血濡れの狩人と白兎   作:ユータボウ

14 / 17
フリープレイで再び熱が入ったので。ランキングの方にもbloodborne作品がちらほら見えてて、やっぱりフリープレイの影響なのかと思いました(小学生並みの感想)。


第14話

 『ウォーシャドウ』

 

 ダンジョンの6階層から出現し始めるこのモンスターは、影の名の通り実体らしい実体を持たない、のらりくらりとした独特の動きをするモンスターである。これまでの階層に出現する相手とは明らかに気色の異なるこのモンスターは、『コボルト』や『ゴブリン』などの動きに慣れ始めた頃の新米達に、新たな驚異となって襲い掛かってくる。6階層が上層においてある種の区切りとなるのはこのためだ。

 

 そんな6階層のとあるルームにて、ベルは複数のウォーシャドウに囲まれていた。

 

「……ふぅ」

 

 ゆらゆらと揺らめく漆黒の影にベルは小さく息を吐いた。両の手に握り締めたショートソードとナイフ──寵愛の刃をゆっくりと構え、深紅(ルベライト)の瞳を細めてウォーシャドウを睨み付ける。

 先に動いたのはウォーシャドウだった。三本のナイフのごとき鋭い爪が音もなく、まるで暗殺者のようにベルへと振るわれる。先程までの緩慢な動きからは考えられない機敏さ、これが数々の新米冒険者の不意をついてきたウォーシャドウの特徴だ。

 

 しかしあらかじめその驚異を知っている者や、初見であれど優れた反射神経と動体視力を持つ者には、その不意討ちは通用しない。完全にウォーシャドウの攻撃を見切ったベルは身を翻すことで躱わし、カウンターとして左手に逆手で握っていたナイフを、ウォーシャドウの顔面に突き立てた。そのまま動きを止めることなく別の個体に肉薄、刃が煌めくと同時に灰となったウォーシャドウが宙を舞った。

 複数のウォーシャドウ相手にベルが選んだのは、高い『敏捷』を生かした速攻である。受け身に回るからこそウォーシャドウの動きに翻弄され、やがて追い詰められて命を落とすのだ。先手必勝と言わんばかりに攻め続けるベルを、ウォーシャドウ達は止めることが出来なかった。

 

「でぁあああ!」

 

 遠心力を利用したショートソードの縦斬りがウォーシャドウを両断する。剣を振り抜いたベルはそのまま身を屈め、接近してくるウォーシャドウの足を斬り裂いた。斬られた相手は当然体勢を崩し、そしてそこへ迫るは刃の切っ先だ。曇りなき銀の刀身に貫かれ、ウォーシャドウは灰となって消えた。

 

「……やっぱり使いやすいなぁ」

 

 両手の得物を交互に見つめながら、ベルはポツリと感想を漏らす。しっかりとした重量がありながらも重いとは感じない金属の塊は、まだ使い始めて一週間程度であるにも関わらず、既に長きを共にした相棒のごとく手に馴染んでいる。加えて武器としての性能も高いとなれば、もう文句の付けようがなかった。

 ベルは内心でヘスティアと、そしてヴィンセントに礼を言いながら、辺りに転がる魔石を回収していく。回収中も何体かモンスターが生まれてきたが、それらも問題なく処理する。巾着に貯まった魔石にベルは破顔しつつナイフを腰の後ろに、ショートソードを左腰の鞘にそれぞれ納刀した。

 

「6階層はもう大丈夫かな。でもこれ以上下に行くとエイナさんに怒られるし……」

 

 腰に手を当ててしかめっ面を作るハーフエルフの美人アドバイザーが容易に浮かび、ベルは思わずぷっと吹き出した。この第6層に挑むことすら、ベルがソロだということを理由に散々渋られたのだ。第7層まで行きましたなどと言った日には、彼女の雷が落ちるのは想像するに難くない。

