それでは楽しんでもらえたらうれしいです。
~~ 交換日記(SNS) ~~
まほまほ「みーたんがまえにいってた、あたらしくくるこってあしたからだよね?」
紗季 「そうだけど、あんたはちょっとは自重しなさいよね」
湊 智花「あはは。確かに私の時もいっぱい質問してきたもんね」
ひなた 「おー? 新しい人くる?」
あいり 「そういえばひなちゃん、その時寝てたから聞いてないかも……」
そして迎えた始業式の日。
始業式を後ろの方で受けた後で職員室を訪ねた僕は今、担任の先生と教室へ向かって歩いているところだ。
「いやー、でも東雲はかわいいじゃん、ホント」
教室へ向かう道すがら、久しぶりに着るスカートがスースーすることが気になりつつ歩いていると、ニヤリと笑いながら隣から話しかけられた。
「それ、うれしくないですからね」
この悪戯っ子のような笑顔を見せている女性が、篁(たかむら)先生といって今日から僕の担任の先生になるらしい。らしい、というのはこの人が全く大人に見えないからだ。
150cm台の僕とあまり変わらない身長に化粧っ気のない顔、明るく無邪気な性格のせいで、もしアキ姉と一緒にいたら同い年くらいに見られるんじゃないかとさえ思ってしまう。
「でも、もっかい言っとくけどこの学校で東雲が男だって知ってるのは、あたしと保険室の先生だけだからな。気をつけるんだぞ」
「わかってますよ」
そしてセリフの通り、この人は僕の正体を知っている数少ない内の1人だ。驚くことに、この僕の性別偽装は先生達にも秘密にされているらしく、唯一の例外が篁先生と保険の先生だという訳だ。
「そういや、東雲はバスケするんだろ? うまい?」
「……そこそこは」
自分としては上手いつもりなんだけど姉さん達には全然かなわないし、あんまり姉さん達以外とはやったことがないので、よくわからないから曖昧な返事になってしまう。
「そっかそっか。なら、すぐ友達ができそうだな」
「ん?」
篁先生のセリフの意味がわからず首をひねるけど、先生は説明してくれる様子はなかった。
「さて、教室に到着だ。これを開けたらいよいよ女の子生活の始まりだけど、心の準備はできてる?」
それからも話しているうちに着いたらしく、6-Cとかかれた教室の前で立ち止まる。ドアに手をかけ振り向きながら聞いてくる篁先生に僕は苦笑いを返す。
「ここまで来て逃げれませんよ。やれるだけやってみますよ」
「にゃはは、じゃあ行くよ」
そう言って篁先生はドアを開け、教室に入っていく。深呼吸を1つして、僕も篁先生の後に続いて教室に入る。すると、騒がしかった教室がヒソヒソ声くらいに静かになった。
「なんだ、編入生って女かよ」
「いいじゃない、かわいいんだし」
「なんかモジモジしてて変じゃん」
「きっと恥ずかしがり屋なのよ」
教室中の視線が僕に集まっているのを感じる。近くの方からヒソヒソ声が聞こえてくるけど、僕は女でもなければ、特に恥ずかしがり屋という訳でもない。モジモジしているように見えたのは、きっとスカートが気になって押さえる仕草がそう見えたんだろう。
「はい、静かに。この子が前に言ってた編入生だよ。じゃあ自己紹介してくれるかな?」
教団の前に立った篁先生が声をかけるとさすがに教室は静かになり、僕に自己紹介をすすめてくる。僕はホワイトボードに自分の名前を書いてみんなの方に向き直る。そう、ホワイトボード。さすがは私立ということか、黒板じゃなくてホワイトボードが設置されているのだ。
「初めまして。東雲 由紀(しののめ ゆき)です。父さんの都合で慧心に編入してきました。よろしくお願いします」
そんななんの捻りもない自己紹介をして頭を下げる。ここでみんなの気を引けるようなことができたらよかったけど、生憎と僕にはそんなレパートリーはなかった。頭をあげて先生の方を見ると、少し呆れたような顔をされてしまう。
「それで自己紹介は終わり? なら、どうせ大した話はないからこのホームルームは東雲への質問タイムにするか」
きょとんとする僕を脇に置いて、篁先生は話を進めて行ってしまう。
「はーい、じゃあ東雲に質問のある人?」
先生の声に合わせて、ハイハイとあちこちから手が挙がる。それを先生が当てていき、それに僕が答える。
「何人姉妹ですか?」
「姉が2人います」
「好きな食べ物ってなんですか?」
「果物ならリンゴが1番好きです」
「得意なことってありますか?」
「ありますよ。バスケです」
「「バスケ!」」
いくつかの質問に答えている時、僕がバスケと言った瞬間に驚いて立ち上がった生徒が2人いた。1人はツンツン頭の男子で、もう1人は栗色の髪の毛が綺麗なツインテールの女の子だ。2人とも心なしか眼がキラキラしているように見える。
「まぁ、真帆も竹中も一先ず座れ。じゃあ、質問タイムはこれくらいにして、後は東雲の席をどうするかだけど……」
「ハーイ! みーたん、あたしの隣が空いてまーす」
先生が言い終わるや否や、さっきの女の子がココ、ココと指をさしながら手を挙げる。
「まあそこが妥当だろうな。じゃあ東雲の席はあそこな」
