これは魔法少女ですか?~はい、ゾンビです~   作:超淑女

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25「うん、私の所にいて!」

 マミとまどかの二人がビルの壁を蹴って跳ぶ。

 使い魔たちを銃で撃つマミが、ビルの上に着地する。

 前方から迫る使い魔の大群が、ピンク色の矢が一掃した。

 それを撃ったのは間違いなくまどかだ。

 

 まどかはビルの上に着地したまま体勢を低くして弓を横に向けると、矢をつがい―――撃つ。

 

 ワルプルギスの夜を守るように固まっている使い魔たちの大群に穴が開く。

 地を蹴り、まどかがその穴を抜ける。

 生まれながらに持つまどかの魔力というのはそれほど高い物ではない。

 しかし、ほむらのループによって螺旋状に紡がれたまどかの因果、それらの影響により彼女の魔力は異常な高さだ。

 

 魔法少女になればその力は絶大。ワルプルギスの夜を一撃で倒すことすら可能だろう。

 魔力を全て使い尽くすことになり魔女になるだろう。けれど、それほどの力がある。

 しかし、魔装少女となると別のようで、ワルプルギスの夜を一撃で倒すことなど不可能だ。

 

「スプレッドアロー!」

 

 使い魔の大群を抜けて、ワルプルギスの夜へと接近したまどかが三本の矢を同時に飛ばす。

 それらは不自然なほどの曲線を描いてワルプルギスの夜に直撃する。

 無論、倒せるわけではないがダメージは無い。

 眉をひそめるまどかは、地上へと着地してさらに矢を撃つ。

 

 ビルの上にいたマミは、右腕にリボンを螺旋状に出現させる。

 リボンはドリルのような形になり、回転を始めた。

 マミの必殺技。しかし、現在マミは一言でも喋れば激しい頭痛が襲う。

 

「ッ……ギガァ!」

 

 言葉を発し、右腕を振り上げる。

 

「トリヴェラッ!!」

 

 右腕のドリルが激しい回転をしながら、巨大化した。

 わずかに顔をしかめるマミ。激しい頭痛が彼女を襲う。

 だが、それでも彼女は“必殺技の名を叫ぶのをやめない”いや、やめるわけにはいかない。

 ドリルが回転する右腕を後ろに振りかぶり、足を踏みしめ跳ぶ。

 

「スグラナーレェェッ!!!」

 

 ドリルを突き立て、跳ぶ。

 前に向けたドリルが使い魔を一掃しながらワルプルギスの夜へと迸る。

 それは遠くから見れば金色の閃光。

 ワルプルギスの夜の前方に、暗い色の壁が現れる。

 だがそれすらもマミのドリルにとっては脆く崩れるものだ。

 

 ―――アハハハハハハ……ハ……

 

 ワルプルギスの夜の笑い声が、止まった。

 とうとう余裕がなくなってきたのだろう。

 ドリルが、ワルプルギスの夜を貫いた。

 

 ―――かに思えた。しかし貫いたのはワルプルギスの夜の右肩で、片腕が落ちる。

 

 しかし十分。“彼女たち”がまだいるのだから。

 ドリルをほどいたマミが、リボンを真上に伸ばす。

 それがセラに掴まれて、使い魔の攻撃を引っ張って回避。

 

 右腕に巻きつけたリボンの先はセラが持っていて、セラのおかげで使い魔の攻撃を回避できているマミは左腕にマスケット銃を召喚して、ワルプルギスの夜に撃つ。

 ダメージは少ないだろうけれど、まだ終わらないのだ。

 青い閃光と共に、さやかが使い魔を切り裂く。

 開いた使い魔たちの穴を抜けて、杏子が槍をワルプルギスの夜の顔に突き立てる。

 貫くことはできないが、ダメージは入った。

 ワルプルギスの夜の顔を蹴り、距離を取る杏子。

 

「舐めんなよワルプルギス! さやか、ほむら!」

 

 使い魔を切り裂いていたさやかが、青い音符の魔法陣を蹴った。

 凄まじいスピードでワルプルギスの夜の顔を剣で切り裂く。

 だが、深い傷はできない。

 せいぜいかすり傷ができる程度だ。

 

「充分よ!」

 

 ほむらが跳んで、ワルプルギスの夜の顔の前まで行くと、手に爆弾を持つ。

 “自作の爆弾”のスイッチを押すと、それを投げる。

 地上へと落ちるほむら。ワルプルギスの夜の眼前で、爆弾は爆発した。

 

