ドラゴンクエストⅪ 復讐を誓った勇者   作:ナタタク

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第94話 神の金属への道

「くうう、沁みる…!!」

「じっとしていろ。…よし、これでいいだろう」

「はあ…もっと優しくできねえのかよ、エルバ」

「俺はセーニャじゃない。優しくかけたいなら彼女に頼め」

「ったく、お前なんか最近俺に対してぞんざいになってねーか!!」

カミュからの抗議の声を無視したエルバはシチューの鍋を見に行く。

ケトスに乗り、天空の古戦場にたどり着いたのは5日前。

入口はここの鉱脈を守っていた神の民が最後の抵抗として仕掛けたのか、猛毒の瘴気で閉ざされたいたが、エルバが聖なる種火の炎で焼き尽くしたことで道を開くことができた。

古戦場というだけあり、魔物や神の民が使っていたと思われる武器や防具の残骸が残っていた。

さすがに遺骨や遺体などはなかったが、代わりに待っていたのは魔物で、特に物質系やゾンビ系といった魔物が住み着いていた。

前世代のキラーマシンとは大きく様相が異なり、角のようなセンサーが2本追加され、足の代わりにしっぽのようなフレキシブルアームが搭載されたキラーマシン2は過去の大戦の時からずっと動いているのか、装甲や武器のいたるところが色あせていた。

皇帝のような衣装姿で手持ちの杖で稲妻や闇の呪文を唱えるゾンビのデッドエンペラーに変色した骸骨でできた騎士である地獄の騎士など、生命がかけらも感じられない魔物が大多数だ。

赤い鎧をまとったドラゴンライダーといえるガーディアンなどの生物もいることから、どこからか水や食べ物を確保できるところがあるのかもしれないが、少なくともエルバ達はその水や食料を見つける手段がない。

「じいさん、残りの水は…?」

「うむう…だいぶ減ってしもうたのぉ。どう節約しても、あと1日…いや、2日くらいしかもたぬなぁ」

「食料は保存食が残っているから問題ないが、やっぱり水か…」

奥へと向かう中で、いくつかまだ生きている鉱脈を見つけることができた。

あの光景の中で見つけたあの鉱石を見つけることはできなかったが、ヘビーメタルやミスリル鉱石、メタルの欠片などの珍しい鉱石を見つけた。

まだまだ先があるとはいえ、その前に水も食料も尽きたら、もう引き上げるしかない。

目印をつけて、近くの崖からケトスに乗って移動すればいいが、水と食料を地上で補給して再び戻ってくるとなるとどれだけ時間がかかるかわからない。

だからといって、このまま進むとしてももう真夜中。

昼でも夜のように真っ暗な坑道もあり、活性化している魔物の存在もために強行突破も難しく、今は体力回復のためにここでキャンプを張っている。

古びた女神像があるおかげで魔物が来る気配はなく、少し歩いたところで崖がある。

雨が降れば、そこで水を補充することができるかもしれないと淡い期待をしつつ、エルバは器にできたばかりのシチューを入れていく。

「シチューとは贅沢だ…。まぁ、確かにうまいが。おい、ゴリアテ。さっきの動きはどうしたのだ?」

「さっきの動き…?それって、2人でやってた特訓のことかしら?」

「ええ。どうもシルビアに動きを見てほしいといわれて行ったのですが…」

「あらあら、グレイグ。あなたが言っちゃだめよ。アタシの立場がなくなるじゃない。実はね、ちょっと頭打ちした感じがあって…」

「頭打ち…?」

「ええ。エルバちゃんたちも、みんな強くなったわ。エルバちゃんは二刀流をものにして、今ではロン・ベルク流を使いこなそうとしているし、カミュちゃんたちもオーブの力を引き出すことができるようになった。ロウちゃんは命がけの特訓でグランドクロスなんてすごい技が使えるようになったし、セーニャちゃんもベロニカちゃんの力を受け継いで、賢者になったじゃない。なんだか、ちょっとアタシは伸びていないような感じがして…でも、もっと強くなれる気がするのよ。どうにか突破できないのかな、なんて…」

