血濡れの狩人と白兎   作:ユータボウ

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『』、【】の使い分けがすごく難しい(小学生並みの感想)。
あと、ダンまちで好みのキャラがエルフばっかで困惑してます。

本作品はダンまちとbloodborneのクロスオーバーものとなっています。また余程のことがない限り三人称視点で進んでいく予定です。


第1話

 ベル・クラネルは溜め息をついた。突き飛ばされて地面に強打したズキズキと痛む臀部をそっと払い、顔をしかめながらも立ち上がる。

 また駄目だった。冒険者に憧れ、故郷の村からこの迷宮都市オラリオに遥々やってきたベルだが、数日経過しても未だに肝心の【ファミリア】に入ることが出来ずにいた。ギルドより渡された探索系【ファミリア】のリストに記された【ファミリア】を当たってみたはいいが、どこもかしこも適当な理由で断られてしまうのである。

 ベルは俯き、今の自分を客観的に見つめ直した。真っ白な髪に赤い瞳の組み合わせはさながら兎のようで、その顔つきもまだまだ幼い少年のそれだ。体の方も故郷で農耕をしていたこともあって鍛えられてはいるが、線は細くどことなく頼りない印象を与えてしまう。また、冒険者には必須である装備品も身に付けてはいない。

 なるほど、これではどの【ファミリア】にも断られてしまう訳だ。だって自分は明らかに弱そうなのだから。屈強な肉体である訳でもなければ、キチンとした身なりをしている訳でもない。ベルは再度深く嘆息した。

 

「……やっぱり、僕には無理なのかな?」

 

 英雄となってハーレムを作る。

 

 今は亡き祖父の影響を受け、そんな子供のような願いを今も尚持ち続け、目指しているベル。しかし、非情な現実に打ちのめされた彼は意気消沈してしまい、普段の前向きで明るい性格はすっかり息を潜めてしまっていた。

 踵を返し、ベルはふらふらと寝泊まりをしている宿を目指す。まだ太陽は高い位置にあるが、今の彼はさっさと休んでしまいたい気分だったのだ。

 眠ってしまえば今の陰鬱な気分くらい忘れられるだろう。そんな思いと共にベルは暗い表情のまま、人々で賑わう通りを歩いていく。

 

「僕を受け入れてくれる【ファミリア】なんて……あるのかなぁ……」

 

 ポツリと溢れた独り言。それは人々の賑わう声に消えていく……筈だった。

 

 

 

 しかし、彼女だけはその声を聞いていた。

 

 

 

「ねぇ君、もしかして【ファミリア】を探しているのかい?」

 

 そんな言葉と共に手を引かれ、ベルは思わずその場で立ち止まる。振り返ると彼の目にふわりと揺れる黒髪のツインテールと、そして浮かべられた満面の笑みが飛び込んできた。

 突然のことに困惑するベル。そんな彼に向かって少女──ヘスティアは「もし良かったら……」と言葉を紡ぐ。

 

「ボクの【ファミリア】に来てくれないか?」

 

 数秒後、ベルはその言葉の意味を理解し、通りの真ん中で大声を上げた。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

「到着だよ。ここがボク達の本拠地(ホーム)、『竈火の夢』さ!」

 

「ここが……」

 

 ヘスティアにベルが連れてこられたのは、オラリオの西地区に佇む白い教会だった。大きさ自体はそこまで大きい訳ではないが、その壁には汚れや塗装の剥がれの一つもなく、外観は綺麗に保たれている。教会という建物故か、どこか神聖な雰囲気を感じさせる【ヘスティア・ファミリア】本拠地(ホーム)に、ベルは圧倒されてその場に立ち尽くした。

 

「凄いだろう? 最初はボロボロの廃教会だったんだけどね、ボクの眷族()がヴァリスを貯めて直してくれたんだ」

 

 入りなよ、と。先行して扉を開けたヘスティアがベルに声を掛ける。そこで漸く我に返ったベルは慌てて彼女の後に続いていく。

 教会の中は外観同様、シンプルながら美しい造りとなっていた。空から降り注ぐ日光がステンドグラスに反射して教会の内側を照らしている。そんな故郷では見られなかった内装を物珍しそうに眺めるベルに、ヘスティアはふっと微笑んだ。

 

「さぁこっちだよ。この教会は確かに立派だけどボク達がいつも暮らしてるのはここの奥なのさ」

 

 ヘスティアがそう言いながら教会奥の扉を開くと、白い花の咲く庭に囲まれた邸宅が建っていた。教会の正面からは見えなかった、まるで絵に描かれたような光景に、ベルは今日何度目かとなる感嘆の声を漏らす。

 

