これは魔法少女ですか?~はい、ゾンビです~   作:超淑女

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13「そう、大人の階段」

 家へと帰ってきたマミ。

 後ろには杏子もいた。

 二人は家に上がるとリビングへと向かう。

 中央にあるちゃぶ台の違和感。

 

「ただいま~」

 

 先に家にいた“二人”が杏子を一目見るが、特に気にする様子も無い。

 雰囲気で“仲直り”できたと悟ったのだろう。

 それほど長くいる二人でもないが、それぐらいは察せるぐらいマミと仲が良いのも確かだ。

 

「好きに座ってて、晩御飯の残りがあるから」

 

 杏子を座らせると、マミはキッチンへと消えた。

 

「(まさか再び巴マミの家で食事がとれるなんて、夢にも思わなかった……)」

 

 そう思う杏子だったが―――嘘だ。

 夢に思っていた。もう一度マミの家で食事をしたりするのが、彼女の夢であった。

 自分から腕を振り払っておいて卑怯なのも重々承知だが、彼女にとってマミは家族の次か同じくらい大事だ。それぐらい大きな存在だ。だからこそ再び拒絶されるのが恐かった。

 再び“自分のせいで大事な人が死ぬ”のが恐かった。

 守りたかった人間が死ぬなんていうのは御免だ。

 

「あっ……」

 

 ふと気づいた。机を囲む二人。

 黒髪と、その逆の白銀の髪をした少女の二人。

 

「(たしか根暗マンサーと忍者の人だったよな)」

 

 その片方である忍者の人と目があった杏子は、咳払いをするとしっかりと頷く。

 

「改めて、佐倉杏子だ。よろしくね」

 

 二人にそう言う。

 根暗マンサーと忍者の人はほぼ同じタイミングで湯飲みを置いた。

 ビクッとする杏子。無言の雰囲気は異常なプレッシャーを感じる。

 

「セラフィムです、セラとお呼びください。私もつい最近ここに住み始めたばかりですので……よろしくお願いします」

 

 そう言って軽く会釈するセラフィムから敵意のようなものは感じなかった。

 公園での自己紹介の時は冷たい印象を感じたのだが、そういうわけではなさそうだ。

 とりあえず杏子は決め台詞として決めておきたい。

 

「食うかい?」

 

 そう言ってうまい棒を差し出す杏子。

 忍者の人ことセラフィムは少し笑みを浮かべて、いただきます。と受け取った。

 まずは好印象だと心の中でガッツポーズ。

 次は根暗マンサーである。

 杏子はもう一本ポケットから出すと、白銀の少女に差し出した。

 

「根暗マンサーだろ? よろしく」

 

 セラのように年上な感じがしないので、思いのほか緊張しない。

 杏子自身は気づいていないのだろうが、ドヤ顔になっている。

 美樹さやかがそう言っていたという記憶があるので根暗マンサーと覚えていた。

 

「……」

 

 無言の中、杏子があれ? と首を傾げる。

 根暗マンサーはそっとうまい棒を受け取った。

 

『よろしく』

 

 持ち上げられたメモ帳を見ると、そう書かれていて安心。

 杏子は笑みを浮かべてなんでもない風にした。

 二人がうまい棒を食べる。

 キッチンから皿を持ってきたマミがテーブルに茶碗と皿を置く。

 

「あら、仲良くなったのね」

 

 そう言ってほほ笑むマミが笑顔を浮かべる。

 

「ええ、コミュ障では無いので」

 

 ピタッ、と止まるマミがギギギと音を立てながらセラを見た。

 どういう意味かしら? と問うマミだったが、セラは無言でうまい棒を口に入れてお茶を飲む。

 

「わ、私は少し友達が少ないだけで……で……」

 

 落ち込み始めるマミだが、杏子はなんとなく二人が仲が良いのを察しれた。

 本気で罵倒しているのを感じたら杏子は怒っていただろうけれど、セラはそうでも無いようだと頷く。

 どちらかというと、杏子はセラがマミを慕っている感じがする。

 どういう意味か、とまではわからないけれど本気で嫌っているわけではないだろう。

 

「(好きな子に意地悪する男、みたいな感じか?)」

 