父親のことを除いては、シルビアにしてはかなり珍しい悩み。

旅芸人として旅をしていたころと比較すると、芸人以上に騎士としての力量が求められた。

エルバ達と一緒に行動してからはエルバ達に戦いの指導をするなどしていたが、今では教えることもなくなり、今やっていることとすれば模擬戦くらいだ。

エルバとカミュの成長を間近で見ているためか、どうしてもそれと比較してしまう。

「そうだな…。もっと力を出せるのではないかと思うことは俺にもある」

「あら…グレイグも?」

「ああ、エルバを追跡して、彼と刃を交えたこともある。その中で奴が強くなっているのを肌身で感じた。追い抜かれるようなことがあってはならぬと思い、俺も訓練をしたが、やはり年齢もあるのか、中々だった…」

「そうなのね…」

「勇者というのもあるが、若いということもあるのだろうな。そう考えると、ロウ様は素晴らしいお方だ。あの年でドゥルダ流の最終奥義を習得して見せているのだから」

実際にその時の修行の光景を見たわけではないが、あのガリガリに痩せこけて、死体同然になったロウの姿は今も忘れられない。

孫のエルバのためとはいえ、これほどまでのことをするとはやはりロウは普通の人間とは違うものがある。

「なあにを言うておる。わしはあの場所でどれだけ大師様からお仕置きを受けたか…」

ロウの脳裏によみがえるのはおしり叩き棒によって感じる鋭い痛みと膨らんでいく尻だ。

まずはヨボヨボになっている体を鍛えなおすなどといって腕立て伏せや長時間のランニングなどの肉体づくりをさせられた。

少しでもペースが緩んだりするとすぐにおしり叩き棒が待っている。

衰えた体にはかなり答える日常だったが、そこでロウが思い出したことがある。

「じゃが…やはり動いていると若いころを思い出したのぉ…。ドゥルダ郷にいたころはとにかく、目の前のものに取り組んでいたのぉ…」

「目の前のことに全力で…か。そう考えると、俺とゴリアテはお師匠様のもとにいたころがそうだな…」

「パパの元にいたときもそうだけど…やっぱりアタシの場合は師匠の元にいたころかしら…」

ソルティコを飛び出し、旅芸人のもとで修業の日々を過ごしていたころのシルビアの課題は肉体改造だった。

騎士として鍛え上げられた彼の体を女性のような細身と両立させるのは至難の業で、食事に生活習慣、おまけに訓練も徹底的に突き詰められた。

また、芸の技量についても幼少期から訓練を受けている芸人たちと比較するとどうしても見劣りがあり、大きく出遅れた状態からのスタートになっていた。

自分よりも小さい子供があっさりと芸を身に着けていくことが悔しくて、早く追いつこうとがむしゃらに師匠についていった結果、今のシルビアがいる。

「案外、答えというのは近くに転がっているものだ。ただ、それが見づらいだけ…というやつだな」

「…そうね。らしくないことを相談しちゃったわね。ありがとう、グレイグ。ロウちゃんも」

「ほっほっほっ、楽しみじゃのう…」

「さあ、早く食べてしまおう。せっかくのシチューだからな」

グレイグの勧めを受け、シルビアはそばに置いた器を手に取り、中のシチューを食べていく。

保存肉を使っているためにやや塩辛い部分があったものの、久方ぶりのエルバのシチューを喜んでいた。

「アタシのこともそうだけど、それ以上に問題なのは勇者の剣の素材になった金属ね。この奥で見つかってくれればいいけれど…」

「気をつけねばならんのは、魔王軍に見つけられてしまう可能性だ。もしその鉱石が奴らの手に落ちるようなことになれば、2本目の魔王の剣が生まれかねない」

魔王軍の姿は見えないが、瘴気を払った以上は魔王軍もここに入ってくる可能性も考えられる。

ウルノーガがその金属の存在まで知っているかどうかはわからないが、仮にその鉱石が魔王の手に落ちたら、もう立ち向かう手段がなくなる。

「わかっている、明日が勝負だ…」

シチューをかきこんだエルバは口元をぬぐい、真っ先にテントに入った。

 

