これは魔法少女ですか?~はい、ゾンビです~   作:超淑女

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8「う~ん、ゾンビかな?」

 暁美ほむらの頭では、理解できなかった。

 現状が、今―――目の前で起きた光景がまったくと言っていいほど理解できなかったのだ。

 巴マミは、首を食いちぎられた。

 挙句に、身体を噛まれて砕かれて、食われたはずだ。

 

「はぁ~ぁあっ……まさかあんな風に殺されるなんて思ってもみなかった。痛かったわ」

 

 地面に埋まっている魔女の頭から降りて、マミは身体を伸ばす。

 血まみれの彼女に、ほむらは恐怖を抱いた。

 

「ま、マミさん?」

 

 つぶやいたのは鹿目まどか。口を開いたまま固まっている美樹さやか。

 この中の誰もが状況を理解できていない。

 いや、マミにだけはできている。

 なんとか整理して、ほむらは頭の中で考えをめぐらせた。

 

「(魔法少女の真実を知っている……どころの話じゃないわよ。この巴マミ、本物のゾンビってこと?)」

 

 ほむら自身の頭も混乱している。

 前へとやってきたマミ相手に、半歩下がってしまうほむら。

 苦笑するマミが、ため息をついた。

 その瞬間、マミの背後にいた魔女が動き出す。

 裂けた頭から血を吹き出し、その大きな口を開いてマミに噛みつこうとした。

 

「マミさん!」

 

 さやかの声が聞こえて、振り返るマミ。

 同時に、拳を突き出した。

 その拳は魔女の鼻先に直撃―――吹き飛ぶ魔女が離れた壁へとぶつかる。

 

「600%!」

 

 地面を蹴るマミが、衝撃と共に魔女へと拳をぶつけた。壁へと埋まる魔女。

 制服姿の彼女のその動きは不自然そのもの。

 魔法少女になっていない状態で叩きつけたマミの腕は、破裂するようにバラバラになった。

 

「ひっ!」

 

「うっ」

 

 息をのむさやかと、口をおさえるまどか。

 人の腕が破裂するさまを見るなんてことは、ほむらにとっても初めてだ。

 吐き気を抑えてマミを見ていると、マミの腕はいつのまにやら再生している。

 マミが変身と同時に巨大なマスケット銃を召喚。

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

 高火力の砲撃により、魔女は爆散し倒れる。

 黄色い光を纏いながら変身を解除するマミの制服はすっかり綺麗になっていた。

 辺りの景色も一変して、元の駐輪場へと戻る。

 

「ま、マミさん……」

 

 つぶやくさやかを見て、マミはいつも通りの笑みを見せた。

 その後、まどかを見るが真っ青な顔で今にも昼食を吐き出しそうだ。

 変身を解除するも、立ち尽くしているほむらの傍に寄ると、マミはハンカチを渡した。

 

「涙を拭いてね、私のために泣いてくれるなんて嬉しいわ」

 

 そのハンカチを受け取るほむらだが、涙を拭かずただ立っているだけだ。

 茫然としている彼女たちを見て、マミが笑う。

 

「せっかく生きてたのに反応が薄いわね」

 

 茶化すようにそういうが、無言と沈黙。

 うっ、と少し居づらそうにするマミ。

 

「まぁ、死んでるんだけどね」

 

 背中を伸ばすマミが、座り込んでいるまどかとさやかの腕を掴んで立たせる。

 二人の服を軽くたたいて埃を落とすと、うつむく二人を見て頷く。

 ほむらの方を見たマミ。ようやく、ほむらが動き出した。

 マミの前で立ち止まるほむら。

 

「黙っててごめんなさい。理由があってゾンビになったんだけど、少し言いづらくて―――」

 

 パァンッ―――と、乾いた音が響いた。

 

 マミの頬を、ほむらが平手打ちしたのだ。

 唖然としているマミ。

 前髪に隠れて見えないほむらの表情。

 

「……ぃで……ふざけないで!」

 

 うつむいたまま大声を出すほむら。

 ほむたの足元に、いくつかの滴が落ちた。

 立っているマミが、ほむらの顔を見る。

 

「い、生きてたから良かったものの……死んでたかもしれなかったのよ!?」

 

