これは魔法少女ですか?~はい、ゾンビです~   作:超淑女

16 / 27
15「いえ、ティロフィナりません」

 突然現れたほむらが、眼前の(アサミ)をにらみつける。

 この相手が何者か、どういう敵なのかなんて一切わからなかった。

 けれど明確にわかることが一つだけある。

 

「マミの敵なら“私たち”の敵よ」

 

 ほむらの背後でセラを支えているマミ。

 武器を構えて立っていたさやかと杏子も若干唖然としていた。

 足音と共に、セラが軽くなる。

 

「え?」

 

「大丈夫ですか!?」

 

 現れたのは鹿目まどか。

 ほむらは送った後に来たというわけではないようだ。

 異変を察知して二人一緒に来たのだろう。

 マミがそっとセラを下ろすと、まどかがセラを支えた。

 

「貴女は……」

 

 痛みを我慢するように離すセラ。

 そんなセラをいたわるようなまどか。

 

「鹿目まどかです!」

 

「ああ、そうでした。申し訳ありません」

 

 まどかに支えられながらも、セラはアサミを見る。

 目障りと言わんばかりに顔をしかめる彼女。

 それと反対に、マミは笑みを浮かべてライフルサイズのマスケット銃を構えた。

 

「いくわよ!」

 

「ええ!」

 

 マミの声と共に、ほむらが消える。

 僅かに動揺するアサミだが、そんな動揺も銃声によって消えた。

 放たれた弾丸。しかしその弾丸もアサミにきりさかれる。

 だがその弾丸からあふれたリボン、それはアサミの刀に何十にも巻きつく。

 

「くっ」

 

 ほむらがアサミの背後に現れると、後頭部に銃を押し当てる。

 

「撃つわよ」

 

「撃てば良いんです」

 

 構わず振り返るアサミ。

 舌打ちをしたほむらだったが、一瞬でアサミの両足から血が噴き出した。

 撃った気配もしなければ、音もしない。それにもかかわらず弾丸が足を貫く。

 まったくわけがわからないが、攻撃は直撃。

 

「私は言ったはずよ……撃つと」

 

 髪を払うほむらだったが、瞬時に両足を治したアサミが立ち上がる。

 切りかかるが、ほむらは居ない。

 どこにいるのかとあたりを見まわすが、銃声と共にアサミは倒れた。

 

「がっ……」

 

 腹部から血を流して倒れるアサミの背後には、ほむら。

 見ているマミたちにも全く理解できなかった。

 強さの次元が違いすぎる。

 

「やめなさい」

 

「フッ……フフフフフッ! ハハハハハハッ!」

 

 笑いながら立ち上がったアサミが、切りかかった。

 消えるほむらが再び彼女の背後に立つ。

 その瞬間、ほむらの背中から銀色の刃が跳びだす。

 

「……え?」

 

 つぶやくほむら。

 背中を向けているアサミは刀を逆手に持ち、器用にほむらに刀を刺している。

 腹部に刺さった刀が引き抜かれることは無い。

 ほむらの方を向くアサミが、もう一方の刀で足を切り裂く。

 

「どう?」

 

 太股から、血が噴き出して倒れそうになるほむら。

 だが、アサミがそれを許さない。

 倒れないように刀をさらに刺していく。

 

「あぐぅっ!」

 

 苦痛に声を上げるほむら。これ以上刀が刺さることは無い。

 足に力が入らずに倒れそうであるけれど、アサミがその体を掴んで離さなかった。

 

「一体どんな能力を持ってるんですかぁ?」

 

 楽しそうに言うアサミだったが、ほむらが盾からサバイバルナイフを出す。

 ナイフを手慣れた手つきで操ると、アサミの首にナイフを突き刺した。

 アサミがよろめき、後ろに下がると同時、ほむらの刀が抜ける。

 ほむらを背後で受け止めたマミ。片手でほむらを抱きとめて、片手で拳銃サイズのマスケットを持ち狙いをアサミの首のナイフに定めた。

 トリガーを退くと同時に撃鉄が鳴り、銃弾は吐き出される。銃弾はアサミの首に刺さったナイフの柄尻に直撃し、アサミの首を突き抜けた。

 あたりに飛び散る血飛沫から、マミはほむらを守るようにほむらの前に立つ。

 

