刀で串刺しにされたマミ。
まるであの日のようだと、心の中で思う。
後ろで、その刀をもっているのはアサミだった。
正義の味方として頑張っているという彼女を信じた。自分がバカだったのだろうか?
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「アサミ……ちゃん?」
膝をつくマミ。刀を抜かれると地面に倒れた。
アサミはその手に持った刀を振る。刀に付いた血が地面に痕を残す。
痛みに呻くマミだったが、アサミは表情一つ変えない。
「やっぱり簡単には死んでくれないんですね?」
なんとか、立ち上がるマミ。
「あなたは何回殺せば死ぬんですか?」
「アサミちゃんっ……貴女はっ」
先ほどとまったく変わらず、マミを刺しても変わりない表情。
刺された胸の間を押さえながら振り返るマミ。
「フフッ、知ってるじゃないですか、貴女の友達で改心した魔法少女ですよ?」
マミの考えることは、連続殺人のこと。
どこからどう考えても、残る答えは彼女が、犯人ということだけ。
「まさかっ、嘘でしょ?」
「はい! 嘘で~す! ぜぇんぶ嘘、かつて貴女と友達になったのも改心したというのも……ね?」
刀を撫でながら、少女はソウルジェムを掲げて変身する。
胸元にソウルジェムが浮かび上がり、彼女の服装は変わった。
白を基本色としたふりふりとした衣装。
特徴はぼうしと、ニーソックスを固定するガーターベルトなどだろうか、手には二振りの刀。
「魔法少女が四人。でも一番の脅威は貴女だけ、たった一人で数年も一つの街を守って挙句に使い魔まで狩る……魔法少女の中でもとびっきりの化け物。でも貴女を殺せば全部解決!」
走り出すアサミ。マミは変身できない。
そこそこ仲の良かった少女であるアサミを攻撃することに、やはり躊躇があった。
攻撃を回避していくも、魔法少女に変身していない彼女の身体能力などたかが知れている。
「はぁっ!」
刀が振られると、風圧でマミは吹き飛ぶ。
吹き飛んだマミが公園のオブジェクトにぶつかる。
堅い石でできたそれに体をぶつければ、通常の人間であれば即死。
しかしすぐ立ち上がるマミを見て、アサミは些か不気味そうに見る。
「回復力が高いですね。癒しの祈りでもしたんですか?」
彼女にマミは願いを教えていない。
それほど仲が良かったわけでは無いからかもしれない。
最初の出会いが戦いということもあったけれど、本能的に彼女の危険性に気づいていたと信じたい。
あれも演技だったのだから……。
「強い!」
「せっかく効率良く魂集めをしていたのに、おまけにメガロまで出てきちゃうんだからやになっちゃう」
冥界のことも知っているということだろうか?
メガロが出てきたのも厄介ということは、何体か倒しているということだろう。
攻撃を回避しながらマミが反撃に出ようかと言う時、アサミがいくつかの火炎弾を飛ばす。
足元まで飛んで爆発する火炎弾。
「ぐぅっ!」
地面を転がるマミ。
すると、視線の先に紅い髪が見えた。
「なにやってんだマミ?」
「ちょっ! 怪我してるじゃん!」
現れたのは杏子とさやか。
帰ってくるのが早すぎると思うが、体中が痛い。
突如、あたりに葉が舞い始めた。
「いたいけな少女に破廉恥な振る舞いをして返り討ちにあったようですね、この卑しいキイロ虫!」
「(今夜ばかりはその罵りが快感ですぅ!)」
いつも通りの罵倒と共に、現れたのはセラ。
このメンバーが揃ったのだから、負ける気などしない。
目を鋭く細めるアサミ。
「なにやってんだマミ、あ?」
杏子、セラ、さやかが同時にアサミをにらむ。
魔法少女ということ、マミが怪我をしているということ、それだけで敵だと認識するには十分だ。
アサミは若干なりともわずらわしそうに顔をしかめた。
「誰こいつ」
「私を殺した魔法少女」
敵意を込めた視線でアサミを睨みつけるマミ。
その視線に気づいた杏子が、アサミを見た。
さやかも同じくアサミを睨む。
