初めて人を殺したのは、まだ僕が15歳にもならないぐらいの時でした。
その年は、例年稀に見る暑さで、僕の住む街では、35度ぐらいが毎日のように続き、朝だというのに、道行く人たちは怠そうに、太陽の光を目の敵にしたように、瞼を半分だけあげていました。
当然、僕も例外ではなく、そんな炎天下のなか、学校に向かわなくてはなりませんでした。
既に高校受験を控えていた身分
でしたから、必死になって勉学に励まざるをえませんでした。しかし、幸いに、他のさ家庭に見られる様な、過度な期待を掛けられることも、心配されることもありませんでしたので、これだけは気が楽でした。
あの頃、物静かで友達も少ない僕は、ただただ学校に行くのは億劫で、またとても退屈なことでありました。
これでも、剣道部に入ってはいたのですが、やはり、同級生や先輩とは仲良くなれず、後輩の幾人かと練習に取り組んでいました。
朝早く、まだ数人しか来ていない教室に入ると、話す相手も居ませんので、ホームルームの始まるまでは机に突っ伏して過ごすのがいつもでした。
時間が経つと、クラスメイトがどんどんと登校してきます。その中に、一際目立つ生徒がいました。佐倉直己。私立の学校でも珍しいタイプの不良でした。最近の不良というのは、先生が見ていないところで悪いことをしたり、集まって群れるというのが普通だと思うのですが、彼は髪の毛を金色に染めて、別段、悪いことをする訳でもなく、誰とも群れる様なことはしないという、変わり者でした。私立の学校でそんな人間は即座に退学になると思いきや、学年でトップの成績、また、学校長の孫ということもあってか、未だに注意をされるに留まっていました。
彼は窓際の席に着くと、首から掛けていたヘッドホンをあてて、外を眺めています。
気づくと、僕の周りに三人の生徒が集まっていました。ニヤニヤとした笑顔を向けてくるのは、森内貴寛と、その取り巻きの二人でした。
おい、と声を掛けられます。面倒なことに、無視をしようとすれば、こっちを向けとばかりに机を足で軽く蹴ってきました。
ため息を吐き出すと、僕は気だるけに彼の方を見上げます。
ため息が気に入らなかったのか、三人は目を見合わせて、取り巻き二人が僕の腕を掴んで、無理やり立たせられました。何とか抜けようと動いてみますが、何分、ラグビーをやっていたという二人ですから、びくともしません。
「火村、お前なんでため息なんかついてんだよ」
不機嫌そうにそう言うと、次の瞬間には、僕の腹に彼の拳が直接入りました。両腕が固定されていましたので、身を守ることもままならなかったので、ごふっと、肺から空気が出てきます。
目立つような顔といった所を狙わず、腹の様な目立たない所を狙うというのは、とても汚い手口だなと思います。しかし、ここで僕が反撃に出たところで、恐らく反対にボロ雑巾のようにされてしまうであろう事は明白でした。 それであれば、耐え抜くことの方が、まだ怪我が多くならずに済みますので、ライオンに捕食される子供のシマウマというような具合に、受け入れてしまうのです。
苦しげな僕の顔に満足したのか、「また、校舎裏で待ってるぞ」というと、三人でケラケラ笑いながら、席に戻っていきました。
乱れた呼吸を戻しつつ、ふと、視線を向けられていることに気づきました。まだ森内がこちらを見ているのかと少し強ばって顔を動かすと、どうやら、視線は窓際の席から来ているようです。そう、佐倉くんです。
予想外の人からの視線に、少し驚きつつも、彼の視線はすぐに外へと戻っていきました。
死とは生きることの反対ではなく同意義。
死にたいと思うことは、同時に生への渇望、欲求なのです。