 だがまだ終わりではない。

 アサミの左右から迫る赤と青の閃光。

 

「これで!」

 

「とどめだぁっ!」

 

 杏子とさやかがアサミの左右から迫り、斬り抜ける。

 上空に舞うアサミの腕が鮮血をあたりに飛び散らせた。

 魔法少女四人の猛攻。

 さやかがほむらの傍によって回復させようとした―――しかしそれよりアサミの方が早い。

 

 落ちてきた腕がくっつく。そしてアサミの両手には日本刀。

 振られた二振りの刀が衝撃波を放ち、四人は吹き飛んで結局セラとまどかのいる場所まで転がった。

 ほむらの腹部と足からの出血がひどい。

 衝撃波による攻撃は細かな刃が混ざっていたようで、杏子とさやかも所々にけがをしている。

 マミの傷は徐々に回復。

 

「さぁ! 終わりですよゾンビともどきさんたち!」

 

 火炎弾が再び放たれる。先ほど同じようなシーンを見た気がする。

 しかし今回ばかりは誰も動けない。

 

「(どうする……どうする!?)」

 

 考えていたマミだったが、すでに遅い。

 眼前に迫る火炎弾は、目の前で四散した。

 先ほどと違い目の前に誰かが居るわけでは無い。

 だが、目の前に壁があるのはわかった。

 

 アサミの笑い声が聞こえる。

 

「アハッ! やっと来てくれましたねぇ! お待ちしてましたよ……」

 

 マミたちの前に現れた少女は、白銀の髪を風になびかせ立つ。

 

「ネクロマンサー」

 

 目の前に立つユークリウッド・ヘルサイズの背中を見て、全員が驚愕に表情を変えた。

 ただ、目の前に立つ少女は無表情。

 

「ユウ……」

 

 その名を呼ぶマミだが、反応は無い。

 先ほどと違い嬉しくてしかたがないと言った表情のアサミ。

 危険だと思うも、今動けるのは自分だけだ。

 

「近くにいるだけで感じますよ。その膨大な魔力……はぁっ!」

 

 アサミが刀を振るうと、竜巻がユウへと向かって行く。

 しかし少しも動かないユウの目の前でその竜巻はバラバラになった。

 さらに楽しそうに、狂ったように笑うアサミ。

 

「すごい! すごい! すごい!」

 

 刀を振って斬撃を飛ばすが、それらすべてはユウの眼前で消え失せる。

 まったく攻撃が通じないにも関わらず、彼女は笑っていた。

 

「セブンスアビス、ユークリウッド・ヘルサイズ。本来こんな所で遊んでいて良い方ではないはずですよねぇ?」

 

 歩き出すユウはまったくの無表情。

 一歩ずつ、アサミへと近づいていく。

 

「くだらない女一人にこだわって、くだらない街に拘束されて……まるで私に、その魔力を奪ってって言ってるようなものじゃないですかぁ!」

 

 放たれる火炎弾。先ほどの威力よりよほど高いそれらは、ユウの目の前で全て消え失せる。

 それを見て、興奮したように自らの体を抱くアサミ。

 

「あぁっ! その魔力が欲しいぃっ!!」

 

 なんだか危険な予感がしたマミが跳び出そうとするが、地面が紅く輝いた。

 地に掘られた文字。そこには『来るな。邪魔』とだけ書かれている。

 その小さな足で、地を蹴るユウが、飛んだ。

 

 ユウは少し離れた公園の中心に立った。

 同じく、その近くに着地するアサミ。

 

「巴さんたちを巻き込みたくないんですね。フフッお優しい……」

 

 相変わらずの無表情で、アサミを見るユウ。

 

「ねぇ知ってます? 人間の体にはリミッターがかかってるんですって……でも命のストックがある私には関係ありませぇん。100%!」

 