「うはぁ危ない!」

 

 さやかが笑いながら下がると、幾本かの剣を投擲。

 ワルプルギスの夜の顔に刺さらず、使い魔たちに刺さっていく剣。

 セラがマミの手にあるリボンを勢いをつけて離した。

 マミが飛んで行き、ビルの屋上に着地、隣にはまどか。

 まどかの手の弓は、さきほどより大きい。

 二人は顔を見合わせて、頷いた。

 

 セラは木の葉で巨大な刀を形成。

 

「不本意ですが……スパーダ・エドゥ・マキーナ!」

 

 木の葉の刀は使い魔をその木の葉に巻き込み、ワルプルギスの夜の目の前で拡散した。

 拡散した木の葉の刀から、さやかの剣が跳び出す。

 先ほど刀が刺さった使い魔を巻き込んだのだろう。

 ワルプルギスの夜の顔に、さやかの剣が刺さる。

 

 地上のさやかが、開いた手をワルプルギスの夜へと伸ばす。

 

「爆ぜろ、エクスプロスィオーネ!」

 

 拳をグッと握りしめると、ワルプルギスの夜の顔に刺さった剣が爆発する。

 さやかと杏子とセラがワルプルギスの夜から離れる。

 下がる必要があるからだ。

 ワルプルギスの夜はどんどんと避難所から遠ざけられていった。

 

 ビルの上に立つまどかが、両足をしっかりと開いて大きな弓を引く。

 まどかが持っている矢の先には桜色の光がどんどんと集まっていった。

 しかしまだ、ワルプルギスの夜に強い一撃を与えるにはまだ魔力を集める必要がある。

 

「魔力を集めながらっ……この弓を持ってるのって結構っ……」

 

 辛そうに表情をしかめるまどか。

 周囲に集まる使い魔を二挺のハンドガンで撃ち倒していくマミとほむら。

 新たにやってきたさやかと杏子、セラも共に使い魔を倒していく。

 

『暁美さん、鹿目さんを手伝ってあげて』

 

 ほむらの足元の地面に文字が浮かぶ。

 マミの眼前の敵を、ほむらは自らの刀“八咫烏”で切り裂く。

 

「貴女の出番でしょ巴マミ……ッ」

 

 ほむらの背後に迫る的を撃ち貫くマミ。

 ハンドガンサイズの銃をリロードして、また撃つ。

 

『ここまで頑張ってきたんでしょ!』

 

 叱咤するような目を向けるマミ。

 二人は背中を合わせて使い魔を撃ち、切り裂いた。

 

「それでも、最初は貴女とまどかの二人だった。最高の魔法少女コンビで……」

 

『今はみんないる!』

 

 真っ赤な文字が、地面に浮かんだ。

 ハッとした表情をしたほむらの真横に弾丸が跳ぶ、ほむらを襲おうとした使い魔が消滅。

 ほむらが背後を見るが、そこにあるのは巴マミの戦う背中。

 

「この世界は、どこでもない……ッ、この世界よ!」

 

 頭痛がするだろうに、叫ぶマミ。

 唖然とするも、すぐに頷くほむら。

 表情をひきしめるとまどかの傍に行き、後ろからまどかの持つ弓と矢を共に持つ。

 

「ほむらちゃん!?」

 

「行くわよまどか!」

 

 驚いた表情のまどかは、すぐに頷いて敵を見る。

 みるみる内にまどかとほむらの持つ矢の先に魔力は集まっていく。

 視線の先にいるワルプルギスの夜は段々と進んでくる。

 

「集いし星が一つになるとき!」

 

「新たな絆が未来を照らす!」

 

 まどかの言葉に、ほむらが続く。

 大量の弾丸が、周囲にばらまかれた。マミの攻撃だ。

 邪魔をする使い魔はこれでもう居ない。

 

「光さす道となれ!」

 

 二人が同時に叫んで、まどかとほむらはさらに手を引く。

 矢の先に集まった魔力が、炎のように揺らめく。

 

「天地創造撃―――ザ・クリエイション・バースト!!」

 

 まどかの言葉と共に、放たれる矢。

 その矢は風切り音と共に、ワルプルギスの体に突き刺さり―――大きな爆発を起こした。

 激しい爆音がまどかたちにも充分、聞こえる。

 まどかの隣に立つほむらそしてその隣にセラ。

 反対側にはさやかと杏子が立つ。

 

