踏み台やらされそうになりましたが、割となんとかなりました。 作:街をさまよい歩く亡霊
あの2人との関係改善を諦めた日の夜。
俺はなぜか、屋根の上を走っていた。
『Master』
「わかってる…っ!」
いつものようにベッドに入って寝ていたのだが、イブの警告に目を覚ましてみれば、今、この街がかなり悪い状況になっている事に驚きを隠せなかった。
ーー高魔力反応多数…!これほどの高魔力。おそらくロストロギアだろう。だが、こんなにも多くのロストロギアが、なぜ一斉に、それも、地球に?
考え事をしている暇はない。今すぐなんとか……っ!?反応が、消えた?
『
「大丈夫だ。何個、場所を特定できた?」
『
「十分。ありがとう」
魔力反応は、全21個だった。今の数十秒で、全体の7分の1を特定できたなら、いい方だ。
回収しに行こうと走り出した時、場所を特定できたものとはまた別のロストロギアが魔力反応を再び示し始めた。
ーーロストロギアだけじゃないな、別の魔力も感じられる。つまり、誰かが何かと交戦中…?
「急ごう」
『Yes,my master』
ロストロギア自体の魔力は、はじめに観測したものより弱くなっているが、それでももう一つの魔力反応はだんだんと、弱くなってきている。
急がなければ、手遅れになりそうだ。
「イブ」
『Yes.』
互いに一言で意思疎通を済まし、飛行魔法の速度を上げる。
願わくば、生きていますように。
住宅街を越え、雑木林に入った時には、既にロストロギアと交戦していたと思われる人物は、倒れ伏していた。
見た所、魔力欠乏、ケガ数カ所ってところか。命に別状はないようで、安心する。
だが、肝心の、ロストロギアは逃げ出したようで、この場に姿は見えなかった。
しかし、相手はロストロギア。魔力の塊で、常に魔力を振り巻いている存在だ。それはつまり
「逃げられると思っているのか?」
『
「やれ」
『Explosion』
多少感知ができるなら、すぐに場所なんて特定できるのだ。
街の方から、爆発音が聞こえるが、結界の中なので大丈夫だと考え、特に気にしないことにする。
『Seeling』
爆発音が聞こえた方向から、ローマ数字で21と浮かび上がった青い宝石が飛んでくる。
あれが今回のロストロギア……見たことがない、ということは新しいものなのだろう。
「No.21、か」
わざわざNo.が刻まれているのは、同じものが複数あるから。
そうすると、この街に落ちてきた21個のロストロギアは、すべてこれと同じものだと考えられる。
個々の能力は高くない。あの2人でも対応可能なレベルだ。
「あなた、は?」
「気がついたのか」
「は、はい。ありがとうございます」
倒れ伏していた人物……見た所、俺と同じくらいの歳の少年だ。なぜ、こいつがロストロギア回収をしているのかわからないが、何か事情があるのだろう。
「……っ!そうだ、‘ジュエルシード’は!?」
「これのことか?魔力の塊が逃げ出していたから、それをやったら出てきた」
「あ、それです!ありがとうございます!」
少し驚いた表情をしながらも、笑顔でお礼を言ってくる少年。ただし、額に汗を浮かべながら。
「なあ」
「な、なんですか?」
「俺の家に来い。治療する」
「え……?」
何を言っているのかわからない。という表情のあと、今度は完全に驚いた顔で、いや、大丈夫です!とか、迷惑になりますから!とか、言ってきたが、無視して、家に連れて行った。
「ありがとうございます……」
「礼はいいし、敬語も外してくれ。同い年くらいだろう」
堅苦しいのは苦手なんだ。
「わかり……わかったよ」
「それでいい」
少年にやれるだけの治療は施し、あとは魔力の自然回復を待つだけという状態になった時、今まで口を閉じていた少年が、話しかけてきた。
「じゃあ、説明してもらっていいか?」
「うん、もとより説明するつもりだったから」
少年……ユーノ・スクライアというらしい。
ユーノは、遺跡発掘をしながら流浪の旅をするスクライア一族の出身で、ユーノも例に漏れず遺跡発掘をしていた。
そんなある日、ユーノは遺跡から、ロストロギアを発見する。
そのロストロギアの名はジュエルシード。願いを叶える機能を備えた、小さな青い宝石だ。
しかし、ジュエルシードの魔力は非常に不安定で、願いを歪めた形で叶えてしまうことがほとんどなんだそう。
そんな危険なジュエルシードは、輸送中の事故によって、管理外世界のある街にばら撒かれる。
そのある街というのが、この海鳴市。
「あれは僕が見つけてしまったんだ。僕には、全部見つけて、回収する義務がある」
そう、ユーノは語る。その歳で、そこまで責任感がある人はなかなかいない。素直に尊敬する。
「……仮ではあるけど、俺も局員だ。見逃せない」
「いやでも……え?君、えーと……」
「東雲零だ。零でいい」
「わかった。それより、零は管理局員なの?」
「仮にも、と言ったんだ。言うならば、管理局員(仮)だな」
「よくわからないけど、わかった」
おい。
まあ俺も管理局員(仮)なんて初めて聞いたから、仕方ないか。
「それでも、この件は僕が元凶なんだ。僕がやらなきゃいけないんだ」
「あの
「……」
俺がそう言うと、下を向いて黙ってしまうユーノ。
ユーノ自身気付いていたのだろう。自分1人では無理だと。
「もし、他の人に迷惑は掛けられないとか思ってるなら、それは違うと言っておく」
ユーノの責任感は素晴らしいものだ。しかし、それと無謀は共存してはいけない。
「少なくとも、俺は迷惑とは思わない。むしろ、このことを知りながら、放っておいてと言われる方が迷惑だ」
困っている人を見て、助けられたのに助けないでいることほど、嫌な意味で心に残ることはない。
「協力させてくれ、ユーノ」
俺は、ユーノに協力したい。
「……ありがとう、零」
柔らかな笑みでお礼を言ってくるユーノに、思わず口角が上がってしまう。
「なんで笑うのさ」
「いや、なんでもない」
さっきまで追い詰められた表情のやつとは思えない顔だったから、つい……なんて、言えない。
「そんなことより、ユーノは今夜ここに泊まるだろ?」
「え、いいの?」
「いいも何も、今更、外放り出すのはさすがにない」
時計の小さい方の針は、すでに1と2の間を指していた。
たとえ、今が昼だとしても、治療を施した相手をすぐ放り出すのは、人としてどうかと思う。
「ええと、じゃあ、お言葉に甘えて」
「ああ、そうしろ」
そのあと、水と軽い食事をユーノの寝ている部屋に持って行った。
ユーノは、持って来ていた携帯食料を切らしていたようで、すごく喜ばれ、感謝された。もしかしなくても、協力を決めた時よりずっと。
まだ未熟な身体には、夜更かしは辛いようで、自分の部屋に戻りベッドに入ると同時に、意識が黒く染まっていった。