これは魔法少女ですか?~はい、ゾンビです~   作:超淑女

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11「うん、たぶんゾンビです」

 翌日、マミは日差しの中木の影を移動していた。

 日陰の中を移動するマミの傍には、仁美が歩いている。

 午前授業である今日は、仁美と帰ることになったのだ。

 ほむらは後で合流するらしい。

 ふと仁美を見るマミだったが、その顔がわずかに暗いことに気づく。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、さやかさんのことを思い出していました」

 

 その言葉に、わずかに顔をしかめるマミ。

 当然と言えば当然かもしれない。

 昨日のことを思えば……。

 

「どうしたの?」

 

「暗いというか、そんな感じでしたわね。上条君のことでなにかあったのでしょうか」

 

 少し顔をしかめて言う仁美。

 なにか思うことでもあるのだろうかと少し首を傾げるマミ。

 彼女がそんな顔をするなんて珍しいと思う。

 今日はほむらは先に帰ってしまった。

 

「ところで、ユークリウッド様のことなのですけれど」

 

 急に話題を変えた仁美を疑問におもいながらも黙って聞くマミ。

 

「マミ先輩の傷を治したことはありますか?」

 

 その言葉に、マミは頷く。

 誤って手を切ってしまった時など、時たま治してもらうことはある。

 少し前は魔女と戦って傷の治りが遅い時なども治してもらった。

 

「マミ先輩、いえ巴マミ。彼女が治癒の能力を行使したということがどういうことかおわかりになりますか?」

 

 そんな言葉に、マミは頭を傾げた。

 ご存じありませんでした? と不思議そうにする仁美。

 

「ユークリウッド様は他者の傷を治す代償に相手の痛みをそのまま引き受けるんです」

 

 マミが目を見開く。

 

「ユウはそんなこと一言もっ」

 

「それがあの人の優しさなのでしょう」

 

 空を見上げて言う仁美は、嘘をついているようには見えなかった。

 そして話を続ける仁美。ユウは冥界でも特別な存在で、そのユウがマミを特別な存在だと認めたということなどを語る。

 

「そんな……」

 

 今まで知らなかったにしては、罪深い。

 家族だと思っていた少女のことを、本当は何もわかってないと頭を抱える。

 微笑する仁美。そんな仁美を見て、なんで笑うのかわからないマミ。

 

「そこまでユークリウッド様のことを考えてくださっているならば結構です。では、私はこちらですので……」

 

 歩いていく仁美。

 別の道だが、マミは息をのんだ。

 目の前に続く道に影は無い。

 

「(ガイアよ、貴方はどこまで私に試練をお与えになるのかっ)」

 

 マミは息をのみ、足を踏み出した。

 

 

 

 結果―――マミは倒れた。

 しかして自宅へとマミがつけたのは運よくセラが通りかかって干からびかけていたマミを連れ帰ったからだろう。

 コヒューコヒューと息をしているマミは非常に不気味だったが、そんなマミを背負って帰ってくるだけセラもマミをそこまで嫌っていない証拠だ。

 

 自宅にて水を飲むマミが、ユウの隣に座った。

 視線をユウの方に移すと目が合う。

 少し気まずくなりそうだが、マミは口を開く。

 

「志筑仁美からいろいろ聞いたわ」

 

 少し、肩が揺れた。

 

『あのシーウィードから?』

 

 二つ名か何かだろうか?それとも向こうでの本名なのか……どちらにしろわかっているようだ。

 頷くマミ。ユウは相も変わらず無表情。

 困ったようなマミが、核心たる部分に触れる。

 

「ユウはさ……なんで感情を押し殺してるの?」

 

 その言葉に、再びピクッと震えたユウ。

 二人の視線が合い、メモ帳が持ち上げられる。

 

『答えなきゃだめ?』

 

「ええ」

 

『どうしても?』

 

「どうしても、よ」

 

 その言葉に、そっと頷くユウ。

 言いたくないのだろうけれど、マミは聞きたかった。

 我儘だと罵られようと、家族のことを知るのになにが悪いとマミは声を大にしてでも言える。

 少し考えるようにするユウだったが、あきらめたからか、メモ帳に言葉を書いた。

 ページを千切ってマミへと渡していく。

 

 

