血濡れの狩人と白兎   作:ユータボウ

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第15話

「殺されたのは【ガネーシャ・ファミリア】のLv.4、ハシャーナ・ドルリア。見ての通り、首を折られた後で頭を潰されている。ヴィリーの話だと彼は昨日、ローブを被った女を連れていたらしい。その女がいないことから、犯人であることに間違いはないと思っている」

 

 『ヴィリーの宿』の一室、フィンの話に耳を傾けながら案内されたその先で、ヴィンセントとリューはベッドに横たわる頭の潰された死体を見下ろした。

 Lv.4、すなわちリューと同じ第二級冒険者だ。それが部屋の状態からほぼ無抵抗で殺されたという事実に、ヴィンセントは翡翠色の双眸をすっと細め、リューは悲痛そうな表情と共に跪いて目を閉じた。せめて安らかに、そんな想いが届くよう彼女は目の前の骸に祈る。

 

「……ふむ、なるほど。Lv.4程の実力者を不意討ちとはいえ殺せる相手、それを放ってはおけんということか」

 

「あぁ。現場にあった依頼書から、ハシャーナは冒険者依頼(クエスト)で何かを探すよう頼まれていたようでね、犯人はそれを狙ってハシャーナに近付いたんだろう。そしてこれはあくまで僕の勘だけど……犯人はその何かを確保出来ておらず、まだこの街のどこかにいる」

 

 それは確証のない予想。しかしフィンはペロリと右手の親指を舐め、断言した。

 

「今、ボールスに頼んで街中の冒険者を集めてもらっている。Lv.4を殺す程の相手だ、恐らくその実力はLv.4、もしくはそれ以上になる。ヴィンセント、君がいてくれると犯人を楽に捕まえられると思うんだけど……」

 

「私としては貴公を手伝う義理はない、と言いたいところなのだがな……」

 

 そう言ったヴィンセントはチラリとリューを一瞥した。祈りを終え、立ち上がった彼女の瞳には確固たる意志が見える。その背に刻まれた正義の剣と翼、【アストレア・ファミリア】のエンブレムは、今確かな熱を帯びていた。

 

「残念ながら、連れがこれでは手を貸さん訳にもいくまい」

 

「感謝するよ。その礼と言ってはなんだけど、君の連れの正体に関しては黙っておくとしよう」

 

 その一言にリューはギロリとフィンを睨むが、彼はどこ吹く風とばかりに苦笑して部屋を出ていった。

 彼は気付いていたのだ。リューがかつて、オラリオに蔓延る悪人を初めとする多くの人々を惨殺し、ギルドのブラックリストに登録されるまでに至った、かの【疾風】であるということに。髪の色を金から薄緑に変え、口元をマスクで隠してなお、その正体を見破るフィンの観察眼に、ヴィンセントは内心で賞賛を送った。

 

「……仇は取ります、ハシャーナ」

 

「知り合いだったのか?」

 

「ええ。【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】は、よくオラリオの見回りを共にしていましたから、その時に彼とは何度か。まさかこんなことになるなんて……」

 

 オラリオの秩序を守る者同士、深くはなくともそれなりに交流はあったのだろう。ハシャーナの過去を知るリューは、彼の死を重く受け止めていた。

 

「行きましょうヴィンス。例え相手が第一級冒険者であろうと、遅れは取るつもりはありません」

 

「あまり動きすぎるなよ、リュー。自分がブラックリストに載せられているということを忘れるな」

 

 静かに激情を燃やすリューをヴィンセントは小さく諌める。その後二人は、冒険者達の集められる街の中心へと向かった。

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

 ヴィンセント達が街の中心たる水晶の広場に到着する頃には、既に数多くの冒険者達が集まっていた。その数はざっと見ただけでも五百人はいる。この中から特定の一人を探すとなれば、相当な労力を要することになるだろう。

 

「やぁヴィンセント、待っていたよ」

 

「げっ!? てめぇは……!」

 

 歩み寄ってくるヴィンセントへ声を掛けるフィン。そしてその隣にいた『リヴィラの街』を統括するLv.3──ボールス・エルダーは、ヴィンセントの姿を見るなり、ぎょっとなって目を見開いた。眼帯で片目が隠れたその顔には、恐怖の感情がありありと浮かんでいる。

 

「これだけの人数が集まれば壮観だな」

 

「全く。ただ、ここから犯人の特徴を挙げていけば、疑いのある人物はどんどん減っていくと思うけどね」

 

「そっか! 犯人は女の冒険者だもんね!」

 

