それでは、楽しんでもらえたらうれしいです。
~~ ガールズトーク ~~
あいり 「真帆ちゃんたち、遅いね」
紗季 「そうね、ジュースを買いに行っただけにしては遅いわね」
湊 智花「どこか寄り道でもしてるのかな?」
あいり 「ところで由紀ちゃんのあれ、どうしよう?」
紗季 「こんなことになっちゃったし、これが終わるまで待った方がいいんじゃないかしら」
湊 智花「そうだね、試合が終わってからがいいかも」
ひなた 「おー、ひなも智花にさんせいー」
紗季 「じゃあ、真帆にもそう伝えておくわね」
「もっかんが転校してきた初めの頃は、なんか暗い雰囲気だし1人でいることを望んでるような感じだったから全然友達ができなかったんだ。あたしも最初の頃はユッキーの時みたいにいっぱい質問してたんだけど、答えが素っ気なくてだんだん話しかけなくなってったんだ」
「今の智花を見てたらそんな頃があったなんて想像もつかないね」
ホントだからね、とちょっと弁解する真帆。別に真帆の話を疑ってるわけじゃないけど、確かに今の明るくて誰にでも優しい智花しか知らない僕にはちょっと信じにくいことだった。
「それからしばらくして、急に体育の授業がバスケになったんだ。初めはあたしはバスケに夢中でもっかんのこと見てなかったんだけど、途中であたしと夏陽がケンカになっちゃって、それが大きくなって男子対女子で試合することになったんだ」
「夏陽って同じクラスの竹中君? 男バスキャプテンの?」
竹中君がキャプテンだということは男バスとの試合を聞いた時、紗季から聞かされていた。さらに真帆、紗季、それと竹中君は幼馴染で、2人はよくケンカしている、とも聞いた。これもそのうちの1つってことかな。
真帆は、そうその夏陽! と相づちを打って話を続けた。
「それで女子のチームにもっかんをみーたんが入れたんだけど、その時になにか耳打ちしたらもっかんの顔が急に変わってね。それからのもっかんはすごかったんだよ!」
顔をキラキラさせた真帆を見ていると、ホントに感動したんだなってことがわかる。
「夏陽なんて簡単に抜いてそのままシュート決めちゃうし、あたしたちがボールをもったらすぐパスをねだるし、男子のボールも自分でとってシュートしちゃうんだ。男子が1本シュート決める間に2本3本シュート決めて、めちゃくちゃかっこよかったんだよ」
「智花の実力なら、そりゃあちょっとやっただけの子なんて束になっても敵わないだろうね。でも、竹中君まで圧倒するのはさすがだね」
そう言いつつも、違和感も感じていた。智花はそんなワンマンプレーをするような子じゃないのに、と思う。むしろ、積極的にパスをだして『チーム』としてのバスケを楽しむ方が多いはずなのだ。
確かに僕との1on1みたいな状況になると、鬼気迫るというか急に攻撃的になることがあるけど、あの状態がずっと続いてた感じなのかな。
「そんなもっかんを見て、バスケってスゲ―って思って授業終わった後の着替えする時からもっかんにバスケについていっぱい話かけるようになったんだ。初めの方は無視されてる感じだったんだけど、次の日も、その次の日も話かけてたら今度はだんだん話すようになってくれてうれしかったな。それで気付いたらいつも一緒にいるようになって、自然に『友達』になってた」
ここまで話して少し喉が渇いたらしく、真帆は買ってきたジュースに口をつける。僕もそれにならって飲んでいると、ひとあし早く飲み終わった真帆が、「それでね」と前置きをしてまた話し始めた。
「友達になって、話してるうちになんでそんなにうまいのかって聞いたら前の学校でバスケ部だったことや、だけどもうバスケは辞めたってことを言ったんだよね。それを聞いたら、もっかんはあんなにうまいのにもったいないし、私ももっかんみたいにバスケしたいって思って一緒に女バスを作ろうって言ったみたんだ」
んー、今までの真帆の話を聞いてると智花はバスケをあんまりしたくなさそうだから、きっと……。
「でも、もっかんにはそんなのいいよって断られたんだよね」
やっぱりそうなるよね。でも、真帆のことだから……。
「でも、私はもう作る気満々だったからみーたんに顧問を頼んで、すぐOKをもらって、その時に部員が最低でも5人はいるって言われたから次の日から部員集めを始めたんだ」
うん、予想通りだ。でもそうしたら、女バスを創った理由の大半は真帆のわがままってことになるのかな?