 アサミの手から放たれる赤い炎の弾。

 だがそれはユウの前でかきけされた。

 150%200%、300%、500%、次々と放たれる炎の弾や竜巻も、ユウの目の前で四散して消えていく。

 自らの攻撃に耐えきれず傷つくアサミの体。

 

「ぐぅっ!」

 

 苦しみだしたアサミのソウルジェムが―――砕けた。

 

 ソウルジェムは魂。それが砕ければすなわちその命が終わる。

 だが、彼女は言った通り『命のストック』があった。

 砕けたソウルジェムが元に戻り再び動き出す。

 笑う彼女に悪寒を感じる面々。

 再び放たれる火炎弾だが、それも効くわけがない。

 

 それを見ていたまどかがつぶやく。

 

「すごい」

 

「いえ、彼女が真が恐ろしいのは……鎧の力や、魔力がどうのではなく……」

 

 怪我が痛むだろうにつぶやくセラ。

 マミをはじめとする魔法少女たちも、その光景を唖然として見ていた。

 

 

 ユウが、近づいて行き、一定の距離で足を止める。

 肩で息をするアサミにさすがに余裕の表情は無くなっていた。

 

「い、いい加減倒れなさいよっ……げほっ!」

 

 口から血塊を吐き出すアサミに、ユウは無表情。

 アサミの足元の地面に文字が彫られた。

 

『帰れ』

 

「ハッ、だぁれがっ!」

 

 その両手に魔力を集めるアサミ。

 だがユウは無表情でその姿を見るだけだ。

 

 そしてユウは口を開いた。

 

 ―――瞬間、ユウの周囲の全てが“終わり”を向かえる。

 

 そばにあった草や花は全て枯れ果て、アサミすらも倒れた。

 セラがつぶやく『言葉の力』だと……。

 

 それに戦慄を覚える魔法少女たちと、まどか。

 純粋な恐怖。 あの小さな少女への恐怖。

 セラが少し離れた場所で起こった光景を見ながら話す。

 

「今、ヘルサイズ殿はこう言葉にしたのです―――」

 

 ―――死んで。

 

「(そんなっ……言葉一つで人が死ぬ……?)」

 

 だから、ユウは自分の力を封じていた。

 あまりにも大きな死の力。

 全てを悟るマミ。

 

 ピクッ、と動き出すアサミ。両手を地面につき少し起き上がると、口から大量の血を吐き出す。

 すでにアサミの下は血の海状態だ。

 離れた場所にいるマミたちでさえ血の匂いが届く。

 

「ハッ……ハハハッ」

 

 ―――死んで。

 

 笑い声は止まり、アサミは血の海に倒れる。

 しかし、命のストックがたんまりあるアサミはすぐに起き上がった。

 ユウは頭を押さえている。

 

 マミの頭はアサミなどどうでも良く、ユウのことで沢山だった。

 だからこそ感情を殺していた。

 

 ―――死んで。

 

 再び、アサミは倒れる。

 

 ―――死んで。

 

 ―――死んで。

 

 ―――死んで。死んで。死んで。

 

 ユウが頭を押さえてうずくまる。

 頭を押さえながら、その激痛に喘ぐユウ。

 そんな痛みなど知らぬという風に笑いながら立ち上がるアサミ。

 

 ―――死、ん、で。

 

 倒れるアサミ。

 

 マミとセラが拳を握りしめた。

 だからユウは誰よりも死に近く、悲しい。

 それらを一番感じ取っているのは、マミだろう。

 

 先ほどより長く倒れているアサミ。

 ユウの頭痛も少し引いたのか、いつも通りの無表情に戻った。

 

「はっ……ヘ、ハハハハッ」

 

 眉をひそめて、ユウは再び『死』を言葉にする。

 

 ―――死んで。

 

 だが、笑っているアサミが倒れることは無い。

 

 ―――死んで。死んで。

 

 なんど言葉にしても、死を迎えないアサミ。

 笑い声をあげながら、アサミは両手の指を『耳から』抜く。

 自ら鼓膜を破ったのだろう。

 痛覚を“遮断”できる魔法少女には問題ないことだ。

 

