これは魔法少女ですか?~はい、ゾンビです~   作:超淑女

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7「はい、マミります」

 なんやかんやで一週間。

 ほむらとの共同前線は順調で、放課後は共に街を巡回していた。

 巡回の前か後に絶対に二人でお茶をするのが日課で、前にお茶をする場合はまどかが一緒に、だったりもする。

 マミはまだ、ほむらに自分がゾンビだということを明かしてはいない。

 拒絶されるのが恐いというのもあるが、ただ今の状況を維持したいだけだ。

 

「じゃあ、今日もありがとう」

 

 喫茶店を出たマミとほむら。

 そう言ったマミの言葉に、ほむらはいつも通り質素な返事を返す。

 一週間でわかったこととしては、無愛想に見えても、ほむらが案外優しいということだ。

 攻撃を食らったマミを心配する素振りだって見せるし、時たま不安そうな顔をする時もある。

 

「また明日ね」

 

「ええ、また明日」

 

 そう言ってから、ほむらはマミの顔を見つめた。

 言いたいことはわかる。

 

「鹿目さん、まだ魔法少女になることを諦めたわけではないようよ。キュゥべぇも契約を諦めてないし」

 

 そんな言葉に、ほむらは眉をひそめた。

 

「不安なのよ。貴女にだってわかるでしょ?」

 

 その言葉を否定しようとした。否定したかったマミ。

 しかし完全に否定はできないのはマミの心の中に“彼女”がちらついたからだ。

 やがてはまどかやさやかも“彼女”のように変わって、自分を否定してしまうのではないかと、不安だった。

 そんなマミの杞憂を吹き飛ばすかのように、足音が聞こえる。

 

「マミさん!」

 

 現れたのは、美樹さやか。

 ほむらを見ると、わずかに眉をひそめる。

 そして深呼吸すると、さやかは言う。

 

「ねえ、マミさん。願い事って自分の為の事柄でなきゃダメなのかな?」

 

 その言葉に、少し驚くマミ。

 ほむらはまだ魔法少女になる気なの? と言った様子だ。

 それでも何も言わないのは、マミに気を遣ってだろう。

 

「例えば、例えばの話なんだけどさ、私なんかより余程困っている人が居て、その人の為に願い事をするのは……」

 

 深いため息をつくほむら。

 

「貴女の惚れてる男のため、かしら?」

 

 ほむらの言葉に、眼をキッと鋭くさせるさやか。

 明らかな敵意を受けながらも、ほむらはしっかりと目を合わせていた。

 マミはなるほど、と理解。

 

『美樹さやかが惚れてる上条恭介という幼馴染がいるの、彼が事故によって腕をダメにしたから、それを治したいのだと思うわ』

 

 テレパシーで伝わってくるほむらの言葉。

 なんとなくだが事情は理解できた。

 彼が好きだからこそ、彼を助けたいということだろう。

 

「でもあまり関心できた話じゃないわ。他人の願いを叶えるのなら、なおのこと自分の望みをはっきりさせておかないと」

 

 マミの否定的な態度に、驚くさやか。

 “正義の味方”であるマミなら人のために願いを叶えるのは肯定するはずを思っていただけあり余計だ。

 弱い人間を助けるための自己犠牲が、いけないというのだろうか?

 さやかは内心困惑していた。

 

「美樹さん、あなたは彼に夢を叶えてほしいの?それとも、彼の夢を叶えた恩人になりたいの?」

 

 はっきりとした物言いに、少し驚くほむら。

 少しばかり俯くさやか相手にマミはしっかりと目を向けている。

 

「同じようでも全然違うことよ。これ」

 

「その言い方は…ちょっと酷いと思う」

 

 うつむいたままそう言うさやかに、マミは困ったような微笑を浮かべた。

 落ち込んでいるようなさやかの頭を撫でる。

 

「ごめんね? でも今のうちに言っておかないと……そこを履き違えたまま先に進んだら、あなたきっと後悔するから」

 

 その言葉に、顔を上げるさやか。

 やはりどこか落ち込んでいる。

 