 なんとなくそんな感じを想像してみたが、マミは似合ってるなと思わされた。

 

「さ、どうぞ佐倉さん」

 

 マミが料理を並べると、テーブルの上には野菜炒めとサラダもある。

 相変わらず豪華だなと思うも、懐かしい感覚がした。

 

「あっ……」

 

 箸を持ち上げて気づく。

 あれはマミと一緒になってから二ヶ月ほどしてからだったか、二人で買い物に行ったときに自分のためにと箸や茶碗を買ってくれたのを思い出す。

 学校が無いときには昼ご飯や朝ご飯、学校がある時でも夜ご飯を食べに行ったりしていたのだ。

 世話になっていたなと、思い出す。

 

「箸も茶碗も、捨ててなかったんだな……」

 

「貴方が帰ってくるって……信じてたから」

 

 そう言って笑うマミを見て、同じく笑う杏子。

 なぜかプレッシャーを感じたマミがハッとセラの方向を見た。

 その視線を追って杏子もセラを見る。

 コトン、と音を立てて湯飲みが置かれた。

 

「重すぎ気持ち悪い」

 

 まるでマグナムを撃ちこまれたような気分に陥るマミ。

 そんなセラを見て杏子が優越感を感じる。

 

「(嫉妬か?)」

 

 あやうくしそうになるドヤ顔をおさえる杏子。

 だったが、ふと思う。

 なんで優越感なんて感じたのか、と……。

 

「いただきます!」

 

 すぐに考えるのをやめた。

 食事をはじめた杏子。

 そう言えば根暗マンサーが喋れない理由を聞いていないと思った杏子。

 聞いていいことなのかはわからないけれど、気になっていた。

 

「なぁ、根暗マンサー」

 

「え?」

 

 マミが反応。

 

「どうしたマミ」

 

 なんの疑問も持たぬ杏子に、マミがどうするかと考えているようなしぐさを見せる。

 セラと根暗マンサーの方に目をやるマミだったが、静かに頷く。

 

「佐倉さん、あのね……根暗マンサーじゃなくて、ネクロマンサーよ?」

 

 マミの言葉を頭の中で再生する杏子。

 しばらく固まる杏子だったが、突如、ボンと音を立てて顔を真っ赤にした。

 勢い良く食事をかきこむ杏子。

 

「なんで教えてあげなかったの?」

 

『楽しいかと思って』

 

 メモ帳にそう書いた根暗マンサー。

 

「(美樹さやか いず ふーりっしゅ!)」

 

 頭の中でさやかを恨む杏子だったが、突然杏子の袖が引かれた。

 そちらを見ると根暗マンサーがメモ帳を持ち上げている。

 杏子が茶碗と箸を置く。

 

『ネクロマンサーのユークリウッド・ヘルサイズ。ユウで良い』

 

 そう書かれたメモ帳を見ると頷く。

 別に嫌われているわけでは無いので一安心と言ったところだろう。

 もう一度よろしく。と返して笑顔になる杏子。

 そんな姿を見て、マミは静かに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 その後、杏子は風呂に入り寝ることになった。

 いつかと同じく、マミのベッドで寝ることにした杏子はマミと隣り合って横になっている。

 静かで薄暗い空間の中、マミの方を見る杏子。

 穏やかな笑顔を浮かべているマミ。

 杏子は静かにマミの方へと体を向けた。

 

 静かな寝息。

 穏やかな表情で眠るマミを見ながら、杏子は笑みを浮かべた。

 何度確認しても確認し足りない。

 そのぐらい幸せな状況だった。

 

「そういえば佐倉さん」

 

 突然目を開いて自分の方を見るマミに驚く杏子。

 そんな杏子を見て笑みを浮かべたマミが言う。

 

「明日、たぶん学校に来ない美樹さんのこと慰めてあげてくれない?」

 

「は、はぁ? なんであたしがあいつのこと」

 

 特に仲が良いわけでもない。むしろ悪いと言っても過言ではない美樹さやかを慰める理由がどこにある。

 抗議する杏子がだ、静かにそれを理解しているという様子のマミ。

 いつもなんだか大人っぽくて、全て見透かされているような感じがする。

 すべて杞憂なのだが、そんな気がしてしまうのだ。

 

