【艦これ】アウェイク   作:白井マナ

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艦これの2次創作です。キャラ崩壊、独自設定があります。苦手な方はブラウザバック推奨です。


ラフスケッチ(終)

 濡れた服を着替え、私は秋雲の部屋にやってきた。相変わらず掃除されていない、言い方は悪いがゴミ屋敷のような部屋だ。足の踏み場がないほどの書籍と紙くずたちに思わず目を細める。

「やっぱり掃除した方が良くないかしら。どうするのよ、この紙くずの山」

「こ、これは秋に焼き芋の肥やしにするつもりだから……って、どっかで同じことを言った気がする」

 窓の向こうを見ると、まだ雲の方が多いが、所々まぶしい晴れ間がのぞいていた。さっきちらりと見た天気予報では、この辺りはそろそろ梅雨が明けるらしい。雲一つない、真っ新な青空が待ち遠しかった。

 巻雲が来る間に、二人で少しばかり部屋を片付けた。

 ノックの音がする。部屋に入ってきた巻雲は、スケッチブックを大事そうに胸に抱いていた。

「これを、本棚に戻せば、いいんですよね」

 尋ねる巻雲に私は頷いて見せた。

 妖精に見せてもらった工廠の建造記録によると、秋雲は建造された際、本棚とともに生まれた。その本棚が、秋雲にとって必要不可欠だった。秋雲が誰かのことを記憶するには、誰かの顔が描かれたものをその本棚に入れなければいけない。描かれたものでなくても、それは写真でも良かった。

 舞風から聞いた話も、これで説明できる。秋雲は着任してから1週間、寝て起きたときには会ったひとのことを忘れてばかりだった。そして、スケッチブックに似顔絵を描き始めてから、次第に仲間のことを覚えていった。そのスケッチブックを本棚に収めたから、秋雲の中に記憶として残っていったのだ。

 それをこの部屋の前で巻雲に説明したが、あのときは巻雲には伝わっていなかった。そもそも、私も頭に血が上っていて、きちんと説明できていなかったのかもしれない。

 入口の反対側の壁に置かれた本棚。巻雲は抱えたスケッチブックを、その本棚に丁寧に収めた。

 ばたり、と大きな音がして、振り向くと秋雲が頭を抱えて尻もちをついていた。

「だ、大丈夫!?」

 慌てた巻雲が秋雲の側に駆け寄る。

 秋雲はしばらく頭を押さえていたが、すぐに顔を上げた。

「へへ、ちょっとくらっとしただけだよ。もう大丈夫」

「本当に? 無理してないよね」

「してないって。あぁでも、のどが渇いた気がする」

「水持ってきてあげる」

 巻雲が部屋を出ようとするのを、私は呼び止めた。

「あ、私が行くよ」

「いいえ、満潮さんは秋雲と一緒にいてあげてください。すぐに戻りますから」

 そう言って部屋を出ていってしまった。秋雲の役に立ちたかったのだろう。それなら、邪魔をするわけにはいかない。 

「思い出した?」

「うん。もう大丈夫」

 秋雲が手を伸ばしてくる。私はその手を取り、秋雲を立ち上がらせた。

「ねぇ、満潮。『ラフスケッチ』って知ってる?」

「ううん。なにそれ」

 秋雲は側にある本棚を優しく撫でた。棚の中には人物に関する資料や写真集が並べられている。その中段あたりに、秋雲のスケッチブックは収められていた。

「絵の下描きって言えばいいかな。大まかな見た目をちゃらちゃらっと描いちゃって、その後でキチンとしたものを描くんだ」

 秋雲は懐かしむように天井を仰いだ。

「私が巻雲を描いた絵、本当にへたくそでさ。めちゃくちゃ時間がかかった上に、納得いかない出来になっちゃったの。それなのに巻雲は『お礼をする』なんて言うんだよ。だから、困っちゃって——お礼を受け取る資格なんて、最初からなかった」

 そう言われて、私は首を傾げた。あの1ページ目に描かれていた巻雲の絵は、相当に上手だったように見えた。あれを「へたくそ」と言うとは。絵心のあるひとの考えは分からない。

 秋雲は続けた。

「巻雲が帰った後だよ。ここに描かれているのは『ラフスケッチ』ってことにして、またあの子が来ることがあれば、その時にきちんと描かせてもらおうって。それまではいろんな形で絵を描いて、腕を上げておこうと思ったんだ。せっかくの親友だもん、大事にしたいじゃん」

 にぱっと向けられる笑顔に当てられて、私の口元も緩む。

 こんな風に思ってくれる友達がいる巻雲が、少し羨ましくかった。

 私にもいるのかな。私のことを思ってくれる人って。

 人間の言葉とは、なんてまどろっこしいんだろう。言葉にするよりも、飾らない心がテレパシーのように相手に届けば、誤解が無くて済む気がする。残念ながら私たちは、艤装を操れるという以外に超能力じみたものを使うことができない。

 でも、それでいいのかもしれない。言葉はヒトだから使える唯一の才能だ。ヒトには身体が、心があるから、言葉を使い、言葉に想いを乗せることが出来る。

 せっかく船から人間に生まれ変わったのだ。存分に思いを伝え合っても、罰が当たることはないだろう。

「秋雲。あなたが私たちのところに来たとき、巻雲の名前呼んだじゃない?」

「ん、そうだけど」

 私は確認の意味を込めて、秋雲に尋ねることにした。

「本当はあの時、巻雲のこと、何一つ思い出してなかったんでしょ」

 秋雲が一瞬驚いた顔をする。巻雲に似ているのか、それとも巻雲が秋雲に似たのか、コロコロと変わる表情は見ていて飽きなかった。すぐにいつもの屈託のない笑顔が戻ってきた。

「さぁ、もう忘れちゃったよ」

 

   ***

 

≪to≫ [email protected]

≪件名≫ 巻雲です

 

 久しぶり!携帯は修理中だから、パソコンから送ってます。ちょっと、あのときのことを思い出してメールしました。プレゼントした漫画用のペン、使い心地はどう? 大事に使ってくれると嬉しいです。

 そのペンをスケッチブックに挟もうとしてたんだよね。今思えば、スケッチブックに挟むには大きすぎるし、見た目も不自然になるし、何も良いことはなかったかも。

でも、あのときはサプライズで喜ばせることで頭が一杯だったから……なんだか言い訳がましい。

 

 そう言えば、あのとき巻雲たちを助けてくれた子、元気にしてる? 

 彼女がいなかったら、きっと巻雲はあのまま壊れてただろうし、こうして秋雲とも連絡できなくなってただろうから。彼女には、また改めてお礼をしないとね。

 

 こっちはもうだいぶ桜が咲いたよ。今度、休みの子たちとお花見に行くんだ。そのころには携帯も治るだろうから、写真を撮って送るね。

 

 それじゃ、またね。

 おやすみ。

 

――このメールはPCから送られています




第1章はここで終わりです。
一ヵ月あきまして、次回第2章は12月2日(土)投稿予定です。
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