翌日の朝、マミが学校への道を歩く。
たった一人の通学路。いつも通りで特に気にする様子も無く歩いていたマミ。
ふと、後ろから背中をポンと叩かれて振り返る。
背後には、志筑仁美が立っていた。
笑みを浮かべるマミ。
「おはよう、志筑さん」
「仁美でよろしいですのよ?」
そういう仁美を見て、頷く。
考えてみれば自分が名前で呼ぶのは夏乃とアサミとユウぐらいではないだろうか?
なぜ夏乃が入っているのだろうと思い、なんだかもやもやした気分になる。
今度からは夏乃も苗字で呼んでやろうと思うも、ふと思う。
「(そう言えば夏乃の苗字ってなんだったかしら……)」
物覚えが良い自信があっただけ少し戸惑う。
すぐにやはり考える必要も無いと思い仁美と他愛のない話をしながら歩く。
少し歩くと聞きなれた声と共に足音が近づいてきた。
「マミさ~ん!」
走ってきたのはさやかとまどかの二人。
マミの横にさやか、そしてその隣にまどかと並んだ。
「仁美とマミさんのツーショットとはこれまた新鮮ですね!」
「そうかしら?」
ふと、四人の誰でもない声が聞こえた。
気づくと、仁美の隣にほむらた歩いている。
驚くさやか。マミ、まどか、仁美はふつうにおはようとあいさつ。
それを返すほむら。
「いきなり出てくるなよ、心臓に悪いなぁ」
「心臓が止まっても気にすることないわ」
まったくもってそうである。仁美には理解できないだろうとさやかは苦笑。
魔法少女のことを知っている仁美であるが、マミは言わないように念を押されているので言わない。
とりあえずここにて見滝原の人外が集結と言ったところだろうか?
思ってもさやかのためを思い口に出さない辺り、マミはしっかりしている。
他愛も無い話をしながら歩いている途中、仁美が何かに気づく。
「あら……上条君、退院なさったんですの?」
そんな言葉を聞いて、さやかが何かを思うような表情でそちらを見る。
まどかがさやかの方を見て言う。
「よかったね。上条君」
「うん」
なんだかそっけない返事だ。
いろいろ思うこともあるのだろう。
マミが、まどかの肩を軽く叩く。
それで理解したのかそれ以上は言わない。
「はぁ……」
深いため息をつくさやかを見て、仁美は軽く顔をしかめた。
そんな仁美を見たほむらは、眉を寄せて難しい顔をする。
~~~~~
放課後、結局昼もさやかは黙っていて、それにつられてまどかもだんまり。
ほむらはもともとなので例外として今日はずいぶん沈んだ雰囲気の学校になってしまった。
せっかくアサミを倒して一件落着となったかと思ったが、問題は山積みのようだと―――マミはため息をつく。
隣を歩くまどかがそれに気づいたようで、マミの方を見た。
「さやかちゃん、たぶん上条君のことで……」
ボソッと言うまどか、頷くマミがさやかの元へと歩く。
このままではいけないだろう。
「上条君のことね?」
隣を歩くマミが聞くが、さやかは少しうつむくのみ。
「気にしないでください」
そういうわけにもいかないけれど、と思う。
「でもね、美樹さん。上条君に、自分の気持ち……」
「人間じゃない私には無理ですよ」
立ち止まるマミが、さやかの腕をつかむ。
マミにつられて、立ち止まるさやか。それと同時にまどかとほむらも足を止める。
仁美は委員会ということで学校に残った。だからこそ今は四人でこうして話ができる。
「色々言ってもらったけど、やっぱり学校くると思っちゃうんです。私は結局って……」
まぁその考えは理解できないことはない。
マミだってゾンビになった当初は人間じゃないと理解して一喜一憂したりしていた。
けれどすぐにそんな考え無くなったのは、ユウがいたからだろう。
さやかも自分の一番である上条恭介に体のことを打ち明けられればずいぶん楽になるのだろうけれど……言えるはずもない。
「(やはりガイアの試練は難関ね、この世界線、時間軸の特異点たる私でも……)」
頭の中で中二全開な妄想をする。
その瞬間、まどかの声が聞こえた。
たくさんの生徒たちもまどかの方を見て、次にまどかの指さす方を見る。
そこには、一匹の仔猫。いつぞやマミが助けた仔猫だ。
そして、その仔猫を今にも轢かんとするトラック。
仔猫に気づいた運転手だが、ブレーキをかけても止まらないだろう。
「なっ、エイミー!」
珍しく叫ぶほむら。仔猫の名前だろうか?