「美樹さんは“理想の私”になり損ねたのよ。私という存在は彼女の中で“本当の私”以上の正義の味方。私よりもよっぽど正義の味方であろうとしている彼女を支えてあげて欲しいのよ……一人ぼっちは寂しいもの」

 

 つぶやいて笑うマミだったが、なんだか寂しそうでもあった。

 そっと手を伸ばすと、マミの頭をそっと抱き寄せる杏子。

 

「あたしが一緒にいてやるよ」

 

「フフッ、なんだか不思議な感じね。佐倉さんに甘やかされるなんて」

 

「うっせぇ」 

 

 そうしている内に、二人は自然と眠りについた。

 久しぶりに二人で寝たなと思うマミ。

 先に杏子の寝息が聞こえてきて、吹き出しそうになるもすぐに眠りにつくマミだった。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 翌日、杏子が起きた時にはすでにマミはいなかった。

 ずいぶん長く寝ていたと思いながら着替えて部屋を出る。

 リビングにはユウとセラの二人。

 

「おはよう」

 

 少し緊張しながらもそう言うと、ユウもセラも返してくれる。

 メモ帳で、とはいえ返してもらえるだけ十分だ。

 ちゃぶ台の前に座る杏子はテレビを見ながらもセラが用意してくれたお茶を礼を言い飲む。

 テレビのニュースでは連日の殺人事件の話ばかりだ。

 隣町で起きてる連続殺人。

 

「魔女もたくさん出てるだろうな……」

 

 グリーフシードもわんさかということだろうか?

 少しばかり羨ましい気もするが、父親だったらこんな事件みたら号泣ものだろうと笑う。

 ふと時刻は11時すぎであることに気づく。

 

「杏子、朝ご飯と昼ご飯がありますが、どちらを食べますか?」

 

 セラの言葉。

 マミは朝御飯も用意していたのかと思うと、少し寝過ぎたと反省する。

 食事が二つと考えて頷く。

 

「食べ物は粗末にしない。ってことで二食共食うよ」

 

 微笑を浮かべるセラ。

 

「太りますよ?」

 

「その分動くさ」

 

 そう言うと、頷くセラ。

 思いのほかフレンドリーなんだなと頷くと、ふと思った。

 

「あれ、今杏子って……」

 

「いけませんか?」

 

 そう聞いてくるセラ。

 昨日知り合ったばかりだけれど、仲良くなれるのは嬉しくて……杏子は知らずの内に笑っていた。

 口元を押さえて、杏子はセラを見る。

 

「全然オーケー」

 

 なんだか平和な空気だな、と思う。

 一人で魔法を悪用してホテルなどに泊まってた杏子にとっては温かすぎて眩しすぎる。

 けれどここに居たいと思った。

 マミが居る場所であり“友達”になれたこの二人もいる場所。

 

 昨晩のマミに言われたことを、ふと思い出す。

 さやかを慰めろと言う言葉。

 ここまで借りを作って何もしないというのも癪だ。

 杏子は時計を見た。

 時刻は12時を回っていない。

 

 ふと杏子の視線が動く。セラはメガネを胸元につけている。

 なにかに必要なのだろうかと疑問に思うも、特に気にしない杏子。

 

 それは、マミが受け取りセラに渡したものだが、なんだか嫌な雰囲気がした。

 

 

 

 

 

 学校にて、昼休みに屋上に集まる面々。

 マミの左右にまどかとほむら。

 

「じゃあ杏子ちゃんとマミさん仲直りできたんですね」

 

「まぁそうなるのかしらね?」

 

 まどかの言葉に、同意するマミ。

 あの様子ならば仲直りと言っても過言ではないだろう。

 雨降って地固まると言ったところだろうか、マミはこの際一緒に住むことも考えている。

 それも悪くない。家族の居ない者同士。

 

「……」

 

 ほむらがわずかに目を細めた。

 なんだかもやもやした気分になるが、なぜそんな気分なのかもわからない。

 自分で自分が不思議になる。

 

「一人ぼっちの子ってほっとけないのよね」

 

