踏み台やらされそうになりましたが、割となんとかなりました。 作:街をさまよい歩く亡霊
ありがとうございます!
『Master……』
「ん……」
誰かが俺に話しかけている。この声と呼び方は、イブだろう。
ーー寝かせてくれ……
そう思い、再び体を襲う睡魔に身を任せようとする。
『Master』
「……」
『Get up! Master!』
「……はっ」
イブの大きな声によって、体を襲っていた眠気が吹き飛び、意識を明確に取り戻す。
そして、今がどんな状況かも思い出した。
慌てて準備をしようとして、既に時遅しであると察し、諦める。
「東雲くん?」
「はい」
「何をしていましたか?」
「人間の三大欲求の一つに負けてました」
今は学校の授業中。昨晩、慣れない夜更かしをしたためか、遅刻ギリギリまで寝ても疲れが完全にはとれなかった。
その結果、授業中常に睡魔に襲われていたのだが、いつの間にか、負けてしまっていたらしい。
「はあ……清々しいぐらいの開き直りですね」
「言い訳しても無駄でしょうから」
「わかっているなら、寝ないでください」
「努力します」
「そこは、了承しなさい」
また寝ないとは限らないので、了承はしかねている。
了承して、次寝た時が、非常に恐ろしいから。
『Master……』
イブが、「私、起こしましたよ?」と言ってるような気がして、とても心が痛かった。
その後、何度か眠気に負けそうになるものの、なんとかその授業中は寝ないで済んだ。
だが、正直もう限界に近い。今日だけ、魔法で誤魔化せないか……
『No.』
だよな。てか、主人を拒否するデバイスなんて、いないと思うんだが……
『
そうか、知ってたよ。設計したの俺だからな。
デバイスなしで魔法は使えなくもないが、その場合、魔法を使ったことが2人にバレるだろう。
バレずに使えるイブは拒否。
ーー詰んだ。
こんなことを考えている間にも、眠気は強くなる一方。ついに、マルチタスク使えば眠気半分にならねえかな、とか考えはじめてしまう。
ーーしょうがない、休み時間だけでも寝て、少しでも体力回復しよう。
そう思い、机に突っ伏していた時。
「零くん、ちょっといいかな?」
「……」
なんで、よりによってこのタイミングなんだ、高町……寝たふりで切り抜けよう。
「零くん……寝てるの?」
「……」
「ねえ、零くんてば」
「もういいわよ、なのは。寝てるやつなんて、ほっときなさい」
ナイスだ、えっと、多分高町と話してた金髪の方……確か、先生からバニングスと呼ばれてたな。
その声に、少し迷ったように「う、うん」と、応えて、ゆっくり元の場所に戻っていった。
やっと寝られる、と、気を抜いたその時、授業の始まりを知らせるチャイムが鳴った。
……がんばれなさそうだ。
案の定、板書が止まり、先生が世間話をし始めた途端に、気が抜けて寝落ちしてしまった。
だが、それでも注意はされなかった。周りに漂う魔力素の微かな変化から察するに、イブがなんとかしてくれたのだろう。
ーーありがとな、イブ。
イブに届かないように心の中で、お礼を言っておく。
お礼を言ったとしても、『
だが、何もしないのもしのびないので、首にかけてあるイブを軽く撫でる。
さて、時は昼休み。場所は教室から中庭へ。もちろん、昼食を取りに、というわけではなく、昨晩イブが特定したジュエルシードの一つが、学校にあるので、回収しに来ている。
「学校なのはわかるんだが……何処にある?」
いかんせん、ジュエルシードは小さいから、草むらに入っていると、それだけで探すのは、苦労するだろう。
「イブ、どうだ?」
『
「そうか」
イブが、正確に魔力反応を捉えるのは、イブを中心に半径50mまで。
逆に言えば、半径50mまでなら、どんなに小さい魔力でも、反応を逃さない。
ちなみに、精度は落ちるが、イブの最大魔力探知範囲は、半径2000m……つまり、2kmまで探知できる。
そこまで探知範囲が大きくなると、小さい魔力は反応しなくなるが。
そのイブが、反応を捉えられないということは、この辺りには無いのだろう。
「他を探すか」
「何を探してるの?」
「……高町、後ろから話しかけるのはやめてくれ」
というか、いつ近づいた?イブが反応を逃すなんて……ああ、探知魔力を限定してたのか。俺は考え事してたし……狙って近づいたわけでは無いとはいえ、高町、侮れないな。
「にゃはは、ごめんね」
「別にいい。高町は、友達と弁当食べてたんじゃ無いのか?」
「今日は零くんと食べようかなって、思ったんだけど、何か探し物?」
なぜ俺となんだ……別に仲良いわけでも無いだろうに。
それより、高町か……一番見つかりたくないやつに見つかってしまった。
探すのに魔法を使いたかったのだが、一般人がいると使えない。
いっそのこと高町に魔法を教えることも考えたが、ジュエルシードが街に散らばっている今、魔法を教えるのは危ないだろう。
「いや、特に探し物はしてない」
「ウソはダメだよ」
「本当だ」
「他を探すかって言ってたの」
「気のせいだ」
「……視線が定まってないの」
「え?……あ」
自分のポーカーフェイスには自信があったために、高町のその一言に動揺してしまった。
高町はニッコリと笑って、言う。
「手伝うよ」
「い、いや、大丈ーー」
「て・つ・だ・う・よ」
「……はい」
高町の、一も二も言わせない、少し影を感じる笑顔に押し切られる。
「それで、零くんは何を探してたの?」
「小さな青い宝石」
「宝石、なの?」
そりゃあ戸惑うよな、小学校で宝石探すって、まずないし。
「ああ、落としたみたいで。昨日家でも探したんだけど、なかった」
「そうなんだ、だからそんな眠そうなんだね」
「そういうことだ」
まあ、嘘はついてない、よな。
『Master,
イブが念話でジュエルシードのある場所を知らせてくる。
『細かい位置は分かるか?』
『
『やっぱりか……』
『Sorry』
『いや、分かっていたことだし、気にしないでくれ』
魔法が使えたならば、光で示すという方法もあったはずなのだが、この場には、高町がいる。
とりあえず、高町に、探し物はもう少し先で落としたことを伝えて、移動する。
ちょうど、120mぐらい歩いて、高町に話しかける。
「おそらく、この辺りで落としたんだ」
「わかったの。それじゃあ、一緒に探そう」
「……俺はこっちを探すから、高町はあっちを探してくれ」
「むう……わかったの」
少し高町はむくれるが、手分けした方が効率がいいのは分かっているのだろう。
特に反論もせず、手分けして草むらを探し始める。
それから、お互い特に話すことなく探し物……ジュエルシードを探したが、昼休みの間は、見つからなかった。
それから、高町と一緒に弁当を食べて、教室に戻った。
前は、名前で呼んでとしつこかったのに、弁当を食べている時には世間話しか、しなかったことに違和感を覚えたが、気のせいだと結論づけた。
イブさん大活躍ですね。
細かい魔力制御ができ、探知出来る範囲は最大2kmと、欠点がないように思えますが、重大な欠点が、イブさんにはあります。
いずれ明らかになると思うので、楽しみにしてください。