央の巨大な杯の中にある。
この酒くらい空間の中に牢獄があり、その中にカミュが手かせをつけられた状態で座っている。
「おいおい、何辛気臭い顔をしてんだよぉ」
酔って赤くなっているらしい黄金兵がエールが入ったジョッキを両手に持ってフラフラと千鳥足でカミュの元へやってくる。
「もうすぐこの世界は壊れるんだ!いっぱい黄金だってあるんだぜぇ?もっと楽しめ…よぉ!!」
左手のジョッキから放られたエールがカミュを頭から濡らす。
鼻が曲がるほどの濃度のエールだが、今のカミュはそのようなことを気にできるほどの余裕はない。
「へっ…だったら、便所に放り込んで、小便ぶちまけてやってもいいんだぜ?この宴会の後でなぁ!」
みんな酒が回っているから、すごいサイクルで黄色いエールを飲ませてくれるだろうよ、とせせら笑いながら戻っていく黄金兵の言葉はカミュには届かない。
カミュはただ、この洞窟の中、そしてこの酒の多い宴の光景に感じる既視感と時折感じる頭痛に身をゆだねていた。
(この洞窟…臭い匂い…。俺、ここを知っている…)
彼らを包む黄金と宝石の山の中にはもちろん、人の姿もあるがカミュは直視しないようにしていた。
「ああ、腹がエールでいっぱいだぁ!!さあて、便所便所…」
満腹になった黄金兵がフラフラと出入り口方向へ向かっていく。
そんな彼を気にせず、引き続きエールと料理に舌鼓を打つ。
「にしても、おせえなぁ!あいつ、いつまで便所行ってんだよ?まさか、吐いてるのかぁ?」
「気にすんなよ!ほら、まだまだエールがあるぞぉ!一仕事終えた後で、今日はとこと…!?」
ジョッキを掲げた黄金兵の頭頂部のゴールドフェザーが刺さる。
針に刺されたような感覚を一瞬感じたが、すぐにそれは全身を縛る感覚へと変わり、黄金兵は身動きが取れなくなる。
「な、なんだぁ?」
「まさか…侵入者?」
「ええ、そうよ。そのまさか!」
声が聞こえた方向に黄金兵たちの視線が集まる。
そこにはシルビアの姿があり、頭領の黄金兵に向けてレイピアを向ける。
「あなたたちが奪った仲間で、ウチの花婿を取り返しに来た、愛の戦士達よ♡」
「ふざけてことを言うな、ゴリアテ!!こっちが恥ずかしくなる…」
「カミュ様!お助けに参りました!!」
シルビアに注意が向いている間に、エルバとグレイグを先頭にした4人が酒の回った黄金兵たちに突撃する。
突然の敵襲の中でも対応できるように、そばに武器と盾を置いていた黄金兵たちだが、それでも酒が回っている状態では満足に動くことができず、中には手に取ることすらままならないほどに酔っているものもいた。
「可能な限り無力化しろ!魔物にされているとはいえ、彼らはバイキングだ!」
「ええ…それにしても、不用心ね!そんな動きじゃ…私たちを止められないわよ!?」
動きがのろくなった黄金兵たちに向けてマルティナの爆裂脚が襲い掛かる。
次々と襲う蹴りが鎧をへこませていき、最後の渾身の一蹴りによって財宝の山へと吹っ飛ばされていった。
「こい、六軍王の手勢め!このグレイグが相手となる!!」
「グレイグ…ああ、キラゴルド様が言っていたなぁ。ホメロス様が首を求めていると…。ならば、この俺、シグルが貴様を殺して、更に褒美のエールをもらう!!」
黄金兵たちの頭領、シグルが斧とラウンドシールドを装備してグレイグの前へと進んでいく。
「魔へと堕ちたか…せめて、この俺が相手になってやるぞ、シグルよ!!」
グレイトアックスを手にしたグレイグがまずはあいさつ代わりと真空の刃を放つ。
それに構わず突っ込んだシグルはラウンドシールドに守りを任せ、グレイグに斬りかかるが、デルカダールの盾の堅牢な守りがそれを阻む。
「いい盾だなぁ。てめえを殺したら、そいつを俺のものにしてやる!」
「この盾は渡さん!我が誓い、陛下の想いを宿したこれは!!」
「カミュ様!大丈夫ですか…!?」
「セーニャ…」
戦闘をエルバ達に任せたセーニャが手に入れた鍵で牢獄の扉を開く。
カミュの瞳に映るセーニャは穢れのない純白の、まるで花嫁のような、天使のような姿だった。
鍵が開き、牢獄に入ったセーニャはカミュにつけられた枷の鍵を外す。
ちょうどその時、グレイグがグレイトアックスでシグルの斧を受け止め、つばぜりあっていた。
「ロウ様!準備は!!」
「待っておれい…これで、十分じゃぁ!!」