高速移動か瞬間移動かわからないが、彼女ならばすぐにたすけにいけるだろう。
だが、魔法少女の姿をここで晒すわけにはいかない。
「はぁっ!」
マミが跳び出した。いつぞやの日のように迷わず猫を抱き上げる。
「マミさん!」
さやかの声が聞こえる。マミはフッとほほ笑む。
トラックがブレーキをかける音が聞こえるが、もう無理だ。
―――私、ゾンビです。
トラックがぶつかる直前、マミは仔猫を歩道へと放った。
「うごぉっ!」
とても女子中学生が出して良いような声ではない。
吹き飛んだマミが空中を回転して歩道近くの石垣に頭をぶつける。
地に伏すマミへと走る面々。
マミが顔を上げると、目の前に見慣れたブーツが映った。
「……マミが死んでるっ!?」
目の前には杏子。大きなリュックを持ったまま立っていた。
なんとか立ち上がったマミが頭をだくだくと流れる血を袖で拭う。
口をあんぐりと開けている杏子の元に、まどか、さやか、ほむらが集まる。
そしてそんな時、また一人。
「揃いも揃って……またクソ虫ですか」
これはひどい。と思いながらも慣れていく自分が恐いマミ。
やってきたのはセラ。相変わらずの罵倒だが、マミの両脇に腕を回して起き上がらせるだけ心配していないわけではないのだろう。
セラにささえられるマミの足元に仔猫が寄ってきた。
ほむらは安心したように、しゃがんでその猫の頭を撫でる。
「ほむらちゃんの猫?」
「いえ、そういうわけではないの」
そう言ったほむらはどこか思う所がある、といったところだろうか?
それに気づいたマミは『助けられて良かった』と言って笑う。
立ち上がって、ほむらは少し赤い顔でそっぽを向く。
「その……あ、ありがとう」
マミはほむらの頭を軽く撫でたが、突如マミを支えるのをセラがやめたので思いっきり地面に倒れた。
顔からいったマミを心配するセラ以外の面々だが、マミはふつうに立ち上がる。
これはゾンビ関係なしだろう。
杏子が苦笑。
「嫉妬か?」
「杏子、おかしなことを言いますね」
紅の眼で見られた杏子は視線をそらしてリンゴをかじる。
そんな二人をよそに、マミがさやかのことを見た。
真剣な表情と言うわけでは無い、いつも通りのふわりとした雰囲気のマミ。
「わかってくれた? 美樹さん……」
「なにがですか?」
わかっていないさやか。マミが苦笑した。
そんな間に入るセラ。
「それは家に行ってから、というわけにはいけませんか?」
セラの言葉を聞いて、マミは周囲を見る。
トラックと事故を起こして平然としているマミを、信じられないと言う風に見るギャラリー。
マミを先頭として、全員が走ってその場を離れる。
今回はセラに感謝、と思うと同時に好きなものにしてあげようと思うのだった。
家へと帰ってきたマミと、面々を迎えたのはお茶を飲むユウだった。
セラと杏子にお茶、まどかとさやかに紅茶、ほむらにコーヒーを出したマミが、ようやく座る。
そして話の続きを言わんばかりに咳払いをした。
さやかの隣に座ったマミが、先ほどの続きを言おうとする。
「(……いざ言うとなると恥ずかしいわね)」
先ほどならば場の空気で言えただろうけれど、いざとなると難しい。
「巴さんが言いたいのは、普通の人間じゃないからこそああいうことができたってことよ」
ほむらの助け舟、心の中で感謝する。
さやかが自分の方を向くので、マミは頷いた。
確かにその通りだろう。マミがゾンビだからこそ自分を犠牲にしてでも猫を助けることができた。
それでも、頭で理解していても、気持ちは納得しない。
