これは魔法少女ですか?~はい、ゾンビです~   作:超淑女

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5「はい、吸血忍者です」

 食事を用意すると、突然現れた美女はしっかりと全てたいらげた。

 ハンカチで口元を拭い、しっかりとごちそうさまと言う。

 その仕草が終わると、マミは最初に口を開いた。

 

「ユウの知り合い?」

 

 そう聞くが、ユウは無言で食事を続けている。

 ユウの知り合いでもないようだと、マミは視線を移す。

 

「あの、一応自己紹介とかお願いしてもいいかしら?」

 

 マミがなるべく相手を刺激しないような声音で言う。

 突然現れたのだ。魔法少女かユウと同じくまた別の何かか……

 

「わかりました。私はセラフィムです」

 

「(外国人!? い、意外なとこから来たわね)」

 

 戸惑いながらも、マミは平静を装う。

 セラフィムは続けて口を開く。

 

「好きなものは“秘剣燕返し”」

 

 少し好きなものについて引っかかりを覚えるマミ。

 

「特技は“秘剣燕返し”趣味は“秘剣燕返し”です!」

 

 気のせいではないと思うが、三回目の秘剣燕返しがやけに強い音程で言っている気がする。

 マミは絶句しながら、言う。

 

「全部、秘剣燕返しなんですね……」

 

 何しに来たんだ。と思いながらも愛想笑いを返すマミ。

 内心は恐ろしいほど焦っている。

 

「(ヤバいわ! この人ヤバい人だわ!)」

 

 セラフィムはユウの方に視線をやった。

 

「ユークリウッド・ヘルサイズ殿の力をお借りしたい」

 

 食後のお茶を飲んでいるユウが、湯飲みから口を離す。

 視線は一度もセラフィムの方にはやらないようだ。

 

「私の任務は、ヘルサイズ殿の同意の元、同行を求めることです」

 

 ユウはもう一度湯飲みに口をつける。

 

「どこに?」

 

「忍者の里」

 

 まだあったんだ。と思いながらも嘘だとは思わない。

 魔法少女がいて冥界人がいるんだから、忍者ぐらいいまさらといった感じだ。

 マミは問う。

 

「じゃあ、貴女は忍者ってこと?」

 

 それに肯定するセラフィム。

 

「私は、吸血忍者です」

 

 まったくもって意味不明。

 マミは無意識に、吸血?とつぶやいた

 音がした。ちゃぶ台を見ると、その上にユウのメモ帳。

 ペンでそのメモ帳をトントンとたたく。つまりは急かしているのだ。

 

『マミ、構わない、追い返せ』

 

 単調だがわかりやすい。

 目を伏せているユウを見て、マミが困ったように笑う。

 

「そ、その必要はないんじゃないかな、ユウ?」

 

 もう一度ちゃぶ台を叩くペン。

 メモ帳には新たに“いいから”が追加されていた。

 まったくもって困ったことだ。

 マミが唸るように声を上げる。

 

「ところで貴女は、ヘルサイズ殿のなんなのですか?」

 

 そんな質問を投げかけてきたセラフィム。

 少し得意げな顔をするマミが片手で額を押さえて言う。

 

「私はユウの保護者と言うか、まぁ~」

 

 マミの脳内に妄想ユウが現れる。

 

「おねぇ~ちゃん!」

 

『下僕』

 

 即座に妄想から現実に戻されるマミ。

 

「(そこはお姉ちゃんと言ってよ~)」

 

 うなだれるマミだったが、現実は非情だ。

 暗い雰囲気がマミの背中に重くのしかかる。

 ソウルジェムが濁りそうだが、そんなことはなかった。

 

 マミを放って、セラフィムはユウを見る。

 

「ならば私も下僕となります。私のことはセラとお呼びください」

 

 うなだれていて状況がまったく理解できていないマミ。

 ユウがセラフィムにメモ帳を持ち上げて見せる。

 一切マミには見えない。

 

『下僕は一人で良い』

 

 その文字を見て、いささか動揺するセラフィム。

 

「でしたら、この頭が悪そうな女に代わり、私が」

 

 うなだれていたマミが顔を上げるが、些か表情が険しい。

 

「勝手に上がりこんだあげくに失礼極まりないわね」

 

 そんな抗議に表情を一ミリも変えずに立ち上がるセラフィム。

 

「お役御免の馬鹿に、気遣う必要はもうありません」

 

 少しだが、マミに向けられるセラフィムの視線も厳しくなった。

 向こうから向けられる対抗心と敵対心。

 