マミを殺した張本人。
「マミの敵? ならあたしの敵だな……」
杏子もさやかも、マミの横に立った。
仲間を守るためだろう。一人ぼっちではないということにも、慣れないと思うマミ。
少し離れた場所にいるセラも、マミを守ろうと言う気が無いわけではない。
「ヘルサイズ殿に言われて来てみれば、敵は人間ですか?」
「心配しないで、あれは人の皮をかぶった化け物だもの」
その物言いに普段なら驚くのだろうけれども、杏子もさやかもセラも驚くことはなかった。
マミを殺したのだから、マミに恨まれるのも、セラたちに恨まれるのも当たり前だ。
「そうですか、貴女も大変ですね」
足を踏み出すセラ。
「この街周辺は、私が居た里より殺しが多いようです」
セラの瞳が、先ほどマミがぶちまけた色と同じ紅に変わった。
その眼を見て笑うアサミ。まったく動揺していないところを見ると、勝てない手が無いわけでは無いということだ。
まったく厄介そうな敵だと、マミは悪態をつきたきなる。
セラがさやかとマミの間で止まった。
「四対一ですかぁ、巴さん卑怯じゃありませんか?」
「これでもハンデが足りないくらいよ!」
「いきます!」
走り出すセラ。それと同時にマミ、さやか、杏子が変身。
同時に走り出す四人。
まずはセラが刀を振るう。
「秘剣燕返し!」
紅の斬撃が飛ぶが、その斬撃を軽く弾くアサミ。
「こんなのが秘剣ですかぁ?」
つぶやいたアサミ。驚愕するセラ。
秘剣燕返しはその名に恥じぬ強さをしていたはずだ。
確かに強い。
「私の秘剣を、お見せしましょう!」
アサミの刀の先から、巨大な火炎弾が放たれる。
直撃コースだが、セラの前に杏子が現れて槍を振るう。
かき消された火炎弾だが、もう一発火炎弾が放たれた。
吹き飛ぶ杏子とセラ。
「セラ! 佐倉さん!」
マミが二人を心配するようにそちらを見る。
杏子が巨大な火炎弾を放った。
再び放たれる火炎弾だが、斬撃がその火炎弾を切り裂く。
「マミさん! ゾンビって火とか弱いらしいんで気を付けて!」
「ありがとう!」
わざわざ調べたのだろうか? と思うも今は礼を言う。
さやかが跳びだす。地を蹴って素早くアサミの懐に入る―――はずだった。
振った剣は避けられて、蹴りを入れられ転がる。
「ぐぅっ!」
「それ!」
何本もの刀がアサミの背後から飛びだす。
それらはさやかの体を傷つけた。
立っているのはマミとアサミの二人。
「これで一対一ですね、巴さん」
「いえ、二体一です」
「セラ! 大丈夫なの?」
心配するようなマミだが、なんとか立ち上がるセラ。
杏子とさやかはまだ動けなさそうだ。
癒しの力で治しても、痛みまでは抜けないだろう。
「何度か死んでもらうことになるかもしれませんが、ゲハッ!」
吐血するセラを心配するマミ。
「もぉ! しゃーなしね!」
ハンドガンサイズのマスケットを二挺持ってアサミに狙いをつける。
二挺を撃つが刀で弾かれる。さらに同じマスケットを二挺再び召喚。
アサミが両手で振るう。
竜巻が現れた。
「さぁ、死んでください!」
マミが跳びだす。
「まったく変幻自在ね!」
アサミが腕を振るうと竜巻がアサミを守るようにマミへと向かう。
だが、マミはその竜巻を避けてアサミへと近づく。
火炎弾が飛ぶが、マミは地面を蹴る。
横回転しながら、マミは銃を撃った。
二挺のマスケットから放たれる銃弾を、刀で防ぐアサミだが、さらにクナイが二本飛んだ。
「ハハハッ!」
笑いながら、身体を反らしてクナイを避ける。
マミを蹴り飛ばすアサミ。蹴られたマミは転がって最初の場所で起き上がった。
起き上がるとマミ走り出す。
今度はセラも一緒だ。
途中で別れるセラとマミ。竜巻は二人を追うように分裂した。
竜巻を避けて、マミはアサミの方へと飛んだ。
「どうするつもりですかぁ!?」
笑うアサミ。だがマミの表情にも笑みが浮かんでいた。
マミの背後から剣が飛んでくる。
それを受け取ったマミが剣でアサミに切りかかった。
