これは魔法少女ですか?~はい、ゾンビです~   作:超淑女

19 / 27
18「はい、それはビームです」

 観覧車付近、つまりはマミたちのいる場所の傍に建つ展望台の上に、ユウはいた。

 ユウだけではない。まどかと、例の青年も一緒だ。

 回る観覧車を背景に、三人がその場に立つ。

 青年が笑みを浮かべると、ユウはまどかを後ろに下がらせる。

 ユウとまどかの視線の先に立つ青年が口を開いた。

 

「ずっと……ずっと会いたいと思っていたよ」

 

 歯ぎしりをするユウが、右手に握ったボールペンに力を込める。

 ユウの右手にあるボールペンは巨大な鎌へと形を変えた。

 少しひるむまどかを背に、ユウが駆けだし両手で鎌を振りかぶる。

 

「っ!」

 

 小さな、息ともとれるような掛け声と共に鎌は振り下ろされた。

 すでにそういうことにも見慣れたまどかは顔をそらさずとしっかり見ている。

 ユウが鎌を青年に突き刺すシーン。しかしなんとなく理解できるまどか。

 

「いいのかい、そんなに興奮して……なにをしに現れたって言いたげな眼をしているね」

 

 笑う青年。間違いなく青年はゾンビなのだ。

 青年の問いかけに、そっと頷くユウ。

 

「今日はさぞかし楽しかったんだろうね……だから、ボクが君の前に姿を現すことになったんだよ」

 

 ユウは感情が少し揺れ動くだけで、この世界や自らの運命に影響を及ぼす。

 それによって現れた青年。

 

「楽しいという感情が君の心を揺さぶったときに、一番会いたくない奴が現れるなんて……皮肉なものだね?」

 

 青年から鎌を抜くユウ。

 まどかがユウの傍へと駆け寄って青年を見上げた。 

 糸目の青年は、まどかへと視線を動かす。

 

「そんなにボクに会いたくなかったのかい、ユークリウッド?」

 

 青年の糸目が開かれて、金色の瞳が現れる。

 その瞳は、真っ直ぐとユウを見つめていた。

 

 

 

 

 

 観覧車のすぐそばにある広場で、ユウの落としたプリクラを拾って見ているマミ。

 あたりに不穏な空気が広がる。さやかと杏子がいまいち釈然としない表情だ。

 ほむらに関しては、まどかが心配なのかしきりにあたりを見渡していた。

 

「もしかしたら、私の上の者の仕業かもしれません」

 

 そんな言葉に、眉をひそめるマミ。

 

「どういうこと?」

 

 俯くセラが、マミの問いに答える。

 視線を合わせないあたり、不安が拭えない。

 

「実は……ヘルサイズ殿を殺せと指令が下りました」

 

 目を見開いて驚くマミ。

 いや、マミだけではなく杏子も、さやかも、もちろんほむらもだ。

 一番マミたちと長い関係であるほむらなだけあって驚いている。

 

「なんで……なんでユウを殺せなんて指令がセラに下るの!? セラはユウを忍者の里に連れて行くのが目的だったんでしょ!?」

 

 セラの肩を掴んで問いただすマミだが、セラはただ視線をそらしていた。

 その紅い瞳にいつものような自信は無いように見える。

 

「それがなんでっ……ユウを殺すことになっちゃうの!!」

 

 いつもとはまったく違う。

 険しい剣幕でまくしたてるマミ。

 周りは唖然としていて、止めることなどできなかった。

 

 

 

 

 

 展望台の上にいる三人。

 ユウは大きな鎌をボールペンに戻してメモ帳に文字を書き込んだ。

 

『恨んでるの?』

 

 そんな問いかけに、まったく意味がわからないまどか。

 しかし青年は金色の瞳でユウを見たまま口を開く。

 

「そりゃそうだよ。僕は君のことを信じていたのに、これからも二人でずっと一緒にやっていけると思っていたのに……」

 