 驚いた様子を見せるユウ。

 

「ハハハハッ、これで貴女の言葉は届きませぇんっ……ハハハッ」

 

 ゆっくりと、ユウへと近づいていくアサミ。

 

「期待通り貴女は強い……ならばこういうのはどうですかぁ?」

 

 ゾンビのように一歩一歩を踏み出す。

 マミが逃げろと叫ぶ。

 だがすでに遅い。

 アサミはユウに片手で抱きつくと、片手でソウルジェムを握り潰した。

 

 砕けたソウルジェム。それと共に―――爆発が起きる。

 

 その爆発の爆風はマミたちにも襲い掛かった。

 なんとか踏ん張る彼女たちだったが、マミが叫ぶ。

 

「ユウ!!」

 

 そして公園の中心に立っているのはアサミだった。

 ユウはボロボロの状態で倒れている。

 血だらけのアサミが、身体をゆっくりと伸ばす。

 

「死んで死んでと、馬鹿の一つ覚えですかぁ? 命が一つしかないというのは……不便ですよねぇ? 巴さぁん?」

 

 アサミの視線と、マミの視線が交じり合う。

 マミの視線がしっかりとアサミを捕らえた。

 鋭い眼光。

 

「なぁマミ、アタシはもう二度と他人のために魔法は使わないって決めたんだ……けどさ、今むしょうにあいつをブッ飛ばしたい!!」

 

 隣に立った杏子が、槍を構える。

 こんな状況にも関わらず、マミが笑みを浮かべた。

 

「それはたぶん、たった少しの時間でユウが貴女にとってもう他人じゃなくなったんじゃない?」

 

 その言葉に、杏子は自嘲するかのように笑う。

 

「そっか、そうかもしんない」

 

 立ち上がるのは杏子だけじゃない。

 体の回復を終えたのであろうさやかとほむらも、同じく隣に立つ。

 

「あれですね、正義のゾンビと悪のゾンビ! 勝つのはもちろん正義のゾンビ!」

 

 笑みを浮かべるも、どこかしっかりとした視線のさやか。

 マミは困ったように笑顔を浮かべる。

 ほむらは盾から拳銃を二挺取り出した。

 

「もう誰も目の前で、死なせないわ。巴さんだって、ヘルサイズさんだって」

 

 そう言うと、ほむらはマミ、さやか、杏子を見る。

 魔法少女たちが同時に頷いた。

 四人の魔法少女が再び動き出そうとした時、セラが起き上がる。

 

「マミ、新しい技を思いつきました。家に帰ったら……一緒に名前考えてもらえますか?」

 

 笑みを浮かべるセラ。マミは無言で頷いた。

 マミがマスケットを二挺、杏子が槍を、さやかが剣を、ほむらが拳銃を、セラが刀を構える。

 五人が同時に武器を構えた。

 マミがそっと後ろを振り返ると、まどかが歯痒いと言った表情をしている。

 

「鹿目さん」

 

「はい!?」

 

 名前を呼ばれビクッと跳ねるまどかを見て、マミがクスッと笑った。

 

「私たちが帰る日常は貴女なんだからね?」

 

 そう言うと、まどかは笑顔で頷く。

 マミは再びアサミを視界に入れて腰を下ろす。

 

「いくわよ!」

 

 同時に動き出す五人。

 

 最初に攻撃したのはやはりほむらだった。

 彼女に多数の銃弾を叩きこむ。

 どういう原理かはわからないが、無数の弾丸がアサミを襲う。

 しかしそれは読まれていたのかアサミの目の前で弾丸が弾かれた。

 

 斬撃にほむらは吹き飛ばされる。

 

 走るセラが、跳んだ。

 刀の刀身部分が無数の葉に変わる。

 

「秘剣、技名未定!」

 

 葉が集まり巨大な刀身へと姿を変えた。

 振り下ろされる葉を、片手の刀で受け止めたアサミがそのまま刀を振るう。

 衝撃波で吹き飛ばされるセラ。

 