「まずは紗季からだったかな。でも、最初はバスケになんて興味ないって感じで断れたんだよね。そのあとも何回か説得したんだけど全然ダメで、それであのアイガードを渡したんだ。これ、作っちゃったから入部してって」
「え? それで紗季はOKしたの?」
そうだよ、と言う真帆の答えを聞いて、いくらなんでもな勧誘にびっくりだ。僕が驚いてるのに気付いたらしい真帆はもう少し詳しく説明をしてくれた。
「あのアイガード作るのに結構苦労したんだよね。パパを説得するのは時間がかかっちゃって無理だからお小遣いで買ったり、紗季の眼鏡の度をやんばるに調べてもらったり。きっとそんな苦労に気付いて、私がどれだけ本気なのか知っちゃたから入部したんだと思うよ。だてに幼馴染やってないからね」
やれやれと呆れ顔の紗季が簡単に想像できそうだ。それにしても『やんばる』っていうのは、また人のあだ名なんだろうか。
「それで紗季の勧誘に成功したのなら、次は愛莉かひなた?」
「そっ。アイリーンはよく泣いてるところを助けたりしてたし、ヒナは4年生の頃に給食を食べてあげたりしてて仲良かったから勧誘は結構すぐ終わったんだ」
愛莉もひなたも、バスケというかスポーツなんて全然しなさそうなのに入部してくれるなんて真帆の人望のなせる技か。
「これで5人揃ったから、正式に部になって初めての活動の日に今のような試合をしたんだ。そしたらもっかんがすげー楽しそうな笑顔でバスケしてるんだよね。男子との試合のときはあんなに鬼気迫る勢いだったのに」
その智花は、僕も知ってる今の智花だ。智花の中でなにがあったのかなんてわからないけど、きっと真帆たちとの関係がいい方向に働いた結果なんだろうね。
「あとでもっかんにバスケの時と全然雰囲気違うねって聞いたらちょっと話しにくそうにしてたんだけど、バスケのことになるとすっごい負けず嫌いになっちゃうことや、それが原因で転校してきたことを話してくれたんだ。でも、あたしたちとやってる時はそんなの全然気にならなくって、心からバスケを楽しめるって言ってくれたんだよね」
智花が転校してきた最初の頃に落ち込んでいたのは、それが理由なのかな。転校してくるくらいだから、よっぽど辛かったんだろうな。
「だからもっかんにとって、この女バスはきっとすごく大事なところだと思うんだ。確かにバスケならもう私の家でもできるけど、女バスがなくなってからはたぶんやらない」
「やらない理由、聞いてもいい?」
せっかく『できる場所』があるのに使わない、と言い切る真帆。俯いてしまった真帆に質問してみると、答えはすぐ返ってきた。
「だってもし、女バスがなくなってもまだバスケをやりたいって言ったら、私たちはきっと女バスを守れなかったことを悔しく思うし、後悔しちゃうと思うんだ。私たちがそんなことを考えるのをもっかんもわかってるから、もしこの試合で負けて女バスがなくなったら、きっともっかんはバスケを辞めると思うよ。少なくとも私たちの前ではやらないと思う」
そこまで一気にしゃべって続きがくるかと思ったら、真帆はそのまま黙ってしまった。でも、その沈黙は長くは続かなかった。
「だけど、 もっかんはバスケが大好きだから、もっとずっとバスケをやっていたいだろうから、そして私ももっともっとバスケがうまくなりたいから絶対試合に勝ちたい! きっと紗季たちもそう思ってるはず!」
正直、僕は侮ってた。真帆たちがこんなに真剣に考えていたなんて思ってもみなかった。俯いていた顔をあげた真帆の眼にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「負けてもいいんじゃない、なんて言っちゃってごめん。もう、絶対に言わない」
そう言って頭を下げた僕が顔を上げると、真帆は涙をゴシゴシと拭いて少し涙の余韻が残った笑顔になった。
「僕は入部してまだ全然経ってないけど、みんなと一緒にがんばっていい?」
「当たり前じゃん! ユッキーももう完全に『あたしたち』の中に入ってるんだから」
真帆のそのセリフに、フツフツとやる気が湧いてくるのを感じる。そんな強い絆で結ばれているみんなの中に入るのは中々難しいんだろうけど、女バスを、みんなの居場所を守るために僕も精いっぱいがんばろう。
「あっ! もう、昼休み終わっちゃう」
「ホントだね、じゃあ教室に戻ろうか」
よほど長い時間話していたみたいで、気付けば昼休みがもう少しで終わるような時間だった。2人してベンチから立ち上がり、ふと真帆の方を見ると真帆も僕の方を見ていた。
「頑張ろうね」
なんとなく、右手をグーにして真帆の方に向ける。
「うん、絶対勝つ」
最初はなにかわからなかったみたいだけどすぐになにがしたいかわかったようで、真帆も右手をグーにしてコツンと軽く僕の右手とぶつける。
そしてフフフと2人で笑った後、僕らは教室へ戻ったのだった。
読んでいただきありがとうございます。
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