「わかってるつもりだったんだ、私だって……でも現実はそうもいかなくて、やっぱり無理だよ。私……」
「そんなに彼のこと、好きなのね」
その言葉の重みがわかってか、マミがつぶやいた。
頷くさやか。全員黙ってその状況を見ている。
下手なことを言うつもりもなかった。
「だから打ち明けられないね……」
正座しているさやかが、涙を流す。
それほどまでに苦しんでいるということだろう。
「私っ、何も出来ない……だって私、もう死んでるもん。ゾンビだもん。こんな身体で抱き締めてなんて言えない。キスしてなんて言えないよ」
そんな言葉に、マミがそっとさやかを抱きしめた。
驚くさやかとほかの面々、だがすぐにほむらと杏子は察した。
続いてセラもだ。
ユウは……最初からそれほど驚いていないようだった。
「これ以上苦しむのなら、いっそのこと彼に伝えてきなさい。これはお願い……それでもダメで、伝えられないなら、みんなが……いや違う。私が抱きしめる!」
そんな言葉に、さやかはギュっとマミの体に腕を回す。
静かに、堪えていた嗚咽は漏れ始めて、徐々に崩れる。
堪えがきかなくなったのか、最終的にさやかは本格的に泣いてしまった。
別段誰も迷惑だなどと思っていない。
仲間の、友達のことだ。
「うん、一杯泣いて……それから決めれば良いから、ね?」
さやかが泣きやむまでの数分。マミは優しくさやかの頭を撫でていた。
その間黙っているのも、彼女たちなりの優しさなのだろう。
まどかに関しては涙を流しているが、それも彼女の優しさ。
泣き止んださやかはさっぱりとした顔だ。
憑きものが落ちた……のだろう。
マミがティッシュを渡すと鼻をかむ。
「最近あたしみんなに泣いてるとこばっか見られてるやっ」
小恥ずかしそうに言うさやか。
杏子がさやかの肩に腕を回す。
「確かになぁ~さやかは泣き虫ってイメージついちまうよな!」
「ちょっ、佐倉さん!」
そんなことを言う杏子をどうにかしなくてはと思うマミだったが、さやかは笑った。
おかしそうに笑いながら、杏子にグッと親指を立てた手を向ける。
「魔女との戦いで汚名挽回して見せるからね! 杏子!」
「へっ! 期待してるぜさやか!」
二人が仲良くしているのを見て、ホッとした。
彼女たちは相性がいいのだろうと頷くマミ。
そしてついでにと思い言っておく。
「美樹さん、汚名は挽回しないで返上するものよ」
「え!?」
さやかのそんな言葉で、その場が和んだ。
やはりみんな笑顔が良いものだと頷くマミが、ユウの方を向く。
全員が和気藹々と喋ったりしている中、一人無表情のユウだが、つまらないわけではないのだろう。
『楽しいから安心して』
マミが話す前にメモ帳が持ち上げられた。
それを見て頷くと、皆の輪の中に入るマミ。
セラがお茶を飲みながら疑問を口にした。
「そういえば杏子はなにをあんな荷物を?」
その疑問はマミも同じく持っている。
いろいろあったので言わなかったがついでに聞いておこうと思い杏子の方を見た。
少し焦っている様子の杏子が、背後にある大きなリュックを持つ。
「えっ、こ……ここに住んで良いんだろ? マミが言ってくれたんだよな?」
そんな言葉に、素で忘れていたマミも内心焦る。
けれどそれを表に出すとセラになんと言われるかわからない。
『物覚えまで悪くなりましたかこの若年性痴呆キイロ虫!』ぐらいは言われる。確実だ。
「もちろんよ、ごめんなさいね? 戸惑わせちゃった?」
優しく言うマミ、杏子は後頭部を掻く。
忘れたことを感づかれていないようだとホッとした。
「別に、ダメなら前みたいになるだけさ」