 私もぼっちだからなかな? と言って笑うマミ。

 そんなことありませんよ。というまどか。

 確かにマミは一人ぼっちじゃないと思うほむら。

 みんながいる。

 しかし一人ぼっちがほっとけないというのも本心なのだろう。

 

「杏子は貴女の心中相手だものね」

 

「え?」

 

「いえ、なんでもないわ」

 

 つぶやいて昼食を続けるほむら。

 今日は仁美も居ないから魔法少女の話もわけなくできる。

 けれど、なんだか腑に落ちないほむらだった。

 

 

 

 

 夕方頃、さびれた教会にて杏子とさやかの二人がいた。

 マミにもらった“おこずかい”で買ったリンゴを食べながら話している杏子。

 さやかも片手にリンゴを持っている。

 結局杏子はマミに言われたことを守った。

 いや、言われなくても同じように行動していただろう。

 

 丁度昔話を終えた杏子は息をつく。

 

「アタシの祈りが、家族を壊しちまったんだ」

 

 そう言って自嘲するかのように笑う杏子。

 黙って話を聞くさやか。

 

「他人の都合を知りもせず、勝手な願いごとをしたせいで、結局誰もが不幸になった。その時心に誓ったんだよ。もう二度と他人のために魔法を使ったりしない、この力は、全て自分のためだけに使い切るって」

 

 リンゴをかじりながら言う杏子の言葉。

 その言葉には強い重みがあった。

 

「奇跡ってのはタダじゃないんだ。希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。そうやって差し引きをゼロにして、世の中のバランスは成り立ってるんだよ」

 

「何でそんな話を私に……?」

 

「そう思ってたからさ」

 

 思っていた? 過去形だと感じたさやか。

 リンゴをかじると杏子は話しを続ける。

 

「一応ね、あんたがあたしと同じてつを踏んでも不味いと思ったからさ……希望はあるんだよ。マミがそれを教えてくれた」

 

 きっとマミの前じゃ口が裂けても言えないであろうけれど、杏子は言う。

 自分と似たような美樹さやかが相手だから言えるのだろうと思った。

 

「たぶん家族が死んだとき、マミがいなかったらあたしのソウルジェムは真っ黒になってどうにかしてたと思う。死んでたか、またそれ以外か……」

 

 指輪を見て言う。赤く輝く魂は今は穢れていない。

 グリーフシードもそれほど数は無いし、次に強い魔女が出てくればかなり絶望的な状況。

 それでも今は希望しかなかった。

 

「あんたも希望を信じてみなよ。その願いで人を救えたと思うなら、一瞬でも救えたならそれで良いじゃないか……その間は相手も自分も幸せだった。少なからずマミよりは希望のある願いだと思うよ、ホントさ」

 

 マミの『生きたい』という希望。直後の『みんな死んだ』という絶望。

 彼女の願いはそれで差し引きゼロになったはずだと思う杏子。

 本来なら命をもらったも同然の願いなのだから差し引きはゼロではない。

 命をもらったならば返すのが本当の差し引きゼロなのだろうけれど……考えても無駄だと杏子は思った。

 

 自分の希望は『父さんの話をみんなが聞いてくれますように』ならば絶望は『自分の話を父さんが聞いてくれない』ということ。

 暁美ほむらの希望も絶望もわからないけれど、きっと絶望したのだろう。

 それでもなお何かを心の支えに今だ立っている。

 

 さやかの希望は『彼の腕を治すこと』ならば絶望は?

 

「マミさんより、希望がある?」

 

 さやかの言葉で我に返る杏子。

 

「そう、マミは本当に願いを決める猶予なんて無かった。それ以外に考えられる状況じゃなかった……それでも、性分なんだろうね。自分を呪わずにはいられない。両親も他の誰かも救えられる状況で救えなかった自分が許せない」

 

 そんな言葉に、なんとなくだけれど話は理解できた。

 交通事故の時に願いを決めたというのは聞いたことがある。

 奥深くまで話は掘り下げなかったけれど、杏子の言葉で理解した。

 

「でもあたしはそれで良かったって思ったわけだ。マミが他人を助けなくて良かったって」

 

「なんで……?」

 

 疑問に思ったのか、さやかはつぶやく。

 

