これは魔法少女ですか?~はい、ゾンビです~   作:超淑女

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22「いま、復活の魔法ゾンビ!」

 真っ白な空間を浮かぶマミは、いつの間にかまた違う場所にいた。

 小さく丸まったまま浮かんでいるマミ。

 真下には見滝原の街、真上にも見滝原。

 そのわけのわからない空間に、ただ一人いるマミ。

 

「早く消えちゃってよマミさん」

 

 まどかの声が聞こえた。自分の周囲を取り巻くように立っているまどかとさやか。

 

「アンタがいたせいで私はゾンビみたいな体にされたんだから、早く消えてよ」

 

 消えろ、消えろ、消えろ。と声がする。

 自分の周囲を囲むのはまどかとさやかだけでなく、ほむらと杏子までいた。

 

「(消えちゃったほうが良いのかな……)」

 

 マミの足元が、徐々に消えていく。

 辺りから聞こえる『消えろ』と言う声。

 きっと自分がいるからこんなことになったのだと、マミは消えることを望んだ。

 けれど、それは途中で止められる。

 

「マミさぁん!」

 

 その声は、間違いなく彼女だ。

 

「どっか行って!」

 

 マミの視界に入っていたまどかが、まどかに体当たりをされて吹き飛ぶ。

 無重力のような空間をふわふわとただよって風船のように大きく膨らんだかと思えば、破裂。

 あたりのほむらや杏子やさやかも、まどかは体当たりで倒していく。

 消えかけているマミを見て驚くまどか。

 

「何やってるんですかマミさん!」

 

 まどかに叱咤されるマミが一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐにまた俯く。

 

「私、ユウにも貴女たちにも嫌われて……」

 

「そうだよ、消えちゃえ」

 

 再び現れた偽物のまどか二人がそう言う。

 その瞬間、まどかの表情が曇る。

 数秒、上げたまどかの顔は、完全に怒っていた。

 

「こっの! どっかいけぇっ!!」

 

 まどかはその時、初めて拳を眼前の獲物へと突き立てる。

 偽物の顔面に直撃した拳。ふきとんでいく偽物は破裂して消えた。

 もう一人の偽物もまどかの蹴りで吹き飛んで破裂。

 

「本気でユウちゃんがマミさんのこと嫌ってるなんて思ってるんですか!?」

 

 丸まるのをやめたマミが、浮かびながらまどかを見る。

 表情を曇らせたマミ。

 

「だって、ユウは夜の王と一緒に……」

 

「ユウちゃんはマミさんのことっ! ユウちゃんと一緒に居たいって思うなら、素直にそう言えば良いんです!」

 

 本気で怒っているまどかを見るのが初めてで、マミはその迫力に押されかける。

 気弱なイメージがあったけれどそれもすでに消えていた。

 マミとまどかだけが、この空間にいる。

 巴マミという精神の最深部にいる二人。

 

「ユウは、私よりも夜の王と行く方を選んだんだもの……私には、ユウの気持ちを変える資格なんて」

 

「もぉ! 今マミさんのせいで杏子ちゃんやほむらちゃんは魔女と戦ってるんですよ!」

 

「やっぱり私のせいじゃない。消えた方が」 

 

 ブチンッ、と音が聞こえた気がした。

 

「ごちゃごちゃうるさいっ! そんなに気にしてるんなら、みんなの前に出て話をするのが筋ってもんでしょうがぁっ! いい加減にしないと温厚な私も怒りますよ!!」

 

「(もう怒ってる……)」

 

 鹿目まどかは怒るとこんな風になる。

 知っているのは自分だけじゃないだろうか? となんとなく心が温かくなった。

 マミぐらいになると、怒られるのなんてめったにないことだ。

 親しい身内は居ない。それでもマミ自身しっかり者のこともあって怒られる機会なんてまずない。

 

「いちいち深く考えすぎなんですよマミさんは! 良いじゃないですか、我儘でも……強引にやってみましょうよ!」

 

 まどかを見ていたマミが、表情を曇らせた。

 先ほどまで大声で怒鳴っていたまどかの表情が曇って、その瞳には涙が浮かぶ。

 