そう言った杏子は少しさみしそうに見える。
忘れていたのが本当に申し訳なくなったマミ。
そっと立ち上がると、大量の皿に乗ったケーキを持ってきた。
全員分をテーブルに置く。
「どうぞ」
そう言うと笑顔で、いただきますと言う魔法少女の面々とまどか。
セラとユウを見ると、そっとメモ帳が出てきた。
『いつも通り』
マミの頭の中に久しぶりに妄想ユウが現れる。
「お姉ちゃんのお料理はいつもおいしいから♪」
だらしない顔になるマミ。
魔法少女とまどかは誰も見ていなくて安心だ。
突如跳んできた手裏剣が、マミの額に刺さる。
「なにするの~」
咎めるように言って手裏剣を抜く。
セラはすでにケーキを食べ終えていた。
美味だったのだろうけれど、なぜ刺されたのかわからない。
マミは魔法少女プラスまどかを見る。
みんなで騒いだりしながら数十分経って、一同は魔女狩りへと出た。
四人揃っての初めての魔女狩りだが、アサミ以上の強敵なんていないだろう。
まったく相手にはならない。
相手は影の魔女。
「佐倉さん、触手の相手を!」
「了解だマミ!」
マミの指示にて、結界のあらゆる場所から伸びる触手を切り裂く杏子。
伸縮自在の槍だからこそできる“守る”戦い方だ。
ほむらは相変わらずの瞬間移動の傍に爆弾をしかけるという方法もあったのだが、それはマミが止めさせた。
理由は強くならないからだ。
当然自分も、さやかも、杏子も、もちろんほむらも……。
あの力だって魔力は消費するだろうから、いざ時が止められなくなった時の戦いも想定しようということでこうしている。
風見野の魔女も片っ端から倒せば十分なグリーフシードは手に入るだろう。
ワルプルギスの夜との戦いに備えるには十分だ。
「暁美さん!」
マミの声にて、ほむらは迫る影を斬り道を作る。
左手にあるのは大きめのサバイバルナイフ。
右手には拳銃を持っていた。最大限体を使う戦い方だろう。
「美樹さん!」
「任せてください!」
大きな返事が聞こえた。前方の敵をマミとほむらが片付ける。
さやかが地面に両手両足をつけると、あたりに衝撃波と放ち跳ねた。
素早い動きで敵に近づき、その剣を振り上げた瞬間―――真下から伸びた黒い影がさやかの腹部を打つ。
上空に跳んださやかが体勢を整えるが、その瞬間複数の触手がさやかに伸びる。
「……っ!?」
さやかが剣でそれらを防ごうとするが、間に合わない。剣をもう一本出して振るのも間に合わないだろう。
その触手がさやかの腹を貫こうとした瞬間、目の前の触手が弾丸に阻まれた。
さやかが驚愕する。
「早くしなさい」
背後から声が聞こえる。
そんな声に頷くと、さやかは空中で魔法陣を展開。
「サンキューほむら!」
自分を手助けしてくれた“仲間”にそう言うと、さやかは魔法陣を蹴った。
すさまじいスピードで影の魔女へと向かうさやか。
だが魔女もただでやられはしないということ、大木のように枝分かれした巨大な触手をさやかへと伸ばした。
「久しぶりのティロ・フィナーレ!」
聞きなれた声と共に、放たれた巨大な銃が触手を吹き飛ばす。
マミの方を向けばウインクが帰ってきた。
「(マミさん、片足千切れてます)」
何も言うまいとさやかはそのままツッコミ、魔女の体を切り裂く。
倒れた魔女に止めを刺そうと、再び剣を振り上げた瞬間、あたりから触手が伸びてきた。
だがその触手もさやかを傷つける前にすべて阻まれる。
「ハッやらせるかよ!」
杏子がさやかの背後に立つ。
「ありがとう杏子! でぇぇい!」