「どこか、人の居ない場所に行きましょう」

 

「できれば戦いたくないのだけれど?」

 

「ヘルサイズ殿の下僕に相応しいのはどちらか……はっきりさせてあげます」

 

 深いため息をつくマミからは不本意という念がにじみ出ている。

 せっかく暁美ほむらと仲良くなれたのにこの始末。

 自分は常々敵をつくることに長けているのかと疲れて仕方がない。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 結局人気が無い場所を求めてやってきたのは、墓地だった。

 不気味な雰囲気なのだが、相変わらずマミには落ち着く場所だ。

 

「で、セラさん……? 本当に私を殺すつもり?」

 

「目的のためなら仕方ないでしょう。しかし―――」

 

 セラフィムの翡翠色の眼が、紅に変わり輝く。

 長い黒髪のポニーテールと相まってその姿は綺麗だ。

 

「―――貴女は命ある人間ではない」

 

「そこまで知ってるの……」

 

「忍者ですから」

 

 会話になっていないことを今さらどうこう言うつもりもない。

 辺りに木の葉が散る。

 風に乗り、辺りを舞う緑色の葉。

 

「戦闘不能になるまで切り刻みます!」

 

 セラの手元に集まった木の葉が、一振りの刀になった。

 これまた大層なものがでてきたと思いながら、マミは言う。

 

「ゾンビだけど、痛いものは痛いのよ?」

 

 その刀の切っ先を、マミに向けるセラフィム。

 タンクトップにジーンズに紺色のマント。まったくファッションセンスがわからない。

 などと考えるマミだが、そんな余裕はない。

 

「降参しますか?」

 

 その威圧感を感じながら不敵に笑うマミ。

 わかりやすい兆発に乗らないなど、ベテラン魔法少女の恥だ。

 

「ユウが追い返せって言っていたからね」

 

「では、参ります!」

 

 一際凛々しく大きな声と共に、跳びだすセラフィム。

 瞬時に間を詰めて振られた二撃だったが、マミはバックステップでなんとか避ける。

 さらに続く連撃に紙一重と言った様子でよけていくマミ。

 

「なっ!?」

 

 しゃがんで避けた斬撃は、背後の墓石を切り裂く。

 マミが蹴りを放つが、その瞬間セラフィムは木の葉の中に消える。

 姿が見えず、あたりには木の葉が舞うだけだ。

 立ち上がり次の攻撃を警戒する。

 

「好きなものは“秘剣燕返し”特技は“秘剣燕返し”」

 

 辺りから聞こえる声に、マミは困惑していた。

 

「趣味も―――」

 

 瞬間、背中に強烈な激痛が走る。

 背後にはセラフィム。刀は既に振られていて、マミの背中からは血が吹き出た。

 地面に伏すマミ。

 

「―――秘剣、燕返しです!」

 

 セラフィムは倒れるマミを見下しながら、刀についた血を振り落す。

 

「その程度でヘルサイズ殿の下僕などと、お話になりません。この、クソ虫」

 

 紅の瞳が―――輝いた。

 両手を地面について、飛び跳ねるマミ。

 跳ねると同時に空中で体勢を変え、蹴りを放った。

 だがその攻撃は横に移動され、避けられる。

 

「ちぃっ!」

 

 マミが着地して振り返ると、セラフィムは刀を振り上げていた。

 横に転がり避けるマミ。墓石が再び切断される。

 再び振られる刀に、慣れてきた動体視力で追いつく。

 しかし完全に避けられずに頬をわずかに切ったようだ。

 

「(この人っなんて罰当たり……っ!?)」

 

 木の葉の中から再び斬撃。

 

「ふっ、やっ……ぐっ!?」

 

 何度も振られる素早い斬撃を避け続けるマミ。

 時折跳んで両手だけで避けたり。アクロバティックな戦闘。

 横に振られる刀。マミはしゃがんで避けると蹴りをセラフィムの腹に直撃させた。

 

「ぐっ!」

 

 くぐもった声はセラフィムのものだ。

 肩で息をしながらも立ち上がるマミ。

 

「はぁっ、はぁっ……秘剣燕返し、ギリギリかわすのが精一杯っ」

 

 刹那、背後に木の葉が集まる。

 感覚だけでそれを感づき、マミは表情を変えた。

 そして、振り向いた瞬間―――刀が振られた。

 

 マミの腕、肘から先が跳ぶ。

 腕の断面から血飛沫が上がった。

 

「ぁぁっ!」

 