「帰ってきてよマミさん、そうじゃないと私たち……」

 

「鹿目さん……」

 

 まどかが上を向いて袖で目元をぬぐう。

 

「やっぱ訂正します」

 

 そう言って顔を下げたまどかはいつも通り。

 穏やかな表情で、先ほど怒っていたのが嘘のようだ。

 ふぅ、と息をつくまどか。

 

「そんないじけたマミさんなら帰ってこなくていいです。私やさやかちゃん、過去にはほむらちゃんや杏子ちゃんが憧れたマミさんは、もっとカッコ良い人ですから」

 

 光の粒子となって消えていくまどか。 

 そんな姿を、マミはただ黙って見送った。

 再び、その空間にはマミが一人だけ残る。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 目覚めたまどかが居たのは、巴家のソファの上だった。

 起き上がったまどかは目元の涙をぬぐう。

 傍にいたセラと仁美。

 お茶を飲む仁美が、笑みを浮かべて頷いた。

 

「貴女はやりとげられたはずです。まどかさん……奇跡も魔法もあるんですから」

 

 見せていただきます。そう言って仁美は立ち上がる。

 セラとまどかを見て一礼すると、彼女は踵を返して去って行った。

 

 

 

 

 

 おめかしの魔女キャンデロロの結界。

 その中で無限に再生する使い魔と魔女相手に戦い続ける魔法少女三人と吸血忍者。

 殺され続ける使い魔たち、だがすぐに再生する。

 まるでゾンビのようだ。

 同様に、魔女も風穴を開けてもバラバラにしてもすぐに再生。

 

「スクワルタトーレェっ!!」

 

 叫び声と共に、さやかが青い使い魔を切り裂く。

 

「どうすれば良いの!?」

 

「確かにな、このままじゃ撤退するしかっ……」

 

 悪態をつくさやかに同意する杏子。

 ほむらは黙って使い魔を撃ち続けるのみだ。

 一方のサラスは使い魔を切り裂きながらも、魔女への攻撃もやめない。

 拳銃とサバイバルナイフを片手ずつに持ったほむらが、使い魔を撃ちながら切り裂く。

 ほむらの背後から迫るセラのシルエットをした黒い影の使い魔。

 

「っ!?」

 

「甘いぞ魔法少女!」

 

 黒い影を切り裂き、サラスがほむらの背後に立つ。

 二人は背中合わせにして、あたりに現れる使い魔を視界にいれた。

 黒が一人、紫が一人、青が二人と赤が二人。

 

「残る義理は無いはずよ?」

 

「この場に立ち合わせたのだ。それにセラの影が出たのだ、斬らざるわけにはいかない」

 

 剣を空で振るサラスが跳び出した。

 その瞬間、ほむらが消える―――直後、ほむらが現れたのは青色の使い魔の前。

 サバイバルナイフを振るが、バックステップで避けられた。

 

「なっ!?」

 

 剣とナイフの圧倒的なリーチの差。

 暁美ほむらの胸へと一直線に突き出される剣。

 

 だが―――その剣は紙一重で止まる。

 

 戸惑うほむらが、青い使い魔を見た。

 青い使い魔の動きを止めていたのは、黄色いリボン。

 それを使う者はたった一人。

 

「巴、さん?」

 

 振り返ると、椅子に座っていた巴マミが消えていた。

 

「全員、体勢を低くしなさい!」

 

 そんな声に、頭を下げる面々。

 瞬間、巨大なビームが放たれ、周囲を一周した。

 上半身が吹き飛んだ使い魔たち。

 ほむらがビームが飛んできた方を見る。

 

 そこには、金髪のダブルロールを揺らし彼女が立っていた。

 彼女の真横にある巨大な二つの銃が消滅。

 

「ふぅ、間一髪ってとこね」

 

 巴マミ。微笑を浮かべる彼女。

 杏子もさやかも満面の笑みを浮かべていた。

 無数の使い魔が再生を開始するが、マミはすかさずリボンで使い魔たちを拘束する。

 

「四人とも、結界から撤退なさい」

 

 その言葉に、面々は驚愕する。

 