 そう言って合点がいったとばかりに笑うのは、【ロキ・ファミリア】の誇るアマゾネス姉妹の妹、ティオナだ。そんな彼女に姉であるティオネは呆れを隠そうとせず、はぁと大きく溜め息をついた。それを見た山吹色の長髪のエルフ──レフィーヤ・ウィリディスも思わず苦笑する。

 フィン達の見守る前で冒険者達は、リヴェリアの指示により男女に別れた。分けられた内、女性冒険者はおよそ二百人。途中、その人気のあまり多くの女性冒険者がフィンに殺到し、それを見たティオネが大いに暴れ回るというハプニングがあれど、特徴という名の振るいが掛けられることで、その数はどんどんと減っていく。にも関わらず、未だ容疑者らしき人物を特定することは叶わなかった。

 

「……見つかりませんね。やはり犯人はもうこの場にいないのでしょうか?」

 

「……」

 

「……ヴィンス?」

 

 目の前で行われる取り調べを眺めていたリューだったが、ヴィンセントからの返事がないことに怪訝そうな表情を浮かべる。何かあったのか、そんな言葉と共にふとヴィンセントの様子を伺い、彼があらぬ方向──男性冒険者達の方へと目を向けていることに、思わず困惑の声を漏らした。

 

「……()()()()()

 

「……?」

 

 リューが首を傾げる一方、ポツリと呟いたヴィンセントは早足で男性冒険者達に近付いていく。そんな彼に気付くや否や、誰もが冷や汗を流しながら身を引いた。「ブ、【血の申し子(ブラッドボーン)】……!」、と。誰かが溢した言葉が伝染するように人混みに広がっていく。

 そんな冒険者達を気に留めることもせず、ヴィンセントは黙々と微かに残る匂いを辿った。血の狩人たる彼にしか分からない、血の匂いである。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のを、彼の鼻ははっきりと捕らえていた。

 

「死体の皮を被り己を偽るか。確かにそれなら多くの者を騙せよう。だが──」

 

 視界の端に映るこの場から立ち去ろうとする大柄な男、ヴィンセントはそれを見逃さない。跳躍し、男の目前に着地したヴィンセントは、腰のホルスターよりエヴェリンを抜き、その銃口を男へ突きつけた。何事かと周囲がざわめく中、男はゆっくりと口を開く。

 

「何故、私だと分かった?」

 

 男が喋った途端に、周囲のざわめきは一層大きくなる。それもその筈、男の口から発せられた声は外見通りのものでなく、女性のそれだったからだ。フィンやリヴェリアといった第一級冒険者すら驚きを隠せない状況でただ一人、ヴィンセントだけがいつもの無表情で、エヴェリンの引き金に指を掛けた。

 

「血の匂いだ。殺されたハシャーナと同じ匂い、それが貴公から漂っている」

 

「匂い、か。それは盲点だった。以後は気を付けるとしよう」

 

「次があるとでも思ったか?」

 

「ふん、正体を見破った程度で追い詰めたつもりとは、随分と甘いな」

 

 そう吐き捨て、ハシャーナの皮を被った女はヴィンセントのエヴェリン目掛けて蹴りを放つ。恐ろしい程の速さで迫るそれをヴィンセントは紙一重で躱し、再びエヴェリンを構え直した時には、女は懐から取り出した草笛を吹いていた。

 

 高らかに響き渡る笛の音、それが鳴り終わると同時に地面が揺れ──轟音と共に無数の食人花が飛び出した。

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

「なっ、なんだ!?」

 

「モ、モンスターだぁ!?」

 

 突然沸いた大量のモンスターに、冒険者達は訳も分からず狼狽えた。その中で即座に動けたのはヴィンセントやフィンを筆頭とした第一級冒険者、そしてリューだけだ。現れた食人花を見たヴィンセントの脳裏に、『怪物祭(モンスター・フィリア)』での出来事が過る。

 

「ちぃ……!」

 

 自分へと群がるように集まってくる食人花に舌打ちをし、ヴィンセントは虚空より《獣狩りの斧》を掴み、その柄を引き伸ばした。さながらハルバードのようになった斧を振り回し、寄せ来る敵を次々に蹴散らしていく。しかし、彼にはこれが自身を足止めするための肉壁であることに気付いていた。

 

「貴様には『ヴィオラス』の相手でもしておいてもらおう。私にはまだやるべきことがあるのでな」

 