 苦悶の声を上げるマミに、セラフィムが追い撃ちをかけようと走る。

 マミが、わずかに口元を歪め、走り出す。

 自ら、刀が突き刺さるように誘導。

 胸の間に突き刺さった刀の刃はマミの背中から飛び出す。

 そしてマミは、突き刺さった刀を掴んだ。

 

 マミの顔は痛みのせいか汗でいっぱいだ。

 

「っ……これで、秘剣燕返しは使えないでしょ?」

 

 刀を引き抜こうとするセラフィムだが、マミの力に敵うはずもない。

 

「貴様ぁっ!」

 

 悪態をつくセラフィム。

 マミが頭を大きく後ろに振りかぶった。

 

「喰らえぇっ!250%!」

 

 振られた頭が、セラフィムの頭に直撃する。

 後ろに下がるセラフィム。

 

「痛ったぁっ!」

 

 セラフィムがマントを残して、木に変わった。

 変わり身の術という奴だろう。

 倒れるマミの横には、左腕の先が落ちていた。

 

 マミの視界に映る満月。そして黒いシルエットが視界に映る。

 黒い翼を羽ばたかせて飛んでいるのはセラフィム。

 彼女は―――刀を振る。

 

「秘剣燕返し! 八連!」

 

 八つの紅の斬撃がマミを襲う。

 飛ぶ斬撃はマミに直撃したのかしていないのか、マミの周囲には激しい砂埃が舞った。

 僅かに笑みを浮かべるセラフィムだが、すぐにその顔を驚愕にゆがめる。

 

 砂埃の中から飛び出してきたのは、マミの左腕だった。

 それはセラフィムの腹部に勢いよく直撃する。

 落ちていくセラフィムを見ながら、地上のマミは笑みを浮かべる。

 

「私……ゾンビですから」

 

 落ちながらも、セラフィムは最後に腕を振るった。

 振るった腕からまっすぐ飛んできた手裏剣は、マミの額に突き刺さる。

 

「んうっ!?」

 

 直立不動のまま、倒れるマミ。

 勝負は―――一応、マミの勝利で決した。

 

 

 

 そして、セラフィムは地面に正座をして頭を下げた。

 すぐに上げるが、その表情に敵意は見られない。

 

「参りました。さすがヘルサイズ殿の下僕と認める女」

 

 腕はくっついたものの、マミは額に刺さった手裏剣を抜けないでいる。

 立ち上がるセラフィム。

 

「私は家に帰らせていただきます」

 

「いさぎ良いのね?」

 

「吸血忍者なりのプライドです」

 

 凛々しい声と表情。一瞬の内に消えるセラフィム。

 マミは斜め上に視線をやる。

 

「吸血忍者セラフィム、恐ろしい相手だったわ。次に勝てるかどうかはわからない」

 

 セラフィムのように凛々しく言う。

 だが、手裏剣の刺さった額から、血が流れた。

 

 

 

 

 

 そして、帰ってきたマミはいつも通り、ただいま。と言ってリビングに入る。

 だがそこで目撃したものは、ユウの湯飲みに茶を注いでいるセラフィムだった。

 

「な、なんでまだいるの……家に帰ったんじゃないの!?」

 

 額に手裏剣を刺しっぱなしの挙句、血だらけのマミは言う。

 セラフィムは茶を入れるのをやめて、マミの方に視線を向ける。

 

「家には違いありません」

 

「あぁ~! なるほど、私の家に帰ってきたんだ……って居座るつもり!? セラさん決闘に負けたじゃない!」

 

 勢いで手裏剣を抜いたマミ、額から血が噴き出ることもお構いなしと言った様子だ。

 それが何か?という表情でなんでもなさげ。

 

「吸血忍者のプライドはどうしたのよ!」

 

「なんとしてでも任務を果たすのが、忍者のプライドです」

 

 ユウがそっとメモ帳を持ち上げる。

 

『どういうこと?』

 

「私が聞きたいわよ」

 

 マミは疲れたようにつぶやくのだった。

 

 

 

 ちゃぶ台を囲んで座る三人。

 ユウを見ながら、セラフィムがマミを指さす。

 

「しかたりません、私はこの胸しか取り柄がなさそうな女の下僕となりましょう―――」

 

「黙って聞いてれば胸しかって、しかって……貴女がそのつもりならっ!私の下僕になったからには私の優雅な生活のために毎朝メイド服で起こして紅茶をついで!それからそれから―――」  

 

「嫌です気持ち悪い」

 

