Fate/Grand Order ~隻眼の弓兵~ 作:カルパン
「何?明日にレイシフトを行うだと?」
ギャレッドは訓練室にて、的に向かって
「うん、そうなんだ。時代は1431年、中世フランスだよ」
「……これは困ったな……それはそうとあの三人にはもう伝えたのか?」
「うん、マシュは俺と一緒に聞いてたしあの二人にもここに来る前に伝えておいたよ。ってかギャーさんはなんで普通の矢じゃなくて鋼の矢使ってるの?」
「いや何、このほうが一撃が重いからな。それにこの弓もかなりの剛弓だから、撃つ際の速度が他の弓より早いんだ。加えて鋼の矢を何本も矢筒に抱えて移動せねばならん。そうなると、必然的に筋力を上げる必要が有ってな。結果があのステータスだ。筋力Bは伊達ではないぞ?」
ギャレッドは、途中から開けていた左目を閉じ、ニヒルに笑みを浮かべた
「まぁ、何はともあれ了解した。日付が変わらぬ内に準備を済ませておこう。マスターも、今日はよく休眠しておいたほうがいいぞ?」
「うん、そうだね。それじゃ、そろそろ俺は部屋に戻るよ。あんまり根を詰めすぎて体調崩さないでね?じゃ、お休み、ギャーさん」
「ああ、お休みだ、マスター。……中世フランス……それも1431年か……願わくば、あの聖処女とは会わぬことを……」
訓練室に残されたギャレッドは、ポツリと息を吐くように、不安を呟いた
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「く……ぬぬぬぬぬ……!」
浅黒い肌をし、白髪をオールバックにした男は、手元のトランプを見て渋い顔をする
「さぁ、俺はこれで出すつもりだが、お前はどうする?」
「くっ!こうなれば、一か八か!」
ギャレッドと男は、互いの手札を見せ合う
「ぐあぁぁぁ!やはりダメだったかぁぁぁ!!!!」
「フッ、どうやら運は俺に味方したようだな」
男のトランプの数字は、ハートの6、スペードの9、ダイヤの3。総合計で18
対するギャレッドのトランプの数字は、ハートの7、スペードの6、ダイヤの2、クローバーの5。総合計で20
この二人は、レイシフトの5分前には、レイシフトルームに入っていたのだが、あまりに暇なため、男が今度の料理当番を賭けてブラックジャックをしていた
「では、約束通り今回の特異点を修復し終わったら料理当番は宜しく頼むぞ?エミヤ」
「くそ、依りにもよって言い出しっぺの私が負けるなど、赤っ恥にも程がある……!」
男の真名はエミヤ。正義の味方を目指し、死後、世界の抑止力となることで英霊の座に登録された、錬鉄の英雄である
「……それはそうと遅いな……」
「どうせヤツのことだ、何処かで本能の赴くまま好きなことでもやっているんじゃないか?」
「まぁ、あの方は理性が蒸発していますから、ギャレッド先輩の言うこともわからなくはないですが……」
「あれ?マシュ、いつの間にかギャーさんも先輩呼びしてるけど何かあったの?」
「はい、少し……」
「みんなー!おっはよーう!!!!」
マシュが言葉を続けようとした時、元気の有り余るような声がレイシフトルームに響いた
ドアが機械的な音と共に閉まり、そのドアの前には、御下げのような髪型をした、ピンク髪の美少女がいた
「……………………」
「まったく、君は私達を忘れるほど、楽しいことでもしていたのか?」
「おはよう、アストルフォ」
「おはようございます、アストルフォさん」
ギャレッドは、呆れで言葉を出せずにおり、エミヤは八つ当たり気味に嫌味を言い、立香とマシュは挨拶を返した
先ほど出た名の通り、彼女……ではなく、彼はアストルフォ。シャルルマーニュ十二勇士が一人であり、理性が蒸発しきったポンコツ英霊だ
「んぐんぐ……みんな揃った……んぐんぐ……ようだから、これからレイシフトする場所の説明……んぐんぐ……を」
「ドクター、食べるか喋るかどちらかにしてください」