「私は私がケリをつける。この子は私が倒さないと」

 

 そう言ったマミは真っ直ぐと自らの絶望で生み出した魔女を見つめた。

 数十秒間見ていただけ、しかし彼女の中では数分は経っているような錯覚が起きる。

 二挺の銃を召喚する。ハンドガンサイズの銃を回転させて、魔女へと向けた。

 

「世界の特異点、そしてガイアから選ばれし私にしかこの魔女は処理できないのよ」

 

 振り向いたが、そこには誰も居ない。

 

「……ですよね」

 

 もうすでに、帰っていた。

 フッ、と笑みを浮かべたマミ。

 

「跡形も無く消し飛ばしたら貴女はどうなるのかしらね、中途半端なゾンビさん?」

 

 表情をひきしめた彼女が、銃のトリガーを引く。

 撃鉄が音を響かせる。

 魔女結界の中で戦いが始まった。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 巴家にて、まどかとセラ。

 外はもうだいぶ暗くなっていて、陽はすっかりおちていた。

 誰も帰ってこなければ、誰も連絡を入れない。

 仕方がないので、まどかは晩御飯を作った。

 

「(マミさんの話じゃ、セラさんに料理させると一回は……らしいし)」

 

 ゾッとしながらも料理を作るまどか。

 専業主夫の父親から教えられた料理だ。

 父親と母親の二人からのおすみつきだし間違いないだろう。

 

「よしっ!」

 

 料理を作ったが、問題は大量に作ってしまったこと。

 マミも帰ってくる計算だが、大丈夫だろうか?

 まぁ問題ないだろうと、まどかが頷いた―――瞬間、ドアが開く音が聞こえた。

 

「あ!」

 

 まどかは小走りで玄関へと向かう。

 そこに立っていたのは杏子とさやかと―――巴マミだ。

 驚くも、嬉しそうな顔をするまどか。

 

「おかえりなさい」

 

 まどかの背後に、いつのまにやらいたセラ。

 静かに笑みを浮かべているセラを見て、マミはそっと頷く。

 

「ただいま」

 

 帰ってきたマミはボロボロである。

 疲れているようだが、大丈夫のようで安心をしたまどか。

 これで、この一件は落着といったところだろう

 

 

 

 けれど、まだ終わってないこともあるのは事実だ。

 マミ、杏子、セラとさやかそしてまどかの五人が食事を続けている。

 自分が作った食事でみんなが笑顔になってくれるのがまどかは嬉しかった。

 

 けれど、まどかの心の中ではどうにも引っかかっていることがある。

 夜の王の願いとはなんなのだろう? 自分が願いを叶えるという選択肢は万に一つにもない。

 今の自分ができることがあるならしたい。

 

「鹿目さん?」

 

 マミの言葉に、まどかはハッとする。

 どうやら上の空だったようだ。

 気にさせないように笑顔で返す。

 

「ん、なんでもありません!」

 

 その返事を聞くと、マミは笑顔で頷いて食事を再開した。

 まどか自身としては、とりあえずは目の前の幸せを満喫しようと思い、会話に混ざる。

 やはりユウが居ないのが気になるが、杏子もセラも、マミも言葉にしないので誰もその話はしない。

 きっと彼女たちにも事情があるのだろうと思った。

 いつか絶対ユウは帰ってくる。否、彼女たちが連れ帰ってくるだろう。

 

 まどかは心の中で静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 夜、まどかは公園にいた。

 二人で帰っている最中誘われたということもあってだ。

 公園のベンチに座るまどかに、マミが近づいてきて缶を渡す。

 紅茶のようで、肌寒い冬には良い。

 

「あったかい……」

 

 つぶやくまどかの隣に、マミが座る。

 空を見ながらほほ笑むマミが、まどかに視線を向けて笑う。

 

「今日は、ありがとう」

 

 そんな言葉に、一瞬わからないという表情をしたまどかだが、すぐ理解して頷いた。

 

「私の世界にまぎれてくるなんて、困った子ね。どうやったの?」

 