 押し寄せる食人花──ヴィオラスを相手に無双するヴィンセントを最後に一瞥し、女はその姿を消した。目の前にいた敵の頭を逃がした、その事実にヴィンセントは苛立ちのあまり、最寄りのヴィオラスを全力で叩き斬ると、すぐさまその死体の上に飛び乗った。

 

 四方八方をヴィオラスに囲まれる中、ヴィンセントは組んだ両手を天へと高く掲げる。

 

「──消し飛べ」

 

 短く呟いた刹那、彼の手から放たれた蒼白の閃光が雨のように降り注ぎ、ヴィオラス達に炸裂してはその頭部を弾き飛ばした。

 

 彼方への呼びかけ。

 

 かつて「聖歌隊」の生み出した秘儀の一つであり、精霊を媒介に遥かな彼方の星界への交信を試みた結果、生まれた失敗作。儀式自体は失敗したものの、しかし生まれたこの秘儀は星の小爆発を伴い、「聖歌隊」の特別な力となったという。

 

 ヴィオラスを一掃したヴィンセントは再び獣狩りの斧を手に取り、阿鼻叫喚となっている広場を疾走した。ここにきてある程度は持ち直しつつある冒険者達だが、耳障りな咆哮を上げながら暴れ回るヴィオラスを前に、怪我を負う者や犠牲になる者が後を絶たない。ヴィオラスの外殻はLv.5のティオナとティオネの拳すら通さない程の堅牢さで、並みの冒険者では文字通り歯が立たないのである。

 

「リヴェリア、敵は魔力に反応する。出来る限り大規模な魔法で付近のモンスターを集めるんだ!」

 

「あぁ、分かった!」

 

「ボールス、君は冒険者達に五人一組のパーティを作らせろ。一体ずつ当たれば抑えられる!」

 

「お、おう!」

 

 滅茶苦茶になった戦場に的確なフィンの指示が飛び、それに合わせてリヴェリアとボールスが動いた。魔方円(マジックサークル)を描き、詠唱を開始したリヴェリアにヴィオラス達は一斉に反応し、彼女を呑み込まんと大口を開けて襲い掛かる。

 

「させないよっ!」

 

「そりゃー!」

 

「はぁあああ!」

 

「ふっ……!」

 

「はっ……!」

 

 だが、当然リヴェリアの周りにはそれを良しとしない者がいる。フィン、ティオナ、ティオネ、ヴィンセント、そしてリューの五人は、口腔の奥にある魔石を晒したヴィオラスにあえて突っ込み、一撃の下に次々とそれらを砕いていった。その鮮やかな動きに冒険者達はどっと歓声を上げ、花ごときに負けるものかと奮起して武器を振るい始める。

 

「ていうか、なんでアイズとレフィーヤはいないのさー!? こんな時にどこ行ってるのー!?」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 今はこのモンスター達に集中しなさい!」

 

「ティオネの言う通りだよ。でも……どこに行ったんだろうね、アイズ達は」

 

 貴重な戦力であるアイズとレフィーヤの不在に、【ロキ・ファミリア】の面々の心中は穏やかではないが、それでも誰一人として手を休めることはなかった。繰り広げられるリヴェリアを囮とした誘い出しからの各個撃破、更には落ち着きを取り戻した冒険者パーティによる反撃で、ヴィオラス達は徐々にその数を減らしていく。

 

 このまま一気に。この場で戦う全ての者がそう思った瞬間だった。

 

『ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 突如として辺り一帯に轟く絶叫。ビリビリと震える大気に振り返った冒険者達の目に映ったのは、同種のモンスターを食らい、膨れ上がっていくヴィオラスの姿だった。血肉を撒き散らし、グシャグシャと不快な音が響かせるそれは、やがて羽化のように己の体皮を内側から破り──女体にも似た極彩色の上半身を現した。

 

「な、なんですか……あれは……!?」

 

「……花の次は蛸か、随分と気色悪いモンスターだ」

 

 蛸。驚愕を露にするリューにヴィンセントがそう称したように、先程までヴィオラスだったモンスターの下半身は、まさしく蛸であった。上半身は人型、下半身は蛸の足のようにヴィオラスが蠢く様は、誰がどう見ても異形と断言するだろう。

 

『ォオオオオオオ───────!!』

 

 つんざくような産声を上げた巨躯の異形は、リヴィラの中心へと侵攻を開始した。




オラトリア編の二話目。アイズとレフィーヤが空気だけど、あの二人が見たいなら原作を見よう!

……ところでbloodborne2とアーマード・コア6はまだですか?
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