『それは無理』

 

 明確な拒絶だった。

 

「なるほどね、かつての仲間を殺したボクを君は許せないんだね。だから君は僕に“消えて”なんてつれない言葉をあびせたんだね」

 

 ユウはなにかにおびえるように、両手でメモ帳をにぎりしめる。

 まどかはそんなユウを後ろから支えて、青年を少し強い目で見た。

 微笑する青年。

 

「でも残念だったね、あの時確かに消えたけど、でも―――世界から消滅したわけじゃなかったんだよね」

 

『なにが望み?』

 

 そんな問いかけに、青年は黙って無表情になる。

 

「望み……か」

 

 何かを思うような言葉。

 それを疑問に思うまどか。

 ユウは何かにおびえるような表情だ。

 

「それよりビックリしたよ。君がこんな所にいることも驚きなんだけど、お友達ができていたなんてね、そうだね。僕の望みというのはね……」

 

 青年が展望台にある設置型の双眼鏡に百円金貨を入れる。

 そこから、青年が覗いたのはマミたちだった。

 

 

 

 

 

 セラの肩から手を離すマミ。

 ゆっくりと、セラは語り始めた。

 

「暗殺指令が下ったのは、メガロの襲撃がヘルサイズ殿の魔力によるものだと、我々の組織が考えているからです」

 

「え、どういうこと?」

 

 さやかの疑問。

 激怒したマミは腕を振る。

 

「くっだらない……そんな指令無効に決まってるわよ!」

 

 そんなマミの怒声に、セラは唇をかみしめた。

 鋭い視線でマミを貫くと、今度はセラが口を開く。

 

「簡単に言わないでください!」

 

「じゃあユウを殺すの?」

 

 だがマミだって一歩も引く気は無い。

 そんな質問にセラは首を左右に振った。

 

「っ……あえて聞かなければわからないんですか?」

 

「だったら簡単なことでしょ?」

 

「私は忍者なのですよ?」

 

 だからなに? とマミは言う。

 しかし彼女たち吸血忍者の任務の“重み”はマミにはわからない。

 大きくため息をついたセラが踵を返した。

 

「もう良いです。私は私でヘルサイズ殿とまどかを捜します」

 

「ちょっと待ちなさい、なんで貴女たち吸血忍者は融通が利かないのよ! やりたくないことはやらなければ良いでしょ!」

 

 こんなことならあの黒髪の吸血忍者から受け取ったメガネなんて渡さなければ良かったと思う。

 アレのせいで任務なんてものを受けるはめになったのだ。

 実際マミの予想は当たっている。あのメガネは例の“矢文”の文面を見るのに必要な物だ。

 

 立ち止まったセラが、マミの方へと視線を向ける。

 

「貴女は任務というものの重さを知らない」

 

「ユウの命は任務より軽いの?」

 

 そんな言葉に、セラは苦虫を噛んだような表情。

 

「そんな言い方は卑怯です。我々吸血忍者にとって……」

 

「その言葉はもう聞き飽きた。貴女、本当にユウを殺す気なの?」

 

 俯きながら聞くマミ。

 前髪でマミの表情は隠れている。

 

「だからっ、そんなわかりきったことを聞かないでください―――」

 

 歯を食いしばるマミが、静かに息を吸い込む。

 

「そう言う言葉を聞きたいんじゃない! どっちなの! 殺すのか、殺したくないのか!」

 

 服の胸元を掴みながらマミが叫ぶ。

 そんなマミに叫ばれるのなんて、セラも初めてだろう。

 今度はセラが俯き、前髪で表情が隠れる。

 

「私は吸血忍者に聞いてるんじゃない! セラに聞いてるの!」

 

 セラが勢いよく顔を上げてマミを見た。

 

「殺したいわけがないでしょう!」

 

 僅かに潤んだ瞳で、叫ぶセラ。

 

「セラ……」

 

