血濡れの狩人と白兎   作:ユータボウ

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こんばんは、更新の時間です。数日前にランキング入りしたからか、お気に入りがグッと増えてとても嬉しいです。今後とも拙作を宜しくお願いします。

さて、ダンメモでは現在、戦争遊戯の二回目が来てますね。やはり前回ので学んだ教訓を生かしてる人が多いのか、Lv.80の☆3が多く見られるような気がします。私も今回のために急遽☆3アイズを育てて運用してます。

そして相変わらずティオナがエグい。あれの何がエグいって、1ターン目に自バフ使うアイズと違って自バフ使うのが2ターン目だから、必殺技がバフ切れる前にくるんだよなぁ……。加えて運悪くスタンが複数体に入ったらこっちが必殺技使うタイミングずれるし。当てられなかったのがこれ程悔やまれるキャラもなかなかいないですね……。



まぁ、一番来なくてショックだったのはアミッドさんなんですけどね。最近から実装された「十連○回目で確定」があの時あればと思わずにはいられない。


第9話

 窓から差し込む柔らかな朝日に、ベルは眉をひそめながらゆっくりと瞼を上げた。寝起き特有の気怠さと眠気に欠伸を一つ溢し、まだ完全に開いていない目で部屋を見渡す。『竈火の夢』にある自室とは違う部屋、しかしベルは眠る直前に聞いたリヴェリアの言葉をしっかりと覚えていた。

 

「(『黄昏の館』……【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)……)」

 

 迷宮都市オラリオの誇る二大派閥の一方、それが【ロキ・ファミリア】だ。冒険者の数と質、どちらも数ある【ファミリア】の中で随一と言われており、総合的な力はあの【猛者(おうじゃ)】率いる【フレイヤ・ファミリア】にも劣らない。ベルはエイナよりそう教わっていたが、何よりもあのヴィンセントが【ロキ・ファミリア】の実力を認めていたことが、彼としては印象的であった。

 

 そして、そんな【ファミリア】の本拠地(ホーム)に自分がいる理由は?

 

「(……勝てなかったんだ、僕は)」 

 

 ミノタウロスと戦い、敗北したから。ベルは込み上げる悔しさに布団をぎゅっと握り締めた。逃げることの出来ない戦わざるを得ない状況で、その相手がLv.2だったのだから仕方ない、などと言い訳するつもりはない。あれは間違いなく自分の実力と経験の不足が原因だった。今回は奇跡的に助けられたものの、恐らく二度と同じようなことは起こらないだろう。

 

「……強く、なるんだ」

 

 なりたい、ではない。

 

 強くなるのだ、と。

 

 冒険者として生きていく以上、格上の相手と戦うことは避けて通れない。ならばベルが出来ることは一つ、負けぬように強くなることだけだ。ミノタウロスに蹴り飛ばされ、満身創痍となった際に感じたあの惨めさ、あんな思いをするのはもうごめんだった。

 

 ベッドで横になりながらぼんやりと虚空を見つめるベル。そんな彼だったが、不意に扉の外から聞こえ始めた話し声に、ビクッと体を強張らせた。壁に遮られた声は小さく、その内容を聞き取ることは出来ないが、声の高さからおおよその性別くらいは分かる。若年と中年の男性二人と、そして女性が一人だ。そこまでベルが判断したところで、数度のノックが部屋に木霊した。

 

「えっと、どうぞ」

 

 ベルが答えると僅かな間の後、扉が開いて三人の男女が入ってきた。金髪の小人族(パルゥム)に立派な髭を蓄えたドワーフ、そして朱色の髪を一つにまとめた糸目の女性だ。彼女の纏う雰囲気、それは神々が放つ『神威』と呼ばれるものであり、ベルは彼女がこの【ファミリア】の主神──ロキなのだとすぐに察した。

 

「良かった、もう起きていたんだね?」

 

「はい。なんか、色々お世話になったみたいで……ありがとうございます」

 

「いや、気にすることはない。お前さんが怪我を負ったのも、元を辿れば儂らが原因じゃからのう」

 