「まだ、終わってない」

 

 つぶやいたまどか。五人を飛び越えて、今だ巻き起こる爆煙の方へと跳んで行くマミ。

 誰も、止める術を持たない。魔力消費が激しく役に立たないだろう。 

 セラも体力の限界がきている。

 だからこそ、マミは一人で跳び出した。

 

「(せっかく良い所だったのに……)」

 

 爆煙が晴れると、ワルプルギスの夜の使い魔が黒い槍となってマミへと飛ぶ。

 足元に足場を作ると、跳んで攻撃をさける。

 現れたワルプルギスの夜は、すでに歯車だけになっていた。

 虫の息、という奴だろう。

 

 何本も飛ばされるそれらを避けながらも、マミは近づいていく。

 

「ッ!?」

 

 マミの腹部を貫いた槍。だが構わない。

 戦う。それでも跳び、ワルプルギスの夜を誘う。

 

「(そう、さぁ来なさい! 舞台には貴女と私の二人よ!)」

 

 二人が踊る。舞台装置そのものが踊る。

 舞台には二人。そして舞台のカラクリは舞台女優を襲う。

 金色の髪をなびかせながら、彼女は手にハンドガンを出現させて使い魔を狩る。

 

「さぁ! 幕引き(フィナーレ)よ!」

 

 言葉を発すマミの体に装備されていたガントレットやアーマーが消えた。

 マミへと移されていた魔力が戻ったのだろう。

 

「1000パーセントォッ!」

 

 姿が変わる。マミはソウルジェムを軽く投げた。

 “ワルプルギスの夜(歯車)”の中心、そのすぐそばにまで投げられたソウルジェムは、黒く淀んでいた。

 マミは両足に力を込め―――跳ぶ。

 

「ティロ・フィナーレェェェェッ!!!」

 

 右腕を振りかぶって歯車の中心に向かって跳んだマミは、その右手でソウルジェムごと“ワルプルギスの夜(舞台)”を砕く。

 

 ―――終幕。

 

 

 

 