「まだまだぁっ!」

 

 アサミの上から、杏子が槍を振り下ろす。

 しかしそれも軽く受け流され、蹴りを入れられ吹き飛ぶ。

 間髪入れずに突っ込んださやかは二刀流で連続攻撃をいれるもすべて弾かれ腹を斬られた。

 その隙を狙いアサミは蹴りを撃ちこむ、杏子の隣に転がるさやか。

 

「佐倉さん、美樹さん!」

 

 二人の元へとかけよるマミ。

 その傍らに突如あらわれるほむらとセラ。

 

「アッハハハハッ! ハハハハハッ!!」

 

 不愉快な笑い声だけが響く。

 五人が立ち上がると、アサミをにらみつける。

 しかし狂気じみた笑みを浮かべているアサミ。

 

「せっかく集めた命を、今日はずいぶん失いましたぁ……取り急ぎ貴女たちの命を……頂戴しませんと、ハハハッ」

 

 笑いながら近づいてくるアサミに、身構える。

 マミが手に持つマスケットをリボンへと変えた。

 無手になったマミ。

 

「これ以上は、誰も殺させないっ!」

 

「アハハハハッ! カッコい~! じゃあ最初に殺してあげる!」

 

 刀を空に振るアサミはバカにするようにマミを見た。

 そして、瞳を細める。

 

「嫌いじゃなかったわよ、巴さぁん!?」

 

 振られる刀、斬撃がマミを突き抜けた。

 

「ぐっ!」

 

 マミのくぐもったような声と共に、マミの背中からは大量の血が噴き出す。

 それを見ていた四人、いやまどかを含めての五人は驚いていた。

 四人の前に出るマミ。まどかは四人の元までやってきている。

 

「アホですか!?」

 

「少しは避けろよ!」

 

 セラと杏子の言葉を受けながらも、マミは震える足で立っていた。

 

「ゆ、ユウはこの攻撃を受けながらも考えてたんだよ……命を奪うってことを……そんなこと、軽はずみにやり取りして良いわけないわよね!」

 

「なに言ってるの、カッコ悪い……死ねぇっ! 死ね! 死ねぇっ!!」

 

 数度の斬撃。それがマミを貫き、背中から大量の血を吹き出しながら体勢を崩すマミ。

 四つん這いになりながらも、倒れることはない。

 

「それが、死ねないんだよね」

 

 つぶやいたマミは、倒れているユウの方を見た。

 

「ユウ……帰ったらご飯にしましょうね?」

 

 そんな光景を見ていたアサミが頭を左右に振る。

 鬱陶しそうにわずらわしそうにマミを見下ろす。

 

「アアァッ! しつこい! 死んでって言ってるでしょぉっ!!」

 

 振り下ろされた刀は、マミの顔向かってまっすぐに降りていく。

 しかしその刀はマミの右手に掴まれた。

 手の平に巻きついたリボンがマミの右手を切断させない。

 掴まれた刃は、マミに握り砕かれた。

 

 驚愕するアサミ。

 

「死ねないのよそれが……私、ゾンビです。あと、魔法少女です」

 

 立ち上がり、口からこぼれる血をぬぐう。

 マミの片目が一瞬、紅に輝いた。

 後ずさるアサミ。

 

「私は一人ぼっちが寂しかった……でも家族を見捨てた私は家族を求めちゃダメなんだって思ってた。でも違ったんだ。私は一人ぼっちじゃなくても良いんだってわかった!」

 

 一歩ずつ、アサミへと近づいていく。

 

「ありがとう。貴女に殺されたおかげで人生が変わったよ」

 

 そっと、彼女の片手を取るマミ。

 必死にマミの手を振りほどこうとするアサミだが、力は圧倒的にマミが強い。

 

「だから、今度は貴女の人生を変えてあげる」 

 

 マミの腕を必死で振り払おうとするアサミ。

 自らの腕を掴んでいるマミをにらみつけた。

 

「私は命の魔法を持ってるのよ!?」

 