「……そうだね。私の考えが甘かった。ゴメン」

 

 その言葉を聞くと、マミは笑顔を浮かべて頷く。

 顔を上げたさやか。

 

「じゃ、私は帰るから」

 

 送る。と言おうとしたがそれよりも早く踵を返して走り去ったさやかの後ろ姿。

 ほむらは少し険しい表情をしていた。

 

「暁美さん、そんな顔しちゃだめよ。可愛い顔が台無しよ?」

 

 ジトッ、とした眼で睨まれるマミ。

 苦笑するマミをよそに、ほむらはため息をついた。

 表情も先ほどより穏やかだ。

 

「帰るけど……」

 

 マミの眼をジッとみるほむら。

 

「魔女が出たら絶対私を呼ぶこと……その、余計なことして怪我されても困るから」

 

 その言葉に頷くと、ほむらは踵を返して帰り道を行く。

 

「(心配してるのかしら?)」

 

 少しうれしくなりがらも、頷くマミ。

 頭を軽く撫でると、おとなしくそれを受け入れるほむら。

 空はもう暗い。そろそろ晩御飯の用意をしなければと、ほむらの頭から手を離す。

 

「それじゃ、今度こそ、また明日」

 

 踵を返して去っていくマミ。ほむらは自分の頭を少し触ってフッと口元に微笑を浮かべる。

 

「また明日」

 

 数分そこに居て、ほむらも同じくその場を去ろうとした。

 しかし、背後をむいた瞬間、そこには巨大なカンガルー。

 視覚で理解していても思考がおいつかない。

 初めて見たパターンで初めての展開だ。

 

「な、に?」

 

「こんにちは!!」

 

 カンガルーが手を振り上げる。

 不味い。と理解して変身。背後にバックステップをして拳を回避した。

 カンガルーの拳は地面のコンクリートを破壊する。

 

「手痛い! 堤体!?」

 

 やかましいカンガルーだが、侮るわけにはいかない。

 

『それはメガロだよ。暁美ほむら』

 

 キュゥべぇのテレパシーが頭に響いた。

 辺りを見渡すが、そこからはわからない。

 

『知らなかったのかい? 魔法少女の敵さ』

 

 その言葉を聞きながらも、素早いカンガルーの拳をよけていくほむら。

 なぜ学ランを着ているのかがわからない。

 

「メガロ?」

 

「はいはい! ボクです! ボクメガロ!」

 

 あくまで冷静を装って聞く。

 

『君の秘密を離してくれたなら、情報交換で教えようじゃないか』

 

 その言葉に、もう聞くことをやめる。

 ここで話せばキュゥべぇの思うつぼなのだろう。

 ほむらは盾から機銃を取り出すと、空中にて連射する。

 無数の弾丸がカンガルーを襲うが大したダメージにはなっていない。

 

「痛いじゃない!!」

 

 カンガルーのパンチは届かない距離まで下がるが、カンガルーの拳圧にてほむらは体勢を崩す。

 しかたないと舌打ちをした瞬間、ほむらが消える。

 カンガルーはほむらが消えたことに戸惑う。

 

「どこ!? どこなの!?」

 

 そして振り返るカンガルーの先にはほむら。

 足元には、爆弾があった。

 

「勝てててん!?」

 

 爆発。爆音と共に、メガロと呼ばれた巨大なカンガルーは消滅。

 冷静に髪を払い変身を解く。

 しかし、内心は焦りに襲われていた。

 イレギュラーであるメガロの存在。

 魔女ほど厄介ではないものの、面倒な存在が増えてしまった。

 

「なにが起きてるの……この街で」

 

 ほむらは、空を見上げてつぶやいた。

 漆黒の空は、何も答えてやくれない。

 

 

 

 

 

 帰ってきたマミは、気分がいいのかスキップをしながらリビングに行く。

 

「ユウ! た・だ・い・ま♪」

 

 そう言ってユウへと歩み寄ろうとするマミだったが、足元にあった人形を踏みつけたマミが転ぶ。

 

 ドアを開いて、ほぼ同タイミングでセラフィムが帰ってくる。

 しっかりと鍵をしめると、ビニール袋片手にリビングへと向かう。

 