『運命の糸というものはゆらゆらと横に揺れながら前へと進んでいる。

 そこに強い魔力の影響があると揺れは大きく激しくなる。

 私は動揺、不安、心の動きで魔力がすぐに乱れてしまう。

 それは運命の糸に干渉し現実を変えてしまう。だから私は感情を出す事が許されない。

 言葉を出せないのは、言葉に魔力がこめられてしまうから。

 だから私は声を出す事が許されない。

 私は言葉は重すぎる。

 いつ、どの言葉が力に変わるか私にもわからない。だから一言も発することも許されない』

 

 

 その真実の数々を知って、マミは動揺が隠せない。

 

「で、でも、あーとかうーとかなら言えるんじゃ―――」

 

『言葉が力に変わる時、私の頭に激痛が走る。あれはもうイヤ』

 

 一言も話せない理由。

 何も言えない理由が理解できた。

 初めて出会った日にマミを見て『面白かった。だから二度とするな』は感情の動きをセーブするため。

 

 

『私の血液には不老の力があり、心臓は膨大な魔力を放出している。

 ガントレットとプレートアーマーは私の魔力を封じる為。

 私の力に私の意志は関係ない。私が死んでも魔力は発動する』

 

 

 そこまでを語って―――手が止まった。

 マミがユウを見る。俯くユウの足に乗っているメモ帳に涙が落ちる。

 メモ帳には一言。

 

『嫌いになったでしょう?』

 

 驚愕で目を見開くマミが、頭を左右に振る。

 

「なんでっ!」

 

 身を乗り出すマミ。散らばっていたメモ帳が舞う。

 マミは強い口調だ。

 

「なんでよ! 私がいつ、ユウを嫌いだなんて言った!?」

 

 怒るようなマミの声。いや、怒っているのだろう。

 そんなことを言ってくれなかったなども含めて、彼女は今怒っている。

 

『私の感情が動くと、近くにいるマミの運命が一番変わってしまうから』

 

 ユウの涙が、メモ帳にシミを作っていく。

 徐々に、ユウの嗚咽が漏れていった。

 

『こんな化け物みたいな奴が側にいる。それを知ったら嫌いになるでしょう?』

 

 震えるユウの肩。

 マミが腕を振って答える。

 

「馬鹿言わないで! 化け物なんてどこにも居ない! ここにいるのは、ただの優しい女の子だけじゃない!」

 

『一緒にいてもいいの?』

 

 漏れる嗚咽も涙の量もどんどんと増していく。

 それはたぶん、悲しいからだけじゃないはずだ。

 マミはユウの手からボールペンとメモ帳を取る。

 何かを書くと、ユウに見せた。

 

「っ……」

 

 ユウの涙が量を増やす。

 彼女自身ももう止める気はないのだろう。

 それは悲しみの涙じゃないから……。

 

 マミはほほ笑んで、ユウの頭を優しく撫でる。

 

「ユウ、笑いたい時は笑って良いんだよ……運命がどうとか、そんなのは私がなんとかする」

 

 そう言いながらユウの頭を撫で続けるマミ。

 ユウの頭からそっと手を離すと強い表情で窓から空を見上げた。

 

「(たとえ最強の魔女でも最強のメガロでも、なんとかしてみせる。それがユウと一緒にいる代償なら……安いモノよ。ドーンと来なさい!)」

 

 傍に置いてあったメモ帳。

 ユウの『一緒にいてもいいの?』の隣にあるページ、そこには『一緒にいなさい どこにも行かないで 私のところにいなさい』と書いてある。

 それがマミの答えだ。

 彼女たちの運命が変わる瞬間―――でもあった。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 そして、二時間ほどしてからほむらにメールで呼び出されたマミはゲームセンターへとやってきた。

 遊びたいのかと思っていたがそういうわけではないようで、ほむらについて行った先にはUFOキャッチャーをやっている少女。

 赤い髪の少女が景品であるお菓子を取ると、嬉しそうにそれを取る。

 

「よう、今度はなにさ?」

 

 振り返ったのは佐倉杏子。

 昨日のほむらのように頭に包帯を巻いていて、ガーゼとばんそうこうが目立つ。

 すっかりほむらが治ったと思ったら今度は杏子だ。

 

「二週間後、この街にワルプルギスの夜が来る」

 

 杏子の眼が細くなる。

 隣のマミは沈黙の中―――え? と声を上げた。

 

「なぜわかる?」

 

