「で…その、なんだよ?その人食い火竜ってのは。マジであんなのと里は何度も戦っていたのか?」
一度隠れ家に戻り、それぞれが手ごろな石に腰かけた状態で、カミュに振られた質問を女性、ケイは肯定し、首を縦に振る。
「人食い火竜…。ヒノノギ火山を住処とし、数十年に一度、姿を現します。そのたびに里を火の海にし、人々を食い殺す…。その人食い火竜は現れるたびに武者たちは命がけで戦い、多くの命と引き換えに討ち取ってきたのです」
この里で武者となるということは、いつか現れるであろう人食い火竜と戦うということを意味する。
人食い火竜と戦った武者の大半は帰ってくることがなく、時には火竜もろとも全滅したということもあったという。
そのような犠牲に報いるため、その戦いに参加した武者の遺族に対しては子々孫々に至るまで、里長から手厚い保護を受けることになり、同時に武者は里最大に危機である人食い火竜に対して前線に立って立ち向かい、里のために死ぬことが誉となっていた。
「人食い火竜は確かに討たれた…。ハリマ様や夫、多くの武者の犠牲の上で…。確かにヤヤク様はそうおっしゃられていました。しかし…」
だが、実際に人食い火竜は目の前にいた。
マグマと煙のおかげというべきか、エルバ達はその魔物が食べていたものの全容を見ることはなかったが、それはよかった。
もしそれを見ていたら、恐怖ですくむか、怒りに飲まれるかのどちらかだったのだから。
「人食い火竜が死んだのは2年前、本来であれば短くても30年…長くて100年は現れないはずなんだ。なのに、現れたということは…」
「人食い火竜は、実際は倒されていない…ということなのですね?」
その言葉にテバとサキの表情が曇る。
キジやハリマだけでなく、数多くの武者が命を犠牲にして戦ったというのに、なぜ人食い火竜があれほど無事な姿でヒノノギ火山の中にいるのか。
もしそうだとしたら、死んでいった人々は何だったというのか。
「私が人食い火竜の存在を知ったのは2週間前です。その時、私は外へ出て、水を汲みに行っていました」
サマディーほどではないが、ホムラの里も水が貴重で、特に世界が崩壊してからは井戸水が不足し始めていた。
そのため、危険を承知で里の外へ出て、水を汲みに行くことが多くなった。
多くは男性が出るが、時折ダーハルーネから塩や魚を運び荷馬車の護衛に男性陣が駆り出されることがあり、その時は手の空いている女性が向かうこともある。
そのため、ケイは水を汲みに里を出て、水をたっぷり入れた瓶を背負って里へ戻っていた。
「その時、ヒノノギ火山から獣の鳴き声が聞こえました。最初はただの魔物のものかと思いましたが、だんだんと鳴き声が大きくなり、君の悪さを覚えた瞬間、強い風と共に火山から姿を見せたのです。人食い火竜が…」
火山から飛び立ち、得物を求めるかのように周囲を飛び回っていた。
時折、人食い火竜の視線がこちらに向くのを感じ、その時は体が凍り付き、逃げるべきだと頭はわかっていても動くことができなかった。
「人食い火竜が火山に戻ってから、私は里の人々に人食い火竜が生きていたことを伝えたのです。ですが、誰も信じてもらえませんでした。ですので、ヤヤク様に直接お伝えしたのです。ですが…」
無礼を承知の上で、ヤヤクに直接伝えたとき、ヤヤクは直ちに武者を調査に向かわせるため、心配するなと返事をされた上で、里に混乱を招く可能性があることから、その話はするなと口止めされた。
そして、それから数日後、神への供物として、ケイが選ばれることとなった。
「この半年の間に、私を含めてすでに11人が供物とされました。供物というのはおそらく、あの人食い火竜のための食糧だったのでしょう…」
「もう、10人も食われたというのか…」
「ヤヤク殿…乱心されたというのか…!」
「けれど、ケイさんはよく無事に逃げることができましたね」