 そんな風に言われるのが新鮮で、うれしくなるも、マミは素直に喜べず。

 

「死んでるんだけどね」

 

 なんてことを言って茶化してしまった。

 顔を上げるほむらは、怒るように泣いている。

 そんなほむらを見るのが初めてで、今度はマミが唖然としてしまった。

 

「喜んで良いのか、助けられなかったことを悔やむべきなのかっ……わからないじゃないっ!」

 

 ほむらが、マミの傍まで歩いて、マミの手を握る。

 両手の温もりが伝わり、なんだか心まで温かくなるマミ。

 

「マミさんっ」

 

 マミの背後から、マミに抱きついたのはさやかだった。

 身長はさやかの方が高いので、どことなく違和感もある。

 しかし、生きていた。ということでここまで喜ばれるのは嬉しいことだった。

 まどかを見ると、まどかも笑顔を向けてくれる。

 

「良かったです」

 

 前からほむらが手を握って、後ろからさやかが抱きついて、そんな光景を笑顔で見るまどか。

 そんな異様な空間ではあるが、マミは安心して笑うことができた。

 なんとなく役得だとは思うが言えば後が怖いので黙っていることにする。

 

 

 

 

 

 四人はその後、ほむらの家へとやってきた。

 さやかも、ほむらへの警戒をだいぶ弛めたのか睨んだりはしない。

 小さなボロアパートの居間に座る三人。

 ほむらがお茶を四つ持ってくるとそれぞれが一息ついた。

 

「さて、最初の話としては……私かしら?」

 

 そう言ったマミの言葉に、三人が頷く。

 

「どこから話そうかしら……やっぱり死んだところかしらね」

 

 ぽつぽつと、マミは話を始める。

 白銀の髪の少女に自分が話しかけたこと、刺されて殺されたこと、ゾンビにしてもらったこともだ。

 冥界のネクロマンサーだということも一応話しておく。

 全員半信半疑のようだったが、マミが生き返ることを思い出してか頷いた。

 

「この程度かしらね」

 

「冥界のネクロマンサー“ユークリウッド・ヘルサイズ”……」

 

 つぶやくほむら。顎に手を当てて何かを考えているようだ。

 

「このぐらいね」

 

 マミがそう言うと、頭を抱えているさやか。

 結構長い話だったから覚えきれなかったのかもしれない。

 一時間は話していただろうか?その間にメガロなども入れたせいで新しい単語だらけだった。

 

「マミさん、そんなことするんですね」

 

 その言葉に、ギクッと体を振るえさすマミ。

 確かに、ユウを踊りで誘おうとするなど意味不明なことをした。

 これは失態だと、苦笑するマミ。

 

「もっと先輩らしいとこみせなきゃダメなのに、頼りなくなっちゃったかしら」

 

 そう言って笑うマミ。

 

「私は巴さんに、頼るに値されてないみたいだけど」

 

 隣でほむらの言葉を聞いたマミが、苦笑してそっぽをむく。

 少しだけ視線をほむらに向ける。

 ほむらはジト目でマミをにらんでいた。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「謝るぐらいなら心配させないで」

 

「(これは、デレているのかしら?)」

 

 心の中で、思いながらもこれ以上茶化したら今度は張り飛ばされると思って黙っていることにした。

 まどかは嬉しそうに笑っていて、さやかは苦笑している。

 

 その後も、ほむらに合間に怒られながら話を進めて行った。

 話したのは今後のことだ。これからも一緒に敵を倒していくということ、魔法少女二人のタッグを続けていくことだ。

 マミは『こんなゾンビと一緒で良いの?』ということを伝えたが、ほむらはそっぽを向きながらも、良い―――そう答えた。

 それを聞くと、マミは嬉しそうに頷く。

 

 その後、同居人のこともあって帰ったマミ。

 ほむらの家に残ったのはほむらを含めて三人。

 ふと、さやかがつぶやく。

 

「あたし、少し気持ち悪いと思っちゃった……死なないなんて」

 

 驚愕からか、眼を見開いて驚くまどかとほむら。

 さやかは両手で頭を押さえている。

 