僕の席は、よっしゃーとガッツポーズをするその子の隣になったらしい。僕が席に向かう間もずっとこっちを見てくるので、少し気遅れしつつ席までたどり着く。
ちなみにこの学園の机はホワイトボードに続き、今までの学校とは違って固定式だ。しかも、2人で1つの机を使う造りで、僕達の席は1番窓際の列の後ろから3番目で、僕の席は通路側だ。
「よろしくね」
席に着くときにさっきの女の子に声をかける。すると、待ってましたとこっちに身を乗り出してくる。
「ねぇねぇ、バスケするんだよね? 上手い?」
なんだか少し前に同じ質問をされたような気がする。
「えーと……」
「まぁ真帆、先にこっちの話を聞け。すぐ終わるから、その後に存分に聞くといいから」
僕が質問に答えようとしたら、篁先生から注意が入った。女の子が渋々諦めたのを確認してから、篁先生は明日からの諸注意なんかを話し始めた。それは先に言っていた通り、10分程度で終わった。
「じゃあこれで今日は終了だ。各自、気をつけて帰るように。あと、真帆はほどほどにしとけよ」
そう言い残して、篁先生は教室を出て行った。始業式の今日はこれで終わりなので周りが帰り支度を始める中、ずっとおあずけ状態だった女の子がついに解放される。
「で、バスケ上手いの? どれくらいやってるの? もっかんより上手い?」
「も、もっかん?」
最後のよくわからない質問と一気にきた質問の量に戸惑ってしまう。
「もう、真帆。もう少しゆっくり質問しなさいよ。それに自己紹介もまだでしょ」
すると、前の席の子が振り向きながら女の子に注意をしてくれる。
「ごめんなさいね。私は永塚 紗季。そっちのうるさいのが三沢 真帆っていいます。よろしく」
丁寧な話し方で自己紹介をしてくれたのは、長い三つ編みと委員長的な雰囲気が特徴の女の子で永塚さんというらしい。
「ぶー、別にいいじゃん。まぁ確かに名前も言わなかったのは、まずかったかもだけどさー」
永塚さんに注意されて不貞腐れているのが、三沢さん。栗色の綺麗な髪をツインテールにしていて、さっきから僕に興味津々の様子の女の子だ。
「僕は別にかまわないよ。まぁ、名前くらいは教えて欲しかったけどね」
「そんなことより、ユッキーはもっかんよりバスケ上手いの? どうなの?」
僕が少し笑いながら言うと、三沢さんはこのことは不利だと感じたのかさっきと同じ質問を聞いてきた。と、質問に答える前に気になったことが1つ。
「ユッキーって僕のこと……かな?」
「そ、由紀だからユッキー。変?」
確実に僕のことだとわかっていたけどいきなりあだ名をつけられたので一応聞いてみると、逆に聞き返されてしまった。
「別に変だとは思ってないよ。いきなりだったからびっくりしただけ」
「じゃあ、決定ね」
にっこりと笑う三沢さんは満足気だった。
「それで、逆に聞くけど『もっかん』てなにかな? それがわからないと質問に答えられないんだけど?」
「うぅぅ、私のことです……」
僕が三沢さんに質問をすると、今度は後ろの席からなにやら照れた様子で声が聞こえてきた。声がした方に振り向いてみると、後ろの席には髪を肩まで伸ばして片側でくくっている子が照れた様子で俯いていた。
「湊 智花です。よ、よろしく」
「あ、こっちこそよろしく」
俯いていた顔を上げて軽い会釈付きで自己紹介をしてくれた湊さんに、僕も軽く会釈して返す。
「もっかんは我らがバスケ部のエースで、チョーうまいの」
「もう、真帆。それは大げさだよ」
つまり、『もっかん』っていうのは湊さんのあだ名で、バスケ部エースより僕が上手いかってことを聞きたかったって訳だ。
「『我らが』ってことは三沢さんもバスケ部なの?」
ふと思ったことを聞いてみると、三沢さんはにっこりと笑って答えてくれた。
「そうだよ。あたしたち5人はバスケ部なんだ」
「5人?」
三沢さんに湊さん、そこに話しの感じから永塚さんを加えてもあと2人足りない。けど、この疑問の答えはすぐわかることになった。
「おー、ひなもバスケ部」
「わ、私は香椎 愛莉っていいます。私もい、一応バスケ部です」
そう言って話しに加わってきたのは、僕の席から見て左後ろと左前の子たちだった。先に自己紹介をしてくれた香椎さんは、左前の席の子で人見知りが激しいのか緊張した様子でオドオドしっぱなしだった。
それにしても香椎さんはいろいろ大きかった。座った状態でも隣の永塚さんとは頭1つ分くらいの身長差があるのだ。立ったら見上げることになるんじゃないかな。他の大きいところについては、もしかしたらミキ姉クラスかもしれない、とだけ言っておくことにしよう。
「ほら、ヒナも名前、名前」
「おー、これはうっかり。ひなは、ひなた。袴田 ひなたです」
永塚さんに言われて、自己紹介をしてくれたのは左後ろの席の子だ。ふわふわの髪と小さな体のおかげでフランス人形みたいに可愛らしい子だ。
「2人ともよろしく。それにしてもバスケ部で席が近いんだね」
「そうだよ。友情パワーってやつでバスケ部全員の席が近いんだ」
三沢さんを挟んで前後の席でバスケ部が全員固まっているのに感心すると、三沢さんは胸を張って自慢げで、香椎さんや湊さんは苦笑いをしていた。
ん? 全員?