 マミをスルーして話が続く。

 

「それは秘密。ともかく、そいつさえ倒せたら、私はこの街を出て行く……あとは貴女の好きにすればいい」

 

 さらに出て行くという言葉を聞いて、驚くマミ。

 今はマミの相手をしてる暇など無いようで、ほむらも杏子も構わない。

 さみしくなるマミだったが、自粛。

 

「ふぅん……ワルプルギスの夜ね。でもマミも一緒なんだろ? あたしはマミとは組めない」

 

「どうして? ちっぽけなプライドかしら、貴女はまだ巴さんに」

 

「黙りな」

 

 何が起こっているのかわからないマミ。

 だが空気がピリピリしているのは理解できる。

 自分が原因なのだろうかとあたふたとしはじめた。

 

「なに自棄になってるの、佐倉杏子」

 

「なってない」

 

「恐いんでしょ、巴さんと組めば貴女の信念が―――」

 

「黙れって言ってんだろ!」

 

 杏子の大声に、ほむらは黙った。

 大声に驚いている周囲の人間になんでもないんですと言いながら頭を下げるマミ。

 舌打ちをした杏子は歩いてどこかへ行ってしまった。

 溜息をつくほむら。

 

「ごめんなさい」

 

「謝る必要はないわ。私は貴女がいるのがなによりもうれしい」

 

 赤い顔で言うほむらだが、気づかないマミはその言葉をお世辞と思う。それでも嬉しかった。

 自分に気をつかってくれているのだということや、細かなことが嬉しい。

 やはりほむらと組んでいて良かったと思う。

 

 

 

 

 

 マミはほむらを連れて、自分のマンションへとやってきた。

 スーパーに寄って晩御飯の食材を買ってきた後だ。

 なぜほむらを連れて来たのかと言うと、そろそろ家族のことを紹介しなければということ。

 メガロのことや魔法少女のことを知っているし、知っていて損は無いだろう。

 

「ただいま!」

 

 玄関を開けて入るマミとほむら。

 少し遠慮がちにマミの後をついていくほむら。

 二人はリビングへとついた。

 驚愕するほむら、いつもの三角形のガラステーブルが無い。

 代わりにちゃぶ台だ。

 

「い、イレギュラーだわ」

 

 そのつぶやきは誰にも聞こえない。

 ちゃぶ台を囲むように座っている二人。

 ユークリウッド・ヘルサイズとセラフィム。

 

「マミ、その方は……」

 

 少し驚いているセラだったが、すぐに納得した。

 

「暁美ほむらです。巴さんにはお世話になっていて―――」

 

「ああ、堅苦しいことは良いです。大体世話になっているのはマミでしょうし」

 

「わからないじゃない、私がお世話してるかもしれないわよ?」

 

「ありえません」

 

 断言されたマミは低いトーンで晩御飯と作ると言って去って行った。

 残された三人。ほむらが座ると、セラが湯飲みにお茶を注いでほむらに出す。

 どうぞ、と言われたほむらは礼を言うと口をつける。

 

「ん」

 

 口を外すと、ふぅと息をついた。

 横から、トントンと音がする。

 そちらを向くと、ユウがメモ帳を叩いていた。

 

『いらっしゃい』

 

 マミから話は聞いていたが、本当に不思議な少女だ。

 綺麗なのだが、ガントレットとプレートアーマーがやけに気になる。

 それも様になっているような様子なのだが、ちゃぶ台には合わないだろう。

 

「貴女から見てマミってどういう印象なんですか?」

 

 セラの言葉に、少し迷うほむら。

 いろんな彼女を“知っている”ほむらは悩む。

 しかし今回の彼女の素直な感想を言うことにした。

 

「良い先輩ですよ。ゾンビなのも含めて」

 

 そう言って笑うと、セラは安心したように頷く。

 彼女はマミが好きなのだろうか? と疑問を抱くほむらだが、深くは考えないことにした。

 しばらくちょっとした話をしていると、ユウがほむらの服の袖を引く。

 そちらを見ると、メモ帳を見せられる。

 

『マミは強くない』

 

 頷くほむら。

 微笑を浮かべたほむらを見ると、ユウはメモ帳を置いて再びお茶を飲む。

 

「できたわよ~!」

 

 マミがいくつかの料理を持ってきた。

 