「自分ひとりの命ならまだしも、他人の絶望までアイツが背負ってたまるかよ」

 

 苦い顔をして笑う杏子。

 

「アタシは人のために祈ったりしたことを、今は後悔しちゃいない。この力で悪いことだってやってきたからね……でもさ、マミは他人の命をいくつも救ってるわけじゃない? 自分の命を犠牲にしてまでそれを続けてきてる。だったらこれ以上絶望するマミなんて見てらんないよ」

 

 彼女の絶望の一つに自分も入っているのかもしれないけれど、と思う杏子。

 一度は一人じゃなくなった彼女を再び一人にしたのは自分だ。

 

「アイツを幸せにしてやりたいんだ。アイツだけじゃない……他にもいる。けどさ、まずはこの風見野も見滝原も守んなきゃいけない。だからあたしの我儘に付き合ってくれないか? 美樹さやか」

 

 真剣な表情で、その名を呼ぶ。

 少しの沈黙の後、さやかがふと笑った。

 

「あんたのこと、いろいろと誤解してた。そのことはごめん、謝るよ」

 

 そっと歩み寄ってくるさやか。

 左手でリンゴを持つと、そっと右手を差し出す。

 杏子も笑うと、紙袋を左手で抱えて右手を差し出した。

 二人が握手という形で共闘を決定づける。

 

「あんたマミさんにべた惚れじゃん」

 

 赤い顔をする杏子。

 

「あたしはただ借りを返したいと思ってるだけだよ」

 

「そう、へ~」

 

 意味ありげに笑うさやか。

 杏子が腕に力をこめると、ギリギリと音が鳴る。

 

「だ~っ! 痛いっつ~の!」

 

 さやかの声が広い教会に響いた。

 

 

 

 

 

 5時ごろになって、公園に集まったのはマミ、まどか、ほむら、杏子、さやかの五人だ。

 魔法少女が全員集合。共闘できるようになったのは空気で察せるだろう。

 笑顔のマミとまどか、いつも通りのほむら、頬をかいている杏子とさやか。

 いつも通りでありながら、マミにはなんとなくほむらが喜んでいるのが理解できた。

 

「さて、魔女退治といきましょうか!」

 

 両手をパンと合わせるマミに、頷く面々。

 

「じゃあ私帰ります!」

 

 そう言うまどかを見て、マミはほむらの方に視線をやる。

 頷くとまどかの傍へと移動したほむら。

 

「送っていくわ」

 

「えっ、でも……」

 

「心配いらないよ。あたしたちだけでも十分やれるし……お前がキュゥべぇと契約なんて自体は避けたいしな」

 

 杏子の言葉に、それでも迷うまどか。

 その背中を押すようにさやかが言った。

 

「安心しなよまどか、マミさんも杏子もいるし、転校生……ほむらに送ってもらいな」

 

 それを聞いて、ようやく頷くまどか。

 ほむらとまどかが一緒に公園から消えると、マミが頷く。

 さやかと杏子を見ると少し悩むような表情をして、すぐに二人の手を持ちつなげる。

 

「二人は一緒にね?」

 

 驚愕する二人。

 

「どういうことだよ!」

 

「そうですよマミさん!」

 

 笑顔を決して崩すことのないマミ。

 ニコニコしながら二人が共闘を決めてくれたのが嬉しくてしかたないと言った雰囲気。

 

「接近戦なら佐倉さんの方が教えるのが上手いと思ったのだけれど?」

 

 それに相性も良さそうだと付け加える。

 

「でもあたしに槍の応用なんかを教えてくれたのはお前だぜ?」

 

「じゃあ剣の応用は教えるわ。今は接近戦がなんたるかを教えてあげてくれない?」

 

 そんな言葉に、杏子は後頭部をかく。

 マミにはやっぱり敵わないと思いながらも頷くと、マミが杏子の頭を撫でる。

 それが恥ずかしくなり手を払うと、さやかに向けて行くぞ、と言って行く。

 頷くマミが、その後ろ姿を見送った。

 

 少しすると、マミが動き出そうとする。

 ふと、立ち止まるマミ。

 

