踏み台やらされそうになりましたが、割となんとかなりました。 作:街をさまよい歩く亡霊
ミッドチルダ。地球にはない魔法文化によって、より先進的な技術を有する、異世界である。
そんな異世界の都市クラナガンでも人間の行うことはあまり変わらない。朝は慌ただしく出勤し、昼は休息を入れながらご飯を食べ、夜になれば、寝て、その日の疲れを癒す。
しかし夜というのは、世界の闇が垣間見れる時でもある。
そう、例えば…
「…誰にも見られてないな?」
「ああ、サーチャーで警戒はしていたが、無駄だったようだ」
「そうか…ククク」
ミッドチルダのどこかの街。また、それのどこかの高層ビルで行われている数人による話し合い。いや、密会と言った方が近いかもしれない。
「では…始めよう。‘人工魔導師製造計画’の会議を」
だが返ってくるのは静寂のみ。それを不思議に思いながら会議の参加者をみて、背筋が凍った。
…それもそのはず、あるはずの首がないのだから。
「動くな」
男は首に冷たい感覚を感じて、悲鳴も上げることが出来ずに、固まる。
「今から質問をする。正直に答えろ」
その声はまだ幼かったが、男は恐怖のあまりにそれに気づかず、首を大きく振る。
「先ほどの計画…研究はどこで行なっている」
「こ、ここのビルの地下だ。ここ、答えたから命だけはぁ!」
「そうか」
幼い声の持ち主は、感情を感じさせない、あまりにも冷たい声で答える。
少年が部屋から出て言った時、残っているのは、イスと机だけだった。
また、その夜のうちに、ミッドチルダの高層ビルの一つが破壊されが、魔力反応がまるでないため、管理局は犯人の手がかりを全く掴むことが出来なかった。
場所は変わり、ミッドチルダの闇と言える、貧民街。そこに先ほどの少年と、猫背のおっさん、と言われる風貌の男がビルの壁に寄りかかりながら座っていた。
「終わったか、ゼロ」
「ああ、サク。特に問題もなく終わったよ」
「ずいぶん成長したな…もう教えられることは、ほとんどないだろう」
「そうかもな」
全く謙遜しない少年の態度に、お前らしいな、と笑みをこぼすサクと呼ばれる男。仲睦まじく?話す姿は親子と言ってもいいが、この2人に血の繋がりはない。
孤児だった名もなき幼子をサクがなんの気まぐれか、保護した。ゼロと名付けた幼子は、殺し屋としての頭角をわずか5歳になって現し、7歳となった今では、師であるサクと同等か、それを凌駕する。
「…さて、俺は依頼をこなすとするか」
「次の依頼ってなんだ?サク」
「まあ、一般的な殺人依頼さ」
「そうか、気をつけてな」
自分から聞いてきたのに興味を示さないあたり、冷たいなとサクは思わないこともなかったが、それがゼロだと納得し、じゃあ、行ってくる、などという軽い掛け声で出かけて行った。
…そこにサクが戻ることはなかったが。
「あれ、なんで俺…」
いつも通り依頼を片付けて、キャンプに戻って、そっから…
「…サク!」
サク!サクは!?
「お、目が覚めたか坊主」
「お前は……っ!」
思い出した、目の前にいるやつは…
「…サクは…」
「ん?」
「サクは、どうなった!?」
いつもとは違うサクを不思議に思って、黙って依頼について行ったら、そこには管理局が構えていた。強襲を得意とする俺らアサシンは、正面戦闘になったら、まるで不利だ。アサシンにとってはサクはよく戦ったと思うが、やはりやられてしまった。
そこまでは記憶があるが、それ以降が消えている…誰かに後ろから気絶させられたのだろうか。
だが今はそんなことよりもッ!
「サクは!?答えろ!!」
「落ち着け」
「俺は落ち着いてる!!」
「…はあ、話すから、少し黙れ」
「ハア、ハア…クソッ…わかった」
頭が冷える。自分でも相当取り乱していた。正直、今でも混乱しているのは変わらない。だが、話を聞かなければ…
「落ち着いたか?じゃあ話すぞ。覚悟して聞け」
「ああ」
「…サクは死んだ」
「…ッ!」
反射的に殴り掛かろうとするが、取り戻した理性で押し留める。
「…なぜ殺した?お前ら管理局は、捕縛を優先するはずだが」
「殺さなきゃやられていたからさ。例え捕まえたとしても、結果は変わらなかったろう。殺人罪、一体いくつあるのか…」
「…そうか」
「納得したか?」
「…ああ」
正直、現実を受け入れられていない。心のどこかではまだサクは生きているんじゃないかとすら思っている。
「なら良かった」
「…俺はどうなる?殺すならここで殺してくれ。裁判で晒し者になるのは、ごめんだ」
「いや、殺さないし、裁判にもならない」
「…どういうことだ?」
「逆に聞くぞ?お前は、誰だ」
「俺は…」
ゼロだ。アサシンで、殺人者のゼロ。呼吸をするように人を殺し、依頼ならば、建物も破壊する。
「ゼロかあ、聞いたことないなあ…」
「…は?」
「だから聞いたことないって言ってんの」
「そんなはず…」
仮にも2年活動してるんだ、それに依頼は全て完遂している。証拠は残してないとはいえ、人の噂で広まらないことはないはずだ。
「お前、誰から依頼受けてたの?」
「…ッ!」
思い返してみれば、依頼は全てサクから回ってきていた。つまり、依頼人はサクに、サクは俺に依頼をしていた。
…俺は世間に存在を知られていない?
「わかったみたいだな。ま、こればっかりはサクに感謝ってことで」
「……」
俺はしばらく無力感に苛まれていた。