「今日は奮発しましたね」

 

 そう言ったセラ。

 ほむらは、自分のために? と少しうれしくなる。

 表情を出さないようにして、立ち上がって食事を運ぶのを手伝おうとした。

 

「良いのよ暁美さん、お客さんなんだから」

 

「何もしないっていうのは性に合わないのよ」

 

 そんな言葉に、マミは笑顔で皿を渡す。

 運んでいくほむらに、セラも『来客なのですから』と言うが同じように返した。

 全てを運び終えると、四人で食卓を囲むことにする。

 

「いただきます」

 

 三人の声と、一人の文字。

 食事を始めた四人は談笑をしながら箸を進めていく。

 ほむらは一昨日の夕食を求めるための“戦い”を思い出して肝を冷やす。

 あちらはあちらで気になるものの、ゆっくり“友達”と夕食というのも悪くないものだ。

 そう思わされた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 彼女、美樹さやかは想い人である上条恭介の自宅の前にいた。

 何かを躊躇するようなそぶりをみせているが、なにか歯がゆい。

 やはりやめるのか振り返る―――そして、眼を細く尖らせた。

 

「お前は」

 

「会いもしないで帰るのかい?今日一日追いかけ回したくせに」

 

 そこには昨日の魔法少女、佐倉杏子が居た。

 笑みを浮かべながらさやかの顔を見ている。

 ギラリと光る八重歯。

 

「知ってるよ。この家の坊やなんだろ?アンタがキュゥべえと契約した理由って……まったく。たった一度の奇跡のチャンスをくっだらねぇことに使い潰しやがって」

 

 もったいないと言わんばかりに言うと、お菓子をかじる。

 そんな言葉に、さやかがさらに表情をこわばらせた。

「お前なんかに何が分かる!」

 

「わかってねえのはそっちだ、バカ。魔法ってのはね、徹頭徹尾自分だけの望みを叶えるためのもんなんだよ。他人のために使ったところで、ロクなことにはならないのさ」

 

 お菓子を食べ終えると、飲み込んで立ち上がる。

 鋭い視線をさやかに向けた杏子。

 頭に巻いた包帯を外す。

 

「巴マミはそんなことも教えてくれなかったのかい?」

 

 そんな言葉に、さやかは若干動揺した。

 言っていたはずだ。彼女は良く考えて使えと言った。

 それを無視して願いを叶えたのは自分で……。

 

「やっぱり言ってたんだろ、やめろってさ?」

 

「うるさい!」

 

 これ以上は考えるのをやめた。

 自分は間違っていない。

 “正義の味方”として悲しんでいる恭介の片腕を治して、魔女だけじゃなく使い魔も倒して、街を守っている。

 誰にも気づかれないまま誰かのために戦っているはずだ。

 

 動揺している心に嘘をついて、さやかは笑った。

 

「ハッ!あの人って家族も友達も居ないんでしょ? ならわかるわけないじゃん……好きな人が泣いてる姿を見る辛さなんて!」

 

 その瞬間、杏子が変身して槍を持つ。

 杏子の眼は先ほどの眼とは全く違う。殺意と憤怒で溢れていた。

 笑うさやかに、歯ぎしりする杏子。

 

「……殺しちゃうしかないよね?」

 

 そう言った杏子を見て、背後の家を見たさやか。

 

「場所変えようか……あんまりそうしてると人目につくよ?」

 

 杏子とは違い余裕があるさやかはそう言って杏子に背中を見せて歩いていく。

 変身を解く杏子は、おとなしくさやかについていった。

 正々堂々と戦って“ぶちのめす”ということで頭がいっぱいだ。

 

 

 

 

 

 十分ほどしてから、杏子とさやかの二人は橋の上の歩道橋の上に立っていた。

 広めの歩道橋で、戦闘をするには十分な広さだ。

 怒りもだいぶ静まってか、杏子がソウルジェムを出した。

 

「ここなら遠慮はいらないよね、さっさと変身しなよ」

 

 変身して、槍を構える杏子。

 ソウルジェムを出すさやかだったが、足音と共にさやかの背後から少女が現れた。

 

「待って、さやかちゃん!」

 

 走ってきたのはまどか。

 彼女はキュゥべぇに呼ばれてやってきた。

 さやかは目を見開いて驚くが、再び杏子の方を向く。

 