 今にも泣きだしそうなセラを見て、マミはそっとその名をつぶやく。

 その間に、杏子が入る。

 

「もう良いだろ! マミもセラも、やめとけよ。それよりも今は、ユウとまどかを探す方が大事だろ!」

 

 杏子の言葉に、落ち着くマミとセラ。

 

「ええ、そうよね」

 

 微妙な表情をする二人を見て、少し難しそうな顔をする杏子。

 さやかが僅かに笑みを浮かべながら片手を上げる。

 

「それじゃ行きましょう!」

 

「お、おう!」

 

 走り出すさやかの後を追って走る杏子。

 ほむらも同時にその後を追って走り出した。

 少し落ち込むマミに背を向けて、歩き出すセラ。

 マミは後頭部を掻くと、微笑を浮かべて言う。

 

「セラはいつも正直よね」

 

 背を向けたままのセラが立ち止まる。

 

「お世辞は結構です。気持ち悪い」

 

「むっ、なによぉ?」

 

「ですが……」

 

 振り向くセラは、どこか清々しそうな表情だ。

 いつもより明るい感じがする。

 

「おかげで吹っ切れました。私はこの任務を放棄します」

 

 そんなセラに、笑みを向けるマミ。

 

「そっか」

 

 歩き出したマミが、セラの隣で立ち止まる。

 

「必ず見つけ出しましょう、ユウと鹿目さんを」

 

 マミにつられるように微笑を浮かべるセラ。

 先に走って行った三人を追うように、マミとセラも走り出した。

 

 

 

 

 そんな光景を展望台から見ていた青年。

 双眼鏡から目を離す青年がつぶやく。

 

「あ~ぁ、良い所だったのに……お願いだよユークリウッド。君だけ、いやそこの子も一応は可能かな? 僕の望みを叶えられるのは君たちだけなわけだ」

 

 青年が再び百円硬貨を双眼鏡へと入れた。

 これで再び機能し、マミたちのことをみることができる。

 青年はそこから一歩引くと、ユウとまどかを交互に見た。

 

「君たちも見るかい?」

 

 そんな言葉に、首を横に振るユウ。

 まどかは迷っているようだ。

 

「みんな必死に君たちのことを捜しているみたいだよ。見てごらん、ほら」

 

 歩き出すユウにつられるように歩き出すまどか。

 ふたりで一つの双眼鏡をのぞく。

 その先には、たしかにマミが見えた。

 

「君たちがいつまでも僕の望みに耳を貸さないとね」

 

 青年が指を鳴らす。

 その瞬間、観覧車のまわる部分が爆発した。

 観覧車がゆっくりと落ちて、マミへと転がりだす。

 小さく叫び声をあげるまどか。

 

 観覧車は大きな音と共に崩れ落ちた。

 崩れ落ちた観覧車だったが、案の定マミは無事なようだ。

 すぐにマミへと駆け寄る面々。

 セラがまた何か言ったのだろう。全員そこまで気になってはいないようだ。

 

「今はこんなお気楽な感じだけど……その内、もっと大変なことになるよ?」

 

 笑みを浮かべながら言う青年。

 ユウが焦ったような様子を見せた。

 

「マミさんたちに酷いことしないで!」

 

 叫ぶまどかだが、青年は表情を変えず笑う。

 そんな中、ユウは小さく戸惑う声を出す。

 

「フフッ、ほらまた気持ちが揺らいだね?」

 

 後ろへと下がるユウが、自らの体を抱くように怯える。

 

「ユウちゃんっ」

 

 まどかが後ろから優しくユウを支えた。

 青年をまっすぐな眼で見るまどか。

 

「それとも、君がその膨大な力で僕の願いを叶えてくれるかい?」

 

 魔法少女になる時の願いのことを言っているのだろう。

 わずかに揺れるまどか。魔法少女の時に使う願いなんてどうでも良い。

 みんなを守れる力が欲しいだけのまどかには関係ないことだ。

 ユウがまどかの服の袖をつかむ。

 そちらに視線を向けると、焦るような表情をしたユウは左右に首を振った。

 