「ええ…。私を運ぶ馬車が魔物によって襲撃されたのです。そして、子供たちが…」
ケイが供物とされることが納得のいかなかったテバとサキがこっそりと追跡して、ケイを助け出そうとしてくれた。
人食い火竜の話を聞き、ケイが供物に選ばれたことに疑問を抱いたからだ。
だが、ケイは頑丈なタルの中に入れられ、馬車は武者たちによって守られている。
本来なら子供2人でそんな大それたことができるはずがなかったが、幸か不幸か、魔物の襲撃によってすべてがひっくり返ることになった。
「ひどいよ…。供物にされた人たちは、みんなそれで里が救われるなら、里が前みたいに平和になることを願って、死んだのに…」
「…。母ちゃん、オイラ…ヤヤク様に本当のことを聞いてくるよ!」
「よしなさい、テバ!!そんなことをしたら、あんた…」
ハリマの傅役の妻であるケイでさえ、供物にされ、切り捨てられた。
息子のテバが話したとしても、おそらく待っているのはケイと同じ結末だ。
それに、ケイの居場所を聞き出そうともするかもしれない。
実際に供物に選ばれ、真実に近いところに来たケイには今のヤヤクが修羅のように見える。
「でも、でも…そんなんじゃ、そんなんじゃ、父ちゃんも、ハリマ様も報われねえよ!!」
武者たちの葬儀が行われていた時、ヤヤクは確かに父親をほめてくれた。
父親が死んだ悲しみに沈みながらも、人食い火竜を討ったこととヤヤクの言葉が支えとなり、家族はどうにか前を向いて生きることができた。
それはすべて偽りだったのか、もしくはもっと他に真実があるのか。
とにかくそれを確かめたいと願い、テバは飛び出していく。
「テバ、テバ!!」
「あいつ…くそっ、魔物が活発化しているというのによぉ!」
「追いかけましょう!!」
たった一人で飛び出したテバを放っておくことができず、カミュ達は次々と飛び出していく。
最後に出ようとしたエルバだが、彼のズボンをサキがぎゅっと握ってくる。
「…?」
「テバ兄ちゃんを…テバ兄ちゃんを助けて」
「…ああ」
返事を聞き、手を離したサキに笑顔を向けると、エルバは追いかけるように外を出る。
魔物や里の人々に見つかるわけにはいかないケイは出ていく彼らの後姿に頭を下げるしかなかった。
「おお…神よ、いましばらく鎮まり給え…。鎮まり給え…」
里の神殿で、榊を手に目を閉じて神に祈りをささげるヤヤク。
やせ細った村人たちもヤヤクにならい、目を閉じて山の神に祈り続ける。
供物を届けることができなかったためか、最近は山から発生する地震がホムラの里を何度も遅い、天候も不安定になっている。
飢え、疲れ果てた人々にできるのはこうしてすがることくらいだ。
そんな中、テバの声が響く。
「大変だ、大変だよぉ!」
「お前、テバか…!?今は儀式の最中だ、静かに…」
神殿を守る武者の制止を無視し、テバは神殿に土足で飛び込む。
そして、ヤヤクに伝えなければならないことをはっきりと口にする。
「生きていた…生きていたんだ!人食い火竜が!!」
祈りの言葉を口にし続けていたヤヤクの言葉がテバの言葉で止まる。
しばらく神殿は静寂に包まれるが、やがてテバのそばにいた老人がハハハと笑い始める。
「何を馬鹿なことを言うておるんじゃ、テバよ。人食い火竜は討伐されたのじゃぞ?」
「人食い火竜は死んでないんだよ!ヒノノギ火山の奥深くで、今も生きている。オイラはこの目ではっきりと見たんだ!」
「その話…誠か?おぬしは…あの火山の奥深くへと入ったというのか?」
榊を置き、立ち上がったヤヤクがずかずかとテバの前まで歩き、キッと彼の目を見る。
泳いでいない、まっすぐなテバの目。
そして、断言する言葉から、それが偽りでないことがよくわかる。
「いや…何も聞くまい。それよりも、なぜ儀式の邪魔をする?神の怒りに触れるのだぞ!!」