「んん…ここ、は…?」

仲間とともに眠りについたはずのシルビアは静寂に包まれたキャンプ場ではありえない歓声が耳元に届き、うっすらと目を開く。

目を開けるとそこは巨大なテントの中で、サマディーのサーカス場以上の大きなのものとなっており、満席になるほどの観客が座っている。

シルビアも横になっていたはずの体が椅子に座っていて、服装はなぜかソルティコにいたころに来ていた騎士の制服へと変わっていた。

「ここは…どこ?」

「ちょうどいい時に起きましたな。若いの」

「え…?」

隣から地味な緑の長袖の服で身を包んだ白髪の老人が声をかけてきて、びっくりしたシルビアは彼に目を向ける。

こんな時に夢を見ているのか、そう思って自分の頬をつねってみるが、痛みが伝わるだけで現実に戻る気配がない。

戸惑う中、ステージに主役が上がる。

2枚羽根のついた縁の広い帽子をかぶり、紫のローブで身をまとった女性で、女性はステージ中央にやってくると同時に両手を広げる。

何の予備動作もなしにボールを出すと、それでジャグリングを始める。

最初は2個だけだったが、4個、8個、16個と数が増えていき、慌てる様子のないその動きに観客の目が釘付けになる。

「これって、アタシの技!?いえ、これは…」

「若いのにとって、彼女が一番の旅芸人のようじゃなぁ…」

しばらくジャグリングしていた16個のボールが次々とナイフに代わり、一歩間違えば命に係わるような危険に満ちたキラージャグリングへと変貌と遂げる。

そして、16本のナイフをすべて客席に向けて投げつける。

そのうちの1本はシルビアの元へと向かっていた。

「ああ…」

ナイフに釘付けになるシルビアだが、それは恐怖の色ではない。

本来なら見ることすらかなわない、最大の目標というべき女性の芸だと確信したから。

女性は口から火を噴くと、投げられたすべてのナイフが菊の花びらとなって会場を包み込んでいく。

「これって、ママの…」

帽子で顔が隠れ、一切見えないが間違いない。

彼女は命と引き換えに自分を生んでくれたガーベラだ。

彼女を呼ぼうと席を立つシルビアだが、その瞬間観客とガーベラと思われる女性の姿が消えてしまう。

そして、ステージの中央には隣にいたはずの老人の姿があった。

「ふむふむ…夭折の女旅芸人か。もっと長生きさせてくれればと思うが、なるほど…その意思はしっかりと息子に受け継がれておるか…」

「おじいちゃん…アタシとママのことを知っているの?誰なの…??」

シルビアはガーベラの芸名と同じだが、ガーベラが活動していたのは30年以上前のこと。

中年から高齢の世代の人なら覚えている人がいるかもしれないが、少なくともロトゼタシアを旅してきた中ではそのことに気づく人はいなかった。

いたとしても、同業者くらいだ。

旅の中で交流した同業者の顔は覚えているが、この老人については見覚えはない。

「わしは…ただの観客じゃ。これから始まるエンターテイナーによるショーのな」

「これから始まるって、でもママは…」

「何を言うておる?さあ、始めてもらおうかのぉ」

皺の目立つ腕を伸ばし、指を鳴らすと同時にシルビアの視界が一瞬暗くなる。

視界が元に戻ると、なぜか彼はステージの中央に立っていて、目の前には黒一色の何者かの姿があった。

「これは…??」

剣を抜く彼の構え、体つきや髪型に服装。

黒一色であることを除けば、それはシルビアそのものといえる。

「さあ、わしに見せてくれ。これから始まる剣舞を」

「嘘!?何よ、どんな手品を…きゃ!!」

突然のことに困惑するシルビアに向けてシルビアの影が剣で切りかかる。

慌てて剣を抜いたシルビアはかろうじてそれを受け止める。

やはりというべきか、持っている武器はシルビアと同じだ。