「す、凄いですね……! もうなんだか、さっきから驚きっぱなしです……」

 

「ふふっ、そうだろうそうだろう! そんな新鮮なリアクションをしてくれる子は久し振りだよ!」

 

 ベルの反応に機嫌を良くしたのか、ヘスティアの足取りは普段よりも軽い。鼻唄を歌いながら石畳の上を歩くその姿は誰が見ても可愛らしい少女のそれであり、ヘスティアの纏う『神威』がなければ彼女が神だとは思えなかっただろうとベルは苦笑した。

 

「さて。少し遅くなったけど、ようこそ『竈火の夢』へ」

 

「は、はい。お邪魔します」

 

 玄関を通され、ヘスティアと共に『竈火の夢』本邸へと入っていくベル。本邸の中は豪華絢爛とまではいかないまでも、落ち着いた上品な雰囲気の造りとなっており、内装を考えた者のこだわりを感じさせていた。その様子に目を奪われたのか、ベルはつい忙しなく辺りを見回してしまう。

 

 そんな彼と、彼を微笑ましく見守るヘスティアに近付く影が一つ。

 

「おかえりなさい、ヘスティア様」

 

「うん。ただいまマリー君」

 

 現れたのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。丁寧な装飾のあしらわれた衣装を着た、しかし球体関節を持つ紛れもない人形が動き、ヘスティアと言葉を交わしているという光景に、ベルはポカンと口を開けて呆然となる。

 

「ヘスティア様、そちらの方は?」

 

「おっと、そうだった。この子はベル・クラネル君。【ファミリア】を探してたところを誘わせてもらったのさ」

 

 ヘスティアはふふんと鼻を鳴らして得意気に豊満な胸を張った。人形はそんな彼女にクスリと笑いを溢すと、未だに呆けるベルの前へと歩を進めた。そして、再び丁寧に頭を垂れる。

 

 「はじめまして、クラネル様。私は人形。この【ファミリア】で貴方のお世話をするものです」

 

「は、はいぃ!? べ、べべ、ベル・クラネルですっ! えと、あの、よよ、宜しくお願いします!」

 

「マリー君、ボクはベル君を応接室に案内するから、すまないがお茶でも淹れてもらえないかな?」

 

「分かりました」

 

 ヘスティアの言葉に人形は頷く。彼女の背中を見送ったベルはそのまま応接室へと案内された。そこでソファーに腰掛けた彼は意を決し、テーブルを挟んで向かい合うヘスティアに尋ねた。

 

「あの、ヘスティア様。さっきの人形の方は……」

 

「あぁ、マリー君のことだね。驚いただろ? 人形が動いて話をするなんて」

 

「えぇ……とっても……」

 

 一人と一柱は揃って苦笑する。

 

「あの子はボクの眷族が作ったんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から何も教えられないけどね。それでも、今じゃこの【ファミリア】を支えてくれる大切な家族さ」

 

「へぇ~……」

 

「ふふっ、さぁて、じゃあまずはこの【ヘスティア・ファミリア】のことからでも……って、そんなに言うことはないんだけど、それでも構わないかな?」

 

「あっ、はい。お願いします」

 

 【ファミリア】のことと聞いたベルは背筋をピンと伸ばして真剣な面持ちを作った。そしてヘスティアもまた一度咳払いをしてから、ベルの目をじっと見つめる。

 

「まず初めに言っておくけど、ボク達【ヘスティア・ファミリア】には眷族が一人しかいない。つまり、このオラリオの中で最も小さな【ファミリア】なんだ。そこは覚えておいてほしいな」

 

「え? でも、この建物やさっきの教会はここの眷族の人がヴァリスを貯めて建て直したって言ってましたよね? もしかして、ここをたった一人で……?」

 

 恐る恐るといった様子のベルにヘスティアは首を縦に振る。直後、彼の口から驚愕の叫びが響いた。

 

「す、凄い方なんですね……ここの冒険者さんは。僕、そんな方と一緒で大丈夫なんでしょうか?」

 

「大丈夫さ! そりゃ確かに彼は巷じゃ【血の申し子(ブラッドボーン)】なんて物騒な、それも以前の二つ名で呼ばれているけど……彼がとってもいい子だってことは主神であるボクが保証するよ!」

 

「ふむ、我が主神にそこまで言われるとは光栄だな」

 

 ビクッと、何の前触れもなく耳に飛び込んできた低い男の声にヘスティアとベルの肩が跳ねる。慌てて部屋の扉の方へ振り返った一人と一柱が見たのは、ティーカップの乗ったお盆を支える男とその隣に控える人形の姿だ。ヘスティアの表情が引きつる。

 