「バスケ部全員って、このクラスではってことかな?」
慧心の中等部のバスケ部は結構有名だし、こんなメジャーなスポーツなんだから小等部でだってそれなりには……。
「ん? これで女バスは全員だよ? この5人で慧心学園女子バスケ部なんだ」
「しかも、トモ以外は全員初心者だしね」
三沢さんと永塚さんの答えを聞いて、僕は驚きを隠せなかった。
バスケなんて有名なスポーツだし、だいたいどこの学校でも20人くらいはいるもんだと思っていた。聞けば、男バスはこの前地区大会で優勝するくらいの実力があるらしいけど、女バスは部そのものがなくて三沢さん達が去年創ったとのことだった。
「と言う訳で、ユッキーもバスケするなら入らない? 女バス」
ニコニコと笑っている三沢さんからの誘いに、普段なら二つ返事で答えるところを少し迷ってしまう。
男だということを隠すなら、なるべくボロをだしそうな機会を減らすべきだけど、少しでもたくさんの時間バスケをしたいから部活に入りたいとも思う。
「……ぜひ、入れてほしいかな」
結局、バスケをしたい誘惑に負けて入部することにした。ちょっと考え込んでいたので、みんなが不安そうにしていた顔を嬉しそうな顔に変えてくれる。
「でも、いいの? 私たちは東雲さんが入っても6人だから……その」
嬉しそうにしてくれたのも束の間、湊さんは申し訳なさそうにして何かを言いかけるけども途中で途切れてしまった。けど、なにを言いたいのかはピンときたので、安心させてあげるためにもちゃんと言っておいてあげよう。
「大丈夫だよ。僕はバスケができてたら、それで結構満足だから」
僕がそう言うと、湊さんはホッとした顔をしてくれた。
「おー、新しいお友達ができた」
「そ、そうだね。私も女の子なら平気だし、バスケ部に入ってくれるなら嬉しいな」
香椎さんのセリフにはグサッとくるものがあったけど、2人とも歓迎してくれているようでなによりだ。和やかな雰囲気に包まれていると、それを乱す存在がいた。
「フフフ。けど、すんなり入れるわけではないのだ!」
突然イスの上に立って、不敵な笑みを浮かべながら三沢さんがそんなことを言い出す。
「あんた、突然なに言い出すのよ」
唖然とするメンバーを代表して永塚さんが聞いてみる。すると、三沢さんは僕をビシッと指差す。
「ユッキーの入部テストを行います!」
「……で、その内容は?」
永塚さんが呆れた様子で続けて聞くと、三沢さんは僕に向けていた指を湊さんに向けた。
「もっかんとの1対1。2人に勝負をしてもらいますっ!」
堂々と言い切った三沢さんは満足したのか、ストンとイスに座りなおす。そして、どう? と聞くようにみんなを見渡して首を傾げる。
「まぁ面白そうだし、別にいいんじゃない」
最初に永塚さんが賛成して、他の3人も特に反対ではなさそうだった。僕の方も断る理由はない。
「そういうことなら、エースに挑戦させてもらおうかな」
「お手柔らかに」
湊さんに向かって言うと、湊さんもちょっと笑いながら返してくれる。
「じゃあ、そうと決まれば早速体育館に移動しよう!」
次回、智花との1on1でバスケ描写がでますが、ちゃんと描けるかめっちゃ不安です。