 目の前には、茶髪でツーサイドアップテールにした少女。

 驚いている様子のマミと、ほんわかとした笑顔を浮かべている。

 

「あっ、アサミちゃん!?」

 

 知り合いのようで、マミが驚いていた。

 珍しくマミが名前で呼ぶ少女である。

 

「はい!」

 

 少女が頷く。

 まぶしい笑顔はなんだか心が癒されるようだった。

 

「久しぶりね」

 

 彼女、アサミは隣町の魔法少女である。

 武器は素手で、二年前に見滝原を狙ってマミに襲い掛かってきたことがあった。

 無論、すぐにマミが拘束して終わったが、心を入れ替えるということで隣町に返した。

 それ以来何度か会ったりもしたが、最初の尖っていた雰囲気は息をひそめすっかり良い雰囲気の少女になっていた。

 杏子が一度仲間になって以来一度も会わなかったが、無事なようでなによりだ。

 

「今日はどうしたの?」

 

「なんだか巴さんの顔が見たくなっちゃって、だって私の街最近連続殺人のせいで、魔女も多くなってきたし」

 

 そんな言葉を聞いて、マミは表情を変える。

 自分を“殺した”連続殺人犯。

 なんとかして捕まえたいとも思う。

 けれど最近はその暇をどうにも作れなかった。

 

「隣町の魔女狩りぐらいなら……手伝えると思うわ」

 

 来るべきワルプルギスの夜との戦い。

 そのためにも、マミは動く必要があったのだ。

 だからこそグリーフシードを落とす魔女を狩るためにも手伝うことにする。

 ありがとうございます。と礼を言って頭を下げるアサミ。

 

「フフッ、改心できたご褒美かな? あっ、でもご褒美ってもっと別のが良いわよね。何が良いとかある?」

 

 そう聞くマミ。

 また全員集まったとき彼女を紹介しようと思う。

 一人で隣町を守ってきたのだ。十分な戦力になりえる存在になる。

 

「いえ、大丈夫です!」

 

 遠慮がちになったものだ。そう言えば彼女にも家族が居なかったはずだと思い出す。

 もう一人ぐらいなら住めるかな? と思うマミ。

 

「ケーキとか料理ならできるけれど」

 

 そう言うマミを見て、わずかに頬を赤らめるアサミ。

 いじらしく両手を合わせるアサミ。

 自分より一つ下の歳である彼女だが、マミほどもある胸が強調される。

 

「マミさんって付き合ってる方とかいるんですか?」

 

「い、いないわよ……できないしね」

 

 あまり学校で話す友達も居ない。とは口が裂けても言えない。

 アサミの体に視線が行って、恥ずかしくなり踵を返す。

 なんだかやけに恥ずかしくなってきた。

 

「さっきご褒美は大丈夫って言ったんですけど……おねだりして良いですか?」

 

 そっと近づいていく足音が聞こえる。

 まさか、と思うマミはどこか期待していた。

 

「(私、一線超えちゃう!? 大人の階段登っちゃう!? いけないわ、貴女はまだシンデレラなのよ!? これもガイアの試練!?)」

 

 頭がいろいろなことで一杯一杯のマミ。

 背後から聞こえる足音が、止まる。

 すぐそばにいるであろうアサミ。

 

「一つだけ、欲しいものがあるんです」

 

「欲しい……もの?」

 

 わずかに熱っぽい声。

 それだけで緊張するマミ。

 

「巴さんの―――」

 

 期待しているのかもしれない、けれどこの感じはなんだろう?

 そう、疑問をもったりしている内に―――何かが起こった。

 

 舞い散る“紅”は、マミのものだ。

 自分の胸の間から飛び出ている刃。

 その光景には、見覚えがあった。

 

 ―――命を。

 

 聞こえた声は、アサミの声。

 冷たい声を聴きながら、マミはその刃を見ていた。

 白銀の刃は月光を反射し、輝いている。

 

 




あとがき

はい、こんな感じです。
今回はオリジナル(笑)の敵です。
まぁ完全にどっかで見たことあるようなキャラなんですが(汗

さて物語は新展開。これからいろいろ忙しくなっていきますよ!
ではみなさん、次回をお楽しみに♪

感想お待ちしてます♪

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