「私、嫌な子だよね。でも、あんな風に殺されても生きてて、全然平気な感じで……」

 

「さやかちゃん」

 

 まどかが気遣うような仕草を見せるが、さやかは黙って立ち上がった。

 俯いているさやかの表情は見えない。

 ただ、ショックなのだろう。あこがれたマミが“死体”だったというのは……

 

「でも、マミさんはマミさんだよ……」

 

「ごめん、整理させてもらうわ」

 

 そう言うと『お邪魔しました』も無くほむらの家を出ていくさやか。

 残ったのは、まどかとほむらの二人。

 二人共さやかのこともあって複雑だ。

 

「鹿目まどか」

 

 その言葉に、まどかがほむらを見る。

 まっすぐとした視線に顔を背けそうになるも、眼を合わせた。

 静かな空間で、ほむらは口を開く。

 

「巴マミはともかく、あれが戦いよ。私ならばあれで死んでいるわ」

 

 そんな言葉に、背筋が冷える。

 首が噛み斬られて死ぬ。そんな死に方は絶対嫌だ。したくない。

 怯えからか、体を震わせるまどか。

 それが正しい反応だ。

 

「良いのよ。私の言ってた意味、理解してくれたかしら?」

 

 ほむらの言葉に、まどかは震えながら頷く。

 あの光景を思い出すだけで、吐き気を催し息が詰まる。

 マミの前では堪えていたが、限界だ。

 

「トイレ行く?」

 

 頷くまどかを支えながら、ほむらはまどかをトイレに案内する。

 トイレの扉の前で立っているほむらは、天井を見上げた。

 魔法少女がゾンビだなんて皮肉、笑ってしまう。

 

 ゾンビがゾンビになったようなものだと、ほむらは可笑しそうに溜息をついた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 家にて晩御飯を食べ終えたマミとユウとセラ。

 食後のお茶を飲んでいるユウが、静かに湯飲みを置いた。

 たった今、マミは自分がゾンビだと魔法少女の仲間にバレた話をしたばかりだ。

 

「細かい肉片になっても蘇るなんてゴキブリどころではありませんね」

 

 相変わらずセラは手厳しいな、と思いながら苦笑するマミ。

 

『マミは良いの?』

 

 メモ帳に書かれた言葉を見て、困ったように笑う。

 少しさみしそうにしながら紅茶を一口飲むと、静かにティーカップを置く。

 

「良いも何もないでしょ……バレちゃったんだから」

 

 難しい顔で眉間に皺を寄せるマミ。

 セラの雰囲気も、わずかにやわらかくなっているように見える。

 なんだかんだ言ってマミが悪い人間では無いということは知っているからだろう。

 時たまユウに抱きつこうとして壁などに血を飛び散らせるのは問題だとは思うが―――悪いゾンビではない。

 

「ただ、魔法少女の仲間は大丈夫なんだろうけど……一般人の子二人がダメそうね」

 

 困ったように笑うマミ。

 

「まぁ、もともとぼっちだった貴方には私とヘルサイズ殿ぐらいが丁度良いんじゃないんですか?」

 

 彼女なりに慰めてくれてるのだろう。

 それを察したマミが嬉しそうにほほ笑むと、セラはそっぽを向いた。

 ユウはお茶を一口飲む。

 手元のメモ帳を見る。

 

 ―――下僕はずっと一緒だから。

 

「うん!」

 

 マミは嬉しそうに返事をして頷く。

 彼女は彼女なりに、心を落ち着かせていた。

 ゾンビとネクロマンサーと吸血忍者。

 異色の三人。

 一人も人間が居ない中、落ち着いた雰囲気で、人間のような三人は人間のように話をしていた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 翌日の鹿目家にて、まどかの苦しそうな声が聞こえる。

 トイレから聞こえる声に、母親が扉を叩く。

 

「まどかっ大丈夫なのか!?」

 

「だ、大丈夫……学校には行けるから……うっ」

 

 食事中、突然トイレへとかけこんだまどか。

 その理由を彼女の家族は知らない。

 魔法少女、魔女との戦い、なにより……巴マミの死。

 