 

 

 観覧車の残骸から離れるマミたちの背後に、轟音と共になにかが降りてくる。

 あたりに砂埃が舞った。勢いよく振り返った杏子がソウルジェムを出すが、輝きは見られない。

 つまりは魔女じゃない。

 

「メガロか!?」

 

 砂埃の中から現れたのは、黒いなにかだった。

 

「違うわ! 学ランを着てない!」

 

 影で学ランを着ていないことがわかる。

 その黒い何かが正体を現すことはない。

 ただの影だ。

 

「昨日の魔女!?」

 

「違う!」

 

 さやかの疑問を否定するほむら。目の前の敵に見覚えは無かった。

 なにがなんなのか頭がわからない。

 観覧車が崩壊したのも目の前の影の仕業なのかと疑う。

 

「でも、味方じゃないことは確かみたいよ!」

 

 マミの変身と同時にほむら、さやか、杏子も魔法少女の姿へと変身した。

 セラも木の葉を集めて刀を生成。マスケットや槍、剣を構える魔法少女。

 影はひたすらに蠢き、カタチを変える。

 

 瞬間、その影が飛び跳ねてマミへと飛んだ。

 胸を貫き、そのカタチある影はマミの体の内部をはい回る。

 

「っ……!?」

 

 叫び声すら上げることすらできないほどの痛みがマミを襲う。

 痛覚遮断もできないマミは倒れそうになる体をなんとか立ち上がらせるのみだ。

 痛みを気力で抑えながらも、叫ぶ。

 

「セラっ!」

 

「秘剣・燕返し!」

 

 刀を振るセラ。マミの腹部が縦一閃に切り裂かれた。

 切り裂かれた腹部に、間もなくその手を突き刺したマミ。

 自分の体の中で何かをつかむと引きずり出す。

 その手に持った影を投げ捨てる。

 

「あっ、内臓一緒に出ちゃった」

 

 自分の体の中に、跳び出したものを詰める。

 しっかりと詰め終えると、投げ捨てた影を見るマミ。

 その影は蠢きながら、杏子へと飛びかかった。

 

「ティーロ!」

 

 マミの背後に現れた三つのマスケット銃が瞬時に撃鉄を鳴らす。

 放たれた弾丸が影を貫いた。液体のように地面に垂れる影が、杏子の前で落ちる。

 動かなくなった影を確認するため近づくマミ。

 

「佐倉さん、大丈夫?」

 

「あ……あぁ、なんとかな……」

 

 その影を見て、怪訝な顔をする杏子だったが、すぐにその顔は驚愕に変わる。

 左腕に熱い痛みを感じた。その痛みはすぐに強烈なものへと変わり、杏子は左腕を抑えながらうずくまる。

 

「がっ……あぁっ! んだよっ! うあぁぁっ!」

 

 燃えるような痛みにあえぐ杏子。

 左腕を良く見ると、ソウルジェムには黒い何かが付着していた。

 それは間違いなく影の破片。

 

「杏子!?」

 

 近づこうとするさやかだが、杏子の背後に黒い影が現れる。

 先ほどの影が少しずつ集まり、杏子の背後で何かを形作っていく。

 マミが瞳を細めながらそれを見る。

 

「乗馬している騎士? いえ、あれは……」

 

 隣のほむらを見たが、唖然としたまま体を震わせていた。

 今助けてもらうことは無理だろう。

 マミは急いで自分の周囲にマスケットを出現させる。

 

 

 

 展望台の上で、マミたちの方を見ていたユウがメモ帳に急いで何かを書き込み、突き出す。

 涙すらその顔に浮かべるユウを支えているまどか。

 

『杏子にひどいことしないで!』

 