 結局ベルはもう暫くの間、この6階層を探索することにした。懐に余裕が出来たらエイナに何かを送ろう、そんなことを考えながら彼は再度現れたウォーシャドウに対し、寵愛の刃を抜き放った。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 地下迷宮18階層。そこは安全階層(セーフティーポイント)と呼ばれるモンスターが生まれない階層だ。草原や湖、森などの豊かな自然に加え、光を乱反射させる青結晶が点在しており、『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』の名に相応しい幻想的な風景が広がっている。

 そんな18階層の片隅には小さな墓がある。装備を墓石の代わりとした簡素な作りのそれの前で膝を折り、祈りを捧げるは、緑色のマントに身を包んだ一人のエルフだ。その傍らには黒衣を纏う紅髪の男が無言のまま佇んでいる。

 

「……アリーゼ」

 

 エルフ──リュー・リオンはポツリと、僅かに震える声で知己の名前を呟く。

 

 アリーゼ・ローヴェル。かつてオラリオに存在した正義の【ファミリア】、【アストレア・ファミリア】の団長だ。オラリオを訪れたばかりのリューの手を取り、自らの【ファミリア】へと入団させた彼女は、リューにとって恩人にも等しい存在だった。

 

 しかしアリーゼは、【アストレア・ファミリア】のメンバーはリューを残して死亡した。悪を是とする邪神に魅せられた者達──『闇派閥(イヴィルズ)』の手に掛かって。

 

 迷宮都市オラリオにはかつて暗黒期と言われる時代があった。他者を顧みず、己の欲望のままに行動する『闇派閥(イヴィルズ)』が街に蔓延り、治安が著しく低下。派閥同士の抗争で善悪を問わず多くの人々が毎日、これまでの比でない程に命を落としたのだ。

 【アストレア・ファミリア】はそんな暗黒期の中、自らの掲げる正義に従って第一線で『闇派閥(イヴィルズ)』と戦った。しかし、その目を見張る程の活躍ぶり故に彼女らは『闇派閥(イヴィルズ)』の標的とされ、結果【ルドラ・ファミリア】の仕掛けた『怪物進呈(パス・パレード)』によって全滅したのである。ただ一人、リューを残して。

 

「もう五年か。早いものだな」

 

「……そうですね。本当に早いものです」

 

 黒衣の男──ヴィンセントの言葉にリューは頷いた。祈りを終えた彼女はすっと立ち上がると、今度はヴィンセントの方へ向き直る。

 

「ヴィンス。今一度、貴方に感謝を。シルと、そして貴方がいなければ今の私はありません。復讐を果たしたあの日に力尽き、孤独のうちに朽ちていたでしょう」

 

「私はただ生きる意味がないなどと愚図る貴公を、ミアとシルの二人に丸投げしただけだ。まぁ、貴公がそう言うのなら大人しく受け取っておくがな」

 

 胸に手を当てて頭を垂れたリューにヴィンセントは小さく笑い、くるりと踵を返して歩き出す。その背中を追い掛けたリューはすぐに彼の隣に並ぶと、フードに隠れたその表情をふっと綻ばせた。

 

 自身を除いて【ファミリア】が全滅したその後、リューはすぐさま主神であるアストレアをオラリオの外に逃亡させると、自身は復讐のために動き始めた。『闇派閥(イヴィルズ)』の者やそれに与する者を次々に襲撃し、血祭りに上げたのである。復讐の鬼となり激情に駆られたリューはとどまる所を知らず、やがて彼女は『闇派閥(イヴィルズ)』最大勢力であった【ルドラ・ファミリア】すらも滅ぼした。

 しかし、いくら【ルドラ・ファミリア】を滅ぼしたとはいえ、リュー自身もただでは済まなかった。全身に傷を負い満身創痍となった彼女は、人気のない薄汚れた路地で雨に打たれながらついに倒れてしまう。冷たい雨と地面に熱を奪われながら、最後にリューは自嘲した。外道に落ちた身には相応しい最後だ、と。

 

 だが偶然か、はたまた必然か、彼女はヴィンセントに拾われることで一命を取り止め、『豊饒の女主人』に住み込みで働くこととなる。失意に沈み、生きる気力さえなくしていたリューも、慣れないながらも穏やかな日々に癒され、今ではこうして立ち直るまでに至っていた。