「スミマセン……話を戻すけど、これからレイシフトする時代は、既に立香君によって知らされていると思うけど、1431年、本来ならば終結しているはずの百年戦争は、休戦状態。因みにその場所のジャンヌダルクは火炙りの刑で処刑された後らしい」
「ふむ……ロマニ、その時代の俺はどうなっている?」
レイシフトする時代の自分の動向が気になるのか、ギャレッドはロマニに対して質問した
「僕が見た限りではこの時代の君が生きている痕跡は見当たらない……恐らく……」
「いや、皆まで言うな……無茶を言って悪かったな……」
「いや、君に責任はないよ。それに、君は今ここに居るじゃないか!」
「……そうだな」
ギャレッドは、心の中で、ロマニへの好感度をじわりと高め、その言葉に肯定した
「さて、僕から説明できるのはここまでだ。それから先は、君たちに調査してもらいたい。実は今回からのために、5つ、コフィンを増設した。君達にはそのコフィンを使ってレイシフトをしてもらいたい。構わないね?」
誰も異存はないようで、、ロマニはその沈黙を肯定と受け取った
「よし、それじゃあ、これより、第一特異点の修復を開始する。皆、無事に帰ってくるように」
ロマニは、立香の不安を和らげるように言った
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「……こ、ここは……?」
「せ、先輩!大丈夫ですか!?」
「あ!みんなー!マスターが起きたよー!」
「おや、どうやら目覚めたようだな、マスター」
「えっと、大丈夫だよ、マシュ。えっと、エミヤ、ギャーさんは?」
「ギャレッドなら、あそこで空を睨み付けているよ」
「空……!?な、なんだあれは!?」
エミヤが指差した先のギャレッドに倣って立香は空を見ると、驚愕の色を顔に宿した
「よし、繋がった……って、皆して何を見上げているんだい?」
「ドクター、今そちらに映像データを送ります」
「うん、お願いするよ……な、何なんだこれは……!一種の魔術か……!?レオナルド、君はわかるかい?」
彼らが見上げていたのは、雲に紛れて浮かぶ巨大な光の輪だった
これを見て、ロマニも驚きを見せ、万能の天才たるダ・ヴィンチに問いかける
「……ダメだ……天才である私でもこればかりはお手上げだ……」
「そうか……立香君、この光の輪については僕達が調べておくから、今は特異点の修復に専念してほしい」
「わかりました、ドクター……って言っても、まずここがどこだかわかんないけど……」
「……ここはドンレミの近くだ」
いつの間にか立香の元に歩み寄っていたギャレッドは、立香にそう答えた
「それと、ここから4㎞先にちょっとした砦がある。一先ずそこを目指してみるというのはどうだ?」
「うん、ギャーさんの言うとおりだね。それじゃ、行こうか」
そして一行は立香を先頭にして砦へと歩を進めた
「?あれは……」
「どうやら斥候部隊のようだが……」
暫く歩き、立夏が遠目に斥候部隊を発見した
「あれ?なんかこっちに走って来てない?」
「ギャレッドダー!セキガンノキュウヘイガカエッテキタゾー!」
「あぁ、成る程、皆、ついて来てくれ。恐らく彼らはフランスの兵士たちだ」
ギャレッドがそう言うと、立香は速やかにギャレッドに先頭を譲った
「ギャレッド!生きていたのか!」
部隊の隊長らしき人物が、ギャレッドに聞いた
「あ、ああ。生きているが……」
「おおぉ!ギャレッドが生きている!……ということは……!」
「もしかしたら竜の魔女にも勝てるぞ!」
ギャレッドが答えると、隊員達は興奮し、話が見えないギャレッド達は、頭を混乱させていた
「ま、待て、全く話が読めないのだが……」
「知らないのか……?なら、シャルル王が死んだことは……?」
「シャルル王がお亡くなりになったのか!?」
「その反応だと知らないようだな。とりあえず砦までついてこい。話はそこでだ」
隊長格の人物がそういうと、ギャレッドは首を降って皆を連れていった
