踏み台やらされそうになりましたが、割となんとかなりました。   作:街をさまよい歩く亡霊

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今後も、この作品をよろしくお願いいたします。


いろいろ諦めました。

 翌日、特に寝坊もすることなく、学校に着く。

 

ーーさて、調べますか。

 

 調べるといっても、この教室に知り合いがいるわけでもないので、誰かに聞くという形になる。

 

 ……のだが、ここで一つ問題が発生した。

 

 いったい誰が、昨日花織たちの言っていた「‘なのは’たち」なのかが、分からないのだ。

 下手にそこの人に話しかけて、もしそれが「なのはたち」だった場合、無駄に花織たちを警戒させることになる。

 

 花織たちは、魔法を使えながらも、次元犯罪組織に属していないので、険悪にはしたくないのだが……

 

 

「やむを得ない、か」

 

 

 と、一か八かの賭けに出ようと覚悟したところで始業を告げるチャイムがなった。なんともタイミングの悪いチャイムである。

 

 チャイムがなっても、多少の喧騒は残っていたのだが、教室のドアが開き先生が入ってくると、それも一斉に止んだ。

 

 

「みなさん、おはようございます」

 

 おはよーございます、と、誰かがタイミングを計ったわけでもないのに、一体感のある挨拶が教室を満たした。

 

「はい、今日もいい挨拶です。今日は、いつもどおりですが、移動教室があるので、遅れないようにしてください。いいですね?」

 

 はーい、とまたもや一体感のある返事が教室を満たした。どういう仕組みになっているのだろうか?

 

「では、1時間目の準備をしてください。あと東雲くん」

「はい?」

「返事はしっかりしましょうね」

「……はい」

 

 少しの間をおいて、教室のあちこちから笑い声が聞こえる。

 

ーー仕方ないだろう、まだここのルールに慣れてないんだ。俺は。

 

 決して口には出さないが、心の中で自己正当化を済ませる。

 

Don't worry.Master.(元気出してください。)

 

 イブの励ましが、少しの虚しさを与えてきた。

 

 

 

 

「では、これで国語を終わりにします。次は移動教室なので、遅れないでくださいね」

 

 はい、と返事をしそうになるが、周りを見て誰も返事をしていないことに気づき、口を閉じる。

 

ーー分からないな。

 

 まだ2日目なので、仕方ないのかも知れないが、いつ返事をして、いつ返事をしないのかが、分からない。

 

 

「それと……高町さん」

「は、はい?」

「東雲くんを次の教室まで案内してもらっていい?」

「分かりました」

 

 友達と話していたからか、急に先生に呼ばれて驚いていた女子が、次の教室に案内してくれるみたいだ。

 

 ……できれば、違う人にして欲しかったが、それは高町さんに失礼だろう。

 

 なぜ、違う人にして欲しいのか。それは……高町と呼ばれた女子は、魔力を持つクラスメイトの最後の1人だったのだから。

 

「あ、あの」

 

 少し遠い目をしていたからか、高町さんが近づいて来ていたことに気付かなかった。

 目を合わせて、続きを促す。

 

「私、高町なのは。よろしくね、東雲くん」

 

 目の前の少女の微笑みは、確かにかわいらしいものだったが、それよりも。

 

ーーなのは、か。終わったな。

 

 不可抗力とはいえ、なのはという人物に近づいてしまったのは事実。あの2人とは、険悪にならざるを得ないだろう。

 

「俺は東雲零。よろしくな、高町」

「わかったの、零くん。私のことは、なのはでいいの」

 

 心の中の絶望を悟られないように、表情を変えずに対応する。

 

「わかった。高町」

「なのは、なの」

 

 この少女は、少し頑固というか、なんというか……いっそのこと諦めて、名前を呼んでもいいが、その場合、あの2人(魔力持ち)との関係改善が、余計面倒になるだろう。特に、女子のほう。

 

 出来るだけ、面倒事は避けたい。もっとも、既に手遅れかも知れないが。

 

「それよりも、遅れるぞ。早く行こう」

「むー、わかったの」

 

 強制的に、会話を終わらせて、高町に移動教室……理科室に案内してもらう。

 

 その途中、髪の色のことや、前住んでいたところなどの質問を受けたが、不自然にならない程度に流しておいた。

 

 

 

 やっと6時間目の授業が終わり、帰りのHRが始まる。

 とりあえず、今日1日は寝ないで授業を終えることができた。明日これを続けろと言われたら、迷わず無理と答える。

 

「……あ、明日の体育は体力測定なので、体操着忘れないでくださいね」

 

 周りのえー、という不満気な声に反応し、気付いたら、先生の話が結構進んでいて驚いた。

 

 明日、体力測定か……そうだ、いいこと思いついた。

 

 

 

 

 

 時間はとび、体力測定。

 

「はあ、はあっ……。速いな、‘赤石’」

「はあっ、お前こそ……。‘東雲’」

 

 俺は、50メートル走の測定をしていた。それも、前に花織と念話していた、赤石蓮斗と。

 

 この学校は、体力測定を男女別に行うので、この場なら、花織に妨害されずに、赤石と話せると踏んだが、うまくいったようだ。

 

 もともと赤石は、花織の言葉を鵜呑みにせず、俺を本当に〈踏み台〉かどうか疑っていた。

 そのため、少し話すことができれば、俺は〈踏み台〉ではないと、訂正できると考えた。

 

 

「お前、息、切れてないだろ?」

「……バレてたか」

 

 50メートルの全力疾走程度じゃ疲れやしないが、涼しい顔をしているのも不自然だと思い、前に走り終わった人の真似をしていた。

 

 どうやら、無意味だったようだが。

 

「足取りが、疲れてる人のそれじゃないからな」

「なるほど。すごいな、お前」

「まあなっ!」

 

 普通、疲れてる人と疲れてない人の足取りの差なんて、分からないだろう。

 どうやら赤石は、観察能力が高いらしい。

 

 もっとも、褒められてすぐ図に乗るあたり、年相応なのか、バカなのか分からないが。

 

 

『Master,there is a magical response.(魔力反応です。)Maybe,(おそらく、)remebrance(念話かと)

 

ーーちっ、思ったより対応が早い。向こうの警戒は、こちらの予想以上に高かったか。

 

 花織よ、お前〈踏み台〉にいったい何をされたんだ……

 

「悪い、東雲。腹痛えから、トイレ行くわ」

 

 間違いなく、俺から離れる建前だろう。花織に念話で指示を出されたようだ。

 ここで、赤石を拘束しても、こちらにメリットはない。素直に諦めよう。

 

「大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。一応、先生に言っといてくれ」

「わかった」

 

 さて、見事に失敗したわけだが、それ以上に得られるものがあったので良しとする。

 

 結論として、あの2人との関係を改善するのは、不可能といっていい。

 赤石はともかくとして、花織の警戒の高さが異常だ。正攻法では確実といっていいほど、無理だろう。

 

 花織が、風邪か何かで学校を休んだ時が狙い目だが……風邪程度なら、普通に来そうな執念を感じさせるので、選択肢から排除しておいた方がいいだろう。

 

 ああ、もう……面倒くせえ。

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