「ただいま帰りまし……た」

 

 セラフィムが見たのは、ユウを押し倒してあまつさえ片手でその胸を揉んでいる。

 振り返るマミの顔には汗が流れていた。

 おそらく、冷や汗だ。

 

「ち、ちがうのよセラ! これは!」

 

 セラフィムの紅の眼が輝く。

 巴家の壁に、鮮血が飛び散った。

 

 

 

 

 

 正座しているマミ、その前にセラフィムが立っていた。

 うつむくマミの頭に突き刺さっているセラの刀。

 とろうとすらしない姿は不気味と言える。

 

「で?」

 

 高圧的なセラフィムの言葉。

 

「その、あれは……」

 

「気持ち悪い。このミドリクソ虫!」

 

 泣きそうになるマミだが、耐える。

 雰囲気は重い。全部事故だが、と思うマミ。

 

「いえ間違えました……この黄色クソ虫!」

 

「(色のためだけにわざわざ言い直したぁ!!?)」

 

 内心激しく突っ込むマミだが、それをセラフィムに伝える気力は無い。

 セラフィムの背後で、いつも通りお茶を飲みながらテレビを見ているユウ。

 

「(これは酷い)」

 

 いつも通りといった様子で溜息をつくマミ。

 深いため息を吐いた彼女の額からは、血が噴き出ていた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 翌日の昼休み。マミは食堂に居た。

 寝過ぎたせいで朝食も昼食も作れなかったこともあってだ。

 食堂の空席に、ラーメンを持って座るマミ。

 友達である夏乃を誘ってみたが、来ることは無かった。

 

「(ぼっちじゃない。私は孤高なだけよ)」

 

 チャーシューを増した味噌ラーメンを、制服に跳ねないように気を付けながら啜る。

 突然、携帯電話が鳴った。

 メールのようで、見るとほむらのようだ。

 

「ん?」

 

 

 From : 暁美ほむら

 まどかが一緒にお昼ご飯を食べないかって言ってるけど?

 私はどちらでもいいけど?

 

 

「(暁美さんは一緒に食べたいってわけじゃないわけね)」

 

 なんてことを考えて、苦笑する。

 できれば行きたい気持ちもあるけれど、弁当も無いしほむらに悪い気がした。

 結局お互い、利害の一致なのだろう。

 なんだか妙に寂しくなったマミは、ラーメンを啜りながら携帯電話のボタンを押していく。

 

 

 ありがとう

 けれど今回は遠慮しとくわね

 また誘ってね

 

 

 それだけ打ってみる。

 メールなんて普段しないせいでずいぶん淡泊だ。

 それはほむらも同じだから大丈夫なのだろうけれど、なんだかさみしい気もした。

 

「……最後にハートでもつけときましょ」

 

 そう言って文章の最後にハートをつけると送る。

 少し沈黙したのち、携帯電話をしまって、マミはラーメンをすすった。

 

 

 

 屋上にて、ほむらが携帯電話を閉じる。

 少し溜息をつく。

 

「どうしたのほむらちゃん?」

 

 今日、昼食を一緒にすることになったまどかが、そう聞く。

 美樹さやかは案の定来なかった。

 まどかの誘いを断るとは珍しいが、ほむらが関わっているということは別なのだろう。

 

「なんでもないわ」

 

「そうなんだ」

 

 携帯電話を見て、眉をひそめてみるほむら。

 

「なんで素直になれないのかしら、私」

 

「なんて?」

 

 つぶやきが聞こえていたのか、まどかが聞く。

 首を横に振るほむらは、ため息をつく。

 

 まどかはマミと一緒に食べよう。とは言っていない。

 ただほむら自身、誘うのが気恥ずかしかっただけだ。

 本当にまどかが一緒に食べたい日は自ら誘いに行く。

 

 不器用なほむらは溜息をついて携帯電話をもう一度見た。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 なんだか憂鬱だったマミは、今日は別行動で魔女を探すと電話で連絡した。