「うるさい!この嘘つき!!オイラは見たぞ…人食い火竜が生きているのを!!人食い火竜は死んだんじゃなかったのかよ!!神様が怒っているなんて、嘘っぱちさ!!供物にされた人たちはみんな、あいつに食われちまったんだ!!」
「な、なんと…!」
「人食い火竜が生きている…?そんな馬鹿な?」
「いや、これは…」
テバの言葉に儀式の参加者たちがあわただしくなり、ヤヤクは動揺することなくテバをにらみつける。
足がかすかにふるえるテバだが、母親とサキのためにも踏ん張り続ける。
「答えろよ!!なんで火竜が生きてるんだよ!?ハリマ様は…父ちゃんは、無駄死にだったのかよぉ!!」
バチンと鋭い音が響き渡る。
追いついたエルバ達が見たのは倒れているテバと榊を手放し、右手を上げ切っているヤヤクの姿だった。
赤く染まった頬から感じる痛みで出そうになる涙をこらえ、口内の鉄の味を感じながら立ち上がるテバの表情がより一層険しくなる。
「愚か者が…!無駄死になはずがなかろう!ハリマも、キジも!あの場所で戦い、命を散らした武者たちも!!…無駄死にになど…させる、ものか…!」
「ヤヤク様…?」
「グオオオオオオオンン!!!!」
体をふるわれるヤヤクに反撃しようと声を上げようとするテバだが、耳をつんざくほどの咆哮がその言葉をかき消す。
それを聞いたヤヤクの目は大きく開き、参加者の中にいた子供がかつての出来事を思い出すと、親に縋り付いて泣き始めた。
「大変だ、人食い火竜が…火竜が来たぞぉ!!!」
「くっ…!!」
ついに起こってしまった最悪な事態に表情をこわばらせ、エルバは外へ飛び出してふもとの様子を見る。
地上では弓矢を手にした武者たちが見張り台や建物の屋根から人食い火竜に矢を射かける。
だが、上空を舞う人食い火竜の分厚い毛皮は矢を受けても何ともなく、口から巨大な火の玉を山頂の湯屋に向けて放つ。
建物に当たると同時に爆発が起こり、一瞬でその場所は火の海と化す。
そして、今度は地上の邪魔ものを薙ぎ払うべく、同じ火の玉を真下の広場に向けて発射した。
爆発とともに炎と衝撃波が襲い、武者たちは焼かれるか吹き飛ばされていく。
「くっそぉ!!よくも、里を!」
「よせ…ヨモシチ!!一人で戦うなぁ!!」
「家族と…仲間の仇をぉ!!」
制止の声は届かず、一瞬で家族を皆殺しにされた恨み、かつての火竜狩りに参加できなかった無念を晴らすべく、彼は吹き飛ばされて傷ついた体に鞭打って、槍を構えて突撃する。
たとえ矢で大したダメージを与えられないとしても、槍で頭を貫かれて生きられない生き物はいない。
そう考えて頭にそれを突き刺そうとしたが、その体は無慈悲にも人食い火竜の振り下ろす前足に沈む。
「が、ああ…あ…」
前足がどかされ、地面にうつぶせになった彼の姿がさらされる。
腕も足もあり得ない方向に曲がり、内臓もいくつか傷ついた彼は立ち上がる力はすでにない。
かすかに息をしているが、もはやそれは何の慰めにもならない。
ようやく生きのいいごちそうを見つけた人食い火竜が口を大きく開く。
「あ、あああああ!!ぐあ、ガアアアアアアアア!!!!!」
「くっ…!」
「聞くな、セーニャ!!」
食われる人間の悲鳴が聞こえ、それをきいたことで里中がパニックに陥る。
ふもとの人々は我先にと神殿へ逃げようとし、逃げ遅れた住民はそれを守ろうとした武者もろとも火竜の爪で引き裂かれる。
そして、バラバラになった人だったものをムシャムシャと食べていく。
「く…ちっくしょおおお!!」
「急いで始末しないと、里が崩壊するわ!!」
「テバはここで待っていろ、絶対に降りるなよ」
「うん…お願いだよ」
エルバ達は人食い火竜を討つべく、山道を駆け下りていく。
その時、エルバ達はヤヤクが膝をついている姿を見ることはなかった。
「グオオオオオオ!!」