 ガハハッ、と豪快に笑うドワーフにつられてベルも笑みを浮かべた。そんなベルにロキは首を傾げ、まじまじと彼を観察する。

 

「なんや、ドチビの眷族や言うからどんな奴やねんと思ったら、めっちゃ普通の子やんか。ヴィンセントみたいなんやと思っとったけど、これはちょっと拍子抜けやな~」

 

「ロキ。すまない、こちらの主神が失礼なことを……」

 

「あ、いえ、大丈夫ですよ」

 

 頭を下げた小人族(パルゥム)にベルは気にしていないと苦笑する。それにロキは機嫌を良くしたのか、「ええ子やなぁ~」と笑顔のまま彼の頭を撫で始めた。

 

「とりあえず自己紹介しとこか。ウチはロキ! 見ての通りここの主神や! 宜しくな~」

 

「【ヘスティア・ファミリア】、ベル・クラネルです。宜しくお願いします」

 

「僕はフィン・ディムナ。【ロキ・ファミリア】の団長をさせてもらっているよ。宜しく、クラネル君」

 

「儂はガレス・ランドロックじゃ。宜しく頼むぞ、若造よ」

 

 ベッドで横になったままロキを初めとして、フィン、そしてガレスと握手を交わすベル。簡単な挨拶を済ませた三人と一柱だったが、最初にフィンが真面目な雰囲気を作り始めたことで、緩んでいた表情を引き締めた。

 

「さて……ベル・クラネル君、昨日もリヴェリアから言われただろうが、改めて僕達は君に謝罪をしたい。無関係の君を巻き込んで危険に晒し、そして怪我まで負わせてしまって本当にすまなかった。壊れた装備は全て我々が弁償する。他にも何かあれば遠慮せず言ってほしい」

 

 フィンは頭を下げた。その様子をロキとガレスは何も言わず、口を結んで見守っている。ベルもまた彼女らと同様にフィンを見つめ──やがて、静かに首を横に振った。

 

「ディムナさん、僕がボロボロになったのは貴方達のせいじゃない。僕が弱かったからです。僕がミノタウロスを倒すことが出来ていれば、こんなことにはならなかった。ですから、謝るのは僕の方です。色々ご迷惑をお掛けして、本当にすみませんでした」

 

「ンー……倒せていたら、か。しかし君はまだ駆け出しのLv.1だろう? ミノタウロスを相手するには少し無理があるんじゃないかな」

 

 そんなフィンの言葉にベルは頭を上げた。そして彼の目を見据え、告げる。

 

「ディムナさんが僕と同じ立場なら、きっと負けても仕方なかったなんて言いませんよね?」

 

 瞬間フィンと、そしてガレスがはっとなってベルを見つめた。自分が格上の相手と戦い、仮に敗北したとして、それを「相手が格上だったから仕方ない」などという言葉で片付けるだろうか? 答えは当然否だ。そんなことは冒険者としてのプライドが断じて許さない。

 フィンは内心で無意識のうちにベルを軽んじていたことを恥じた。彼は確かにまだ駆け出しの新米だが、それ以前に自分と同じ冒険者なのだ。そこにレベルは関係ない。

 

「ぷっ……あっはっはっ! これは一本取られたなぁフィン! 自分、誇ってええで! ウチの【勇者(ブレイバー)】を口で負かした子なんて、このオラリオにも数える程しかおらんからなぁ!」

 

「うむ……すまんなぁクラネル。小僧と思って侮っておったわ」

 

「あっ、いえ……! こっちこそ生意気なこと言ってすみません!」

 

「謝る必要はないよ、クラネル君。悪かったのはこちらの方だ。重ね重ね、申し訳ない」

 

 かの有名な【ロキ・ファミリア】の幹部に口を利いたことに、今更ながら顔を真っ赤にさせたベル。フィンを正面から納得させた少年がそんな風になっているのを見たロキは、目尻に涙を浮かべながら腹を抱えて笑い、フィンとガレスの二人はふっと優しく微笑んだ。

 

「さて……クラネル君の考えは分かったし、理解も出来る。ただ、やはり事の原因は僕達【ロキ・ファミリア】の方にあるからね、せめて装備品の弁償くらいはさせてもらえないかな? 何もしないままでは流石に立つ背がないんだ」