 ほむらもそれに了承したので、マミは一人見滝原を歩く。

 帰ってユウに慰めてもらおうとおもいながら、歩くマミ。

 

「マミさん!」

 

 声が聞こえて、振り返った。

 走ってきたまどかは、肩で息をしている。

 喋れないのか、胸を抑えて息を整えようとするまどか。

 

「だ、大丈夫? 鹿目さん……」

 

「マミさん! さやかちゃんが、グリーフシードを見つけて!」

 

 その言葉に、マミは眼を見開く。

 大体は理解できた。

 ここにさやかが居ないという時点で確実だろう。

 

「どこにいるの!?」

 

「病院の駐輪場です、キュゥべぇと一緒にっ」

 

 急いでいかなければと焦るマミが、まどかを見る。

 いまだに息は荒く、今すぐ行ける状況で無いのがわかった。

 しかたないと理解すると、まどかにカバンを持たせる。

 うむを言わさず持たせると、少し混乱しているまどか。

 

「ごめんなさい、急ぐわよ!」

 

 マミはまどかの首とひざ裏に手を回すと、足の裏に力を込める。

 

「400%!!」

 

 走り出すマミの速度は、異常だった。

 まどかの見る景色は流れるようでもある。

 抱えたカバンを腹の上に乗せると、まどかはマミの首に腕を回した。

 走りながらも、まどかの顔に視線を向けるマミ。

 

「こ、この方が安全だと思って」

 

 頷いて、笑顔を見せるマミ。

 病院につくまでそんなに時間はいらないだろう。

 

 

 

 

 

 病院についたマミ。

 まどかを下ろすと、カバンを壁際に寄せる。

 手をかざし結界の中に入ろうとして、気づいた。

 

 ―――魔女が出たら絶対私を呼ぶこと。

 

 ほむらの言葉が頭をちらつくが、首を横に振る。

 

「(魔女一体相手にわざわざ呼んで、嫌われるのは嫌だものね)」

 

 中に入ろうとするマミ。

 

「私も連れて行ってください! さやかちゃんが心配なんです」

 

 その言葉に、困りながらも頷く。

 ここで余計な時間を割く方がさやかの身に危険が及ぶと判断した結果だ。

 中に入るとあたり一面がお菓子だらけなのに気づく。

 まどかの手を取って進む。進みながら気づいたことがあった。

 

『キュゥべぇ聞こえる?』

 

 テレパシーを使って語りかけるマミ。

 

『聞こえているよ。まだ魔女は生まれていないけれど……ゆっくり来てくれ、魔女を刺激しないように』

 

『わかったわ』

 

『マミさ~ん!』

 

 さやかの声が聞こえて、改めて安心するマミ。

 キュゥべぇが後ろのまどかにも中継しているようで、まどかもホッとした表情をしている。

 

『すぐ行くからね?』

 

『はい!』

 

 テレパシーを切ると、まどかを連れて歩いていくマミ。

 しっかりと手を握りしめて、まどかを横につけるようにあたりを見まわす。

 本当はもう一度“お姫様だっこ”をして連れて行きたいところだが、あのままで結界内を走るのは危険だ。

 自分と違ってまどかは人間なのだから。

 

「あの、マミさん」

 

 横のまどかが、歩きながらマミに言う。

 どうしたの?と聞くと、まどかの表情がいつもと違うことに気づく。

 

「願いごと、私なりにいろいろと考えてみたんです。ほむらちゃんには怒られちゃうかもしれないけど……私って、昔から得意な学科とか、人に自慢できる才能とか何もなくて、きっとこれから先ずっと、誰の役にも立てないまま、迷惑ばかりかけていくのかなって―――それが嫌でしょうがなかったんです」

 

 まどかの言いたいことは痛いほどわかった。

 誰かの役に立てない、必要とされない自分。現状が恐いのだ。

 いつか誰からも必要とされなくなるんじゃないかという不安。

 

「でもマミさんやほむらちゃんと会って、誰かを助けるために戦ってるのを見せてもらって、同じことが私にもできるかもしれないって言われて―――何よりも嬉しかったのはそのことで」

 

