憑依したけど何か質問ある?   作:お饅頭

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第一話

突然だが、夏はお好きだろうか? 私は嫌いだ。春から夏に移り変わる時期になるだけでも憂鬱になる。

どうして私が夏が嫌いか、その理由としては、ムシムシするし汗かいてベタベタするし暑苦しいからである。何故夏なんてあるんだと思うまでもある。

 

何故こんな話をしたかと言うと、私が今住んでいる幻想郷も夏へと季節が移り変わろうとしているからだ。ああ、ヒンヤリ冷たい場所で夏が終わるまで避暑していたい。むしろ夏すっ飛ばして秋になってもらいたい。

 

「れいむー!」

 

そして私の下には、夏と同じくめんどくさいのが現れた。

白と黒を基調とした魔女っ子スタイルな女の子、霧雨 魔理沙が箒に跨り、猛スピードで神社の境内に突っ込んできた。正直受け止める気すら一切起きないのでそのまま放置する。

 

ズガンと境内に直撃し、砂煙が巻き起こって視界を遮る。しかしそれでも私はのんびりと茶を啜り続ける。

何故そうも冷静で居られるのか、だって? 週3のペースでこんな事が起こってたらそりゃ慣れもするわよ。最初の方は私も内心本気で焦ってギリギリのところで受け止めはしてたけど1回ミスって落下させてもめっちゃピンピンしてたからそこから放置し始めたのよ。

あれはギャグ補正だとかそんなチャチなものじゃ断じてないわ。

 

「いてて……」

 

いやいてて、じゃないわよ。明らかにそんな服が多少汚れる程度で済む速度じゃなかったでしょう? 毎回これを間近で見ているけど未だに納得いかないわよ。

「相変わらずのド派手な登場ね魔理沙、お帰りはあちらよ」

「のっけから酷い!」

 

私が境内の入口を指差すと、なんでそんな事言うんだと抗議しながら私の居る場所までツカツカと歩いてくる。お帰りはあちらよって言ったのになんてコッチに来るのかしら。天邪鬼なのか、はたまたそういうお年頃かしら。

 

「折角遊びに来たのにそんな対応はないぜ」

「誰が遊びに来て欲しいって言ったのかし……らっ」

「いってえ!?」

 

さり気なく私のおやつである水饅頭に手を伸ばす魔理沙の手を叩き落とす。しれっと人の物取ろうとしないで頂戴。

しかし一度叩き落とされてもめげずに何度も再チャレンジしてくるので、私と魔理沙の水饅頭を賭けた謎の攻防が始まってしまった。

 

「少ししつこくないかしら」

「だったら諦めて……一つくれよ!」

「誰があげるものですか」

 

うがーっと奇声を発しながら飛び付いてこようとするので、近くに置いておいたたまぐしを素早く喉元に突き付けて動けないようにする。チェックメイトね。

 

「れ、霊夢さん? あの、それは流石にやりすぎじゃないかなー……って思うんだけど」

「何言ってんの、アンタが止まらないから力技で無理やり止めたんじゃない。素直に止まっておけばここまでしないわ」

 

突きつけたたまぐしを降ろし、再度縁側に座ってお茶を啜る。そんな私に対し、魔理沙は何かを思い出したかのようにポンと両手を合わせて下げていた鞄からキノコを取り出した。

どこからどう見ても怪しい類のキノコである。発光色で目立つ色のキノコは大体毒あるとこの前きっちりと説明しておいた筈なのだが、何故懲りずに持ってくるのだろうか。説明を右から左へと聞き流していたと言うのなら、今度は徹底的に頭の中に叩き込む所存だが。

 

「……何でまた同じ過ちを繰り返そうとするのかしら。アンタの頭には餡子でも詰まってるの?」

「ひでぇ!?」

 

よもや忘れたとは言わせない。何で私まで食したのかが未だに自分でも疑問に思うくらいの毒々しい色のキノコを食べて起きてしまった悲惨な事故の事を。事故だけに自己責任とは言わせない。

 

「こ、今度のは絶対いけるって!」

「アンタの絶対はこの世で上位に食いこむくらい信用ならないのよ」

「大丈夫だって!」

「ちょ、押し付けてこないで」

 

グリグリとキノコを私に押し付けてくるのを本気で止めて欲しい。

「あやややや……何かしてると思ったら」

「げっ」

 

夏と同じくめんどくさいのその2が現れた。私の日頃の行いは悪くない筈なのに、どうして今日はこうも来て欲しくないのが立て続けにやってくるのか。日頃の行いなのか。

 

両手に扇とカメラを持ち、何かネタはありませんかと期待するような目を私に向けるコイツの名前は射命丸 文。新聞記者だそうだ。まあ私にとってはどうでもいいが。

 

 

「……何の用よ文。ネタならないからさっさと帰りなさい」

「いや今さっきの貴女達ならネタに出来るかと……あっ、ちょっと、その見るからに毒ありそうなキノコ近づけないで下さい霊夢さん」

「大丈夫よ死にゃしないわ。この前食べたのと同じようなキノコだから大丈夫よ」

「なんでこんな毒々しいキノコ食べようと思ったんですか」

「一時の気の迷いよ、ほらぐいっといっちゃいなさい」

「いやいやいや、こんなどこからどう見ても怪しいキノコ食べるわけないじゃないですか。せめて安全性を確かめてからにしてくださいよ」

「それもそうね」

 

というわけでキノコを持ってきた張本人こと魔理沙に食べてもらうことに。尚これ一個しか持ってきてないみたいだから必然的に魔理沙1人が生贄になるわね。

 

「というわけで魔理沙、まずアンタが食べて確かめてからにして頂戴」

「え、えぇ!?」

 

その反応はおかしい。人に食べろと押し付けて来ておいてその反応は絶対におかしい。

文に押し付けようとしていたキノコを魔理沙に食べさせようと近づけると、無駄に機敏な動きで私から距離を取って片足立ちで威嚇してくる。あれは荒ぶる鷹のポーズだ。始めて見たわ本気でやってる人。

 

「嫌だ! 私は絶対食べないぞ!」

「そう……仕方ないわね」

「あ、諦めてくれるのか?」

「そうね……文、ゴー」

「アラホラサッサー!」

「え”」

 

仕方がないので実力行使だ。文にゴーサインを出すと嬉嬉として天狗としてのスピードを生かして魔理沙の背後に回り込み、羽交い締めに。逃げようとジタバタ踠く様は遊〇王のワンシーンを彷彿とさせる。

 

しかし今回バー〇ーカーソ〇ルを使用しているのはコチラだ。キミが泣くまでキノコを口に運ぶのを止めない。泣いても止めない。

 

「ちょ……霊夢……霊夢さん、止めーー」

 

雲一つない青空の下で、魔理沙の悲鳴が周囲に轟いた。

この後泡を吹いて倒れた魔理沙を介護したのだが、それはまた別のお話だ。今回は高笑いが長時間辺りに響いただけで済んだので御の字だろう。

 

 


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