 

「ヴィンスはこれからどうしますか? 中層へ行くなら付き合いますが」

 

「いや、今日はもう地上に戻る。……と、その前にリヴィラでドロップアイテムの換金をしなくてはな」

 

 肩から下げられていた袋を軽く持ち上げるようにしてリューへと見せるヴィンセント。そこに入っているのは、この18階層に来るまでに二人が倒したモンスターのドロップアイテムである。リューはそれに一つ頷きを返すと、そのまま『リヴィラの街』へと足を向けた。

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

 18階層の湖に面した島の東部にある『リヴィラの街』は、高さ二〇〇M(メドル)はある断崖の上に存在する。水晶と石の地形を利用して造られた外壁によって取り囲まれたそこは、しかし過去に三百回以上も壊滅したことがあり、その度に再築されてきた。まるで冒険者のしぶとさを象徴するかのようなこの街を、一部の者は『世界で最も美しいならず者の街(ローグ・タウン)』と、侮蔑と呆れ混じりの賞賛を込めて呼んでいる。

 

「……妙だな」

 

「ええ、人の数も少ないですし、街の雰囲気もおかしい」

 

 天幕や木造の小屋など、簡素な造りの建築物が並ぶ通りを歩きながら、ヴィンセントとリューは口々にそう溢す。普段から賑やか、とまではいかないまでも、人々のざわめきと笑い声の絶えない街が、やけにしんと静まり返っているのだ。これまで幾度となくこの『リヴィラの街』を訪れたことのある二人は、その違和感をすぐに察知していた。

 

「何かあったのでしょうか……?」

 

「……誰かに尋ねるか。少し待っていろ」

 

 そう言うや否や、ヴィンセントはコートを翻して近くにあった屋台の店主の元に向かった。その数分後、戻ってきた彼はリューに告げる。

 

「ヴィリーの宿というところで殺しがあったそうだ」

 

「……殺し、ですか?」

 

「あぁ。この街に漂う死と血の匂いは、どうやらそれが原因だったらしい」

 

 予想外のことに眉をひそめるリューに対し、ヴィンセントは顔を上げつつ淡々と語る。自分に分からない匂いを辿り、やがて歩き始めたヴィンセントの背を追いながら、リューは解せないとばかりに息をついた。

 

「……何故、犯人はわざわざこの街で殺人を起こしたのでしょうか?」

 

「さてな、何か理由があるのだろうよ。そうでなければ、証拠の残る上に人目の多いこの街で殺しなどしない。ダンジョンで殺す方がずっと分かりにくいのだからな」

 

 そんな会話をしながら二人は丸太の階段を上がっていく。そうして辿り着いた街の中心をやや過ぎた辺りでは、これまで姿の見えなかった冒険者達が広くない路地に密集するように存在していた。彼等の集まる先には、共通語(コイネー)で『ヴィリーの宿』と書かれた看板が下がっている。

 

「ここか」

 

「随分と人が多いですね。これでは……」

 

「ふむ、どうしたものか」

 

 首を傾げ、人だかりを眺めるヴィンセントとリュー。しかし、突如としてその人だかりが真っ二つに割れ、やがてその間を通って数人の冒険者が出てきた。

 まず先頭を歩くは長槍を携えた金髪の小人族(パルゥム)だ。続いて緑髪のエルフが現れ、アマゾネスの姉妹に山吹色の長髪をしたエルフ、最後に金髪金眼のヒューマンと続く。明らかに見覚えのあるその一団に、ヴィンセントは小さく溜め息をついた。そしてそれを気付かれたのか、金髪の小人族が(パルゥム)が彼の元に近付いてくる。

 

「やぁヴィンセント、こんなところで奇遇だね。実は……少し手伝ってほしいことがあるんだ」

 

 そう言って彼は──【ロキ・ファミリア】団長、フィン・ディムナは微笑を浮かべた。

 




とりあえず書いた分がこれだけなので、次はまた書けたら投稿します。では皆様、かねて血を恐れたまえ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。