「くっ…!水竜の剣の水でも、これか!!」
人食い火竜の放つ炎を水竜の剣の水の刃で切り裂くが、熱気は確かにエルバを襲い、下手に口を開けるとのどを焼かれるかもしれないほどだ。
おまけに、大型の魔物のくせに素早い動きを見せていて、グレイグ達は攻撃のために近づく機会をつかめずにいる。
「早くあの魔物の動きを止めねば、里が…!!ロウ様、マホカトールで止めることはできませぬか!?」
「そうしたいところじゃが…奴は、かなりの知能を持っているようじゃ!」
その証拠を見せるべく、ロウはゴールドフェザーの1本を投げ、地面にさす。
すると、人食い火竜がそれを脅威となると認識したのか、接近して爪でそれを粉々に砕いた。
再びロウはもう1本のゴールドフェザーを別方向に投げる。
今度はゴールドフェザーに入れた呪文はヘナトスを詰めており、壊そうとすればその魔力が人食い火竜を包み、力を封じてくれる。
だが、その魔力が宿っているのを察したのか、今度は爪ではなく炎でゴールドフェザーを焼き尽くした。
マホカトールを生み出すとなると、最低でも5本はゴールドフェザーが必要になることを考えると、今の人食い火竜をそれで捉えるのは難しいだろう。
「まったくもう…里の人たちを悲しませて、絶対に許さないわよ!!」
ジェスターシールドから抜いた光の剣の刃が鞭になり、それを人食い火竜に向けてふるう。
光の鞭が人食い火竜を捕縛しようと伸びるが、大きく跳躍し、その状態で飛行を始めてしまう。
「くそ…!あの翼をぶちぬかねえと、飛んでいっちまうぞ!」
「当たるかどうかはわからないが…!」
相手が高度を上げたとなると、逆にある呪文を当てるチャンスになる。
印を切ったエルバは上空を舞う人食い火竜の動きを見る。
エルバが勇者の力を自覚することになったあの時、エマと自分を救った雷。
2つの痣を手にしたことで、その時よりも強力な力を使うことができる。
両腕の痣が光り、上空には黒い雷雲が生まれる。
バチバチと両腕に稲妻が走り、頭上に両腕を伸ばす。
「ギガデイン!!」
激しい稲妻が雷雲から発生し、それが幾重にも人食い火竜を襲う。
さすがの人食い火竜も自分よりもさらに高いところから落ちてくる攻撃をよけきれず、何度か稲妻を受けるが、それでも高度を下げるだけで飛行能力は失っていない。
だが、高度が下がり、ダメージを受けたことでスピードが落ちたなら別の攻撃手段ができる。
「じいさん!!セーニャ!!」
「任せよ、エルバ!!」
「はい!!」
このわずかなチャンスで人食い火竜をしとめる。
セーニャは氷魔の杖にベロニカから受け継いだ魔力を込めていく。
セーニャの脳裏にイメージするのはベロニカが習得しようとしたが、かなわなかった呪文。
ベロニカ1人では不可能かもしれないが、彼女から受け継いだ力にセーニャの力を上乗せすれば、できるかもしれない。
ダメージで痛みを感じる人食い火竜は自らを傷つけた人間への怒りに燃え、それを焼き尽くそうと口に炎をため始める。
「セーニャ!!」
「はあああああ、イオナズン!!!」
炎をためる人食い火竜の周囲を激しい爆発が襲い掛かり、あまりの激しい爆発に人食い火竜の動きが止まる。
爆発の煙が上空を覆い、その中でロウはすでにグランドクロスを放つ準備を終えていた。
煙の中から、イオナズンとギガデインでダメージを負った人食い火竜が落ちてくる。
どうにか飛ぼうともがいているようだが、もう遅い。
「貴様が食らったものの無念を思い知ってもらうぞ!受けよ、グランドクロ…」
「待て!!」
「何…!?」
「殺すな…!あの人食い火竜を殺してくれるなぁ!!!」
地面に落ちた人食い火竜とエルバ達の間にいきなり割って入ったヤヤクが両腕を伸ばして、エルバ達を制止する。
倒れている人食い火竜はいまだにダメージで苦しんでいるが、まだ死んだわけではなく、居間にも起き上がりそうな勢いだ。
