宿屋に入ると1階は広いレストランになっていた。俺はNPCの立つフロントに行きチェックインを済ませ、シリカを少し奥の席に案内する。
「とりあえず座ろうぜ」
少しすると先程チェックインした際に頼んでおいたドリンクが到着する。
「ホットココアでよかったか?」
「はい…!お気遣いありがとうございます」
シリカはホットココアをひと口飲むと呟く。
「…なんで…あんな意地悪言うのかな…」
「…オンラインゲームでキャラクターの皮を被ると人格が変わるやつは多い。今はこんな状況なのに…な。プレイヤー全員が一致団結してクリアを目指すなんてできるとは思ってないが、他人の不幸を喜ぶやつ、アイテムを奪うやつ…殺しまでするやつが多すぎる」
「エイトさん…」
「まあ、こんな目が腐ってるやつが何言ってんだって感じだが」
「そんなことないです…!エイトさんはあたしを助けてくれたじゃないですか!」
俺は微笑ましく思い、シリカの頭を撫でた。
「エイトさん!?」
まずい、つい小町にやる癖で無意識にお兄ちゃんスキルが発動してしまったらしい。
「す、すまん…」
「いえ…ちょっとびっくりしただけで…嬉しかったです!」
「そ、そうか。そろそろ明日に備えて休まないか?」
「そ、そうですね!」
シリカと別れて部屋に戻って一息つく。ぼーっとしていると部屋の扉をノックする音が聞こえた。開けてみるとシリカが立っている。
「ん、どうした?」
「ええと、その、あの…よ、四十五層のこと、聞いておきたいと思って!」
「あぁ、そしたら階下行くか?」
「いえ、あの、よかったらお部屋で…貴重な情報誰かに聞かれたら大変ですし!」
「お、おう。とりあえず入るか」
俺はシリカをソファに座らせるとウインドウを開き、小さな小箱を実体化させる。
「きれい…それは何ですか?」
「《ミラージュ・スフィア》っていうアイテムでマップをホログラフィックで表示できる代物だ」
起動すると四十七層のフロアマップが表示される。
「ここが主街区だ。で、こっちが思い出の丘。この道を通るんだが、少し厄介なモンスターが…」
「……?」
扉の前にプレイヤーの気配を感じ、最速で扉まで移動し扉を勢いよく開ける。しかし少し遅かったのか階段からどたどたと駆け下りる音が聞こえた。
「…逃がしたか」
「どうしたんですか?」
「話を聞かれちまってたみたいだ」
「えぇ!?…でもドア越しじゃあ声は聞こえないんじゃ…」
「聞き耳スキルが高いとドア越しでも聞こえるんだ。そんなの上げてるやつは限られてるけどな」
「でも、なんで立ち聞きなんか…」
「多分、すぐに解ると思うぞ。ちょっとメッセージ打つから、待っててくれるか?」
俺はある人物にメッセージを送った。振り返るとシリカはベットで寝息をたてている。シリカに毛布をかけてあげて、自分はソファで寝ることにした。