「……わかりきっていることだろうユークリウッド、君の心が動くと災いが起こる。だから君は言葉を発さない、心を揺らさないと誓ったはずじゃなかったのかい?」

 

 笑みを浮かべる青年。

 

「なぜなら、君は―――死を呼ぶものだから」

 

 絶望したかのような表情と共に、地に膝をつくユウ。

 まどかがそんなユウを心配するように両肩を抱く。

 俯くユウの眼の焦点はあっていない。

 

「ユウちゃん! 大丈夫だよ。マミさんたちは―――っ!?」

 

 膝をついているユウを励まそうとするまどかだが、青年の眼を見た瞬間喋れなくなった。

 元々気が小さいというのもあるが、膨大な殺気に当てられたのだろう。

 自分の太腿をつねって意識を逸らすと、再びユウを励まそうとする。

 

「フッ……ユークリウッド。さぁ僕の願いを……」

 

「御取り込み中のところ申し訳ないね」

 

 そんな聞きなれた声がした。

 青年が背後を向くと、そこに居たのは小さな生き物。キュゥべぇ。

 図鑑に載っているような生き物で無いのは一目でわかる。

 

「これはこれは……インキュベーターが何の用だい?」

 

「インキュ……ベーター?」

 

 まったく知らないという雰囲気をするまどか。

 それを見て青年は何かを悟ったかのように笑う。

 ユウを再び見て、口を開いた。

 

「そうか、ユークリウッド……君は残酷だね。教えていないなんて……」

 

 つぶやいた青年。ユウはビクッと体を震わせる。

 まどかは何か、知らないことを知っているということを悟った。

 魔法少女の何かには、違い無いのだろう。

 

「さて、インキュベーターなんの用だったかな?」

 

「ボクたちのプランを水の泡にするような、余計なことをしないでもらえるかな?」

 

 杏子のことを言っているのだろうか?

 キュゥべぇの言う『プラン』や『余計なこと』とはなんなのか、沢山の疑惑が交差する。

 この場で何も知らないのは自分だけだという現実。

 小さな生き物は、紅の瞳を杏子の方へと向ける。

 

 杏子の背後に集まった影が形を成していくのがわかった。 

 

「あれが完成してもエネルギーは発生しない。それどころか穢れを全て吸収する……相手を殺すことに関してはずいぶん長けたものかもしれないけれど、宇宙のことをもっと考えてくれ」

 

 わけがわからなかった。頭の中がぐしゃぐしゃになる。

 突然『宇宙』と言われてもまどかのキャパシティではとてもじゃないが整理できない。

 自分はほむらやマミのように整理する能力もないのだ。

 現状が、どうしようもなく歯痒かった。

 

 

 

 黒い影が杏子の背後で形を成していく中、紅の斬撃が影へと放たれるが、効いている様子はない。

 その紅の斬撃を放ったセラは、マミの方を向く、背後の無数のマスケット銃。

 

「準備完了! 行くわよ……パロットラ・マギカ・エドゥ・インフィニータ!」

 

 マミの背後に展開された百近くあるマスケット銃が同時に弾丸を放つ。

 その名“無限の魔弾”に見合うだけの攻撃だ。

 弾丸は全て杏子の背後の影へと直撃した。

 

「これだけの弾丸、防げるわけがないわ!」

 

 その言葉の通り、影は砕け散る。

 砕け散った影に破片も残すまいと、集まりかけている影にマミは巨大なマスケット銃を構えた。

 それに気づいたほむらがいつのまにやら杏子の傍に移動していて、再び消えてマミの背後へと移動する。

 なにがなにかはわからないが安心だ。

 

「ティロ・フィナーレ・トゥラーヴェ!」

 

 巨大なマスケット銃から放たれたのは、いつもの砲弾ではない。

 それは、金色の光線だった。トゥラーヴェは“ビーム”の意。

 すなわちマミの“新技”だ。

 それによって消し飛ぶ影。

 

「ふぅ……」

 