 

 ~~~~~

 

 

 

 

 

 意識を覚醒させて目を開いた時、最初に視界に入ったのはセラの顔だった。

 ホッとしたような笑みを見せるセラに、自分なりの笑顔を返して起き上がる。

 自分の周囲には、まどかも、ほむらも、杏子も、さやかも、仁美もいた。

 そして、立ち上がったマミがこの場所がタワーの中だということに気づく。

 

 外はもう、真っ暗だ。

 

「ユウがね、ここに来たいって……」

 

 さやかの言葉を聞いて、頷く。

 窓際を見ると、外を見上げるユウがいた。

 夜の王の消えた場所。ここで空を見上げる彼女は、今にも消えてしまいそうだ。

 わずかに顔をしかめたマミが、言う。

 

「またどっかへ行っちゃうつもりなの?」

 

 ユウは背中を向けているだけで何も応えない。

 だから、マミは言う。

 

「私の所にいなさい、ユウ! 運命がどうとか、私が全部どうにかするから、私の所にいて!」

 

 少し乱暴な口調で言うマミだが、答えは帰ってこない。

 マミが、ユウの背後から、ユウの両肩を掴む。

 動揺したのか、わずかにユウの声が聞こえる。

 足元を見ながら、マミが言った。

 

「絶対離さないから! やっと手に入れた宝物なんだ。どんなに泣いても暴れても、傍にいるって約束しない限り! 絶対に離さないから!」

 

 足元を向いたまま叫ぶように言うマミ。

 背中を向けているユウが、手を後ろに持ってきてマミにメモ帳を見せる。

 

『わがまま、まるで子供みたい』

 

「ええそうよ、わがままだ。ユウの気持ちなんか関係ないの!」

 

 ユウの肩を掴む手に込められた力が強くなっていく。

 絶対に離さないという意思表示。

 

「だからユウにもおしつける! 私はユウにしてほしいことが山ほどあるんだから……」

 

『わかってる』

 

「わかってない!」

 

 怒ったような口調で、声音で響く声。 

 それを見守る魔法少女たち、まどか、セラ、仁美。

 

「わかってるよ」

 

 ユウの、声が聞こえた。

 驚いたマミが、ユウから両手を離してまっすぐ立つ。

 目の前のユウが、振り向いた。

 月明かりに照らされた白銀の髪の少女は“あの日”と同じようで違う。

 

 笑みを浮かべたユウは口を開いてハッキリと思いを口にする。

 

「私はもう、何があってもマミの傍にいるから」

 

 笑顔を浮かべたマミが、瞳に涙を溜めてユウを抱きしめた。

 同様に、ユウもマミを抱き返す。

 抱きしめられながらも、ユウは言う。

 

「でも、貴女が不幸になる」

 

「そうこなくっちゃね」

 

 高揚のついた声で、返事が聞こえた。

 

「私を、私の運命をマミはなんとかしてくれる?」

 

「するわ」

 

 なんの迷いも無く応える。

 

「だったらマミの不幸は、私がなんとかする……これってわがまま?」

 

「ええ、わがままね」

 

 ユウの疑問に肯定して、抱きしめる力をほんの少し強めた。

 

「私はきっと、こんなわがままを願っていたんだと思う」

 

 抱き合う二人。窓から差し込む月光は二人の金髪と銀髪を照らす。

 ユウを抱きしめるマミの力は強くなっていく。

 

「痛いよマミ」

 

「あっ……ご、ごめん」

 

 つい嬉しくなってしまったと反省しながら、ユウから体を離すマミ。

 フフッ、と笑みを浮かべるマミ。

 

「奇跡や魔法が無くても、願いは叶うものよね」

 

 反対にユウも、笑みを浮かべた。

 

「おかえり、ユウ」

 

「ただいま、マミ」

 

 向き合っている二人。

 マミが振り返って、背後にいる面々を見る。

 全員が笑顔を浮かべて立っていた。

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい!」

 

 全員からの声に、ユウは笑みを浮かべる。

 

「くっそ~可愛い声してんじゃん! これが萌えかぁ! 萌えなのかぁ!」

 

 そう言うさやかを、面々は笑っていた。

 同意するようにまどかも頷く。

 

「ホントだね、もっと喋ればいいのに」

 

「だよねぇ~」

 

 まどかの意見に頷くマミ。

 それに同意したのか、ほかの面々も同じく頷く。

 ワンテンポ置いて、全員が声を上げて笑い出した。

 

 

 とりあえず、これにてワルプルギスの夜との戦いはおしまいだ。

 街はできる限り最小限におさえたとはいえ、被害は少なくない。

 これによってまた心を病む人が、魔女を呼ぶかもしれないけれど、どんな魔女だって恐くない。

 皆がいるのだから、誰も恐れなど抱く心配はない。

 

 これからだって、まだまだ続いていく。彼女たちの生きるという戦い。

 

「あっ、そういえばママに心配かけちゃってる!」

 

 まどかの大声に焦る面々。

 同じくさやかも焦りだした。

 

「まったく、最後までしまらないんだから」

 

 そう言って心の底から笑うほむら。

 本当に、この世界は暁美ほむらの最後の希望だった。

 どこぞの誰かから言わせれば。完全なる解答(パーフェクト・アンサー)だけれど、これも一つの可能性にすぎない。

 彼女のハッピーエンドは、この形だけじゃない。いろいろな形があるだろう。

 それでも、今この場で全員が笑顔でいるのだから、それで良い。

 

 これが、この世界のこの少女たちの、幸せなのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

<おまけ>

 

ユウ「ようやく話せるようになった」

 

マミ「まさかこうしてユウとお話できる日が来るなんてね」

 

ユウ「これでようやく言える」

 

マミ「なに、お姉ちゃん大好き~、って?」

 

ユウ「マミ、私で変な妄想するのやめて」

 

マミ「はい、ごめんなさい」

 

ユウ「そんなことしなくても、ずっとそばにいるから」

 

―――お前もゾンビにしてやろうか?―――

 

 

 

 




あとがき

さて、これにてワルプルギスの夜との戦いは終了です!    もう少しだけ続くんじゃ!>

これで今ある問題は全てまるっとおさまりました。
まどかの必殺技とかマミさんの必殺技とか、いろいろとネタなところもあるんですがお気づきになられましたでしょうか?
まぁ、わからなければわからないで問題は無いんですけどw
そして止めは『ティロ・フィナーレ(物理)』です。ティロ(撃)ってませんけど、まぁそこはw

では、次回はエピローグとなります!
お楽しみに♪

感想お待ちしてます!!

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