 

「えっと……じゃあ、お願いします」

 

 【ロキ・ファミリア】の【勇者(ブレイバー)】にここまで言われては断ることも出来ず、ベルは彼の言葉にこくりと頷いた。ミノタウロスとの戦いにおいてベルの装備品──特に防具──はもう使い物にならない程に潰れてしまっている。全てを補うとなれば二〇〇〇〇ヴァリス以上の出費となるだろう。まだ駆け出しのベルにとってその金額は決して安いものではなく、故に彼はフィンの厚意に甘えることにしたのだ。

 妥協点を見出だしたことで決着した二人の会話。そのタイミングを見計らい、ロキはニヤリといたずらっぽく笑いながらベルにそっと近付いた。他の三人は何事かと彼女へ視線を向ける。

 

「なぁ、ちょっと聞きたいことがあんねんけど──」

 

 口を開いたロキだが、その台詞が最後まで言われることはなかった。突如部屋の扉がノックもなしに開かれ、血相を変えたアマゾネスの少女が飛び込んで来たからだ。

 

「フィン! 大変大変!」

 

「ティオナ、一体どうしたんだい?」

 

「今ヴィンセントとヘスティア様がここに来たんだけど……ベートがいきなり喧嘩売って中庭で暴れ始めちゃったの!」

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 ベート・ローガにとってヴィンセント・ローズという男は──本人は頑なに認めようとはしないが──ある種の目標とも呼べる存在だ。

 Lv.7という全冒険者の頂点に座し、他の有象無象を歯牙にも掛けない圧倒的な力の持ち主。その姿は実力主義者であるベートにとって、理想の体現であると言っても間違いではないだろう。

 

 だが、だからこそベートは、ベルが【ヘスティア・ファミリア】の冒険者と聞いた時、どうしても納得出来なかった。

 

 ミノタウロスに敗北し、満身創痍まで追い詰められていた弱者(ベル)が、絶対強者(ヴィンセント)の下にいるということが。

 

 自分勝手な言い分であるということはベートも理解している。これは他所の【ファミリア】のことであり、【ロキ・ファミリア】に所属するベートが口出しすることではないのだと。しかし頭では分かっていても、それを認めることが出来るかは別の問題だ。

 故に、ベートは『黄昏の館』を訪れたヴィンセントに問うた。その隣には彼の主たる女神やリヴェリア、そしてアイズの姿があったことからベートらしからぬ遠回りな言い方で。

 

 ──お前はあの新米をどう思ってるんだ?

 

 その言葉にヴィンセントは答えた。素質を持つ稀有な存在であると。今はまだ脆弱な取るに足らない少年ではあるが、彼の意志次第では大きく飛躍するやもしれぬと語ったのだ。

 

 それは、ベートが望んだ答えではなかった。

 

「(ふざけんな……)」

 

 認めない。認められる訳がない。素質を持つ稀有な存在だと? その素質とやらが何かを意味するかは分からないが、それではまるで己には素質がないかのような言い方ではないか。

 

「(俺があのガキに劣るだと……?)」

 

 そんなことは絶対にあり得ない。あってはならないのだとベートは心の内で叫んだ。リヴェリアと、そして通りかかったティオネ・ヒリュテの制止を振り切り、普段の彼ならば絶対に言わないであろう安っぽい挑発でヴィンセントを中庭にまで引き摺り込むと、持てる力の全てで以て彼に襲い掛かる。

 

 素質の有無など関係ない。

 

 ベート・ローガは強者なのだと証明するために。

 

 自覚せぬ嫉妬に駆られ、ベートは自身の最大の武器である蹴りを何度もヴィンセントに放った。身体能力に優れた狼人(ウェアウルフ)であるが故に、単純な速度ならば【ロキ・ファミリア】最速とも言われる彼の蹴りは、大抵の者ならば視認することすら出来ない程のスピードを有している。荒々しくも強烈な蹴りを何度も繰り出すその様子はさながら小さな嵐。巻き込まれれば最後、無傷で逃れることは不可能である。