 聞かれたまどかは、少し困ったように笑う。

 答えにくいことなのだろうと、マミは悟る。

 マミから眼を逸らしながら、言う。

 

「その……仁美ちゃんが来て、キュゥべぇと難しい話してて、その後わたしに指を向けたらマミさんが居て……」

 

 なんとなく理解した。

 相変わらず謎な少女である。けれどずいぶん世話になった。

 今度本格的にお礼をさせてもらわないとならない。

 缶紅茶を開けて、マミは飲む。

 

「そっか、仁美さんのことはみんなに内緒にしてあげてね。たぶん、自分のタイミングで言うでしょうし……」

 

 それにしても、自分のタイミングなんて彼女にはあるのだろうか?

 自分の時のようになにかの拍子で軽く言ってしまいそうな気がする。

 まぁ、それでも他言無用と言われたのだから、そうしておこうと思う。

 

 あと数日もすれば、ワルプルギスの夜が現れる。

 ほむらにとって……いや、彼女たちにとって運命の日。

 

「そして、見滝原にとっての審判の日ね」

 

「ワルプルギスの夜ですか?」

 

 頷くマミ。

 

「(やっぱりこういうこと言ってる時のマミさんって様になるなぁ)」

 

 カッコ良さすら感じていた。

 まどかは思い出す。ほむらの話では、自然災害レベルの力を持ち、結界の中に隠れない。

 舞台装置の魔女とはいかほどのものなのか……いや、まどかにとっては考える必要も無かった。

 夢で見たことがある。その力で見滝原の街をボロボロにした力。

 

「私は、契約しない」

 

 自分に言いきかせるように頷く。

 隣のマミが笑顔のまま頷き、まどかの頭を優しく撫でた。

 可愛い後輩の頭を撫でながらも、マミは物思いにふける。

 

「(最悪なのは私の魔女、ソウルジェムが絶望か魔力の使いすぎで濁りきれば……魔女が生まれる。濁りきる寸前で、今日私の魔女を倒したようにソウルジェムを破壊した自爆も可能かもしれないけれど、30分は復活できない)」

 

 つまりは、自爆は最後の手段になるのだろう。

 しかしその自爆で倒せなければ後は他の面々に任せるしか無い。

 戦力が大幅に落ちるし、狙う者が一人少なるのだからワルプルギスの夜の方が有利。

 

「はぁ~」

 

 溜息をつくマミを見て、笑うまどか。

 撫でていた手をおろし少し咎めるような眼でまどかを見るマミ。

 

「大丈夫ですよ。きっと全部、大丈夫に決まってます」

 

 そんな言葉に、マミは困った顔で頷いた。

 まどかにそう言う風に言われると、本当に大丈夫な気がしてきてしまう。

 どうしようもなく能天気だというのは理解しているが、大丈夫な気がするのだ。

 

 数分ほど話をしてから、マミはまどかを送って家へと帰った。

 

 

 

 

 

 家に帰ると、待っているのは二人の声。

 いつも通りだが、リビングに帰ったときの後継にはやはり違和感がある。

 彼女が、いない。それに慣れるなんてことはないだろう。

 四人での生活は幸せすぎた。あまり長い間いたわけではないけれど、居心地が良すぎたから……。

 

 キッチンから戻ってきたマミは、ずいぶん久しく紅茶を持ってやってきた。

 自分で入れた紅茶を飲むと、満足そうな顔をして頷く。

 

「マミ、あたしにも」

 

「私も飲んでみましょう」

 

 杏子とセラから声がかかると、笑顔で頷いたマミが立ち上がって二人分のティーカップを持ってくる。

 二つのティーカップに紅茶をそそぐと、そっと二人へと出す。

 飲む二人は、文句も言わず笑みを浮かべて飲んでいた。

 

 そんな笑顔を浮かべる二人を見て、マミは安心するような表情を浮かべる。

 

 

 




あとがき

次回!そして最終決戦が始まります!
夜の王、そしてワルプルギスの夜との戦いなど、やること沢山、大変だねマミちゃん!
これゾンやまどか☆マギカとはだいぶ違う状況でどうなっていくのか、などなど……お楽しみに♪
感想お待ちしてます!

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