「じゃあ生き返って見せなさい! その借り物の命が尽きるまで、何度も……私が殺してあげる!」

 

「ええい離せ!」

 

 片手を掴まれながらも、空いた片手に魔力を集めると手の平をマミの腹部に向ける。

 その手から放たれた光弾はマミの体を貫く。

 力が抜けたのか、マミの腕を振り払うと、マミは倒れる。

 肩で息をしながら、頭を押さえて目をきつく瞑るアサミ。

 

「うぁぁっ! 気色悪ぅっ!」

 

 純粋にマミが気持ち悪いわけではないのだろう。

 目をつむりながら頭を抱えるアサミ。

 

 だがその瞬間―――何かが回転するような音と共にアサミの体が地に倒れる。

 

 天を向いているのは、ドリル。

 

「っ……あぐぁっ」

 

 辛そうに顔を歪めているマミが、腕に展開していたドリルをほどく。

 リボンへと変わったドリル。うつぶせのマミが両手を使ってなんとか起き上がる。

 腹部の傷は、治らずに痛みが続く。

 

「うっぐっ……」

 

 立ち上がっているマミを睨み、見上げるアサミ。

 マミは肩で息をしていた。痛みは通常の人間と同じほど。

 この中にいる魔法少女。アサミ、杏子、さやか、ほむら。

 誰か一人でも、マミと同じ痛みを背負って動けるものは居ないだろう。

 

「っ……あぁぁぁっっ!」

 

 その右手に、リボンで長いドリルを形成する。

 マミはそれをアサミへと振り下ろした。

 血飛沫と共に、彼女の“断末魔が何度も”聞こえる。

 

 その叫び声は一介の少女が出せる声とは程遠く、醜いものだ。

 本来の断末魔というものだろう。

 痛みで正常な判断はできないのか、痛覚遮断もしない。

 吐き気すらも忘れて、全員がその光景をみている。

 

 

 

 

 断末魔が止むと、マミは右腕を振り上げていた。

 ドリルは展開しつづけているが、回転は止まってすでにアサミから抜けている。

 肩で息をしながら、マミは立っていた。

 

「あっ……あぁっ……」

 

 怯えるような表情で、尻もちをついたまま後ずさるアサミ。

 マミの鋭い視線を受ける。

 

「どうやら、最後の命みたいね?」

 

「い、いやっ……」

 

 怯え、恐れるアサミ。だがマミはそんなアサミに近づく。

 

「貴女は身勝手に人の命を奪いすぎた……償わないと」

 

 決して怒っているような口調ではない。

 ただ強い、意思を持った言葉であるのは確かだ。

 

「いやっ、死にたくない……っ」

 

「みんなそう思った……私だって……」

 

 前髪に隠れて見えない表情。

 歯をかみしめるマミ。彼女はそう思っていた。いままでずっとだ。

 両親を見捨てた事故の時も、魔女と戦う時も、アサミに刺された時も……。

 

「いやっ……」

 

 つぶやくアサミ。マミの右手のドリルがリボンに戻る。

 その右手のドリルを形成していたリボンが、マミの手に巻きつく。

 

「終わる、何もかもっ!」

 

 強く握りしめられた拳。

 震えるアサミ。

 

 その眼に映るのは―――腕を振り下ろすマミ。

 

 瞬間、マミとアサミを中心とした地面が砕ける。

 その拳の衝撃を物語る威力であり、それを見ていた五人はただ驚いていた。 

 爆煙のように起きた砂埃はすぐに散る。

 拳を叩きつけたマミは、大量の汗をかいていて、その顎から汗がしたたり落ちた。

 

「っ……はぁ、はぁっ……ぐっ……はぁっ」

 

 立ち上がるマミ。

 その拳は、アサミの顔の真横に叩きつけられていた。

 あまりの恐怖からか、気絶しているアサミ。

 終わった。

 

 

 

 近くのベンチにユウを座らせると、程なくして目を覚ます。

 安心したように息を吐くマミは、微笑んだ。

 

「良かった……」

 