 マミの心がズタズタにされる。

 今度こそソウルジェムが濁っただろうと思うマミ。

 

「せ、せめてマスターとか、ロード、とか?」

 

「嫌です、このクソ虫がっ」

 

「(なんて凛々しいお方っ!)」 

 

 マミは驚愕と同時に、折れざるを得なくなってしまった。

 酷い展開である。

 彼女たちは、深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 マミは自分の部屋で横になる。

 まさか同居人が二人になるとは、一ヶ月前とは大違いだ。

 あの静かで孤独な日々も、もう無い。

 そう考えると、なんだか自然と涙が出てきた。

 

「情けないなぁ」

 

 つぶやいて涙をぬぐう。

 明日の魔女狩りはきっと、暁美ほむらと一緒だ。

 もう、なにも恐くない。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 一軒のアパートの一室。

 表札に暁美と書かれた家の中には、ほむらが一人。

 あまり広いともいえない居間の壁にはたくさんの資料が貼り付けられている。

 ちゃぶ台の前に座って、コンビニ弁当を食べている暁美ほむら。

 学校でも無愛想である彼女だが、今夜はやけに嬉しそうにも見えた。

 

「まさか、巴マミがあんな風に味方になってくれるなんて」

 

 心底意外といった表情。

 でも、できることなら魔法少女なんてものをあの二人には見せないでいて欲しかった―――などとしばらく考えた後、切なそうな表情を浮かべる。

 先ほどとは違う表情だ。

 

「貴女はまた、一人なの?」

 

 誰に問うでも無くつぶやく、ほむら。

 目を細めて、天井を見る。

 

「私はまどかのために全てを捧げる。でももし、全てが終わって私と貴女が生きていたなら……私を傍にいさせてくれますか?」

 

 つぶやいて、畳の上に横になると、腕を顔の上に置く。

 憂鬱そうに溜息をつくと、腕をまっすぐと伸ばす。

 その瞳は、わずかに潤んでいた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 翌朝、マミが窓際に立って憂鬱そうな表情で外を見ている。

 外は雨が降っていて、灰色の空はマミにとって嬉しいはずだ。

 

「周囲にヒトが増えても、私は結局一人なのね……泣けない私の代わりに、空が泣いてくれているようだわ」

 

 はぁ、と艶かしく息を吐くマミ。

 そんなマミの制服の裾が引っ張られる。

 振り向くと、そこにはユウが立っていた。

 メモ帳を持ち上げる。

 

『おかわり』

 

 ちゃぶ台に乗っているユウの茶碗と味噌汁の御碗が空になっていた。

 マミの眼がわずかに揺らぐ。

 ユウがメモ帳を下げて、ペンでなにかを書いた。

 

『至急、おかわり』

 

 頭を抱えるマミ。

 

「さっきの私のあのシリアスな雰囲気どうするのよ」

 

「やめてください気持ち悪い」

 

 これは酷い。と思いながらユウのおかわりを用意しだすマミ。

 すると、セラフィムも空の御碗を差し出してくる。

 それを受け取ったマミがおかわりを注ぐ。

 

「セラさんは私馬鹿にしすぎじゃない?」

 

 困ったように笑うマミが御碗を渡す。

 受け取ったセラが、無表情で味噌汁を飲んでいく。

 

「ご飯だけは褒めます」

 

「ふふっ、ありがとう♪」

 

 マミはそう言い、箸を動かす。

 この後すぐに学校に行かなくてはならないからか、制服はもう着ている。

 髪もしっかりいつものようにセットされていて、いつものマミだ。

 

「少しは見直してくれたかしら?」

 

 クスッとほほ笑みながら聞くマミ。

 いつものような姿なのだが、セラフィム一人増えただけでだいぶ騒がしさが違う。

 マミ自身それに喜んでいて、楽しそうでもある。

 だからついからかう意味も含めてそう聞いてみたのだが……

 

「ありえませんクソ虫ッ!」

 

 ―――台無しじゃない。 

 

 マミは、黙々と食事を続けた。

 

 




あとがき

さて!セラフィム参戦です!
えっ、ハルナが出てない?魔装少女なんて出したら面倒なことに(
とりあえず吸血忍者参戦ということで、次回からいろいろと大変なことになります!
まどか☆マギカは二話までですからこれからはしばらくオリジナルの魔女などと戦います。一気にシャルロッテとかも考えたんですがねぇ

まぁなにはともあれ楽しんでいただければ幸いです!
では次回もお楽しみに♪

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