「リズ!!心配したよー!」
「あ、アスナ…」
「メッセージは届かないし、マップ追跡もできないし、いったい昨夜はどこにいたのよ!」
「ご、ごめん…ちょっと迷宮で足止め食らっちゃって…」
「迷宮!?リズが、1人で!?」
「ううん、あの人と…」
「え、エイト君!?」
「えっ…」
エイトは気まずそうにしている。
「ひ、久しぶりだなアスナ。いや、久しぶりでもないか…2日ぶり?」
「びっくりした〜!さっそく来たんだ?言ってくれればわたしも一緒したのに!」
アスナは両手を後ろで組むと、はにかむように笑って、照れくさそうにしている。その頬が僅かに赤くなっているのを見て…あたしは全てを察した。この前言ってたアスナの想い人がエイトだったんだ…
「この人リズに失礼なこと言わなかったー?」
「…失礼も何もあたしの店一番の剣をいきなりへし折ってくれたわよ!」
「え…もう!エイトくん!」
あたしは冷静を装いながらアスナに耳打ちをする。
「まあ変だけど悪い人じゃないわね。応援するからさ!頑張りなよアスナ」
「もう!そんなんじゃないわよ!…リズ?」
「ごめん!仕入れの約束あったからちょっと出てくるね!」
「え!?店はどうするの?」
「2人で店番よろしく!」
そう言い残すとあたしは店を飛び出した。ゲート広場の方に向かって走り、そのまま街の端っこ、プレイヤーのいない場所目指して一心不乱に駆け続けた。視界が歪むと、右手で目を拭った。何度も何度も拭いながら走った。気づくと街を囲む城壁の前まで来ていた。壁の近くには大きな木が等間隔で植えられていて、その一本の陰に入ると、幹に手をついて立ち止まった。
「うぐっ…うっ…」
必死に堪えていた涙が、次々と溢れ出しては頬を伝って消えていった。アスナと話している時、喉元まで出かかっていた言葉があった。「あたしもあの人が好きなの」と、何度も言いかけた。でも言うわけにはいかなかった。自分のための場所がエイトの隣にはないことを悟った。なぜならあの雪山で、あたしはエイトの命を危険に晒してしまったから。それになにより、アスナはエイトのことを何ヶ月も想い続けて、少しずつ距離を縮めようと頑張っているのに…今更そこに割り込むような真似はできなかった。それにあたしは、エイトと知り合ってまだたった1日しか経ってない。見知らぬ人と慣れない冒険をして、心がびっくりしてるだけだ。本物じゃない。この気持ちは本物なんかじゃない。なのに、なんでこんなに涙が出るんだろう。そんなことを考えていると後ろから声をかけられた。
「リズベット」
名前を呼ばれて全身がびくりと震えた。低くて、気力の無いだるそうな、でも優しさも混じった声。きっと幻だ。ここにいるはずがない。そう思いながらあたしは顔を上げて振り向いた。エイトが立っていた。エイトは少し気まずそうに、頭をかきながらこっちを見ていた。
「…だめだよ、今来ちゃ…もうちょっとで、いつもの元気なリズベットに戻れたのに…どうしてここがわかったの?」
「あー、俺もぼっちの端くれだからな。1人になりたい時に行く場所はある程度わかる」
「ふ、ふ…なにそれ」
涙は相変わらず流れ続けているが、エイトの答えを聞いて、あたしは口許に笑みを浮かべた。
「あいかわらず変なやつだね」
そんなところも…好きだ。どうしようもないほど。でもこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
「ごめん、あたしは…大丈夫だから。早くアスナのところに戻ってあげて」
「…俺は今まで誰かを助けるためなら自分が犠牲になることに躊躇いはなかった。今回も俺が犠牲になってリズを助けることができるならそれでいいと思ってた。ただ、この世界に来て俺が傷付くことで悲しんでくれる人がいることを知った。リズとの冒険でそれを思い出すことができた。だから、その、まああれだ。ありがとな」
「そっか…今の言葉、アスナにも聞かせてあげて!あの子も苦しんでる。エイトの温かさを欲しがってるよ」
「リズ…」
「あたしは大丈夫…まだしばらくは、熱が残ってる。だからね…お願い。エイトがこの世界を終わらせて。それまでは、あたし頑張れる」
「ああ、約束する。必ずクリアしてみせる」
あたしは最後の涙を拭うとエイトに振り返る。
「武器や防具の修理が必要ならいつでも来てよね」
「おう」
「これからもリズベット武具店をよろしく!」
あたしはニコッとエイトに微笑んだ。