 目を覚ましたユウは、どこから出したのかすぐにメモ帳を上げた。

 

『終わったの?』

 

「とりあえずかな?」

 

 相変わらずの無表情。いつもと変わらぬ様子で、メモ帳に何かを書き込んでいく。

 一度ペンが止まったが、すぐにペンは動き出す。

 

『よくやった下僕』

 

「結局それなのね」 

 

 溜息をつくマミだったが、再びメモ帳があげられる。

 

『約束』

 

 その文字を見て、セラと杏子も反応した。

 一緒なのだから当然と言えば当然だ。

 

「ええ、帰ったらご飯にしましょうね」

 

 頷くマミに、さらに突き出されるメモ帳。

 

『フルコース』

 

「できるかなぁ……ハハ、ハッ」

 

 甘やかしてあげたいという気はあるものの、できるかできないかでと考えて苦笑。

 聞きなれた足音が聞こえた。

 振り向いたマミと、その他の面々。

 

「とんでもないね、君は……まさかアサミが負けるだなんて思ってもみなかったよ」

 

 そう言う“キュゥべぇ”は、まったく何も感じていないようだ。

 いや、実際に意外だとは思ってるのかもしれないが、声に感情が乗っていない。

 全員がその生き物を睨みつけるように見る。

 

「言っておくけれど今回のこととボクはなんの関係も無いよ」

 

 一度も“嘘をつかない”キュゥべぇが言うことだ。

 本当ではあるのだろうと頷く。

 

「彼女、アサミちゃんはどんな祈りで命の魔法を得たの?」

 

 マミの質問に、キュゥべぇがユウの隣に着地する。

 

「彼女の祈りは“助けて”という願いさ」

 

 衝撃を受けるマミ、杏子、ほむらの三人。

 マミの祈りとまったく同じだ。

 しかし、なぜマミと違うのか?

 

「死にそうになった彼女が祈ったのは『助けて』ということ、それは他人に命を分け与えてもらえる魔法へと変わった。だからこそ他人の命を奪って自分のものにできるというわけさ」

 

 同じ願いで魔法が違う。

 ならば、マミが命の魔法を得ていたら? 

 考えるだけで悪寒がした。

 

「目が覚めたようだね」

 

 そうつぶやくキュゥべぇ、マミたちが背後を向く。

 立っているのはアサミ。虚ろな瞳で魔法少女たちを見ている。

 一歩踏み出すさやか。

 

「さぁ、とっとと帰ってもらお―――」

 

「楽しい余興だったよ」

 

 アサミの声で無い声がした。

 だが口を開いているのはアサミ。

 混乱しているようなさやかの前にマミが立つ。

 

「あなたは誰?」

 

 マミの問いに、虚ろな瞳が答えることはない。

 

「ユークリウッド・ヘルサイズ……」

 

 名を呼ばれ、ユウが視線を鋭くした。

 その動揺は知り合って間もないまどかやさやかにもわかる。

 

「元気そうでなによりだ……そんなに怖い目で見ないでおくれよ」

 

「夜の王、そういうことか」

 

 知っているのか、キュゥべぇは意味ありげに言葉を放った。

 誰も動かないものの、なにかしらの因縁があるのは予想がつくというものだ。

 

「ふっふっふっ、どうかな?」

 

 アサミから黒い何かがあふれ出る。

 それを感じて、マミとほむらが武器を構えた。

 その感じのする敵と何度も戦った二人だからこそすぐ構えられる。

 

「この感じ、メガロね」

 

 つぶやいたほむら。

 笑うアサミ。

 

「ハッハッハッ、それもどうかな?」

 

 いまいちつかみどころのない会話である。

 不愉快な感覚だとマミ銃をリボンに戻した。

 相手から攻撃する意思は受けられない。

 

「では、来たるべき時まで。それまでお大事に、ユークリウッド……」

 

 そして、黒い何かが消えると倒れるアサミ。

 緊迫した空気が消えて、全員が変身を解除する。

 溜息をつくマミがまたひと悶着あるのだろうと目を細めた。

 