 徐々に髪に隠れていくマミの表情。

 

「だから私、魔法少女になれたらそれで願いごとは叶っちゃうんです。こんな自分でも、誰かの役に立てるんだって……胸を張って生きていけたら、それが一番の夢だから」

 

 顔を上げたマミには、わずかに喜びの感情がある。

 だけどそれ以外にも少し困ったような表情も見えた。

 少しわからなくなるまどかだが、マミが話を始める。

 さきほどまで急ごうと言っていたのに歩みを止めるということは、そこまで重要な話なのだろう。

 

「その話は帰ったらしましょう―――もしかしたら後輩になるかもしれない子にこう言うのも酷なんだけど、魔法少女は……そんなに良いものじゃないわ」

 

 少し、マミはナイーブになっていた。

 魔法少女の仲間、それも自分を慕ってくれる魔法少女が生まれるなんていうのは嬉しいことだ。

 しかし心のどこかで考えてしまった。まどかも“彼女のように”自分から離れて行ってしまうのではないのだろうかと、考えてしまう。

 今は一人じゃない。セラフィムやユウも居る。

 それでも、魔法少女として誰かといるというのは恐いのだ。

 

「行きましょう」

 

「あっ。はい!」

 

 マミはまどかの手を引いて走り出す。

 とんだタイムロスだが、問題は無いだろう。

 現れる使い魔は全て銃で倒しながら進んでいく。

 

「(すごい! マミさん、やっぱり魔法少女は誰かのための……)」

 

 その中で、まどかは魔法少女への憧れをさらに増していくのだった。

 一際大きな扉を打ち破ると、巨大な広間に出るマミとまどか。

 二人の視界に映ったさやかとキュゥべぇは、巨大なお菓子の影に隠れていた。

 そばに寄るマミとまどか。

 

「お待たせ」

 

「はぁ、間に合ったぁ」

 

 安心したように息をつくさやか。

 

「気をつけて!出て来るよ!」

 

 キュゥべぇの声と共に、孵化した魔女。

 いつもの魔女と全く違う。

 その魔女は小さな人形だった。

 

「今回は楽かしら?」

 

 マミは二人と一匹から離れて部屋の中央に立つ。

 落ちてくるその人形のような魔女をにらみつける。

 

「悪いけど―――速攻で決めさせてもらうわ!」

 

 一歩踏み出す。その瞬間、勢いよく跳んだマミは魔女を蹴り上げた。

 上空に吹き飛ぶ魔女相手に真下からマスケットを撃つ。

 マミはさらに跳ぶと、魔女を掴んで地面へと放り投げた。

 やわらかい体だからか、ダメージは無いように思える。

 華麗に着地したマミ。地面に落ちている魔女に銃を当てて、トリガーを引く。

 

 弾丸からリボンが伸びると、魔女を絡めて高くへと持ち上げる。

 マミは離れると、ライフルを構えた。

 ライフルが巨大な大砲へと変わる。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 激しい音と共に、銃弾が魔女に直撃。

 爆発と共に爆煙をまき散らした。

 いつもの紅茶を飲むモーションすら忘れてマミは考えている。

 

「(鹿目さんが魔法少女になる理由。もっともらしいけれど納得できないわね……デメリットがわかっていないわ。戦いの痛みや辛さを)」

 

「マミさん!」

 

 まどかの怒鳴るような叫び声。

 そんな声を聴くのが初めてで、驚いた。

 だが目の前にいるのはまどかでもさやかでもなく、黒い体と白い牙。

 茫然とするマミ。

 

 魔女は―――口を閉じた。

 

 肉が千切れ、骨が砕けるような音がして、魔女は長く黒い体を持ち上げる。

 魔女の口から宙吊りになるマミ。

 その瞬間、上にある別の入り口から、ほむらが現れた。

 さやかとまどかの隣に着地したほむらが、吊られたマミを見ている。

 

「あっ……あぁっ……転校生ぃっ!」

 

 さやかが、ほむらの胸倉をつかみ上げた。

 

「あんた、マミさんが死ぬまで見てたんじゃ……っ!!?」

 