二振りの刀でマミの剣を防ぐ。
その剣はさやかのもので、向こうにいるさやかが剣を投げていた。
回復速度が速い。
つば競り合いになっているマミとアサミ。
お互いまったく引かない。
「どうしても聞いておきたいんだけど、どうして人殺しなんて!」
「巴さんだって人を殺して永遠の命がもらえるなら殺すでしょう?」
どういうわけか、永遠の命をもらえるのだろう。人を殺せばと言う条件で……。
さらにその死や負に引き寄せられた魔女が現れる。
二度得と言うことだろう。けれどマミは目を鋭くとがらせた。
「ふざけないで! そんなの欲しくない!!」
けれど、力負けして吹き飛ばされるマミ。
吹き飛んでいる途中、左右から迫った竜巻に体をはさまれる。
マミの姿は見えなくなった。
「ぅがああぁぁっぁっ!!」
叫び声だけが聞こえる。
「はいおしまい。フフフッ、このまま体をすりつぶしてあげましょうかぁ? それとも……」
マミの体が見える。苦しそうな表情で叫び声をあげるマミが、竜巻ごとアサミへと近づいていく。
笑みを浮かべながらアサミは片方の刀をその腹部に刺し込む。
目を閉じているマミ。
「もう生き返れないようにバラバラに切り刻んであげましょうか?」
「どっちも困るね」
突如、眼を開くマミ。
横から、槍が飛んでくる。
だがそれはアサミの片手に握られた刀で防がれた。
「はあぁぁぁぁっ!」
その隙を見逃すマミじゃない。
無理矢理動こうとしたせいで竜巻が真っ赤に染まっていく。
けれどそんなものは構わないようで、マミはアサミに抱きついた―――いや拘束した。
「離せ!」
初めて動揺した様子を見せるアサミ。
「それもお断りするわ!」
マミの体が輝きを増す。
すると、マミの衣装は昨夜のように変わった。
さやかと杏子が竜巻を切り裂く。
もう邪魔する者はなにもない。
「はあぁぁぁっ!」
飛んでくるのは、セラ。
その刀で、マミごとアサミを突き刺した。
アサミの背中から飛び出す刀の刃。
「四対一です」
そう言ったセラ。
静かに、アサミは倒れた。
密着状態のセラとマミだが、お互い気にするような様子は無い。
「終わったようですね」
「ええ」
血まみれのアサミが倒れている。
これにて一件落着、なのだろうか?
杏子が出したグリーフシードでソウルジェムを浄化する三人。
今回はセラの功績もあっただろう。おもいのほか四人で良くやったと思うマミ。
「マミさん、超カッコ良かったっすよ!」
そんな言葉に、苦笑するマミ。
これで本当に終わりなのだろうかと不安になるが―――終わっていなかった。
何かを斬るような音がして、セラが倒れる。
「セラっ!」
「マミ……っ」
つぶやき、倒れるセラを受け止めるマミ。
その背後を見る三人が驚愕に顔をゆがめた。
「不死身は貴女だけの専売特許じゃありませんよ?」
魔法少女の専売特許でもあるが、早すぎる。
癒しの力じゃないはずだ。
ならば、ゾンビ。
「ハハハッ、ゾンビじゃありませんが……後数十回は死ねますから」
魂がどうたらと話していたのを思い出すマミ。
そして魔力量はそこまで多くなかったはずなのに大量に使っていた派手な魔法。
人体的、魔法少女的な死を向かえた時に、生き返る?
マミの脳内での仮設は、ほぼ正解だ。
「さぁ! 今度こそ骨ごと燃え尽きてくださいね!」
放たれる火炎弾。
だがその火炎弾は、マミたちの目の前で防がれた。
マミたちの目の前にいるのは、長い黒髪の少女。
腕につけている盾から、さらに大きな魔力の盾を展開して火炎を防いだのだ。
「誰ですか?」
「……友達よ」
何所から取り出したのか、機銃をアサミへと構える。
友達を守るべく、暁美ほむらは眼前の“敵”をにらみつけた。
あとがき
さてさて、まだ続きますよアサミ戦。
長々と続きます。そしてまどか☆マギカで言うと現在の日にちは「本当の気持ちと向き合えますか?」の一話前でございます。
まだまだ猶予があるので頑張っちゃいますよ!
では次回をお楽しみに♪