 

 目の前の例外を除けば。

 

「くっ……!」

 

 攻め立てているにも関わらず一向に当たらない攻撃に、ベートの口からは苦しげな声が溢れる。どれだけ攻めようがヴィンセントの無表情のまま、反撃するでもなく淡々と避け続けるだけだ。届かない、浮かび上がったそんな気持ちを振り払うように、ベートは蹴撃の乱舞を更に加速させた。今の彼から放たれる覇気は凄まじく、二人を見ていたリヴェリアとアイズをして、その体に震えを覚えさせる程であった。

 

 しかし、ベートの放った渾身の一撃がヴィンセントの左手で受け止められたその瞬間から、状況は一転する。

 

「……この程度か?」

 

 その言葉にベートは怒りを覚える暇もなく、頭を過った最悪の事態を回避すべく全力で後ろに跳んだ。チラリと確認した右足はキチンと繋がっている。そのことに彼は安堵した。あと僅かでも遅れていれば間違いなく右足と体が離ればなれになっていたことだろう。そう考えた途端にゾクリとベートの背に悪寒が走った。

 

「さて、今度は私からいかせてもらおうか。あれだけの啖呵を切ったのだ、簡単に沈んでくれるな【凶狼(ヴァナルガンド)】」

 

「……はっ、やれるもんなら──」

 

 やってみろ、と。ベートがその台詞を最後まで言い終えることは出来なかった。先程まで二〇M(メドル)はあった距離を、ヴィンセントが一瞬で詰めてきたからだ。警鐘を鳴らす本能に従い、ベートはすぐさま体を後方に反らした。その刹那、彼のいた場所をヴィンセントの《仕込み杖》が通り過ぎる。

 体を反らした勢いを使用したバク転で距離を稼ぐベート。しかしヴィンセントから逃れることは出来ない。単純なスピードでは向こうの方がベートを上回っているからだ。仕切り直しの暇も与えぬ連続攻撃が、少しずつベートに傷を追わせていく。

 

「くっ……ぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 ベートは吼える。このままでは終われない。一方的になぶられ、成す術なく敗北などしてたまるかと。せめて一撃、その一撃を確実にヴィンセントに当てるために、ベートはただ迫る猛攻を耐え続けた。そして──、

 

「っ! 食らいやがれぇ!」

 

 一瞬。それは仕込み杖を振るった際にほんの一瞬だけヴィンセントが見せた、隙とも呼べない隙だった。しかしベートの優れた目はその一瞬を見逃ず、またそこに全てを賭けた。持てる力を全て使ったその蹴りは文字通り必殺。ベートはヴィンセントに一矢報いることが出来たと、内心でニヤリと笑った。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「なっ……!?」

 

 当たると確信していた蹴撃が空を切ったことで、ベートの表情が驚愕に染まった。彼は同時に悟る、この迷宮都市オラリオ最強の男が、自分程度に分かるような隙を晒す訳がないのだということを。つまり先の隙はただの餌に過ぎず、ベートはまんまとそれに食いついてしまったのだ。

 そして全力の一撃を外したことにより、今度はベートがヴィンセントの前に隙を晒すこととなる。ベートがヴィンセントの隙を見逃すことはあれど、その逆は万が一にもあり得ない。振るわれた銀の杖は寸分違わずベートの下顎を的確に打ち抜き、これにより脳震盪を起こしたベートは体を支えられずにガクリと膝を折った。そしてそのまま前に倒れ始める。

 

「が……ぁ……!」

 

 崩れ落ちるベートが最後に見たのは、仕込み杖を片手に翡翠色の冷たい瞳を向けるヴィンセントの姿。やがて歪む視界ではそれさえも捉えることが出来なくなる。徐々に暗転していく意識の中で、彼はただ己の無力を噛み締めた。

 

「畜……生……」

 

 呻くようにベートは悪態を残し、バタリと地に伏せて意識を失った。

 




一応、これにてロキサイドでのお話は終わりになります。後はもうベル君を回収して帰るだけなので省略。後半の蛇足感が否めませんが……次回から怪物祭のお話に入りますのでご容赦ください。

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