「それでは、文化祭の出し物決めをします」
そう言ったのは我がA組のクラス委員長さんだ。黒髪ロングの眼鏡美人さんの委員長はまさに委員長って感じである。
文化祭。
中学校でも文化祭という催しがある学校も珍しくはないだろう。しかし、やはり中学校という場では正直言って大した出し物もすることが出来ず、子供のお遊びという印象が強かったのは否めない。実際、興味もない出し物の準備がだるかっただけでそんなに面白くもなかった
しかし、高校だったらそれなりに大きな出し物もすることが出来てかなり楽しめるというのが俺の勝手な印象だ。そして、そんな大きな行事があれば気になるあの子との関係に進展が! そんなドキドキワクワクのイベントが高校における文化祭だ。
まあ、結局のところ何が言いたいのかというと、文化祭くっそ楽しみということだ。
俺が通う本来の高校での文化祭もとても楽しかった。クラスの出し物はお化け屋敷をやったのだが、思った以上に装飾が大変で学校に夜遅くまで残って準備をしたのはこれまで経験したことのなかったことであり、非常にいい思い出である。準備もそうだが、当日も近所のちびっこ達から大好評だった。
強いて残念だったことを挙げれば、高校生の大半は学園艦で生活しているため、同年代の女子の来客が少なかったことだろうか。
そういえば、去年の文化祭で同年代の女の子からメアドをゲットしていたあいつは今どうなったのだろう。文化祭終了後しばらくはスマホをやたら見ていたけど、最近はそんなことなかったな。深くは考えないで上げるのが奴のためだ。
話は変わるが黒高は女子高であるため、父兄以外が黒高の文化祭に行くためには黒高生からの招待状が必要になる。その招待状がとある某カリで高値で取引されているとか何とか。まあ、入場するときに招待者の確認と招待された人物が招待状を送られた人物か確認されるため招待状だけでは何の意味もないのだが。
ちなみに、去年の文化祭ではエリカは俺に招待状はくれなかった。もらっていたとしても旅費の問題で行けていたかというと微妙なところだ。そのころハンバーグの研究で金欠だったし。
そんな話はどうでもいいのだ、文化祭だ。
今年は周りが全員女子という謎の環境であるが、こういう催しは大好きだから楽しみである。
クラスのみんなは「お菓子教室」「喫茶店」「手作り小物屋」等々、女の子らしい意見がどんどん挙げられていく。
(女子高の文化祭って……すっごい『女子』てっ感じなんだなぁ)
思わぬところで自分が場違いな環境にぶち込まれたものだとしみじみと感じる。
そういえば、エリカは去年の文化祭でどんなことをやったのだろう。特に意味もないが、ふと気になったので隣に座るエリカの聞いてみることにする。授業中の私語は厳禁だが、クラス全体の話し合い、それも文化祭という軽い議題なので周りの人と話し合いながら提案している人たちも沢山見受けられる。問題なしだ。
「エリカは去年どんなことやったんだ?」
俺の問いかけを聞いたエリカはこちらを向いてこう言った。
「…………喫茶店よ」
なんだその間は。気になるじゃないか。どう考えてもただの喫茶店ではないだろう。喫茶店+何か。いや、なんたら喫茶といったところだろうか。
ああ。
「メイド喫茶か」
「……」
そうつぶやくとエリカは苦虫を噛み潰したかのような、恥ずかしさを隠しているような、でも悪くなかったなぁと思わなくもないみたいな絶妙な表情をしている。
分かりやすい奴だ。
「チズルさんは何か意見あるかしら?」
おっと、そんなことをしていたら委員長に名指しで意見を求められてしまった。
「メイド喫茶がいいと思いまーす」
「ちょっと!?」
エリカがなんか言ってるけど無視だ
「メイド喫茶はもう出てるのよ。ごめんなさい」
おや、本当だ。俺が黒板から目を離した隙にいつの間にか数多くの候補が書かれていた。黒板上に書かれていないものとなると……
「お化け屋敷は?」
「ああ、そっか。チズルさんは知らなかったわね。お化け屋敷は人気の出し物だからこの学校では3年生が優先権を持つの。まあ3年生のどのクラスも希望しなかったら私たちでも出来るのでしょうけど、それはほぼ無理ね」
「あ、そうなんだ」
そうなると……ううむ……
クラスでハンバーグを提供しても良いけどそれじゃあひねりが足りないよな。ハンバーグパフェ? いやいやないだろ。そうなると店員に付加価値を付けるか。メイド……じゃなくてツンデレとか? ツンデレ……ハンバーグ……なんだそのパワーワードは。興味しかわかないんだが。
「こ、このジューシーな肉汁はあんたに美味しいって言ってもらうためじゃなくて、あんたの口を火傷させるためなんだからね!」とか言うんだろうか。ハンバーグが。
あかん、良い考えが浮かばないな。
「じゃあツ……逆に執事喫茶とか? みんなで燕尾服着て、みたいな?」
あぶないあぶない。考えていたことを言葉にするところだった。もう少しでハンバーグキチのあだ名を拝命するところだったぜ。
「執事喫茶ね。ハンバーグ信者のあなたのことだからてっきりハンバーグ専門店とか言うと思ったわ」
……うん、やんわりハンバーグキチって言われた気がした。一向に構わんッ。
「大体意見は出尽くしたみたいね。それじゃあ、この中から投票をするので、一人2回まで手を挙げてください」
こうして俺は墓穴を掘った。
「それでは、今年のうちの出し物はチズルさん案の男女逆転喫茶に決定です」
あれ? 俺が提案したものから別の何かに変異してる。
「楽しみね、メイドさん?」
やたらいい笑顔のエリカが俺に言う。
俺は苦虫を噛み潰したかのような、恥ずかしさを隠しているような、でもまあそれもおもしろそうで悪くないと思わなくもないという表情をせざるを得なかった。
(女子高の文化祭行ったことないからわかんね)