倒れた魔女を切り裂いたはずだったさやかだが、影は即座に動く。
凄まじいスピードで、すっかり足も元に戻したマミの方へと走る。
回避しようとするマミだったがすでに遅い。
完全に油断していた。
「ぐっ!?」
くぐもったようなマミの声と共に、マミの体に触手が回る。
足や腰を掴む触手、魔女の本体がまっすぐのマミの体にぶつかった。
マミの上半身と下半身がわかれて、上半身が吹き飛んだ。
「また私の下半身がぁっ!」
吹き飛ぶマミの上半身が地面を転がる。
さらに左腕まで吹き飛んでとんだ状況だ。
「痛い! 死ぬ! 死なないけど!」
左腕と下半身が吹き飛んだマミが叫ぶ。
自分の左腕を持った杏子が駆け寄ってくる。
さやかとほむらもそばに寄ってきた
「なんで倒せないの!?」
驚愕するほむら。そんな魔法少女たちの横に現れたのは自称魔法の使者の契約者。
白いしっぽを振りながら現れたキュゥべぇ。
「あれは……魔女に細工をくわえたね、夜の王。やってくれるよ」
その名を聞いて、わずかに顔をしかめたマミ。
「まったく、夜の王ねぇ。私の下半身は?」
「影に取りつかれてる」
「え~」
上半身をほむらに抱えられて、持ち上げられた彼女。
マミの倒れた下半身は影ががっつりと寄生していた。
ドロドロの影に自分の下半身が巻き込まれている部分を見ると良い気分はしない。
「マミさん!」
遠くで見ていたはずのまどかが走って近寄ってくる。
危ないと言うほむらの言葉も聞かないようだ。
心配するようにマミを見ている。
「大丈夫よ鹿目さん……私たちは勝つわ。それはもうカッコよく!」
そんな言葉に、まどかは笑顔で頷く。
説得力のある真面目な表情のマミにより、四人の背後に下がるまどか。
魔法少女たちの前に座るキュゥべぇ。
「見たところあれは普通の魔女と耐久力もなにもかも違う。気を付けてくれ」
嘘は言わないとわかっているほむらがそう。と頷く。
それを見て杏子とさやかもそれを信用した。
三人、杏子とさやかとほむらが少し難しい顔をする。
「無茶かもしれないけど、少し手伝ってくれる?」
そんな中、マミが提案した。
全員その作戦を聞いた瞬間頷いた。
さやかと杏子が、武器を構えて敵の方を向く。
「いくよさやか!」
「任せて杏子!」
二人が地を蹴ると同時に、戦闘は再開された。
触手と槍と剣が交差する戦場を見て、マミはほむらにそっと語りかける。
「貴女にしかお願いできないことがあるの……付き合ってくれる?」
何かあるというのを察してほむらは、頷く。
じゃあ、と言ってマミが小さな声で言う。
戸惑っているようなほむらが、じき頷いた。
マミが突如、大きな声で叫んだ。
「美樹さん! 佐倉さん! 私の下半身の結合部分を露出させてもらえる!?」
その言葉に、さやかと杏子が触手を切り裂きながら応える。
マミの下半身はほとんど影に覆われていた。
「任せとけよ! あたしを……あたしたちを誰だと思ってやがる!」
「巴マミの弟子ですよ!」
そんな答えに笑みを浮かべたマミが、頷いた。
そばに置いてある腕はそのままのようだ。
『時間停止は使わないで』というマミのお願いを聞き入れるほむらは、一瞬の隙を逃さぬようにと目を細める。
その瞬間、さやかの剣が触手を切り裂き、杏子の槍が影を切り裂いた。
マミの下半身の結合部が見える。
「今だ!」
杏子の叫びに、ほむらが走りだした。
何かを決めたかのような表情で、マミを抱えて影へと近づいていく。
「さぁ暁美さん!」
マミの言葉に、ほむらが口を開いた。
「集いし力が大地を貫く槍となる。光差す道となれ!」