 いや、正確には元々死んでいたから違う。

 ひどく残酷な考えと表現だが言うなれば解体。

 それも魔女の胃の中で再度合成して復活。

 挙句に自ら腕を吹き飛ばすような威力の攻撃。

 到底人間とは思えない。

 

「私……嫌な子だ。」

 

 まどかは、つぶやいた。

 

 

 

 

 

 登校最中、マミが歩いているとさやかと仁美が見える。

 まどかが居ないようで、少し早歩きをして二人の元へと行く。

 すると、さやかが仁美に何かを言って走って学校へと行ってしまった。

 昨日の雰囲気から大体察しはついているが、まだ気持ちの整理がついていないのだろうと思うことにする。

 振り返った仁美が、マミを待つ。

 二人が横に並んで歩き出す。

 

「わかってはいましたが、バレたんですね」

 

「ええ……ところで、志筑さんは私がどういう存在かわかってる?」

 

 冥界人である。と言った志筑仁美に聞くと、仁美は意味ありげに笑った。

 それだけで十分だ。

 

「ゾンビで魔法少女でしょう?」

 

 その言葉に頷く。

 

「冥界人として、その……私ってどうなの?」

 

 良い質問です。と言い頷く仁美は、手を出した。

 

「魔法少女のことは良くわかりませんが、メガロはあまり好きではありません。個人的に争いは嫌いなもので」

 

 そう言うと、ほほ笑む。

 冥界人は総じて顔が良いのか、その姿はとても様になっていた。

 見惚れかけるマミだが、頭を軽く叩いて正常に戻す。

 

「さて、これからどうしましょうかね」

 

「巴さん、おはよう」

 

 そんな声が聞こえて仁美が居る方向と反対の方向を見ると、そこには暁美ほむらがいた。

 仁美も挨拶をすると、ほむらは軽く返す。

 

「暁美さんおはよう。今日はどうしたの?」

 

「たまたま見つけただけよ」

 

 そう言うほむらだったが、マミは何となく察することができた。

 きっと落ち込んでると思ったのだろう。

 暁美ほむらは優しい子だから、きっとそのぐらいの気遣いはしてくれる。

 

「あらマミ先輩、今日は日傘を持ってきてないんですのね」

 

 仁美の言葉に頷くマミ。

 空を見上げると、今にも雨や雷が振りそうなどんよりとした雰囲気だ。

 今日は天気予報も見ずに出てきてしまった。

 

「お昼から晴れますよ」

 

 その言葉に、マミは無言で死を覚悟した。

 

「(ガイアよ、これが貴方のなさることですか)」

 

 心の中で神を呪うも、もう帰っているような時間はない。

 カッサカサになるだろうけれど多少の我慢は必要かと頷く。

 そんな時、隣のほむらがカバンから折り畳み傘を出した。

 

「使えると思うわ」

 

 嬉しそうな顔で、それを受け取るマミ。

 ありがとう。と礼を言うとほむらは気恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 そしてふと、気づいた。

 

「志筑さん、さっきはなんて?」

 

「マミ先輩と言ったんですのよ?」

 

 なんだか新鮮で嬉しくなりながらも、先輩風を吹かせるために平常心で頷く。

 でも顔のニヤケを抑えるのに若干苦労もする。

 

「私とマミ先輩の……秘密を共有する仲ですもの」

 

 冥界人のことは秘密と言われた。

 確かに秘密を共有するということになると、頷く。

 すると、太股に痛みが奔った。

 案外痛く、顔をしかめるマミ。

 

「どうしたんですの“マミ先輩”?」

 

 後半を強調する仁美に疑問を感じるも、なんでもないと答える。

 なぜか痛みを感じる太腿をさすりながらも歩くマミ。

 隣のほむらと仁美。三人で話をし登校していく。

 こんな平凡な日常が、マミは愛おしい。

 

 ―――帰ってユウに癒されたいわ。

 

 そう思いながら、マミは痛む太股を擦る。

 

 

 

 




あとがき

さてさて!シリアスな雰囲気もありながら、その中にいろいろ入れながらです!
次回はまどか☆マギカでいう第四話になりますかね~
いろいろ大変です。はい、いろいろと(汗

まだまだ終わりそうにないですがおつきあいください!
では、感想などお待ちしてます。次回をお楽しみに♪

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