踏み台やらされそうになりましたが、割となんとかなりました。 作:街をさまよい歩く亡霊
やはり、と言うべきか、ジュエルシードに取り込まれた高町は、倒れたまま少しも目を覚ます気配を見せなかった。
一応、先生にも保健室に行くことを言っていた覚えがあるので、高町を保健室に運んだ。保健室には、幸いにも先生がいなかったため、説明(嘘)を省けたのは大きい。
「……はあ」
だが、魔法に関わり、今回の件でリンカーコアが覚醒してしまった高町には、ちゃんと説明しなければいけない。
地球には、魔法文化がないため、納得させるのには時間がかかりそうだ。
その上、身の安全のため基本的な魔力操作は教える必要がある。今の状態では、魔力を垂れ流しているようなものなので、ジュエルシードに近づいただけで発動しかねない。
ーーそういえば、ユーノ、使わないデバイス持ってたな。
記憶の片隅で、ユーノが、デバイスについて言っていたことを思い出す。
確か、僕じゃレイジングハート…このデバイスを、十分に使えないんだ。だったか。
記憶に向けていた意識を、目の前で寝ている高町に傾ける。
ーー総魔力量は、多い。魔導師としてやっていくには、十分すぎる程。
もしかしなくても、蔵人より上だ。つまり、部隊長レベル以上。才能は、十分にあるらしい。
『Master』
「ん?……ああ、そういうことか」
突然呼びかけてきたイブに、何事かを聞こうした途端に聞こえてきた、‘2人分’の足音。
時計を確認するに、まだ授業は終わっていない。どうやら、授業を抜け出してきたらしい。
これから起こることは、考えなくとも想像がついてしまうため、思わず頭を抱えそうになるが、我慢する。
足音が扉の前で止まったと思えば、大きな音を立てて勢いよく扉が開かれた。
「……見つけたっ!」
「はあ……」
今日はよくため息が出る日だなあ、不幸なのかもなあ、などと軽い逃避をしてみるものの、面倒な状況は変わらない。
保健室、という場所に似合わない大きな音を立てた2人は、目ざとく……いや、当然のように、寝ている高町を見て、顔を歪める。
「あなた、何をしたのっ!」
「俺が、何かしたみたいに言うのはやめてくれ」
何かをしたのは事実なので、否定できないが。
だが、乗り込んできた方の女子、花織は聞こえてるのか、聞こえてるのに無視をしているのか、顔を歪めこちらを睨んだままだ。
「レオ、いきなさい!」
「結局人頼みなのね……はいはい、わかった、いくから。こっちを睨むな」
花織は、相当頭にきてるのか、少し口答えした、仲間であるはずの赤石にすら睨みをきかせる。
「結界頼む」
「わかってるわ」
花織に一声かけた赤石は、準備運動をしながら、こちらに近づいてくる。
「と、言うわけで、やらせてもらうぜ。
「……面倒な」
「ん?なんて?」
「なんでもない。セットアップはしないのか?」
「させてもらえるのか?」
「早めに頼む。次の授業には出たい」
「真面目だねえ、了解だ」
現在は、5時間目がちょうど終わろうかという時刻。休み時間は、10分。それがタイムリミットだ。
相手の実力がわからない現在、どれくらい戦闘に時間がかかるかわからないため、早めに始めたい。
「パリ、セットアップ!」
『パリって言わないでください!』
…デバイスからやけに流暢で、感情的な言葉が聞こえてきたのは、気のせいだろうか。
それはともかく、赤石は袖がなく、黒い道着のバリアジャケットを纏う。デバイス本体は、銀に輝くガントレットだろう。
「AIがあるからインテリジェントかと思えば、アームドか」
「ああ、デバイスは……まあ。ともかく、そっちはセットアップしないのか?」
かなり適当に誤魔化されたな。好き好んで敵に自分のデバイスについて話すやつなんかいないんだが。
それは置いといて、赤石がバリアジャケットを纏ったすぐ後に、結界が展開されたので、こちらもバリアジャケットを纏うこと自体には、問題はない。
「しなくていい」
「……なめてんのか、テメェ」
「なめてるわけじゃない」
単純に、実力差だ。赤石の戦闘スタイルは、見ての通り接近戦中心だろう。接近戦は、魔力や、魔法以上に戦闘技術が求められる。
その戦闘技術の基礎である、重心移動。これが赤石は、まだ素人の域を出ない。
もちろん、普通の大人よりは出来ているが……それでも、
……あれは思い出してはいけない。やめよう。
まあ、その差は魔力による補助があっても、埋まらない程大きい。
「そうかい……後悔させてやるよ」
『怪我しても知りませんよ!マスター激おこです!』
「パリうるさい」
『すいません!?』
一気に張り詰めていた空気がなくなった。
こいつらはいつもこうなのだろうか?後ろで冷静になった花織が、頭を抱えている。
……気にしないほうがいいだろう。
「ああもう……行くぞ!東雲!」
そう声をあげた赤石は、しっかりとした踏み込みの上、右拳を顔に向かって突き出してくる。
やはり、何か武道かなにかを習っているようだ、と感心し、こちらに突き進んでくる拳を掴み、進行方向を逸らしながら引き寄せる。そのうえ、足を引っ掛けて、地面に投げるように転ばせた。
「……くはっ」
背中から地面に投げられたため、呼吸が少し止まったようだ。
「赤石、まだやるか?」
「当たり前だっ!」
再び向かってくる赤石。今度は、左手でのブロー。
俺は、やはりそれを掴み、逸らしながら引き寄せる。止まるべきところで止まらなかったその拳に引っ張られ、体勢を崩し、胴がガラ空きになったところに、構えていた掌底を打つ。
「ガッ!?」
掌底をまともにくらった赤石は、二、三歩下がり、膝をつく。
「まだ、やるか?赤石」
「……何をした」
「衝撃を
「大したことだよっ、くそ……」
『大丈夫ですか?マスター』
「そこまで強くは打たなかったから、数分で回復するはずだ」
「数分で回復する痛みとは思えないんだが……」
そう苦しい顔をしながら言った赤石に、まあ、そうだろうなという意味を込めて、苦笑で返す。
蔵人は手加減なしだったなと、再びあのしごきを思い出しそうになるのを、必死に止めた。
時間を確認すると、5時間目終了後、2分が経っていた。
まだ時間があることを確認し、赤石に、ある提案をする。
「高町になにがあったか、知りたいか?」
「やっぱお前がやったわけじゃ、なかったんだな」
「当たり前だ」
当然のように頷き返す。
それをみた赤石は大きなため息を吐いた後、入り口付近で、戦闘態勢に入っている花織に声をかけ、それを解かせた。
……バリアジャケットと結界は、展開したままだが。
「悪いな、東雲」
「零で構わないぞ、赤石。 いや、気にしてない。あそこまで警戒される覚えはないが」
「なら、こっちもレオでいいぜ。 あいつは少し警戒心が強いからな」
「少し、でおさまるのかどうか」
「……まあ、今回はやりすぎだと思うが」
はあ、と、再び大きなため息を吐くレオは、どこか疲れた表情をしていた。
「レオはなにを話してんのよ」
「お前のこと……って、遠くないか?」
確かに花織は、俺たちがいるところから、大体5メートル離れている。会話する距離としては、遠い。
少し声を張らなければ届かない距離にいる花織には、話さなくてもいいか?と考えながら、目の前であーだこーだ言い合っている、2人を眺めていた。
格闘戦も強い零さんでした。