壁にゴールドフェザーを突き刺し、それに向けてロウは魔力を注ぎ込む。
この空間を覆うように6本のゴールドフェザーが設置され、それらが光の線で結びあい、魔法陣へと変換される。
グロッタで発動したものを再びここでも発動しようとしていた。
「邪なる魔力よ、退け!!マホカトール!!」
光の結界の中で、シグルをはじめとした黄金兵たちが苦しみはじめ、バタバタとその場で倒れていく。
そして、やがてその姿は徐々にバイキングヘルムをつけ、体の各部に動物や神を模した入れ墨を刻んだ粗暴な男たちへと姿を変えていく。
「やはり…神父殿の考えていた通り、魔物であったか…」
「マホカトールがなければ、どうなっていたことか」
おそらく、キラゴルドを倒すまでは魔物から元に戻れず、余裕がなくなったら倒さざるを得なかっただろう。
グレイグは倒れ伏したシグルを見つめる。
「この者らはじきに目が覚める。マホカトールの中であれば、安全じゃろう。それよりも…大丈夫か?カミュよ」
「はい…ありがとう、ございます。ご迷惑をおかけしました」
セーニャに連れられて牢獄から出たカミュは2度までも迷惑をかけてしまったことを詫びる。
「そんなこと…。私を助けるために捕まったんです。むしろ、謝らなければならないのは私で…」
「はいはい。そこまでそこまで!カミュちゃんが無事でよかったから、いいじゃない!これでおしまい!!」
「そうね、それよりも…今度はキラゴルドの元へ向かうわよ。黄金病の原因が奴なら、放っておくわけにはいかないわ」
マルティナが見つめろ、シグルが座っていた椅子のそばにある抜け道。
その先にはおそらく、キラゴルドが待っているはず。
「…あそこだ、あそこへ…行かないと…」
「カミュ様…?」
ベッドでうわごとのように言っていた、行かないといけない場所。
彼の言葉が正しければ、その場所はその先にあるのかもしれない。
「カミュ様、案内していただけますか?カミュ様がいかなければいけないところへ…」
「それは…」
「カミュ…?」
「そこへ行ったら…皆さんに、ご迷惑を…」
表情を曇らせるカミュが細々と濁ったしゃべり方で逸らす。
あの先に行くのは一人だけでいい、一人で行かなければならない。
その考えがカミュをむしばんでいることは一目瞭然だった。
「連れて行ってください、カミュ様…。カミュ様は…私にとって…いえ、私たちにとって、大切な人なんですから…」
「セーニャ…」
セーニャの純粋なその思いはカミュにとってはまぶしすぎる。
その分、自分が影のように思えてしまい、仕方がない。
その光にかなうはずもなく、カミュは首を縦に振った。
バイキングのアジトを北に出て、すぐにエルバ達の目に見えたのは金色の輝きを放つ小さな城。
山の中にある小さな平地に無理やり築いたようなもので、あまりの輝きは遠くからでもはっきりと見ることができた。
「黄金の城…あそこにキラゴルドが…」
「いやあねぇ。金もあそこまでこだわったら、目に毒ね」
「カミュ様、カミュ様がいかなければならないところというのは…」
「…あそこ、です」
ゆっくりと前を歩き、カミュが指をさしたのは、ちょうど黄金の城を隔てるようにそびえる山のそばにある小さな小屋。
長い間手入れされておらず、壁や屋根にはいくつもの穴が開いていた。
カミュに案内され、小屋の前まで来ると、先頭に立つカミュは扉に手を伸ばす。
だが、ドアに触れようとする直前に手が激しく震えはじめる。
呼吸も急激に不安定になり、視界が黒く塗りつぶされる感覚に襲われたカミュは後ずさりしてしまう。
「カミュ、あなた…」
異様なまでのおびえた姿を見たマルティナはこの小屋に彼が最も恐れているものがあるかのように思えた。
彼のここでのトラウマといえば、死んだ妹のこと。
だが、彼女は神父の話が正しければ、海へ水葬されたはず。
たとえ水葬したとしても、妹が死んだその場所自体が怖くて仕方がないということなのか。
「…俺が開ける。カミュ、嫌なら見るなよ」
無理やりカミュと小屋のドアの間までやってきたエルバは小屋の扉を開き、カミュはその中を見ないようにと目をそらす。
先に小屋に入ったエルバはその中を見る。
ボロボロになった暖炉と虫に食われたゴザ。
そして、部屋の中央にはそんなさびれた場所には不釣り合いな、砂金の山があった。