「ヴィ、ヴィンセント君……帰ってきたのかい……?」

 

 震える声のヘスティアに男は肯定の意を示した。

 

「つい先程な。人形から冒険者志望の客人がいると聞いて来てみたが……少年で間違いはないか?」

 

「は、はいっ! ベル・クラネルと言います!」

 

 咄嗟に頭を下げたベルは改めて目の前の男をじっと見つめた。

 男の身長はおよそ一八〇、全身には黒一色で統一された装束を纏っている。尖った帽子の隙間からは紅蓮の髪と翡翠色の瞳が覗いており、その視線は真っ直ぐベルの方へと向けられていた。それに気付いたベルは無意識のうちに体を強張らせる。

 

「心配は無用だ。そう警戒することはない。いくら私が無慈悲な人間であろうとも、初対面の少年を問答無用で殺すような真似はせんよ。かつてならともかく今は、な」

 

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべた男はテーブルに近付き、ヘスティアとベルの前に紅茶の入ったティーカップとお茶請けの乗った皿を置いた。引っ掛かる男の言葉はともかく、紅茶から立つ芳醇な香りにベルの中で張っていた緊張の糸が緩んだ。

 

「おっと、自己紹介がまだだったか。【ヘスティア・ファミリア】団長、ヴィンセント・ローズだ。宜しく頼むぞ、少年」

 

「は、はい。宜しくお願いします」

 

 差し出された右手に一瞬戸惑うも、すぐさまベルはその手を取って握手を交わした。

 怖そうだけど悪い人じゃなさそうだ、ベルは内心でヴィンセントにそんな評価を下す。

 

「さて……既に言われたことかもしれんが、ここは私とヘスティア、そして人形しかいない小さな【ファミリア】だ。オラリオにはここよりも大きな【ファミリア】は無数にある。それでも、貴公はここを選ぶのか?」

 

 ヴィンセントの言葉にベルは自分の胸に手を当て、すぅと大きく深呼吸をした。そしてその深紅(ルベライト)の瞳でヴィンセントの翡翠色の瞳を見つめ返し、言った。

 

「僕は、英雄になるためにこのオラリオに来ました。でもどこの【ファミリア】にも門前払いされて、やっぱり僕なんかじゃ駄目なのかなって思って……でも! こんな僕でもヘスティア様は、神様は【ファミリア】に誘ってくれました! だから──」

 

 ベルは頭を下げた。そして叫ぶ。

 

 

 

「お願いしますっ! 僕を、【ヘスティア・ファミリア】に入れてください!!」

 

 

 

 しん、と部屋に静寂が訪れた。カチカチと時を刻む時計の音がやけに大きく聞こえる。

 ベルは頭を上げなかった。いや、上げることが出来なかった。あれだけのことを言ってもし断られたら? そう考えるだけで彼の体は石のように動かなくなってしまったのである。

 

 そして──静寂を破ったのはヘスティアだった。

 

「勿論だよベル君! やった! やったぜヴィンセント君! 漸く二人目の眷族だ! 今日はお祝いのパーティーだよ!」

 

「え……え……?」

 

 感極まったヘスティアに肩を掴まれ、ガクガクと揺らされるベル。しかし当の本人は状況を理解出来ていないようで、ただ困惑するだけである。やがてヴィンセントがヘスティアを止めに入ったところで漸く脳が役目を果たし始めた。

 

「その……いいんですか? 本当に僕なんかが入って……?」

 

「当たり前じゃないか! ベル君、君は今日から【ヘスティア・ファミリア】の一員で、ボクの家族だよ!」

 

「落ち着け神ヘスティア。ベル・クラネル、【ヘスティア・ファミリア】にようこそ。我々は貴公を歓迎しよう」

 

「宜しくお願いします、クラネル様」

 

 ヘスティア、ヴィンセント、そして人形の順に歓迎の意を示され、ベルは思わず涙を流しそうになった。込み上げる嗚咽を必死に堪え、溜まった涙を手で擦って誤魔化す。そして再び頭を下げた。

 

「ありがとうございます! これから、宜しくお願いしますっ!」

 

 

 

 こうして少年、ベル・クラネルは正式に【ヘスティア・ファミリア】の眷族となった。

 




 人形がマリーと呼ばれているのはモデルであるマリアをもじってます。ただ、実際に呼ぶのはベルとヘスティアだけの模様。

 狩人様が空気を読めるのはぐう聖のヘスティア様と長い間一緒にいたからということで。人と会話せず突然斬り掛かったりグロい儀式素材を平気で持ち歩くようなサイコパスだとお話にならないんだよなぁ……。

 とりあえず4話までは完成してるので、何日か毎に出していきますね。

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