影の触手が切り裂かれるが、そんなほむらの前口上に杏子が目を見開く。
遠くのまどかにも聞こえていたようで、驚いていた。
「えー」
恥ずかしくて死にたくなるほむらだったが、もうこの際どうにでもなれだ。
ほむらはマミの上半身を下半身の断面に押し付けた。
輝くマミの体の結合部。ほむらはバックステップで素早く下がると、マミの左腕を拾う。
「砕け! ドリル・ウォリアー!」
ほむらの叫びと共に、最後のパーツとも言えるマミの左腕が投げられた。
その左腕がマミの上半身の結合部に付くと、そこもまた輝く。
「ドリルランサー!」
マミが叫ぶと、左腕にドリルが現れる。
もちろんリボンでできたドリルなのだが、いつもと技名が違う。
明らかにイタリア語ではない。
「はあぁぁっ!」
ドリルが突き刺さった影は徐々に形を崩していき、マミの体が地面に落ちた。
抜けたドリルをすぐさまリボンに戻すと、強化した足で地面を蹴る。
上空へと退避したマミを、無数の触手が襲う。
しかし、その触手がマミを襲うとした瞬間、マミの手のリボンがその触手を切り裂いていく。
「リボンにはこういう使い方もある!」
「ねぇよ!」
杏子のツッコミなんて知らんふりで触手を切り裂いていく。
地上にいるさやかが、剣を二本持つ。
自慢のスピードでのラッシュ、影はバラバラにされていき、同時に触手攻撃のスピードも弱まる。
「ハアァァッ!」
切り裂かれた触手たち。
さやかは手に持つ剣二つを敵に突き刺すと、柄についているトリガーを引く。
柄から離れて飛ぶ刃。それは影を突き刺したまま、壁に突き刺さり貼り付けにする。
さやかが開いて手を影に向けた。
「爆ぜろ!」
グッ、と拳を握りしめた瞬間、壁に突き刺さった刃が爆発。
同時に影の残骸があたりに飛び散るが、ずいぶん離れた場所にいる魔法少女たちにかかることもない。
そのまま、結界も同時に崩れはじめた。
「ちょっと私良かったんじゃない?」
笑うさやかの横に立つ杏子。
「調子のんじゃないよ後輩」
隣にいる杏子は嬉しそうでもある。
やはり後輩の成長はうれしいものなのだろうか?
結界が崩れて周囲は港に戻る。
「影の魔女、恐ろしい敵だったわ。次戦っても勝てるかどうか……」
どこか遠くをみながら言うマミ。
特に気にする様子の無い様子の面々、ほむらとまどかが三人の傍に歩いてくる。
マミがほむらを見てグッ、と親指を立てた。
「やったわね! 私たちのキズナパワーの勝利よ!」
「そう言えばさっきのなんですか?」
そんなさやかの質問に、マミはさやかの方を見る。
じっと見て頷くマミ。
「シンクロ召喚よ」
「えー」
まどかが訳が分からないと言う風に言葉を上げる。
しかし、あまりのドヤ顔にどう答えるかで悩んだ結果、ほむらをみることにした。
ベテランの魔法少女であるほむらなら、さきほど自ら前口上をしたほむらならわかるはずだ。
しかし、ほむらはマミに言われてやっただけだ。
言わされた意味はいっさい不明。
「やっぱシンクロ召喚は良いわね」
「さっきはビックリしたけどやっぱシンクロ召喚は良いな!」
マミと杏子の間に流れる古い友人オーラ。
それになんだか気に入らなさそうな目つきをするほむら。
まどかとさやかはわけがわからない。というようだ。
「さて、今日はこんな感じかしらね?」
そう言ったマミの言葉を聞いて頷く面々
まどかがそんな様子を羨ましそうに見る。
「まどか、魔法少女になってはだめよ?」
「あっ……うん」
なんだか腑に落ちないと言った様子だ。
それもそうだろう。事情も何も聞かされずただなるなと言われているのだから、多少は腑に落ちない。