「拮抗する力のぶつけ合い…最高の舞台はまさに自分自身との戦い。技術、身体能力、魔力…いずれも同じなのだから」

最初は剣を手にしていた二人だが、埒があかないことからナイフに持ち替え、次は鞭を手にする。

アモーレショットを互いに相殺し、いかなる手を尽くしてもお互いに突破口を見つけることができない。

敗北まで追いつめられることがなければ、勝ち筋が見えるわけでもない。

互いにただ消耗していくだけで、お互いに手を知り尽くしていることから裏をかこうとしても読まれて対策をとられてしまい、それはシルビア自身も同じだ。

武器を、技を、呪文をぶつけあい、生じた傷をお互いにリベホイムで癒す。

致命傷を与えることも与えられることもなく、次第に疲労が重なっていく。

「はあ、はあ…いったい何なのかしら。これ…どうすればいいの…!?」

目の前のシルビアの影も同じく疲労を見せている。

このままでは、いつまでも泥仕合は終わらず、共倒れを待つばかり。

いったいこれのどこがショーだというのか、老人は何が目的でこのようなことをさせるのか。

「さあ、どうする…?このままではいつまでも観客を盛り上げることはできぬぞ?」

「観客…?」

「さあ、見せてみろ。お前が持っていて、そこの影が持っていないものを」

「アタシだけが持っているもの…」

切りかかる影と鍔迫り合いを演じるシルビアはじっと影の顔を見る。

顔立ちはやはり、憎たらしいほどに自分と似ている。

必死な表情を見せていることも同じ。

何もかも同じはずの影と己が唯一違うもの。

「アタシは…アタシは戦い続けて、演じてきたわ!世界を笑顔にするために!」

ソルティコを飛び出し、幼いほかの弟子たちとともに芸を磨いた日々。

長年の修行の末にようやく客前で披露することを許され、歓声を受けた時の喜び。

自立を認められた時の喜びと不安、旅立つ日に師匠から受けた激励。

世界を旅し、その中で人々の中で有名になったときに抱いた誇りと、勇者と出会ったときに感じた己の運命。

喜怒哀楽に彩られたキャンパスに描かれた日々のすべてが今のシルビアを作った。

そのすべての積み重ねが目の前の影との最大の違い。

「だから…負けて、られないのよ!!相手がたとえ、アタシ自身であっても!!」

心の底からの叫びとともに力を込めて影を吹き飛ばす。

同時に、右手の剣が粉々に砕け散ると、その欠片が集まってイエローオーブへと変わっていく。

「これは…」

「フフフ…さあ、お集りの皆様!とくとごらんあれ!」

席に座っていた老人が消え、同時に上空に白い燕尾服とシルクハット姿となり、ステッキを手にした老人が姿を現す。

まるで足場がそこにあるかのように歩き、ステッキを振るうとイエローオーブを中心に左腕を覆う小型盾付きの手甲へと変化していく。

「闇に包まれた世界に光をもたらさんとするさすらいの旅芸人、その名はシルビア!!これからお見せするは…己の影を払う輝く刃!!」

「刃…!?」

左手首部分にある剣の柄を抜くと、魔力でできた刃でできた剣があらわとなる。

確かに剣を握っているにもかかわらず、重量が感じられず、高速で振るうことができるその剣を手にシルビアは己の影に切りかかる。

影は剣を受けるが、先ほどまでとは違い、じりじりとだが影が追い詰められている様子だ。

「さあ、使いこなして見せよ!奇術師パノンが得物、ジェスターシールドを!!」

「パノン…あなたが…!?」

伝説の旅芸人パノン。

勇者ローシュの同志として、人々の笑顔を守り続けた旅芸人だが、その正体を知る者は誰もいない。

時には老人、時には若者、果てには時には女装して姿を見せることがあり、実際に彼が男なのか女なのか、男なのか女なのか、そもそも人間かどうかすら見当もつかず、ローシュ達も最後まで知ることはなかったという。

