朝の日差しで海面がキラキラと光って見える。透き通るような青空の下、新しく鎮守府に着任した艦娘たちは艤装について説明を受けていた。
練習巡洋艦・鹿島は海原を背にして、わたしを含め数人の艦娘の方を向く。駆逐艦、巡洋艦、一部空母とさまざまな艦種の艦娘の顔を、鹿島は確認するように見渡した。
新しく着任した艦娘の確認が終わったのか、満足そうに頷いた。
「艤装というのは、私たち艦娘が海の上を走行するために必要な動力源、だと思って下さい。みなさんの履いている靴にはスクリューが付いています。スクリューには、私たちの身体を通して艤装からエネルギーが送られます。それによって、体重で沈むことなく海上を行くことができるんです」
鹿島は自分の踵を指差した。私たちの靴を見ると、皆それぞれ形は違うが踵にスクリューが付いていた。
「また艤装には、深海棲艦からの攻撃を防御する機能もあります。艤装をつけていれば、透明なシールドで覆われるので、敵からの攻撃で傷つくことはありません。
ただし、艤装にも耐久力があって、敵から攻撃を受け続ければ消耗していきます。最後には艤装が壊れて――」
つまり、艤装が壊れてしまえば、敵からの攻撃に対して無防備になるということだ。そして、スクリューにもエネルギーが行かなくなって海に沈んでいく。
鹿島の話によると、スクリューへのエネルギーは他の艦娘から受け取ることも出来るそうだ。艤装が壊れても、他の艦娘に身体を預ければ、その子の艤装からスクリューにエネルギーが送られる。まるで電気の回路だ。最初は直列回路で、自分の力でなんとかなる。壊れたら並列回路になって、仲間からエネルギーを分けてもらう。
「は、はい」と、ひとりが恐る恐る手を挙げた。軽巡洋艦の名取だ。
「もし、仲間同士でぶつかっても、大丈夫なんですか?」
その質問に、鹿島はフルフルと首を横に振った。
「防げるのは、深海棲艦からの攻撃だけです。仲間同士での接触や誤爆は防御できません。以前、他の鎮守府で艦娘同士が接触事故を起こしたそうです。一方は無事、もう一方は未だ意識がないそうです」
鹿島が目を伏せる。一体その事故がどのような状況で起こったのかは想像できない。ただ、頭をぶつけてコブが出来たでは済まなそうだ。鹿島を前にする私たちの間をしんとした空気が流れて行く。
そんな空気を感じ取ったのか、「みなさんも気をつけて下さい」と鹿島は表情を改めた。
その後、鹿島との艤装展開練習は滞りなく進んだ。鹿島が自身の艤装を展開して、それを私たちが倣うという形で練習が始まった。
「背中に羽を生やすようなイメージです。背中に意識を向けてください。そうすれば自然に艤装が展開されます」
言われた通り自分の背中に意識を集中させると、光の粒が私の周囲を舞い始めた。無秩序に舞っていた光は、やがて背中に集まって行き、ひとつの形を成した。
船の艦橋のような形をした箱状のもので、肩紐が左右に付いていてリュックサックのように背負えるようになっていた。私はその肩ひもに腕を通している。今背負っているものこそが、『艤装』と呼ばれる動力装置だった。
私以外の艦娘も艤装を背負っていて、形も大きさもバラバラだった。
「艤装の大きさや種類は、皆さんが艦船だったころの艦種や艦型によって異なります。艦船の一部を切り取ったような艤装もあれば、本物の艦船を模した形の艤装もあります」
性能も違っているんですよ、と鹿島は付け足した。
自分と同じ性能や機能の艤装は、同じ艦種で、同じ艦型の艦娘以外にはない。私の艤装は、朝潮型駆逐艦だけのものということだ。
ちらりと肩越しに自分の艤装を眺めてみる。端が切れて見えるだけだが、背中にはしっかりと艤装の重みが感じられた。この艤装は、姉妹艦の朝潮や荒潮たちと同じ艤装なんだ。姉妹でおそろいの装備をしていることが嬉しかった。
背中から降ろしてじっくり見たいと思ったが、今は練習中なので我慢することにした。
艤装の展開が終わると簡単な水上航行の練習に移った。嵐の言った通り特に気張る必要はなく、簡単というわけではなかったが、言われたことをやっていたら自然と出来るようになった。
鹿島の指導が一通り終わる頃には新人のほとんどが水上移動を出来るようになっていて、気づけば陽の光が真上から差し込んでいた。