ほむらはそれも全て見越しているのだろうけれど、と思いマミはため息をつく。
「さて、じゃあ帰りましょうか……暁美さんは鹿目さんを送って行ってくれる?」
手を叩いてそう言うマミ。ほむらは少し驚いた様子でマミを見る。
そっと頷くマミに、ほむらは困ったような顔をした。
「(これもガイアからの試練よ!)」
マミは心の中でほむらを励ます。
しかしてそれがほむらに届いているかと言うと……そんなことはないだろう。
いざ言われてしまうと仕方がないので、ほむらは頷く。
まどかとほむらの二人は帰路へとついてマミたちから別れて行った。
「おいマミ、どういうつもりだよ?」
杏子の言葉に、フッと笑うマミ。
二人だけを先に帰らせたことを言っているのだろう。
もっともベテランであるマミと、杏子だけが気付いている。
冷静なほむらならばわかるのだろう。けれどさっきのは焦っていたせいで気づいていない。
メガロの気配を感じる。
「さぁて、私たちは街の人たちを助けるために暗躍、といきましょうか?」
「普通の人間じゃないからこそ、できることを……だね!」
杏子は八重歯を見せて笑う。
軽やかに槍を回転させて、両手で槍を構えた。
さやかは二刀の剣を召喚する。
「どれだけ誰かを助けても、救っても、誰にも気づかれず……なんの見返りも与えられない道。だからこそともに生きましょう?」
そう言うのはマミ。杏子が肩に槍をかついで呆れたように笑う。
魔法少女だからこそ、死地へと行く魔法少女だからこそ仲間としていられる。
どんな最後を迎えようと、杏子やさやか……もちろんほむらの傍にもマミはいるのだろう。
彼女だけが自分たちの死を見送ってくれる唯一の存在。
だからこそ、彼女の“ともに生きましょう”という言葉の重みも理解できるのだ。
さやかは、片手に握った剣を見る。
その剣は銀色に輝く。
「(私が……恭介を……みんなを、救うんだ)」
頷いたさやかがマミを見た。
その眼にすでに迷いは無い。迷いなどあるはずがない。
さやかが二刀流をしっかりと持つと、杏子は槍を構えた。
マスケット銃は出さない。マミはリボンを手に巻くと、両手をぽきぽきと鳴らせる。
「さぁ! 私たちの満足はこれからだ!」
「サティスファクションだな!」
「えっ! なにそれ!?」
さやかのツッコミも無視して、走り出したマミと杏子。
この二人についていけるのだろうか? と思いながらも、自分の笑みを止められないさやか。
上条恭介がどうあろうと、すでにさやかには関係ない。
自分は自分の道を行く。腕を治したのは幼馴染として、あのバイオリンに惚れた者としてだ。
彼と同じ道を歩むことなんてできない。
魔法少女になったときからきっと無理だったのだ。
それでも……。
「後悔なんてあるわけない」
二人を追って走りだすさやか。
それでも……彼女たちと歩むことができるのだ。
魔法少女たち。自分たちしか知らない世界で、自分の大事な人たちと共にいく。
その生き方しかできないのだから、選択の余地なんてない。
だからといって絶望する必要はない。
きっと自分はこの状況で満足するだろう。
杏子がいてマミがいて……まどかだっている。
なら―――後悔なんてあるわけがない。
あとがき
お久しぶりです!
さて、今回はシンクロ召kげふんげふん……さやかが本当の意味でふっきれた話でした。
つまりさやかの件は解決。ですかね!
次はほむらやまどか、さらには夜の王の話などまだまだ話は待ってます。
ではまた次回をお楽しみに!
感想お待ちしています♪