旅芸人たちならば、一度は名前を聞いたことがあるというその旅芸人の力を借りることのできる奇跡にシルビアの表情が明るくなる。

切りかかってくる影を盾でいなし、剣を振るおうとすると光の刃が急に長くなり、鞭のようにしなやかになって影を襲う。

「これって…剣だけじゃなくて鞭にもなるの!?それに…」

振るえば振るうほど、シルビアの脳にジェスターシールドの使い方がスポンジのように吸収していく。

一度魔力を抑え、光の刃を消すと今度は左腕を影に向ける。

影がアモーレショットを放とうと構えるが、その前に楯に宿るイエローオーブが光り、そこから魔力のビームが発射される。

エルバの紋章閃のようにそれは影を撃ち抜く。

撃ち抜かれた箇所にハート状の穴が開き、影は霧散してしまった。

「勝ったの…?これ…」

決着がついたことを理解するのと前後して、シルビアはその場に座り込み、息が荒くなる。

今まで激しく動いた疲れがここでようやく自覚でき、体と脳がブレーキをかけてくれた。

そんな彼女の前にパノンが再び元の老人の姿となって現れる。

「おめでとう。見事見事。いいショーじゃったよ」

「はは、ありがとう。まさか…伝説の旅芸人に褒めてもらえるなんて…」

「伝説のぉ…わしはそんな大それたものになるつもりはなかったがのぉ。まぁ、そう呼ばれても悪い気はせんがなぁ。それより、どうじゃった?わしの武器は」

「え、ええ…びっくりする武器だわ。こんな武器がロトゼタシアにあるなんて…」

使用者の魔力によって制御する武具は確かにロトゼタシアに存在するが、ここまで効率よく扱えるものはない。

シルビアも魔力を持っているが、それでも本職や勇者には及ばない。

それに、シルビア自身も魔力をそんなに多くジェスターシールドに注いだわけでもない。

にもかかわらず、光の剣や鞭を作り出すことができ、盾からは光線を発射できた。

ここまでできたのはきっと、イエローオーブの存在も大きいかもしれない。

「その分、使いこなせる人間が限られるがのぉ、もっとも…お前さんの場合は大した問題はなかったようじゃのぉ」

ハハハと笑うパノンが指を鳴らすと、空っぽになっていた客席が一気に観客で埋まっていき、皆がシルビアに向けて拍手を送る。

それを見渡していると、急にシルビアは眠気に襲われる。

「いいかの?シルビア、よく聞け。光と闇は互いに対立することで存在する。そして、対立するものが存在するからこそ、互いに自らの存在を認識できる。炎と氷、生と死、光と闇、平和と戦争。そして、対立の中で調和し、バランスを保つのだ。混沌の果てに、可能性はある」

「混沌の果てに…」

「そうじゃ。己を志を共にする仲間たちを信じて、前へ進め。信じておるぞ」

 

「ん、んん…」

ガンガンと頭痛を覚えたシルビアが目を開けると、そこは元のテントの中だった。

「夢、だったのかしら…?あら…」

頭を抱えた状態であたりを見渡す中、ちょうどすぐそばには夢の中にあったジェスターシールドがおかれている。

寝る前は何もなかった場所にいつの間にか存在している。

まるで、あの夢が本物だということを教えているかのように。

「混沌の果てに可能性がある、か…」

パノンの言葉の意味を完全には理解しているとは言えない。

だが、自分と仲間を信じることならできるはずだ。

力をくれた彼に感謝しつつ、シルビアはもうひと眠りした。

 

「ほぉ…まさかそのような夢を見る中で、パノンの力を手に入れるとはのぉ」

「ええ。カミュちゃんたちとは違う形にはなったけど、これはこれでよかった気がするわ」

左腕に装備したジェスターシールドを撫でつつ、シルビアは夢の中の出来事を思い出す。

あの時、シルビアは確かに自分の影と戦った。

絶対に負けないが絶対に勝てない相手。

勝つには戦いの中で成長するか、影にはない気力を出すことだけ。

そうするにはどれだけ自分を信じられるかが問題になる。

それをクリアできたから、シルビアは力を手に入れることができたのだろう。

「これ、か…??」

一番奥に到達し、そこでエルバが見つけたのは聖なる種火で見た光景の中にあったのと似た色の大きな鉱石。

水晶のような色をしていて、透き通った色に魅入られる自分を感じる。

「こいつは…そうか、間違いねえ!こいつは伝説の鉱石、オリハルコンじゃねえか!!マヤがよく言っていたモンだ!!」

永久不滅の鉱石といわれるそれを素材として生み出した武具は圧倒的な力を持つことになるが、それを加工するだけでも命を懸けるほどの技術と魔力を注ぎ込まなければならず、生み出された武具は使い手を選ぶ。

使い手と認められなかった場合、その武具はただ強度が高く、切れ味がいいだけの武具となり、すさまじい重量になって使い手を拒絶する。

だが、使い手として認められた場合、その者の心の力を発揮するという。

「このオリハルコンで、勇者の剣を…」

つるはしを手にしたエルバはオリハルコンの塊を掘り出す。

その大きさは剣を1本生み出すには十分なほどの大きさだった。

「あとはオリハルコンを鍛える槌、そして…勇者の剣を生み出す場所だ」

「ああ…まず行く場所はサマディーだな」

オリハルコンを持つエルバの手の力が強まる。

一歩前へ進んだ喜びか、それとも焦りか。

それはエルバ自身もわからないものだった。

 


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