 毎度のように、紅茶を出して優雅に飲むマミ。

 すぐにそれを消すと、ほむらの方へと歩く。

 ほむらに肩を借りている杏子は、ぐったりとしている。

 

「はぁっ……」

 

 しんどそうな杏子を、ほむらの反対側から支えるセラ。

 今聞くのは野暮かもしれないと、マミは押さえておく。

 それにしても、魔女でもメガロでも無い敵となると、だいぶ違ってくる。

 

 

 

 影が一変のカケラも無く消し飛んだのを見て、青年は表情を消す。

 あまり気に入っていないのは見てわかることだ。

 

「魔法少女の割に、中々やるね彼女……」

 

 青年が指をパチンと鳴らした。

 巨大な光線が空から降り注ぎ、マミを一度殺す。

 また運が悪い程度で向こうですまされているのだろう。

 

「ユークリウッド、鹿目まどか……君たちが願いを叶えてくれるまで、僕はあきらめないからね?」

 

 巻き込まれた形であるまどかを、悲しそうな眼で見るユウ。

 もう一度青年を見るが、青年はほほ笑むのみだ。

 冷たい笑み。まどかは背筋が凍るような思いをする。

 青年は、影に包まれて消えた。

 

 その場で立ちすくむユウ。

 

「はぁ~」

 

 座り込むまどかは、緊張の糸が切れたと言った様子だ。

 

「まどか、ボクと契約するときはいつでも呼んでおくれ」

 

 キュゥべぇもこれ以上は何も語る気は無いのか去って行った。

 この場にはユウとまどかの二人だけだ。

 心配そうな表情をしながら、まどかはユウの顔を見る。

 

「ユウちゃん、行っちゃったりしないよね?」

 

『大丈夫』

 

 そう答えたユウに、まどかは笑顔を向けて頷いた。

 立ち上がったまどかが、ユウの手を握って歩き出す。

 

 

 

 広場で、上空から降り注いだ光に焼かれたマミが倒れていた。

 辺りに漂う香ばしい香り。

 杏子が、そんなマミをつつく。

 

「大丈夫か?」

 

「ウェルダンですね。焼肉になるとは……」

 

 マミが死ぬことに慣れたなんて嫌な慣れだ。

 そんな面々の元に、ユウとまどかが帰ってきた。

 

「ヘルサイズ殿?」

 

 セラの言葉に、全員がそちらに視界を向ける。

 

「まどか!」

 

 さやかとほむらの言葉に、苦笑して謝るまどか。

 

「どこ行ってたんだよ! 心配したんだぞ?」

 

 少し怒ったような口調で言う杏子だが、心配している証だ。

 起き上がったマミが怪我ひとつ無い二人を見てほほ笑む。

 

「まぁ良いじゃない……さっ、帰りましょうか?」

 

 ユウはいつも通り静かに頷いた。

 まどかはユウからの他言無用と口止めされていることから、言うことは無かった。

 彼女に、後に後悔するということを知る術は無い……。

 

 

 

 

 

 

 荷物を持つマミと一緒にいるのは同居人の三人だけだ。

 さやか、まどか、ほむらとは先に分かれた。

 四人で歩いていると、ユウがマミの服の袖をつかむ。

 

「ん?」

 

 立ち止まる面々、ユウが指さす方向はコンビニ。

 ユウと初めて出会ったコンビニと場所は違うが、同じコンビニだ。

 出会ったころを思い出して、マミはなんだか懐かしくなった。

 

『先に帰ってて』

 

「お腹減ったの? 私も付き合おうか?」

 

 ユウは静かに首を振る。

 横に振っているということは、否定ということだろう。

 ユウがそう言うならば特に気にする必要も無い。

 荷物を置いたマミが、空いた片手でユウの頭を撫でる。

 

「あまり遅くなっちゃだめよ?」

 

 優しくユウの頭を撫でると、マミは荷物を持ち直す。

 ユウの方を見ながらも歩き出すマミとセラ。

 同じく杏子も、遅れて動いた。

 