「ユウ、さっきのアレは……」 

 

 地面に文字が刻まれる。

 

『あの黒い霧は』

 

 話すのを渋っているかのような表情。

 無理に聞き出すことはしないでおこうと思うマミだったが、再び文字が刻まれた。

 

『私が消滅させたはずのゾンビの力』

 

 その文字が見るも、誰も特に何も言うことは無い。

 

 

 

 マミが笑って解散を宣言するけれど、結局晩御飯は全員で、ということになった。

 キュゥべぇに『アサミが起きたら帰るように言って』とお願いして、全員でマミのマンションの部屋に集まった。

 ちゃぶ台だけではとても足りないので三角形のテーブルも出して、全員でにぎやかな夕食。

 

 しばらく全員で楽しくやりながら、その後この家の住人であるマミ、セラ、ユウ、杏子以外の面々は帰って行った。

 何も言わなくても杏子は家族だと、全員がわかっている。

 昔からずっと、マミの大切な弟子でもある彼女をこのままにしておくなんてセラもユウも考えない。

 

 全員が帰ると、杏子はマミのベッドで、セラは自室に戻って寝た。

 唯一起きているのは、マミとユウだけだ。

 リビングにてお茶を飲むユウとマミ。

 何かに気づいたような表情をして、マミがユウの方を見る。

 

「ねぇユウ?」

 

 ユウがマミの方を見た。

 

「私以外にも、ゾンビがいるの?」

 

 そっとメモ帳を置くと、ペンを走らせていく。

 素早く書かれた文字。

 

『居ないと信じていた』

 

 別段表情を変えることも無く、その文字を見るマミ。

 再びペンが走る。

 

『かつて私は彼をゾンビに変えた』

 

 つまりは男、ということだろう。

 そして自分と同じくゾンビになった男。

 

『でも悪意に包まれた彼を』

 

 ただしっかりと真面目な表情でそれを見るマミ。

 ユウが文字を書き終えたのか、ペンを置く。

 メモ帳には一言。

 

『消した』

 

 それだけが書かれていた。

 マミが笑いながら聞く。

 

「もしかして、恋人だったとか?」

 

 首を横に振るユウを見て、マミは息をついた。

 恋人だったなら、あまりに複雑すぎて自分が間に入っていいか迷うところだ。

 だが、その心配は無い。

 安心するように息をつくマミ。

 

「心配しないでね、私がいるから……ね」

 

 窓の方を見ながら言うマミに、ユウは視線を向けた。

 小恥ずかしいのだろう。マミは窓の方を向いたままだ。

 

「ほら、私不死身だから……ユウの力のおかげなんだけど……あと、魔法少女の皆やセラもいるしね」

 

 マミがユウの方を向いた。

 目と目が合う。

 ただ元気づけようとしているのはわかる。

 

「(あれ、笑った?)」

 

 そんなことを思うマミだったが、聞くのは野暮だろうと思い、止めておいた。

 

 

 

 ―――ほとんどの人が気付かづに一生を終えていくけれど……世界には触れてはいけない秘密があふれてる。

 

 連続殺人事件は終わった。けど、不安の種が消えたわけじゃない。

 ま、とは言え一先ずは一先ず。

 これで一旦、ティロ・フィナーレ。

 今はこうしてユウとちゃぶ台を囲んでいるのが幸せ。

 

 

 

 マミが、口を開く。

 まだ杏子が来ても間もない。というより二日。

 聞くのは早いと思っていたが、これだけは聞きたかった。

 

「ねぇ、ユウは今の生活のこと……どう思ってるの?」

 

 少し考えてから、ペンを動かす。

 

『嫌いじゃない』

 

 ユウのその言葉で、十分だ。




あとがき

はい!魔法少女要素・皆無! まぁ原作通りみたいなもんですよねw
さて、次回はまどか☆マギカの話でいう『本当の気持ちと向き合えますか?』ですね。
この仁美が仁美(冥界人)なのでどうなるかはお楽しみということでw

では、次回もお楽しみに♪
感想の方もお待ちしてます♪

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。