 黙るさやか。ほむらの胸倉から手を離すと、信じられない物を見たと言う顔をする。

 まどかも同様だった。それも当然だ。

 今までずっと感情を抑えるように鉄仮面をつけていたほむらが―――泣いていた。

 

「そんなっ、助けられなかった……言ったのにっ! 私に連絡しなさいって……なんでよっ!」

 

 地面をたたくほむら。

 まどかもさやかも、言葉をかけられなかった。

 今のほむらを慰めることができるのは、魔法少女くらいだろう。

 魔女はマミの首を体を噛み千切り頭を食う、次はマミの体を食べ始めた。

 

「巴さんっ、どうしてよ……」

 

 こうなると全てを後悔してしまう。

 マミをお昼ご飯に誘えなかったことも、彼女の家に行くことができなかったのも、自分の家に招待できなかったことも、全部が全部を後悔し始める。

 ソウルジェムが濁っていくのを感じるほむらが、顔を上げた。

 涙を袖で拭うと、盾からグリーフシードを出してソウルジェムを浄化。

 

 お菓子を飛び越え、その前に着地すると後ろにグリーフシードを投げる。

 背後で、キュゥべぇがグリーフシードを食う。

 魔女はマミの体を食い終え舌を出してペロリと口の周囲を舐めた。

 残ったのはマミの鮮血のみ。

 

「……あああぁぁぁぁっ!!」

 

 常にクールなほむらからは想像もつかない咆哮。

 それと共に放たれるロケットランチャーRPG7。

 それは魔女の鼻先に直撃する。

 だがその程度で倒れる魔女ではない。

 

「(巴マミ……いいえ、巴さん。例え次の世界に行っても貴女は貴女ではないのよね)」

 

 サブマシンガンを撃ちながら魔女の攻撃をよけていくほむら。

 彼女は力を使わない。この魔女には、その価値すらない。

 

「(一つだけ言えることがあるわ。私はこの世界の……この世界の……)」

 

 弾切れになったサブマシンガンを捨てると、その手に二挺の大口径マグナムを持つ。

 

「巴マミが―――嫌いじゃなかったわ」

 

 トリガーを引こうとしたしたほむらだったが、魔女の動きが止まる。

 魔女の体から、不快な音がした。

 

「それを聞いて安心したわ」

 

 声が、あたりに響く。それは聞きなれた声で、いつも通りの優しい声。

 魔女の黒い頭であろう部分から、血が噴き出した。

 そこから出てきたのはまず“腕”だ。

 二本の腕が跳びだすと、ぎちぎちと音を立てて裂けていく魔女の頭。

 

「フフフッ……これから嫌われても、まだ耐えられそうよ」

 

 裂けた傷口から出てくるのは、真っ赤な鮮血に濡れた金髪の少女。

 

「と、巴マミ?」

 

 傷口から這い出た少女は、魔女の血に濡れた体を振りながら笑う。

 血まみれの彼女が笑うというのは不気味で、人外とも思わせるような雰囲気であった。

 しかし人間であるとも言い切れない。

 彼女は自分たちの前でばらばらにされて喰われたのだ。

 

「言うつもりだったけど、秘密がバレちゃったわね―――学校の皆には内緒よ?」

 

 真下の魔女は、まだ生きている。

 腕を振り上げたマミが、強く拳を握り締めて魔女に叩きつけた。

 地上に勢いよく叩きつけられた魔女は、地面を抉って埋まる。

 

 ―――私、ゾンビです。

 

 

 




あとがき

最後の部分、ギャグにするかカッコ良くするかで悩んだんですけど、後者にしました。
ギャグだと某SSとだいぶ被るので(汗
マミ「くびがぁぁぁっ!くびがぁぁぁぁっ!」
ってなことにwww

とりあえずゾンビだとバレたマミさんの話が次回になります!
ここからだいぶいろいろ絡んであげくにシリアス展開も多めになったり(汗
まぁまどか☆マギカ本編と同じですね。ここからダークなシリアス展開。

では、次回をお楽しみにしていただければ嬉しいです♪
感想お待ちしてます♪

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