「ご乱心めされたか!?ヤヤク様、どいてください!!」
「奴は人食い火竜なのですぞ!?」
「ヤヤク殿!どうしたというのじゃ…!?」
集まった武者やエルバ達の視線がヤヤクに集まる。
どいてくれ、説明してくれ、ありとあらゆる声がヤヤクに向けて飛ぶが、今のヤヤクには一切聞こえない。
振り返ったヤヤクは優しい笑みを浮かべ、人食い火竜を見つめる。
起き上がった人食い火竜が激しく咆哮するとともに衝撃波が発生し、周囲にいたエルバ達を吹き飛ばしていく。
一番近くにいたヤヤクも大きく吹き飛ばされ、岩に激突した後で地面に倒れる。
ぶつかるとともに吐血し、体中から悲鳴が上がる中、彼女は立ち上がる。
そして、そんな生きのいい餌を見た人食い火竜は口を開け、彼女に接近し始めていた。
「ヤヤク様!!」
起き上がり、ドラゴンスレイヤーを手に、ヤヤクを食らおうとする人食い火竜に向けてトベルーラで接近する。
このまま近づいて、切りかかることができればと考えるエルバだが、見えない壁に阻まれるとともにトベルーラの魔力が解除され、地面に落ちる。
「なん…で…!?」
倒れるエルバが見たのは自分に向けて手を伸ばし、何らかの呪文を唱えたヤヤクの姿だった。
どこか悲しげな笑みをエルバに見せた後で、人食い火竜に向きなおしたヤヤクは両腕を広げる。
「無力な長を…無力な母を許しておくれ…。どうか、わらわの命で…里を…」
遅かれ早かれ、このような運命が訪れることはわかっていた。
しかし、認めることができずに、挙句の果てに守るべき里の民の命を奪う結果となった。
その贖いをしなければならない。
せめて、これが人食い火竜に対する最後の犠牲となることを願って。
「ああ…」
エルバの目に食らいつかれていくヤヤクの姿が焼き付いていく。
悲鳴一つ上げることなく、血だまりを生み出しながらグシャグシャと食べつくされていくヤヤク。
「あ、ああ…ああああああ!!!!」
遅れて山道を駆け下りたテバもまた、その光景を見ていた。
里の民も武者たちも、このあまりの出来事に凍り付いていく。
ヤヤクがいた場所に血だまりができ、口元を人の血で濡らした人食い火竜は激しく咆哮する。
そして、腹を満たしたことで満足したのか、周囲を見向きもせずに飛び立っていく。
「おのれ、おのれええええ!!ヤヤク様の仇だ!人食い火竜を殺せぇぇぇ!!!」
正気をいち早く取り戻した武者の号令によって、飛んでいく人食い火竜に矢を射かけるが、既に高度を上げてヒノノギ火山へと飛ぶ人食い火竜に当たることはなかった。
人食い火竜が去り、残ったのは炎上する里の一部と多くの民と武者たちの死体。
あるものは食われて、ほんの一部しか残らなかった亡骸を抱いて泣き崩れ、あるものはただ焼けていく建物を眺めるだけ。
武者たちもヤヤクを失ったことで気落ちして、里は静まり返ってしまった。
「ヤヤク様…」
膝が折れ、その場に座り込んだテバは放心状態で血だまりを見つめる。
「テバ!」
「テバちゃん、どうして降りてきたの!?」
「大丈夫!?」
「兄ちゃん…たち…」
エルバ達の声が聞こえ、彼らが無事だったことはわかったが、その喜びを今のテバには表現することはできない。
それ以上にショックなことが起きてしまったのだから。
「ヤヤク様が…言った…。父ちゃんも、ハリマ様も…無駄死になんかじゃないって…そして…」
(おぬしの父、キジは…誠の武者じゃった。わらわのようにはなるな、キジのような…立派な武者となっておくれ)
山道を降りようとしたヤヤクがテバにかけた最期の言葉。
本当なら、何をいまさらと聞き捨ててしまいそうになるが、今はその言葉が耳から離れない。
次第に、体ががくがくと震えて、涙が浮かんでくる。
「なん…で…母ちゃんを、殺そうとしていたのに…なんで、なんで涙が出るんだよ、なんで…!!」