「埃だらけだからな、風呂わかしとくぞ!」

 

 そう言う杏子。三人は帰路へとつく。

 コンビニの前で、ユウは三人に手を振っていた。

 三人が見えなくなるしばらくの間、ずっと手を振っていた……。

 

 

 

 ―――ただいま! という声と共に帰ってきた三人。

 

 荷物をまとめて、マミはすぐ寝室に戻ってベッドに腰掛ける。

 ポケットに手を入れて、そこからプリクラを出す。

 複数人で映った写真なんて『家族写真』以外は一つも無い。

 

「みんなで遊ぶって楽しいのね♪」

 

 撮ったプリクラを、もう一度ポケットにしまった時、なにかに触れた。

 マミはそれを掴んでポケットから出す。

 一緒に飛び出たプリクラがベッドの上に落ちる。

 マミがつかんだのはメモ帳。それを見た瞬間、マミの眼が見開かれた。

 急いでリビングで二人を読んでメモ帳を渡すと、外へと走る。

 

 

 

『さようなら。

 

 すべて私のせい、ごめんなさい。

 

 私さえいなければ、今日こんなことにはならなかった。

 マミもセラも杏子も、みんな優しい言葉をかけてくれる。

 それはとても嬉しくて、私はそれに甘えていた。

 

 でも私は、一緒にいてはいけない存在。

 すべて私が悪いのだから。

 いつも大変な思いをさせてもらってごめんなさい。

 このまま私が側にいると、いつかきっと、また誰かが悲しむことになる。

 

 私は“死”を呼ぶものだから』

 

 

 

 帰ってきたマミは、ユウの部屋に入った。

 あまり大きくない部屋なので、ベッドだけでも十分だ。

 それでもぬいぐるみがたくさんで、女の子らしい部屋だった。

 

「……っ!」

 

 主の居なくなった部屋で、膝をつくマミ。

 ユウのお気に入りだった丸い河童のぬいぐるみを握りしめて、俯く。

 

「一緒にいてくれるって……言ったじゃないっ」

 

 床に滴がおちていく。

 ポタポタと落ちる滴はとどまることを知らない。

 マミはぬいぐるみを握りしめながらつぶやく。

 

「ユウっ、ゆうっ……ユークリ―――」

 

「マミ!」

 

 後ろから聞こえた声に、マミの言葉は止まる。

 その声の主は確認するまでも無くわかっていた。

 佐倉杏子。彼女だ。

 

「なにクヨクヨしてんだよマミ!」

 

「そうですよマミ、今生の別れでもないでしょう」

 

 同じく、セラの声が聞こえた。

 

「まだまだこれからだ! ネバネバなんとかだぞ、マミ!」

 

 元気そうな声で、杏子が言う。

 悲しくないわけではないだろうけれど、きっと自分のためにそういう部分を魅せないのだ。

 マミは杏子たちの方を見ずに、服の袖で顔を拭く。

 振り返ったマミは、泣いていたと良くわかる顔だ。

 

「わかりきったこと言わないでよねっ……佐倉さん!」

 

 マミに、笑顔で応える杏子とセラ。

 どこかへ行ってしまったユウだけれど、マミたちはユウを離さないともう決めている。

 今さらどこかへやる気は無い。

 自分の家族になってくれる少女のため、目の前で頑張ろうとしてくれる二人。

 その二人に、マミは目いっぱいの笑顔を向けた。

 

 ―――あぁ、あとネバネバなんとかじゃなくて、ネバーギブアップね?

 

 

 




あとがき

必殺技と言ったらビーム!ということでマミさんの新技です。
展開のせいで存在感薄いですけどw
とりあえず物語も終わりが近づいてきました。
まどかやユウのこともまだ終わりません。

そして、キュゥべぇや青年のことなども、お楽しみに!
感想おまちしています♪

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。