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「なるほど……つまり、ジャンヌは竜の魔女として甦り、シャルル王を殺害。その後にオルレアンを占拠し、着々とフランス滅亡へのカウントダウンを進めていると……」
「そんな感じだ。お前は話の理解力が優れていると聞いたが、そこまで的確に要約できるとはな……」
ギャレッドは砦で、現在のフランスについて話を聞いていた
「情報提供、感謝する。また機会があればよろしく頼む」
ギャレッドは部屋から出た
立香達の居る部屋に戻る道すがら、彼は多くの傷ついた兵士を見た。その惨状に、ギャレッドは竜の魔女に色々問いただそうと、密かに胸の奥で決意した
「ただいま戻った」
「あ、ギャーさん、お帰り……」
その返事にギャレッドは、心なしか立香が元気が無さそうに見えた
一瞬考えるものの、すぐに謎は紐解けた
「外の兵士達が心配か?」
「うん……みんな傷だらけなのに戦って……勝っても多くの犠牲が残るし……少しでも何かしてあげたいと思うと何も思い浮かばなくて……」
「……フッ、マスターは優しいな……マスター、きっとその気持ちだけでも彼らには充分さ。それに君には、人類の未来を取り戻すという偉業を成そうとしているのだぞ?彼らよりも胸を張って万事に備えて構えていればいいさ」
不安げな立香に、鼻で短くため息を吐き、頭を乱雑にワシャワシャと撫でた
恐らくギャレッドにとってこれがこの状況でできる最善の手段だったのだろう
「て、敵襲!敵襲!総員、戦闘態勢!!」
伝令兵が砦に響き渡る程に大きな声を出し、敵対する存在の接近を知らせた
立香達は急いで外に出た
「あれは……竜……?にしても……」
「あれはワイバーンだ!この時代にワイバーンなど時代的におかしいだろう!」
マシュの疑問にエミヤが鋭く答えた
「マスター!俺は砦の上から援護する!皆への指示を頼むぞ!」
「りょ、了解!」
ギャレッドは砦の最上部まで走り、狙撃に適した地点に到着すると、鋼の矢を弓に番えた
なるべく遠方のワイバーンを狙撃し、フランス兵やマスターの近くのワイバーンも極力殲滅し、続けざまに矢を三本放ち、ワイバーン三匹の頭を綺麗に撃ち抜いた
一方、彼らを見守る人影が森の中にあった
しかしその視線の先に居るのは、黒いフード付きのマントを着用し、フードを深々と被り、流れるように矢を放つ弓兵である
「まさか……あの人は……!いえ、今はそれどころではありませんね」
人影はそう呟くと、彼らの下へと走りだした
粗方ワイバーンも居なくなり、戦闘もそろそろ終わろうとしている時だった
他のサーヴァント達が取り逃したワイバーンが、立香に襲いかかろうとしていた
ギャレッドは慌てて矢を弓を構えようとすると、金髪の少女がワイバーンの攻撃を受け止めていた
ギャレッドは、それを見届けると同時に砦から飛び降りた
「残念だったな。もう少し早ければ俺を喰らうことはできただろうがな」
ギャレッドはそう言って後ろを向き、番えていた矢を放った
矢は、肉を裂くような音と共に、彼方へと消えていった
ギャレッドの後ろに迫っていたワイバーンは力なく倒れ伏し、それを見届けたギャレッドは、体勢を無理に変え、金髪の少女が受け止めているワイバーンに向かって一矢放つ
ギャレッドは着地と同時に前へと転がり、勢いを殺さずにマスターの元へと走る
「お疲れ様だ、マスター。あともう少しで大惨事だったな。……マスターを守ってくれた事には感謝するが、正直お前には会いたくなかったな……」
ギャレッドは金髪の少女を見ると同時に苦虫を潰したような表情となる
「そうでしょうか?私は貴方に会いたかったですよ?ギャー君」
金髪の少女は、親しげに彼の愛称を呼んだ。それはまるで
昔から知っている人と再開したかのように
「……クソ、お前の幼馴染で無ければとこれ程嘆いたことはないよ……ジャンヌ……」
少女は、自分の名を呼ばれると、彼に向けて愛情の籠った微笑みを向けた