「まどか。邪魔しないで!そもそもまどかは関係ないんだから!」

 

 そう言うと、さやかは変身しようとする。

 

「ダメだよこんなの、絶対おかしいよ」

 

 なおも止めるまどかに、さやかは少し煩わしそうな目を向けた。

 杏子は当分続くだろうと思い槍を肩にかついだ。

 

「ふん、ウザい奴にはウザい仲間がいるもんだねぇ」

 

 笑う杏子だが、さやかの先ほどの言葉を思い出して、槍を握る手が力む。

 今やれば一突きで終わる。槍を構えた。

 いつでも“殺れる”ようにと、構えた瞬間―――銃声。

 

 そちらの方向に全員が目を向ける。

 杏子の後ろに、マミとほむらがいた。

 

「チッ」

 

 舌打ちをする杏子だが、変身しているマミとほむら相手に突っ込む気にはなれない。

 ほむらの戦い方がわからないというのが理由だ。

 昔、別れる時は自分に良心から一切攻撃を当てることのできなかったマミだったが、昨日攻撃をしてきた。

 この二人に勝つのは、かなり骨が折れることだろう。

 

「やめなさい二人共、今は魔法少女同士で争うときじゃ」

 

「魔法ゾンビは黙っててくださいよ!」

 

「(これは酷い)」

 

 表情を変えることのないマミだが、心の中では結構傷ついていたりする。

 きっとユウやセラに出会っていなければソウルジェムの穢れもマッハだっただろう。

 マミはいつも通りの表情で微笑する。

 

「もうすぐ強大な魔女が来るのよ、みんなで協力しないと」

 

「勝手なこと言わないでくださいよ! 今までゾンビだってこと私たちに隠しておいてなにが協力だ!」

 

 変身しようとするさやか。

 だがそれを察してかまどかが足を踏み出す。

 

「さやかちゃん、ゴメン!」

 

 そう叫んでから、まどかはさやかのソウルジェムを奪い取る。

 驚愕で誰も反応できなかった。

 そしてまどかは橋から身を乗り出して両手を下に振り下ろす。

 

「うぇひっ!」

 

「(うぇひって!?)」

 

 心の中で突っ込むマミだったが、それはなんにもならない。

 落ちていくソウルジェムが、たまたま下を通ったトラックの荷台に乗る。

 走り去っていくトラックを見て、さやかがまどかの両肩を掴む。

 

「まどか! あんたなんて事を!」

 

「だって、こうしないとっ!」

 

 さやかに咎められるも、首を横に振るまどか。

 ふとした瞬間、さやかの瞳から光が消える。

 同時に、力の抜けたさやかがまどかの方へとよりかかった。

 キュゥべえが柵に乗る。

 

「今のはマズかったよ、まどか。よりにもよって、友達を放り投げるなんて、どうかしてるよ」

 

「何? 何なの?」

 

 そんな言葉に、マミの思考が高速回転した。

 解決して出される答えはこの場の“自分以外”の人間にとっての最悪の答え。

 胃がキリキリと痛むのは、この後のことを考えてだった。

 

 杏子がさやかの首を掴んで持ち上げる。

 

「やめてっ!」

 

 そう訴えるまどかだが、杏子は聞く耳持たず。

 彼女もなんとなくは察しているのだろう。

 

「どういうことだオイ……」

 

 ―――コイツ死んでるじゃねぇかよ。

 

 杏子の言葉があたりに木霊する。

 否、木霊したように聞こえた。

 “死んでる”のが自分だったら良かったのにと思いながらも、さやかの方へと足を進ませる。

 

 杏子が下ろしたさやかの体の横にそっと腰を下ろすと、さやかの左胸に手を当てる。

 鼓動は感じない。

 まどかの泣き声だけが、あたりに響いていた。

 

 

 




あとがき

感想をもらうと執筆意欲が湧きます!
感想をくださったみなさま、ありがとうございます♪

さて!相変わらずのシリアスが続きます。
まぁギャグも申し訳程度に入れているわけですが、これで楽しんでもらえてますかねェ。
とりあえず当分はシリアスメインですね。
最初の頃のギャグが懐かしい(遠い目

次回からさやかちゃん、さらにやさぐれます!
ちなみに誤解が無いように言いますが私はさやかちゃん大好きですよw
では次回もお楽しみに♪

感想お待ちしてます!

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