ソードアートオンライン×比企谷八幡   作:水無月優

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第002話

周りを見渡すと俺達と同じSAOプレイヤーがいた。今ログインしているプレイヤー達だろう。一万人くらいはいる。おそらく現在ログインしているすべてのプレイヤーが集められている。プレイヤー達はしばらく周囲を確認していたが、次第にざわざわという声が聞こえるようになった。

 

「おい、どうなってるんだよ」

 

「これでログアウトできるのか」

 

「早くしてくれよ」

 

しかししばらく経っても何も起こらないのでプレイヤー達は苛立ちを露わにし始めた。

 

「ふざけるな!」

 

「GM出てこい!」

 

不意に、誰かが叫んだ。

 

「おい…上を見ろ!」

 

俺達は反射的に上を見上げた。そこには【Warning】、そして【System Announcement】という文字が浮かび上がっていた。俺はようやく運営のアナウンスがあるのかと安堵した。が、すぐに俺の考えを裏切る現象が起こった。突然俺達の頭上に身長二十メートルはあろうかという、真紅のフード付きローブを纏った巨大な人が現れたのだ。深く被られたフードの中に顔はなく、まったくの空洞だった。俺はローブの形そのものには見覚えがあった。あれはベータテストの時、GMが必ず纏っていた衣装だ。しかし当時はきちんとアバターがローブを纏っていたのだ。俺は何とも言えぬ不安感を感じた。周囲のプレイヤー達も同じなのだろう。

 

「あれ、GM?」

 

「なんで顔ないんだ?」

 

不意に巨大なローブがプレイヤー達の声を制するように手を動かし、静かになると初めて言葉を発した。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 

俺は不安が高まっていくのを感じる。ローブは続けて言葉を発する。

 

『私の名前は茅場晶彦、今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

茅場晶彦。彼はこのSAOの開発ディレクターであり、ナーヴギアそのものの基礎設計者でもあるのだ。

 

『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』

 

「し…仕様、だと」

 

クラインが割れた声で囁いた。その語尾に被さるように、茅場晶彦は続ける。

 

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』

 

俺はこの瞬間に悟った。このゲームをクリアするまで現実世界に帰れないことを。

 

『…また、外部の人間の手によるナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合…』

 

わずかな間。俺達プレイヤーは息を詰め、次の言葉を待った。そしてその言葉はゆっくりと発せられた。

 

『ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

死。今まで感じることがなかった恐怖を感じた。

 

「はは…何言ってんだあいつ、おかしいんじゃねぇのか。んなことできるわけねぇ、ナーヴギアは…ただのゲームじゃねか。脳を破壊するなんて…んな真似ができるわけねぇだろ。そうだろキリト!エイト!」

 

俺は少し考えてからクラインの問いに答えた。

 

「…原理的には、ありえなくもない。それにギアの三割はバッテリセルだ。たとえ電源コードを引っこ抜いても脳を破壊することはできる」

 

しかしクラインは納得がいかないという風に続ける。

 

「でも…無茶苦茶だろそんなの!瞬間停電でもあったらどうすんだよ‼」

 

と、まるでクラインの叫び声が聞こえたかのように、茅場晶彦のアナウンスが再開された。

 

『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク切断、ナーヴギアののロック解除または分解または破壊の試み以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局およびマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果』

 

茅場晶彦はここで一呼吸入れ。

 

『残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

 

プレイヤー達は皆しばらく固まってしまっていた。が、クラインが声を絞り出すように言った。

 

「信じねぇ…信じねぇぞオレは」

 

「ただの脅しだろ。できるわけねぇそんなこと。くだらねぇことぐだぐだ言ってねぇで、とっとと出しやがれってんだ。いつまでもこんなイベントに付き合ってられるほど暇じゃねぇんだ。そうだよ…イベントだろ全部。オープニングの演出なんだろ。そうだろ」

 

そんな俺達の望みを薙ぎ払うかのように、茅場晶彦は言う。

 

『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して…ゲーム攻略に励んでほしい』

 

横から今まで黙っていたキリトが叫んだ。

 

「何を言ってるの!ゲームを攻略しろ?ログアウト不能の状況で、呑気に遊べって言うの⁉」

 

「こんなのゲームでもなんでもない‼」

 

それを聞いてもなお茅場晶彦は続ける。

 

『しかし十分に留意してもらいたい。諸君にとって、《ソードアート・オンライン》は、すでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。…今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に』

 

 

 

 

『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 

 

 

こうしてデスゲームは始まりを告げた。

 

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